第三百四十六話
御伽学園戦闘病
第三百四十六話「黄泉の国にて」
生徒会長による急な招集で皆が能力館に集まった。現在島に残っている全員である。
「ニ、ニア!!」
一番最後にやって来た兵助が驚きながら駆け寄る。その時点で色んな人にもみくちゃにされたせいで少しだけ疲れているニアは少しだけ適当な扱いをしていた。
「またどっかで広域化見せてくれよ。俺の能力の進化に使えるかもしれないしな、佐伯は精度がクソ過ぎて見せてくれないし……あ、一応初めましてだな。俺はシウ・ルフテッド、干支のリーダーだ」
「ニア・フェリエンツ……一応ロッドです。よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
「理事長も来てますね。では全員集まったのでエンマからの伝言、いえ先に私がこの三年間何をして来たのかを話しましょうか。そちらの方が分かりやすい気がしますので」
前置きを終え、ニアは語り出した。
ニアはまず家族で話した事を全て説明し、能力発動帯が首にある事も堂々と言い放った。その説明に関しては後回しで、先に話しを進める。
話しを終えてから黄泉の国に点在する強力な能力者との会話をするため移動していた。まずはアルデンテ王国、その宮殿内にいる人物からだと考え一番近くにいた人物に話しを聞く事にした。
「…あなたが初代ロッドですか」
「あらー!」
珍しい客に興奮しているロッド。
「どうしたのよ、こんな時に」
「聞きたい事があります。どうすれば強くなれるんですか。あなたは術式を作り、大量の霊と契約し、その時代では問答無用に最強と言われる程の能力者だったと記憶しています」
「歩きながら話しましょうか」
そう言ってロッドは歩を進める、そしてニアも同じくして歩を進める。
「まずは間違いを正すわね。私は術式を作った、けど決して私だけの功績じゃないわ。それに契約なんてしてないわよ、私の霊達は全員各自独断で付いて来てくれた。だからあそこまでの信頼関係が築けたのよ。あとあの時代の最強はアイト・テレスタシアよ、私じゃない」
「前半二つに関しては分かりましたが、最後だけは納得できません。私もアイト・テレスタシアの力はある程度聞かされた事があるので知っていますがあなたより強いとは到底…」
「私はアイトと直接的な関係が無い。だけど今となってはフロッタやフェリア、それに英雄ってよばれてる子達とも深く関りを持ったから分かる。ついでに当時見てはいたしね。
あの子の何が強いかって言うと、人を見抜く力よ。彼が衝動または能動的に関係を選択していたのは分からないけれど、友や師を選ぶセンスが抜群だったの。だからあそこまで強くなれた。
結局の所力って言うのは周囲の協力が無くっちゃ限度がある。ニアが追い続けているアリスだってTISの伽耶って女の技術を借りているから強いし、生きられてるの。逆に言えば一人だったらとっくに死んでるのよ、あの娘。
それじゃあ肝心の質問に答えるけど……私には分からないわ」
「はい?」
「私って現世で凄い量の男を食い漁ってのよ、本当にスッゴイ量。あ、ちなみに和のロッドと洋のロッドが別れたのはそう言う事ね。
それで次第に人間じゃ満足出来なくなって動物、それでもなんか足りなくて霊にまで手を出したのよ」
「え?ちょっと待ってください……急展開過ぎません?そもそも人間の男性に飽きたからって動物に魅かれます?」
「人の性癖の話なんて聞いてもどうにもならわよ?」
「あ…はい…」
「それで霊に手を出した結果ある事に気付いた、霊って喋れるんじゃないかって。そこからは関係を作りながら研究したわ。正直に言うとあの時の私は異常だったと思うわよ、でも気持ちは理解出来る。好きなものが目の前にある、けど掴めない。だから掴めるように工夫する、いつ何時でも同じだった。ただそれを試しただけ。
で絆が深まると喋れる事が判明して、ひたすら仲良ししたの。それでどうなったか、簡潔に言えば沢山の霊と喋れるようになったわ。
ただ…それだけじゃ物足りなかった私は新しい娯楽に手を出す事にした。それが戦闘」
「戦闘ですか?」
「そう。案外勝った時の快感って凄いものよ。まぁそこで勝ちを重ねるに連れて皆が強くなっていった、そして私も強くなっていった。本当に自動的に強くなった、だから分からないの。
……まぁでも無理矢理言葉にしてみるのなら明確に強くなる方法っていうのは無いんだと思うの。何かを積み上げていった結果強くなる、そして私はその手が様々な方向、戦闘にも向かっただけ。
……本当にこれだけ。でも私が稀有な例っていうのも理解してるつもり。だから断言とかはしないけど、ニアも強くなりたいって思うなら、自分のやり方でやれば良いんじゃないかしら?どうせ強くなれるわよ、力に限界は無いわよ、本当に」
「好きな様に…ですか」
「そう、好きな様に」
ニコニコしながらロッドは語った。一方ニアは期待外れだったので呆れながら一言残し、別の人の元に尋ねる事とした。
「やっぱり天才の言う事は理解できないです」
天才に聞いても分からない。なのでロッドの血筋は全員無視、刀迦も天才なので無視。そうなると宮殿内では絞られる。だがその中でも生徒会の人物は何か忙しそうだ、更に絞られた結果英雄の一角となった。
霊力感知で探し出し、その部屋へ向かう。扉の前に立ち、ノックをする。だが返答がない、再度霊力感知を行ったがやはり部屋にいるはずだ。
「あのーベアさん、いますよねー」
それでも何も聞こえない。仕方無いので扉を開けようとしたが鍵がかかっている。どうにも開けられそうにないので強行突破で行く事にしたニアは蹴破った、扉を。
「うおお何々!!」
ベアはベッドで真っ裸だった。ゴミを見る様な視線をぶつけながらとりあえず服を着る様命令した。
「悪い悪い…寝る時は裸になるんだよ。で、フロッタの血筋の子が何の用だよ。頼み事か?」
「いえ、どうすれば強くなれるのかを知りたいのです。初代ロッドにも聞きましたが適当過ぎて話しになりませんでした」
「えぇ……俺は別に強くないんだが…空間転移だぞ?明らかにサポート系だろ」
「はい、だからあなたに聞いたのですよ。戦闘能力が突出している人はやはり才能の部分が大きいと思いました。なのでそこまで戦闘は強くないですが、何箇所もの地域を陥落させたあなたの話しが聞きたいのです」
「そうかぁ…んじゃまず陥落させたのは俺の部下であって、俺自身は指示も戦闘もろくにしてないって事を頭に入れてくれるか?」
「色々追及したいですが、まぁ分かりました」
「なんで俺があらゆる地域を落としたか、それはハッキリ言って部下の働きだ。俺が仕切ってた支部にはサポート系の能力者が冗談抜きに一人もいなかった。俺がアイトに申請したからだ。理由としては単純で、サポート系の能力っていうのは無駄なんだよ、ああいう団体戦においては」
「無駄?バフがかかれば強くなれますし、デバフをかければ有利に…」
「それはお前の戦闘経験が浅いのとそこまで大人数同士で戦った事が無いからだ。ああいう人数ドッカンバトルはな何が決着を着けるかと言うと指揮だ。んでも指揮する奴が戦況を把握できてなかったら指揮を出そうにも出せないだろ?
だから俺は変則的な手段を嫌う。サポート系っていうのはお前みたいな練度の高い広域化使いがいれば話しは変わるが、基本そんな奴はいない、そうすると一部の人間にしか効力が発揮されない事になる。
集団行動が崩れやすい原因として力の均等性があると思う。でもバフかけられたり、逆に相手にデバフをかけて「今ならやれる」って思わせるとどうなるか、分かるか?」
「まぁ文脈的に暴れ出すんじゃないですか、知りませんけど」
「そうだ。優位に立った人間ってのは調子に乗り出すんだよ、そんで崩壊する。だから俺はサポート系を毛嫌いしていた…まぁ少数の戦闘ならぜんっぜん話しが変わるんだけどな!」
「そうですよね。ずっと違和感があったのはそう言う事でしょう」
「まぁそう言う事だ……んで何の話だっけ…」
「どうすれば強くなれるか、です」
「あーそうそう。まぁ言いたい事としては俺はお前が知りたいような強さを持ち合わせていない。だから教えられない、それが答えだ」
「いえ、ですから私に合わない力でも良いので教えて欲しいと…」
「戦闘に限らず命を懸ける場面で無駄な知識ってのは足枷になるだけだぜ。まぁ"ラック・ツルユ"にでも聞いてみな、あいつなら色々知ってるはずだぜ?」
「何故そこでラックさんが出て来るのですか」
「…え?もしかして知らない?」
「何の事です」
「…いや、自分で確かめてくれ。俺は眠い、寝たい」
「そうですか、期待外れでした」
ニアが部屋を出て行こうとしたその時だった。服を脱ぎ再度ベッドに転がったベアがまるで独り言かと言いたげな口ぶりで喋り出す。
「あー結局強くなるには鍛えるしかないってアイトが言ってたなー。あーなんか"今"思い出したなー」
「…忘れていたのなら最初からそう言ってください」
「…すまん」
「でもありがとうございました。またいつか役に立つかもしれないので」
「いや忘れろ、さっき言っただろ。足枷にしかならないぞ」
「大丈夫です。その足枷も武器に出来るぐらい、私は強くならなくちゃいけないので」
そう言い残し、部屋を出る。そろそろ戻らなくてはいけないので後一人程度だろうか、宮殿外に出る程時間も無いので折角出向いたと言う事もあり敵にでも聞いてみる事にした。
間近で感じた事があるので霊力感知もすぐに終わった。全力ダッシュで目的地まで走り、対峙する。長い赤髪に少し怖い顔つき、重要幹部の一人、エンストロー・クアーリーである。
「なんだ、ニア・フェリエンツ。笑いにでも来たか」
「そんな無意味な事しませんよ。どうすれば強くなれますか」
「お前は充分強いだろう。少なくとも俺が教えられる事は何も無い」
「いえ、嘘です」
「決めつけるな」
「私はあなたの事を良く知りませんが、多分嘘です」
「根拠は」
「無いです。強いて言うのなら性悪の住民達と接触していました」
「…そうか。なら仕方無いな。嘘だ」
「はい、知ってます」
「それで、何を知りたいのだ。教えられる事は本当に無いぞ?」
「ならば教えてください。何故あなたはTISに加入し、重要幹部にまで上り詰めたのか。重要幹部とは佐須魔が認める腕利き、その中でも弱い方とはいえども相当な実力者である事は分かります。
それなのに本当に教える事が無いのでしょうか?そもそも私は身体能力だけで…」
「分かった。だが教えられるのは何故重要幹部に行ったかだけだ」
「はい」
「俺は元々ただの能力者だった、隠密すらしないただの社会不適合者。何も考えず、その時やりたいと思った事をこの能力で実行するクソ野郎だった。
そんな俺の元に佐須魔がやって来た。当時TISは來花と佐須魔の内輪揉めによって解散の危機に陥っていた、とにかく戦力増強を図りたかったのだろう。だが俺は断った、悪行は知っていたし何より自由な日々を奪われるとばかり考えていたからだ。
結局力尽くで加入させられた。最初は本当に嫌で嫌で仕方が無かったさ、何か命じられても全力で無視していた。大した戦闘能力を持っている訳でも無かったのにな。
そんなある日俺は本拠地に招かれた。そして軟禁される事となった、ちょっとばかしキレていた佐須魔に逆らう事も出来ずただ従っていた。そこで知ったのは重要幹部の性格だった。
悪党のはずのあいつらは別に何処もおかしくなかった。事情を聞いても仕方のないと言える様な奴ばかり、正直ここに俺が居て良いのか?そう思う程には場違いだった。だがそんな弱い俺も歓迎してくれた。
今まで沢山の人に良くされていた。だからその時の俺はなんでそこまで惹かれたのか分からなかった。ただ感情に任せて動いていた…それに関しては今も変わらないがな」
「理由、今は分かったんですか」
「ただ力があったからだ。井の中の蛙って言葉が良く似合うが当時の俺は本当に最強だと考えていた、そしてそれは自他共に認めていた。だから怖れ、屈服し様子を窺う奴が大半だった。
それと重要幹部はただ友達に話しかける様な距離感だった。懐かしかったんだろうな、その感覚が。多分、本当にそれだけなんだ。そんな薄っぺらい理由だから俺は死んでもそこまで悔やんでいない」
「嘘でしょう」
「あぁ、嘘だ。今のTISは少し嫌いだ。だから俺は学園側に肩を入れている。叉儺が地獄から這い出てきたらどんな反応をされるか分かったもんじゃないが、それでも俺は止める。とてもじゃないが、あれは佐須魔とは思えない」
「私もそれは感じます。黄泉に来てすぐエンマに見せられたので分かりますが…佐須魔はどうなっているのでしょうか、明らかに異常ですが…」
「神に成ろうとしている。希望を求めてな」
「神…?」
「そうだ。だが俺は断言してやろう、無理だ。本物の神は必ず弱点を作る、佐須魔にも必ずあるはずなんだ。弱点というものが」
「そうですか…ありがとうございました」
「あぁ。しっかりやれよ、俺も一応、仲間だからな」
全くの無表情、それでも何となく暖かさは感じ取れた。ニアは無言でその場を離れ、王座の間へと向かった。エンマが待っている、仮想世界に送り飛ばしてもらう算段だ。どうやらそれは分かっていたようでマモリビト本人と念話のような事をしており、大変苦しそうだ。
十数秒後、目を開く。滅茶苦茶顔色が悪いがそのまま送り返す事になった。そしてそこでエンマは伝言を頼む。
「いつでもいい、どうせ大会前には戻るだろう?だからその時いるメンバーで良い、伝えるんだ…」
「現在黄泉の国では二人の能力者を育てている、本気で。紹介とかめんどいから詳細省くね~。でも薫に伝えてくれよ、零式で起こすのは自由だがそれは重い罪である事を忘れるな。そして起こす場合、絶対に礁蔽を一番にして、次の人を起こす前に話しを聞く事
……だそうです」
「そうか、ご苦労だったね。もう少し聞きたい事はあるが…ひとまず君も疲れているだろう。かくいう私も諸事情により大変疲れている。なので今日はここで解散とさせてもらいたい、何か質問がある人は今行うと良い」
すると一瞬で優衣が手を挙げた。
「ニアちゃんはどれぐらい島にいるの~?」
「ずっとですよ、死ぬ日以外、ずっとここにいます」
「やった~!」
嬉しそうにしている優衣を差し置いて、兵助が訊ねる。
「とりあえずお疲れ様。それで発動帯の話なんだけど…それって全部本当?」
「はい、両親が知っている限りでは」
「そっか…でもそれが出来る人は少ないよね…基本体力は霊力より少なくなるし」
「そうですね。なので正直実用的ではないと…」
するとそこで一人の男が帰還する。
「俺が覚える。一ヶ月もあれば充分だろ、だから諸々聞かせろ。ニア」
ここ数ヶ月行方不明になっていた男。立て続けで嬉しくもあるが、不安だ。やつれているという程でもないが前に比べて何だか不甲斐ない。それに目つきが鋭くなっている。極めつけには殺意が漏れだしている。誰に大してなのか、それは大体の者が察してしまっていた。そのせいで誰も何も言えなかった。
そんな中咲のみが、微笑みながらこう言った。
「駄目です。ニアちゃんは私達のものなので、あなた自身で覚えてください。重点は"私が"教えてあげますよ。ねぇ、拳さん」
第三百四十六話「黄泉の国にて」




