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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第三章「工場地帯」
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第三十五話

御伽学園戦闘病

第三十五話「策」


「死ね!死ね!」


何度も來花に向かって拳を突き出すが全て避けられてしまう。この狭く薄暗い空間で戦うのはそのうち限界が来る、ラックはその限界が来た場合の事を考えていた。


「いけ相棒」


何処からともなく須野昌の持ち霊が飛び出す、姿は全く見えず目で捉える事は不可能だ。ただ來花には通用しない、指示を出してから数秒後、來花は何も無い空間を掴んだ。


「何故分かった!?完全に透明化していたはずじゃ」


「私は現在の霊力指数が390近くある。そしてここの霊力は八割を占めている、大体の位置ぐらいなら分かる」


「この場所で戦うなら霊は無理か…なら」


須野昌は持ち霊を引っ込め自分自身で戦う事に決め距離を詰める。それと同時に蒼は後方から回し蹴りを仕掛けた、須野昌は殴る構えをする。


「君達は未知数の相手に堂々と突っ込んでくるのか?薫はどんな指導をしているのだろう」


蒼の蹴りは腕で受け、須野昌には殴りかかった。その拳には霊力なんて籠められていないただ力を振り絞っただけの純粋なパンチだ。

礁蔽はほんの少ししか感じることの出来ない霊力すら感じなかったことに違和感を感じ気付いた、それはただのパンチだ。霊力が籠っていない、それ即ち霊を盾にして受け流すことの出来ない攻撃だ。ただ須野昌は霊を正面に出し攻撃を受け流そうとする、だが霊力がこもっていないので当然來花の拳は須野昌の持ち霊をすり抜けた。拳が顔面に当たる寸前で礁蔽は須野昌の服の襟を掴み引っ張り避けさせる、間一髪で來花は宙を殴った。


「サンキュー助かった」


「気をつけい。あいつは霊力を込めないで殴ってきてる」


するとラックが呟く。


「ダメだ…どうやっても勝てない…」


「そうだ。君たちが私に勝つ手段は無い。今手を引けば痛い思いはしない、諦めたまえ」


「ここでは五分以上継続して動いたら酸素が足りなくなる…なんとかして外に出なくちゃいけないが…」


「出させないさ」


「うるっせぇ!一々口を挟むな!」


「少しでも妨害をするのが今の私の役目だ」


そんな話をしていると蒼が不意を突いて來花を殴ろうとする。だがすぐに振り向き手のひらで受け止めた。


「不意を突くなら殺意を消して殴るんだ。不意打ちの意味がない」


「全員で外に出ないと援軍が来るとしても耐えきれない…一気に外に出る方法…ある!あるぞ!」


「分かった!俺らはそれに従うから早く外に出させろ!」


一筋の希望が見えた、そう思っていた。


「やらせない!『呪・封(のろい・ふう)』」


來花は十八番の呪いを使用した。『呪・封』の効果は一時的に能力を使用できなくなると言う呪である。だが同時に一人にしかかける事ができないと言う弱みもある。


「クソ…身体強化が…」


ラックは身体強化で無理矢理呼吸をすると言う手法を使えなくなったせいか苦しそうにしながら戦闘体勢に入った。來花はラックに向かって蹴りを入れる、ラックは身体強化が無いながらなんとかガードに成功したが右腕の骨が完全に折れた。確信した、骨が曲がってはいけない方向に曲がっている。そんな事お構いなしに來花は追撃のパンチを繰り出した、ラックは折れた右腕を犠牲にパンチを受けた。ラックも負けずと反撃をしようとするが身体強化を使う事が出来ないので決め手に欠ける。そうなればわざわざ攻撃してリスク負うよりも消極的に動きガードに徹底して作戦を実行する。これが一番と考え行動に移す。


「反抗する気も無くなったか」


來花は何度も何度も、殴り殴り、ひたすらに右腕を殴り続けた。ラックは殴られる度に苦しそうな表情を浮かべ言葉にならない言葉をあげる。須野昌も蒼も見ているだけでは無い。ずっと攻撃を試みてはいるが來花はそちらを見ることすらせずに軽々避交わしてしまうので攻撃にならないのだ。

そんな状態が三分程経った頃だった、ラックの右腕は青く腫れ見るも酷い方向へと曲がっていた。だがこれまでの行動は全てラックの手の内なのだ、來花はラックの策に完全にハマった。ラックは微笑えみながら唱える。


『呪・封』


それは数分前に自分自身にかけられた呪いだ。來花はハッとし懐からコトリバコを取り出し、そして笑った。


「君は凄いな!数分にして私の技を吸収してしまった!これはいい!どうだTISに来ないか?」


「いやだね…後よ、俺は言ったよな!一気に外に出る方法があるって!」


「あるとは言ったがあれは啖呵を切っただけでは…」


「んなわけねぇだろ!礁蔽!來花以外を団地に!」


「分かっとるわ!」


ラックの策とは『呪・封』をコピーして來花にかける事で來花は数分間呪いの使用が出来なくなる。そうすれば來花の呪いで力を発しているコトリバコは力を失う、それはどう言うことか、単純明快礁蔽でも霊力を調整できる。念能力というのは霊力を体内で調整し力に変えている、だが空気中の霊力が高すぎると調整をしようにも出来ず念能力が発動できないケースが多い。

そのため礁蔽も能力を発動できなかったのだ。礁蔽の能力は『どんな鍵でも開ける事ができ、鍵を開けた際に一度開錠、施錠した扉まで転移できる』と言うもの。これを使えば部屋を出る時に施錠した団地の部屋の扉と下水道の鉄扉を繋げる事が出来る。


「まさか!」


礁蔽は鉄扉に鍵を差し込み、扉を団地の扉と繋げた。そして扉を開きそのまま飛び込んだ、続いて須野昌も飛び込み蒼も飛び込んだ。最後のラックが飛び込もうとしたその時來花に掴まれた、來花は力を振り絞りラックを扉から引き剥がそうとする。だがラックの呪いは既に解けている、なら身体強化が使える。やる事はただ一つ、身体強化をかけ來花をぶっ飛ばす!

次の瞬間來花は強い衝撃と共に壁に打ち付けられた。その隙にラックは扉に入り、直ぐに閉門した。なんとか逃げる事が出来た四人はまず大きく息を吸う。


「はぁ…なんとか逃げる事は出来たが…」


「だけど直ぐに追ってくるはずだ」


蒼は先程までと一変していてハキハキと喋り雰囲気も良い感じになっている。スイッチが入ると性格が変わるタイプの人間なのだ。


「休む時間はないか…」


「それより素戔嗚達が心配やな…」


「流石に霊力を感知したはずだ、その内駆けつけてくれるだろう。」


「そうだといいんやけど…なんか胸騒ぎが酷くてな…」


「心配なのは分かるが今は援軍が来るのを待つし…」


最後まで言い切る事は出来なかった。外から轟音が鳴り響いてきたのだ。それは何かが壊れたような、崩れたような音だった。音の鳴っている場所は予想通り街の中央部分、数秒前まで戦闘をしていた場所だ。


「どうやら休憩してる暇はない様だな。行くぞ三人とも」


「そうだな。市民に被害が出ないうちに行くか」


全員ベランダに出て須野昌と礁蔽は持ち霊にしがみつき、ラックと蒼は自ら飛び降り、走り出した。移動しながら少ない時間を使って軽く会議を始めた。


「時間を稼ぐってもどうするんだ」


「まず学園の奴らや取締課は能力者の区画割り当て人数の問題で会議を挟む事になるから時間がかかる。だったら英二郎や素戔嗚が来るのを待つのが懸命だ」


「万が一来なかったらどうする」


「その時は礁蔽を学園に逃がし俺らは死ぬ覚悟で戦うまでですよ。先輩」


「俺は嫌だぞ。こんな所で死ぬのは。まだ教師達には手を出してないんだ」


「僕もまだ死にたくない」


「そんな事言ってる場合じゃないだろ」


「わいはどうすればいい?」


「英二郎や素戔嗚が来てないかを知らせろ。いたら直ぐにこっちに来るように誘導、それだけだ」


「了解や」


中央部まで残り約10mまで近付いてから一度立ち止まった。圧巻、それ以外の表情を浮かべる事が出来なかった。中央部は綺麗に穴が開きその上空には空を飛ぶ來花がいたのだ。


「来たか」


「ちょっとやりすぎなんじゃねぇのか」


「黙れ。流石の私でも少し頭に来た。」


そうは言うものサポートの礁蔽を抜いても三体一、流石の來花だとしても厳しい状況に変わりはないだろう。更に英二郎やフェアツ、素戔嗚にニアの救援だって来てくれるはずだ、須野昌が鼻で笑いながらそう言い放ったが來花はそれを否定した。どう言う意味か追求しようとする須野昌を無視してラックに語りかける。


「ラック・ツルユ、君は私がまんまと策にハマったと思ったか?」


「あぁ実際そうだしな」


「そんなわけが無いだろう。私は弱くなったとはいえ三獄の一人、安安と敵の策にハマるわけが無いだろう」


「…は?」


「君達は安全に地上に出てたと思っているだろう。だがそれは私も同じだ。私は浮く事が出来る、そして私の本領は下水道などではなく地上でこそ発揮される」


「おいおいまさか」


「あぁ正に策士策に溺れる、と言った状況だ。私の策は簡単に地上に出る事、だ。佐須魔が用意してくれたコトリバコを持ってな」


「クソが!だがここなら空気中の霊力は高くて五割、三人がかりなら十分戦える!」


「そう言うと思っていた。三体一なら勝てるだろう、そんな誰でも思いつくような思考だ。だが君なら分かるだろう私がそんな事を許すと思うのか」


「そうは思わねえけどよ、じゃあどうやって分断するんだ」


「簡単だ。連れてくればいい。呼べばいい、私の部下を。[神(シン)]」


そう名を読んだ瞬間浮遊している來花の隣に一人の男が現れた。角が生え、謎の目隠しをしている浴衣の男だ。そしてその男は体格や声からは想像のつかない様な喋り仕草ではしゃぐ。どうやら來花に会えた事が相当嬉しいらしい。

來花は「お話は後だ」と言って四人の中から戦う二人を決める様指示を出す。


「じゃああの黒髪と茶髪の男にする!」


「分かった。じゃあ行ってこい」


「じゃあまた後でね!」


そう言うとその男は何処かに消えた。それと同時に蒼と須野昌も何処かに消えてしまった。その場にいるのは宙に浮く來花と立ち尽くす礁蔽とラックだけとなる。


「…は?どう言うことや?」


「礁蔽。お前は逃げろ、俺は今から文字通り死ぬ気で戦う。巻き込まれたくなかったら今直ぐ逃げろ」


「は?ちょっと待て…」


「死ぬか逃げるか選べって言ってんだよ」


その時礁蔽に向けた眼は今まで見せたことの無かった圧と恐怖、他にも数えきれない程の感情が混ざり合った顔だった。礁蔽はあまりの気迫に押され踵を返し走って逃げ出した。

ラックは大きく息を吸ってから少しでも時間を稼ぐため口を開く。


「ここまで大事になったら市民の怪我ぐらいしょうがねぇよなぁ!」


「好きにするといい。責任は君達にある」


「そうかよ!じゃあやろうぜ」


「あぁ。来い、弱き青年」


十七時を知らせる鐘と共に戦いは始まった。正真正銘の殺し合い、ラックは右腕を骨折している状態でのハンデ戦となる。だがそんな事は関係ない、魂に比べれば右腕の骨の数本ぐらい軽い物だ。ラックはそんな気持ちで身体強化をフルパワーで使用しそのまま戦闘体勢に入り準備完了、來花はコトリバコを手に取り準備完了。戦闘開始だ。


その日、その街では同時に“三ヶ所”で戦闘が行われる事となった



菅凪(カンナギ) 礁蔽(ショウヘイ)

能力/念能力

どんな鍵でも開ける事が出来る。一度解錠又は施錠した扉にも転移出来る

強さ/サポート系のため不明


第三十五話「策」

2023 9/26 改変

2023 9/26 台詞名前消去

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