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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十一章「襲撃」
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第三百四十三話

御伽学園戦闘病

第三百四十三話「葬儀」


「いってなぁおいおい。流石に酷いだろ、封されたら防げねえって…」


絵梨花は既にボロボロだ。能力があれば何とでもなっただろうが封をされてしまったら抵抗など出来ない。だが少しおかしい、威力は充分、人なんて即死してもおかしくないレベルの攻撃だった。

それなのに能力を封じられた絵梨花は生きている。相当ダメージを負っているが何処かが欠損しているわけでもない。恐らくは何か特別な道具か何かを使ったのだろう。


「素戔嗚、後は僕がやる」


「…」


素戔嗚は天仁 凱を戻し、火山の方へ走って行った。


「まぁしょうがないか…理事長も来た事だし、本気でやってやるよ」


「望むところです」


「だが!!条件がある。学園の敷地内だけでやろう。これ以上一般人に被害を出したくない。私の生徒も数人死んでる、悲しいんだ」


「…分かりました。確かに馬鹿でしたね、破壊するなんて。こう待っているだけで絵梨花先生は来てくれるはずでした…これが最後のチャンスと知ってから長い期間気が動転していたんでしょう……ですがもう大丈夫です。行きますよ」


エクスカリバーを構え攻撃態勢に入る。封が解かれた事を確認すると自身の体力を増やした。瞬時に体は再生し、元通りだ。

やはり強い。体力を増やして再生も出来るし霊力を増やして攻撃に転ずる事も出来る。何なら自分だって増やす事が出来るはずだ。文字通り無限の可能性を秘めている神にも並ぶ最強の能力。心が踊る。


「それじゃあ、行きます」


『エクスカリバー』


天高く掲げ叫んだ。直後雷鳴のようにして光の斬撃が絵梨花一人に向かって放たれた。


「ま、効かないわな」


くらっているはずなのだがビクともしない。大体分かる。体力を爆増させ無効化しているのだろう。英二郎は既に発動帯の位置や所謂『転』の事を仮想世界の住人から教えてもらい熟知している。

なので大して驚く事も無くすぐに次の攻撃を行う。この受け流しは実質的に霊力を削っている事になる。体力を増やすには能力を使用する必要があり、その能力発動には霊力を必要としている。

まさか霊力消費を失くすなんて神業は出来ないはずなので地道に削って行けば確実にチャンスが巡るはずだ。


「なんか違うんだよなーお前っぽくない」


光に当てられながら絵梨花がそう言った。


「どう言う事ですか」


「なんか違うんだよ。お前じゃない。仮想世界とかそこら辺の堅実な勝ちって言うの?とりあえず勝てれば何でも良いって感じがして好まない。

前までのお前なら絶対そこで斬りかかって来たぞ、自爆ダメージとか関係無く。だって私の方が強いもん」


指を鳴らす。すぐに回避行動に出ようとしたが意味などない、何故なら増やしたのは全身の血液。当然爆発し、先程と同じ様にして死亡すると考えていた、がやはりそうはならない。

どうやら佐須魔はこの事を見越していたのか血液までは回復させていなかったのだ。なので単純に威力が落ちていて軽く攻撃した程度になってしまった。

だが空気でも爆発させてしまえば問題は無いし、何なら霊力を馬鹿みたいに増やせばオーバーフローを起こし死ぬだろう。実際どうやって死ぬのかまでは不明なのだが。


「残念ですが僕は仮想世界の住人と交流し、力を得ました。これは現世にいたら絶対に得られない力だったはずです。なので後悔はしていませんよ、別に」


「あ、嘘だな。お前最後に「別に」とか付けない。まぁでもあながち嘘でも無いんだろ?実際その力は強いし、私も凄いと思う、努力の賜物だ。

ただ私個人としては多少弱くても勇敢に立ち向かい、信頼を勝ち取って仲間と楽しくやっていたお前の方が良かったな~ってだけだ。別に気にする事じゃない」


「なら何故そんな事口に出したんですか、少々不愉快ですよ。まるで今の僕を否定されているようだ」


攻撃の手を止め、対話する。これも重要な戦闘の一角である。


「あぁ?別にそう思ったから言っただけなんだが。私授業でもよく言ってるけど基本何も考えず言葉も選ばず話してるからよ。まぁ嫌な気持ちにしたのなら謝って、汚名返上タイムだな」


「ようやく乗り気になってくれましたね」


「言っただろ。関係ない人に危害を出さないのなら幾らでも戦ってやるって。できれば仮想世界が良いがちょっと厳しそうだもんな。ここでやってやる、それだけだ」


「感謝しますよ」


再度剣を掲げる。対話はここら辺で切り上げ、終わらせるのだ。両者理解している。絵梨花も指を鳴らす準備を行い、カウンターのために待っている。

そして英二郎が叫ぶ。


『エクスカリバー』


一撃一撃を重視しない謂わば連撃。絵梨花は無効化が可能だ、だがそれも時間の問題。ならば高速で削る事が可能な連撃の方が良い。それに小回りも利くしそこまで悪い事も無いからだ。

ただ一長一短。元々開発したのは連撃だった。なら何故一撃を作る必要があったのか、それは明確な弱点があったからだ。その明確な弱点、それは発動場所の問題だ。

新しく習得した光る斬撃は刀身から放たれており、その向きを変える事によって自由な場所へ飛ばす事が出来る。だが逆に言えば向けた方向にしか飛んで行かないのだ。なので万が一にでも手を滑らせて自分自身に刀身を向けたが最後、死ぬ。

仮想の天使によって被弾は怖い事だと教わり怯えていた。連撃というのは一撃にくらべ発動時間が長い、それ故に長い時間剣を敵に向けている必要がある。それ即ち接近戦でかく乱されると一気に大ピンチとなってしまうのだ。それを補うために一瞬で撃てるのが一撃重視というわけである。

まとめると連撃の長所は高速で何回ものダメージを入れられる、効果時間が長い故に当たった際の拘束時間も長い、様子見などで適当に入れたい時に有用。

短所は効果時間が長いので英二郎自身の拘束時間も長い、回避が得意な相手に使うと決定打に欠ける、効果時間が長いので誤って自身に当てかねない。

こんな所だ。そして絵梨花は連撃一撃の違いを一目で理解し、忍ばせておいた。


「良いね、分かりやすい」


直後指を鳴らしていない筈なのにも関わらず英二郎の手元の空気が爆発し、刀身が英二郎の顔面を向いた。すぐに逸らす事によって頬に少し傷が出来た程度済んだが、密かに掲げていた薄い疑問に色が付き明確なものとなった。

明らかに指を鳴らさず能力を発動している。神に聞いたので知っている、絵梨花は指を鳴らさなくては能力を"絶対に"発動出来ないのだ。

ただ考えずとも感じなくとも分かる。鳴らしていない。ならば一体全体どんな方法を使用しているのか、そこを突き止める事にそう時間はかからないだろう。だが問題はどう対策するかだ。

推測ではあるが何らかの技術だろう。そうなると霊力の流れを無理矢理止めたり、封で霊力操作自体を封じるしかなくなって来る。だが前者はその手を打つ前に対策されるだろうし、後者は封を使えないので無理。対策のしようがない。


「なら、こうしましょう」


『エクスカリバー』


またしても連撃。英二郎だって変な攻撃に気付いたであろうに、だが意図はすぐに分かった。それと同時に笑みが零れる。戦闘病なんかではない、単純に少し嬉しかった。死んだはずの教え子が戻って来た感覚だった。


「そうこなっくちゃっな!!自爆覚悟だろ!?行くぞ!!」


次の瞬間、英二郎の手元が三回爆発した。思っていた以上に数が多く、軌道を修正するのが難しかった。結果として首元を大きく斬ってしまう形となったが何を使用しているのか見当が付いた。


「『遅延』ですね。凄いですね、あれ最難関技術ですよ」


「いや私より戦闘歴短いのに『遅延』覚えたって言う化物生徒会員いるから。そっちを褒めてやれよ、先輩だろ先輩」


「いえ、僕はもう学園の人間では無いですよ。既に除籍されてますし」


「あっそ。まぁでも遅延ってのが分かっただけだが…一体どうするよ」


「何も対策しません。このまま押します」


再度連撃が放たれる。少し投げやりで強引な手法、何とも英二郎らしい。これくらいガサツで強気な方がどちらも楽しい。そしてそこでようやく絵梨花は指を鳴らした。すると今度は遅延無しで手元が爆発する。

これぐらいは予測出来ているので問題なく軌道修正が出来た。ここである選択を迫られる、遅延がまだ残っているのか残っていないのか。

遅延はあくまでも発動してから効果が出るまでの時間を遅らせる高等技術、発動条件をすり抜ける事まではできないはずだ。遅延の弾残が無くなったからいつもの攻撃をしたのだろうか、それともブラフか。

折衷案を取っても良いが、それだと長引いて不利になる気がする。光の斬撃は霊力消費が凄まじい、猛烈な特訓によって霊力が数倍になっているとはいえども、そろそろ限界が近い。

ここら辺で致命傷を与えなくてはいい加減厳しいだろう。なので少し攻めた手を取る事にした。結論として遅延は残っていないとして動く。

ならば近付いて単純な剣の攻撃も交えた方が厄介さは増すはずだ。そう思い接近しようと足を踏み込んだ。だがその時、絵梨花は眼鏡の位置をクイッと整え、口角を上げながら言った。


「単純な駆け引きさ。二択を迫る、生きるか死ぬかの二択を。当てたのなら別の策を講じるだけ。だが英二郎、お前は一発目で外したよ。

まぁ落ち度を上げるのなら、私がそんな数発だけしか準備しないはずがない、ってところが見抜けなかった事だな」


もう足を止める事も出来ない。ただ絵梨花に向かって突っ込もうとしているその動作のまま、表面の空気が爆発していく。数十発、いや数百にも及ぶかもしれない連鎖爆発。

エクスカリバーで防げるどうこうの話ではない。死ぬ。


「まぁ私の勝ちって事だ。まだ殺さないけどな」


三十秒に及んだ爆発。音が消え、攻撃が終わった。完全に瀕死状態、立つ事もままならずその場に仰向けになった。剣を握る力ももう無い、負けたようだ。

空には大きな真ん丸の月、そしてそれを覆い隠すようにして動く雲、それだけがそこにあった。次第に眼を開く事さえも苦しくなっていき、ゆっくりと眼を閉じた。

すると急激に近付いた死によって脳が覚醒する。とんでもない思考を重ねた結果、封じられていた記憶だけが頭の中に映し出された。



それはまだ小さな頃。小学生にも及ばぬ英二郎が本土で歩いていただけの出来事。能力者という事を隠して生活している所謂隠密能力者だった英二郎は外出さえも両親には喜ばれなかった。

だがその日はたまの休日と言う事で母親と共にショッピングモールに行っていた。常に付いて来るよう手を繋いでいたのだが、ある場所で解放されるような感覚に陥った。

そこはおもちゃ屋が客を引くために設置しているショーケースの展示場所だった。そして無意識の内にその中の一つに目線を向けていた。


「これかい?」


いぶかしむような声色で背後からそう訊ねられた。女性の声で、本当にすぐそこ、耳元で聞かれたような気がする。すぐに振り返って誰なのか確認しようとする。

だがその時子供ながらに驚愕した。数秒前まで大量に歩いていたニンゲンが誰一人としていないのだ。背後に経つ一人の女を除いて。だが直感で理解できてしまう、そいつはニンゲンじゃない。


「これかい?」


今度はショーケースに人差し指を当てながら訊ねた。そこにあったのは黄色い剣、まるで英雄の剣とでも言わんばかりに神々しく、常日頃から英二郎が憧れていた物だった。

全てにおいての不自然さを感じながらも、コクリと頷いた。するとその女は英二郎の喉を軽い手付きで掴んだ。まるで首を絞める様な状態だが、全く苦しくない力である。


「どうか私に見せてくれよ、君の英雄談を。それまでは、私が導こう」


その時の女の顔は歪む程の笑みで溢れていた。



「あぁ!!!」


手を伸ばしていた。非常に体が痛む。


「起きたか。死んだかと思ったぞ」


絵梨花が心配そうに覗き込んでいる。すぐに手を降ろし、絵梨花の方を見る。


「僕、沢山の人を殺したんです。TIS時代に。皆はそれを受け入れて仲間としてくれたけど、僕自身だけはそれをどうしても許せなかったんです。

だから、逃げようとした。絵梨花先生と戦いたかったのは事実ですが…こんな力はいらなかった。最期なんだから僕だけの力で……そうも思っていましたが、どうやらそれも間違いだったようです」


「何を…」


「迎えが来ます。僕の体はもう動かない、口以外は」


英二郎は空を見つめている。雲が避け、光を放つ。


「僕は無にすら行けず、消滅します。そういう約束なので。宗太郎がどんな約束をしたのかまでは分かりませんが、それ相応の対価を払ってここまでやって来たはずです……

何だか不思議ですね。断言出来る、今が一番、スッキリしている。心が澄んでいる」


「あぁ。そうだな。眼を見れば分かる」


「どうやら僕は最初から(マモリビト)の遊び道具だったようです。僕のキラータイプの念能力は取られ、流のインストキラーと合併された。

本当に最初から全てを知られていたかのようです……いやまぁ知っていたんでしょうけど……」


「最期の言葉はあいつらに伝えておいてやる。だから言えよ、もう限界だろ」


「そうですね……では「ありがとうございました」とでも言っておいてください……それと、魂だけは、死なないでくださいね」


「分かってるさ……もうこれ以上無理して喋らなくても良いぞ、ゆっくり眼を閉じるんだ」


言われた通りに眼を閉じ、心を安らかにする。それでも消えなかった、瞼の裏側にこびり付くような姿形。人なのだが人ではない。何故だがそれが分かってしまう神の風貌。逆光によってシルエットしか見えなかったが、恐らくは子供の時(あのとき)と同じ顔をしているのだろう。

そんな事を考えながら、途切れる様な意識の中で死にたくないと言う気持ちと共に、沈んで行った。


「絵梨花!!」


二人の元へ一人の剣士が走り寄る。


「ライトニング…もう死んじゃったよ」


「…そうか……これを全て英二郎がやったんだな……何と言えば良いのだろうか…」


「言葉はいらないだろ。英二郎は最終的に俺達TISに頼った。それが本位でなくとも、我々のやり方で終わらせてやるべきだ」


またしてもやって来た。素戔嗚だ。いつもなら二人共即行で攻撃していたがそんな気分でもない。何より言っている事が分かってしまうのだ。


「さよならだ、英二郎。お前も立派な剣士だった」


地面に横たわるエクスカリバーを手に取り、心臓へと突き刺した。それは簡易的な葬儀である。武具を作った智鷹の粋な計らい、いや自己満足なシステム。だがあって良かった、その場にいた五人はそう思った。


「すまなかった、私が不甲斐ないばかりに……許してくれとは言わないが、どうか見守っていてくれよ、英二郎」


ライトニング(サーニャ)の言葉と共に、英二郎とエクスカリバーは消えて行った。


「さぁ行くぞ、矢萩」


「ん」


仲間の死をみとった二人は火山の方へ向かって行った。だが残りの三人は誰も止める気は無かった、むしろこの場だけは感謝したいぐらいだった。


「灼か」


「…うん」


「お前なんだろ、ライトニングに伝えたの」


「……うん」


「ありがとな。多分、悔いは無かったと思うぞ。まぁ絶対とは言えないけどな」


「行くよ、僕は」


「あぁ。ちゃんと戻って来いよ」


「うん」


夜風を廻す朱雀と共に、灼は姿を消した。その場に残ったのは二人だけ。


「後腐れは嫌いだ。私達の仕事は終わった。どうする、ライトニング」


「少しだけ、ここにいるよ」


「そうか。なら私も、そうしよう」


二人が地面にへたり込み、静寂に包まれた。後悔は無いだろう、やりたかった事を全て果たせていたのだから。だが他にも手があったのではないかと考え込んでしまうのも現実。

目を逸らす訳にはいかない。だからと言って深く考え込んでもいけない。「おぶってやる」ぐらいの気持ちで行こう、それが一番気楽だと、知っているから。


「じゃあな、永遠にさよならだ。英二郎」



第三百四十三話「葬儀」

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