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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十一章「襲撃」
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第三百四十四話

御伽学園戦闘病

第三百四十四話「定め」


英二郎との戦いに巻き込まれ、少しだけ怪我を負ってしまった宗太郎。ひとまずその場を離れ、住宅街の方へと避難していた。止血を行い大した怪我はしていない事を確認する。

鷹拝も一度戻したら全快した。霊力感知と鷹拝の偵察を行ったが火山にはもう誰もいない。ようやく目的を遂行出来る。狙撃手(チダカ)の邪魔が入ると色々面倒な事になるので行動に移せなかったのだ。


「やるか、もう」


立ち上がり探し出す事にした。何故なのかは分からないが生徒会の連中は円座教室に取り込まれていない。もしかしたら理事長は全て理解しているのかもしれないが、別に気にする事では無い。

早く皆の元へ向かい、戦闘をする。


「本当にそれで良かったの?」


見知った声。仮想の喰われ人、旅を手助けしてくれた師匠である。背後からの声、本当に来ているのか幻聴なのか分からない、分かる気も無い。

だが悟った。


「良かったかそうじゃないかの問題じゃない。俺は決めていた、ずっとずっと、昔から」


「それは君の為では…」


「黙れ。それ以上言うなよ」


「なら言い方を変えっよかな。それは君の…」


「それ以上言うなと言ってるだろ!!」


振り返りながら殴り掛かった。だがその拳は一人の少女によっていとも容易く受け止められてしまった。それと同時に宗太郎は驚愕する、力の差というものを。


「どうぞ、言ってください。私は既に見つけていますから、別の"意味"を」


「…そうか……なら流に言っておいてくれ。「殺せなくて残念だ」って」


「えぇ。必ずや」


「それじゃあな、ニア」


ニアとの別れを告げ皆の元へ向かう。そこまで遠くは無い、二分もあれば対峙出来るはずだ。


「一応戻ってこい、鷹拝」


長年の共を体に宿し、進む。役目を果たして終わり、それで良いのだろう。

すぐそこ、視界に入った。全員を目を開けているし、治療も済んでいる。万全の状態だ。もう自分で正体を明かしたはずなのに、なんでかフードを被ってしまった。

そしてそれを見た梓が声をかける。


「宗太郎」


「…」


「なんでこんな事したの」


「…」


「喋りなよ、本当の事ぐらい。ずっと待ってたのに、この二年間、みんなずっと待ってたのに」


「俺が頼んだか?待っててくれと。俺は流を殺すために仮想世界に残った、最初からお前らの味方なんかじゃ…」


「私戦闘能力が無い変わりに外での情報収集遠征なんかは結構な数行かされた、咲ちゃんに。そこで良く見る顔があった。本当に日本中どこでも何でか知らないけど見た顔。

本当に私が何も知らないと思ってるの?そんな訳無いでしょ。[国後 皐月]」


その瞬間宗太郎は梓の首元を絞めた。他の者が止めに入ろうとしたが、逆に咲がそれを止めた。何故止めるのか訊ねても咲は返事をせず、ただ見ていた。だがその眼は何処か悲し気で、意味がありそうだった。

仕方無く手を降ろし、張り詰めた空気の元見守るしか事しか出来ない。

そして梓の息が限界まで来たその瞬間、宗太郎は手を放した。てっきりそのまま殺されると思っていた梓はその場で一番驚いている。すると今度は咲が問う。


「意味は持っています、少なくとも私は」


「それじゃ駄目なんだよ。全員が…」


「私は現在生徒会会長です。この場にいる皆さんは全員生徒会役員です。それで充分では無いでしょうか、一体これ以上何の足を進め、何の手を伸ばし、何を掴むのでしょう」


「…視野が狭い、それに尽きる。意味が場を制すとは一切考えていない。だが意味が無いと場を制す事が出来ないとは考えている。お前はどうだよ、会長(サキ)


「同意見です…が、少し違いますね。意味だけでも場を制す事は出来ます。ニアさんなどが良い例ではないでしょうか。先程接触していましたよね、霊力感知で分かります。

それならば理解されたはずです。貴方は凄く賢いですから、あそこで仮想世界に残ると言う選択は常人にはできません。そもそも頭には浮かびません。恐らくですがあの場で思い浮かんだのは貴方と兄さんぐらいです。

そこは褒めますよ、純粋に。ですが仮想世界で学び得た事によって貴方は変わった」


「変化は必然、必要な事だ」


「知っています。ですが変化にも種類はある。貴方は仮想世界で経験を積む事によってあまり良くない変化をもたらした、"ただ"それだけです」


「一々癪に障る言い方だな」


「わざとですが…そう思って貰えたのなら嬉しい限りです」


「まぁ良い。意味があるのならそこまで問題はない。ただし、見極めさせてもらう。行きたいんだろ、地獄。見せてやるよ、地獄で何を学んだのか」


「それはそれは、嬉しい限りです。行きますよ、皆さん」


だが優衣以外はその言葉に反応を示さず、冷静に反対した。


「やった方が良いぜ?じゃないと俺らが殺すぞ、そいつ」


今度は間に挟まるようにして一人の男が介入して来る。そいつはここ最近不審な動きを見せていて、咲個人に警戒されていたハックだった。

今日は完全に手ぶらのようだ。ライトニングの霊力も共に感じ取った。それと同時に遠方でなる爆音が止み、勝負が終わったのだろうと感じ取る。


「そう言う事でしたか…」


「悪いな、機密情報だったんもんで。兵助にも言ったがあいつは拒否していた。俺らも独自に調査を進めていたが、[国後 皐月]、あいつはお前の姉だろ?宗太郎」


「それがどうした」


「あいつ今厄介な事になっててなー、能力者ではないけど無駄に霊力指数高いからTISに利用されそうになってるっぽいんだわ」


「好きにしろ。俺はあいつを家族や味方だと思っていない」


「そんな話してねぇぞぉ俺。あいつが万が一にでもTISに利用された場合殺害は必至、その場合あんな雑魚に取締課を派遣するわけには行かないので生徒会を派遣。そしてこいつらは既に皐月がお前の姉である事を知っている。

出来ないだろうな、咲でも。んで大前提としてそんな雑魚を利用すると言う事はTISは大分ひっ迫している状況、簡潔に言えば革命時ってこった。そんな状況で生徒会の信頼が落ちたらどうなるだろーなー……ま、こんだけの話だ。

一旦はてめぇらに任せるよ。そんじゃあな」


ハックは何処かに向かってしまった。もう少し詳細を聞きたかったが仕方が無い。

少しの間沈黙が響く。だが咲が傘牽を開いた。その瞬間宗太郎は動き出し、傘牽を潰そうと殴り掛かった。ただそれを止めるようにして優衣が消耗蝶を手裏剣のようにして飛ばし、爆発させた。

完全未知数の敵なので宗太郎は被弾を怖れ、一旦後退する。その後すぐに優衣の方に向けて鷹拝を放つ。


「止めておけ」


ただの鷹では無く、仮想世界の住人によって宿主と共に鍛え上げられている。相当な実力を持つ鷹拝だが、優衣の蝶に勝てる気はしていなかった。

メインウエポンは爪、優衣の様に半物量攻撃のような相手とは相性が良くないのだ。だが高い知能もあるのでそう言った場合の対処法も知っている、本体を叩くのだ。


「こうなってしまうのならば、やるしかないですね」


モップを取り出したベロニカは鷹拝をぶん殴った。


「助かる!」


「蝶隊を早く、削りますよ」


「駄目!兵助に蝶隊は大会まで温存って言われてるから」


「了解です。では消耗蝶と配属されていない蝶で何とかしましょうか」


とりあえずベロニカと優衣がやってくれるのなら鷹拝は脅威にならないだろう。咲と宗太郎はその間攻防を繰り返しているが互いに大したダメージが与えられない。

宗太郎は速さでは圧勝しているはずだ。だが咲の正確なガードと回避によって手応えが無い。このままでは他の奴らにやられて負けると思った宗太郎は少しだけ無茶をする事にした。


「鷹拝、やるぞ」


『降霊・鷹拝』


すぐに自身への降霊だと分かった咲は距離を取ろうとする。だが足を動かしたその時には既に、首元が大きく割れ血が噴き出していた。


「あら、お早い事」


そこで見せる咲の狂気。傘牽を首に突き刺した、当然自分の首だ。声も出せない状況だが微かに笑っている。大きな違和感、一瞬で気付いた。戦闘病じゃない。

やはり兄妹そろってバケモンだと思う。そして咲も反撃をして来た。だが今度は宗太郎が回避に徹し、避け続ける。首を刺した理由としては毒や今後の布石になる可能性があるからだ。咲にとって宗太郎は未知数、おかしい行為ではないが異常ではある。

避けている最中、背後に躑躅の霊力を感じた。すぐに回し蹴りを行ったがそこ躑躅の姿は無く、霊力が模っていた。


「は?」


「無霊子の特性。凄い、無駄だけどね。メルシー」


メルシーは宗太郎の背後に移動して蹴飛ばした。そして咲と四葉が全速力で追いかける。


「私が先に!」


四葉が先に攻撃する。追いつくと同時に殴り掛かった。だが宗太郎が両手を使って受け止める。


「今!」


今度は咲だ。足でガード自体は出来るがその後の行動を考えるとしない方が良いだろう。傘牽の攻撃だが、受け入れるしかない。咲は的確に首元を狙って攻撃してきた。突き刺すだけでは飽き足らず炎も浴びせて来る。

感じ取ったのだろう、初手で首を狙った意味を。だがそれは間違いの行動だ。何故なら宗太郎の能力(たましい)はその発動帯(からだ)に無いからだ。


「残念だったな、咲。お前は俺が発動帯の位置を知っていると思ったんだろう。まぁそもそも首潰した時点で能力使えなくなるんだから当たり前なんだけどな。

でも無意味だ、俺に対してはな。能力(たましい)は既に、神に受け渡した。仮想世界で保存してもらっている。そしてこの作戦が終わり次第、破壊される」


「それは残念だね。でも咲ちゃんが戦うなら私も戦う!」


ファルが背後から跳び蹴りを繰り出した。だが次の瞬間、宗太郎はファルの真横に移動し、殴り飛ばした。そこで四葉が報告する。


「おかしい、私もう五十回近く死んでるはずなのに軌道が見えなかった。多分テレポートかも」


「正解だ、いや正確には正解じゃないけどな。鷹拝と俺のスピードを合わせた、それだけの話だ。ニンゲンじゃ見れない程のスピードってだけだ。ファスト辺りなら見れるんじゃないか、追いつけないと思うがな」


「…無理じゃない?咲ちゃん」


咲はコクリと頷いた。だが傘牽を構え、火を放つ。


「無駄だっての」


今度は咲の真横だ。拳を放つ。だが今度はモップに弾かれた。鷹拝がいなくなったので好きに動けるようになったベロニカだ。


「咲さんが殺されるなら、私は貴方を殺します」


ようやく全員が戦うようになった。


「まぁまぁ良い動きするな、全員。これなら…」


瞬きなんてする余裕も無い程、短い時間であった。


「宗太郎!」


梓も知らなかった声が、その場に響いたのだ。宗太郎は目を見開き、絶望した。それと同時に、胸部へと圧がかかり、立つ事も出来なくなっていた。

急に何が起こったのか、それを確認するために乱入してきた人間の正体を確認した。[国後 皐月]と須野昌だった。あまりに唐突で誰も動く事が出来ない。

宗太郎はただ地面に転がって苦しんでいる。


「おいどうした!」


一番最初に動いたのは須野昌だった。ただ宗太郎からの返答は無く、ただ揺さぶるのみ。何も出来ない、そう悟ったのは胸元へ視線を向けた時だった。歪んでいる、変形しているのだ。明らかに人の技ではない。

それと同時に月光によって映し出された影がある事にも気付く。見上げるとそこにはいた、神とは名ばかりの悪魔が、顔は分からぬが、確かにいた。


「ふざっけんなよ…」


心の底から溢れ出して来た言葉は宗太郎の囁くようあしゃがれ声によって打ち消された。


「約束、してたんだ…」


「は?なんだって?」


「姉と会ったら…即死だって……条件付けで…やって来たんだ…」


「…はぁ?」


半笑いだ。何故須野昌に笑いが含まれたか、それは絶対に分かっていたからだ。神は絶対に分かっていた、この戦いで皐月と宗太郎が会うと、絶対に。

なのにそんな条件を付けた。もしかしたら脅威に成り得る存在を排除するのに正当性が無く困っていたのかもしれない。だがそんな事より怒りが先に来る。須野昌はラフレシアを呼び出し、空高く舞い上がった。


「宗太郎!」


すぐに駆け寄る。皐月は何が起こったのか理解出来ずただ立ち尽くしているだけだった。そこに躑躅が推測の域を出ない説明を施した。すると皐月はへたり込み、口を塞ぐ。


「なんで来たんだよ……バカが…」


まだ喋る気力はあるらしい。それならば兵助が治せるかもしれない、梓がそう言ったが即刻否定された。


「無理だ……俺の魂は……あいつが握っている……その時点で回復なんて無意味…」


「でもこんな所で死んじゃ嫌でしょ!?」


「嫌に決まってんだろ……でもこれも役目の一つなんだ……別に、後悔はしてない…」


「もうわけわかんない事ばっか言わないでよ!!普通に生きたいんでしょ!!そもそも流先輩とも戦えてない…」


「二つ……目的があった……流を殺す事と、お前らの品定めだ……このまま大会に出ても大丈夫か、それを見極めるために…今日ここに来た……どうやら英二郎は果たしたらしい…だから俺も…このまま……」


「極悪人の娘である私が言うべきなのでは無い事でしょうが、言います。私は別に人を殺してもそこまで問題ではないと考えています」


優衣によって回復された咲がそう言った。


「何だよ…死に際に寄り添っておこうってか…」


「違いますよ?別に死んでしまったら悲しいですけれど、それを止める理由はありませんから。貴方は間接的にですが沢山の人を殺した、それは何故なのか、ずっと考えていましたがようやく答えが出ました。TISと同じですね」


「まぁ…そうだが……同じにしてほくないんもんだな…」


「必ずや受け継ぎますよ、その意志は。なので無茶をせず、最期の言葉を」


「そうだな……勝てよ……」


咲が話しかけた頃から目を閉じてはいたが、遂には力を抜いてしまった。次第に意識が遠のいて行く。ここから先は何処に行くべきだろうか、いやそもそも何処にも行けないだろう。そんな時、体から抜けていく感覚がした。

魂ではない、何かが。


「さぁ行きましょう。遺体は私が持って行きます」


「待ってよ…咲…どう言う事なの…?宗太郎は何を…」


「梓さん。私はTISと同じだと言いました、恐らくそれが引っかかっているのでしょう。ならば言いましょうか、私は知っていますから。

TISの目的というのは能力者の解放です。差別などの嫌な事から、解放したい。それがTISの目的です。まぁ目標だけ見てしまえば私達と同じなんですよ。ですがやり方が違うんです。

私達は武力で解決したくないですが、彼らは武力でしか解決できないと考えています。そして宗太郎さんは後者だった、そういう話です」


「じゃあなんで島なんか破壊したの…?」


「…分かりません。申し訳ないですが、私に心を見る能力は無いのですよ。なので今までの発言も全て戯言。言える事は一つ、必ず見れるはずです。宗太郎さんが考え、導こうとしてくれた景色。

急いで事を進めましょう、私達には絶望的に時間が足りません」


咲の表情には曇りが一切無かった。いつもと同じ不愛想な無表情、だが何故だか怒りを燃やしている様にも見えた。この中で宗太郎が見たかったものを知るのは咲ただ一人。

それなのに、何故こんなにも怒っているのだろうか。目標がそんなにも不適切で、非人道的なものだったのだろうか。それすらも分からないまま歩まされることになる。

信用は落ちないだろう。だが手に乗るかも分からない程の猜疑心が実る事となるだろう。皐月は須野昌に任せる。これからは島の住民への説明や対応などが待っている。TISが襲って来る可能性だって十二分にある。

咲が言った通り時間がない。それは全員理解しているが、動く事が出来なかった。今更になって気付いてしまったのだ、咲が何を見ているのか。ただ誓ってしまったのだ、命を懸けてでも付いて行くと。

果たすべき役目はある。だがそれでも、怖い。


「大丈夫ですよ、宗太郎さん。地獄はもう、見ていますから」


その声が誰かに届く事は無かった。



そして同時刻、住宅街で一人の男が無残に横たわる遺体を前にして立ち尽くしていた。ふと零した、別れの一言。


「姉…ちゃん…」



第三百四十四話「定め」


被害

[軽傷,重傷者]完治

[死者]

平山島住人数十名

木ノ傘 英二郎 - 仮想世界の住人 - 無

風間 宗太郎 - 仮想世界の住人 - 無

駕砕 杏 - 無職 - 不明


[行方不明者]


第十一章「襲撃」 終

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