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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十一章「襲撃」
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第三百四十一話

御伽学園戦闘病

第三百四十一話「作戦変更」


完全に宗太郎は敵になってしまったのだと理解した兆波は力尽くで止める事にした。身体強化をフルパワーで発動し、戦闘体勢に入る。

だがスピードで言えば断然宗太郎の方が上であるためそんな行動を取っている間に一撃ぶち込まれた。すねに蹴り。とんでもなく痛いが身体強化のおかげで軽い傷が出来た程度だ。


「何?硬いな、妙に」


「そりゃあな、俺だって強くなってるんだよ。お前と同じ様に」


「そこは評価に値するな。だが結局は弱い、話にもならないほど。重要なのは防御や一撃の重さではなく、速度だ」


次の攻撃のためのポジションを確保するため、再度移動する。人間の限界を超えている速さである、ファスト辺りでなくては追いつけないだろう。

そんな速度で背後に回られると対応など出来るはずもなく、移動した事を知覚する前に背中を殴られた。衝撃、構えてなどいなかったし、肺から空気が押し出されたせいで酷く苦しい。

すぐに息を吸い、次の攻撃の対策を考える。恐らく反応速度で戦おうとしても無意味だ、別に宗太郎は背後にしか移動できないわけでも無いし、何なら鷹拝が付近で見守っている。

なので上手く誘導してぶつけるしかない、あいつらを。『阿吽』はしない、筒抜けの可能性だってあるからだ。


「遅いな、本当に」


今度は右手に移動して来た。それを視界の端で捉えると同時に拳がぶつかった。だがその部分に霊力を集中させる、兆波は身体強化使い故に霊使いに比べて手数が無い。なので技術でカバーしている。

瞬時の霊力操作ぐらい朝飯前だ。普通ならばそれである程度防御できるはずなのだが、全く威力が変わっていないように思えた。その原因にはすぐに辿り着く。

どうやら宗太郎は拳に霊力を一切籠めていないらしい。そのせいで霊力でのダメージ軽減が全く機能しないのだ。そうなると新技術を使うしかないやもしれない。


「仕方が無いな、使おう」


一旦距離を取る。宗太郎は構わず突っ込み、殴り掛かる。そのタイミングで兆波は霊力を全て右腕に集中させた。そして右腕だけでガードを行う。

わざわざその部位に攻撃する必要はないので軌道を変えて足にでも蹴りを入れようかと思ったが、兆波はその予備動作を見て一瞬で右腕を足の高さまで下ろした。

もう蹴りを繰り出しているので間に合わない。嫌々ながらも攻撃を行った、確かに感触はあった。音もした。だが完全なる無傷だ。


「何をした?ただの霊力操作じゃないだろ」


「まぁな。身体強化の仕組みを理解しただけさ」


この二年半兆波は崎田と共にある事を解明した。身体強化の仕組みである。発動帯を通った霊力を体を強くする性質を持つ、そしてその霊力は発動者の体を駆け巡る、降霊術や術などとは真反対で留まるのだ。そしてその霊力によって強化されているので全ての霊力を一点に集める事ができればとんでもない硬度を誇るのだ。ちなみにこの研究課程で発動帯が上半身にある事まで特定出来た。


「能力に関しては弱いんだよな…あいつらは僕らと違う力だったし」


「仮想世界の奴らか、まぁそうだろうな。俺ら能力者とはまた違う仕組みの力だ。経験を培ったとはいえ、そこまで考慮出来なかったか」


「いや?問題はない。別にどれだけ硬かったとしても一部に霊力を集めなくちゃいけないんだろ?その感じ。逆に言うと全身の防御にまで割く霊力を持ってないって事だ。行くぞ、鷹拝」


瓦礫に停まって待機していた鷹拝が羽を広げ飛び出した。とても単調で読みやすい、宗太郎は同じ様に近接戦を行い、鷹拝で全体を包み込むような攻撃をしたいのだろう。

そうすればダメージ量やその後の攻撃の関係から確実に一点防御を選ぶはずだ。その後宗太郎がどう繋げて来るかまでは不明だが、確実かつ強力な選択肢である事は事実。

だからと言って一点防御を選ばないというのもリスクが高すぎる。それに全体に防御を回したからと言って大したダメージじゃない可能性だってある。現在鷹拝の攻撃は一度も見ていない。なので威力が低い可能性だってあるはずだ。低かったらラッキー程度の気持ちで甘んじて受け入れる事に決めた。


「そう来る事諸々込みで、全部鷹拝に霊力渡してるんだよ」


殴り掛かった宗太郎がそう言った。まさかここまで先を見越していたのかと思うと同時に、鷹拝を呼び出して以降霊力放出も無いし消費する動きもしていなかった。だがそれはただ単に使う必要が無かったからだと思い込んでしまった。

パンチは問題なく防げた。だがその直後やって来た鷹拝の攻撃。妖術でもなんでもない、昔から使っている方法。ただ少しだけ進化していた。

クチバシの先端に物凄い量の霊力が籠められている。しかも今腕に集めている霊力全てを背中に回しても絶対に防御出来ないレベルだ。

刹那、死を悟る。こんな攻撃避け切れるはずがない、当たり前の思考である。


「死んでくれ、兆波先生」


だが鳴り響いたのは生々しい貫通音などでなく、銃声であった。遠くからの狙撃、非常に大きい銃声だったので誰もがそこにいる事に気付く。

島の中央、火山の辺りだ。そこにはシウを向かわせていたのだが、遠目から見える程目立っている霊力と容姿。明らかに片腕が銃である。

鷹拝は綺麗に狙撃された。死んだ訳では無いが、攻撃は外してしまっている。


「なんだ?あいつ。学園の奴じゃ無いと思うが…」


「邪魔だ兆波!!」


その声が聞こえた瞬間兆波は地面を踏んで大きく跳んだ。その行動は大正解だ。何故なら一人の剣士が宗太郎へ斬りかかっている。


「あぶなっ」


軽くかわされてしまったものの、ローブを少し斬る事が出来た。今までろくなダメージを与えられていなかったが、ようやくだ。完全に不意打ちではあるがそれでも良い。まずは一撃。

そこに立っているのは長い紫の髪を夜風に任せながら、妖刀・村正を手にしている男。宗太郎は静かに激怒した。この男がいなければ、友はあそこまで拗れなかった、壊れなかったのだと。


「今更何をしに来たんだよ、素戔嗚」


「仮想世界の住人と戦ったお前の戦力を調べるためだ。学園の状況などどうでも良い」


「そうか。知ってるか、今のニア」


「知っている。少し前にアリスと戦っているのを見た」


「ニアはお前がいなければあんな事にならなかったと、理解してるのか?」


「している、つもりだ」


「なんだよつもりって」


「人の人生を曲げたと自覚できるほどの責任を持っていないと言う事だ」


「そうか、鷹拝、やる…」


だが次の瞬間、宗太郎の頭骨を弾丸が貫いた。その瞬間に英二郎は火山の方へ猛スピードで移動を始める。一方撃たれた宗太郎は頭から血を流しているが、当たり前のように立っている。

既に人間ではないのだろうか。力は底知れない。兆波は退散済みなので存分に暴れる事が出来る。氣鎖酒や逆一で準備する必要も無い。


『呪・自身像』


「一撃離脱で頼むぞ」


「分かっておるわ」


現れたのは天仁 凱によく似た別の何か。だが使える呪も同じ、いやむしろ多いかもしれない。


『呪・斬壇堂』


「は?」


それは美琴の呪のはずだ。後世に生まれた呪使いであるはずの美琴の術を、天仁 凱なんかが使えて良いはずがない。だが宗太郎は飛んで来る何本もの刃を全て受け止めた。弾く事も無く、折る事も無く。ただ体の肉で受けたのだ。

何の意味があるのか分からない行動だったが、消耗も激しい自身像なので一旦消えてもらう。そして血だらけになった宗太郎に向って再度発砲。狙撃は決まり、またもや頭蓋を射貫いた。

だがやはりと言うべきか何の痛みも無いように見える。


「本当に人間を捨てたのだな、お前は」


「それが何だよ。俺の目的にはそれが必須だったってだけだ。お前に心配される程寿命縮めたりしてない」


「いや違う。俺が心配しているのは寿命なんかではなく、心だ。こう言っては何だが佐須魔様は神となられてから変わった。だからお前も同じ様に変わっているのではないか…と思ったが既に変わっているな。異常なまでに」


「そうかよ。それは結構な事だ。変化は必然で必要な事だ」


「もう本当にダメなんだな」


刀を構え、斬りかかろうとする。だが宗太郎の方が一歩速く踏み込んだ。速度で言えば宗太郎が圧勝、完全に遅れを取った。背後など取らない、正面からの全力パンチ。恐らく心臓に向かっている。普通に心臓を貫かれてもおかしくない、何としてでも防御しなくてはいけない。だが間に合わない。

ほんの一瞬のはずなのに背筋が凍った。そして突き出した拳。本来なら素戔嗚の命を断っていたはずだ。だが違う、止められた。ひっそりと優衣の身体強化蝶を全て盗み喰っていた。そいつが止めたのだ、宗太郎の拳を。

そちらを向くと果てしない怒りと共にとめどない殺気が溢れ出ている。


「お前か、腕を落としたのは」


怒るのも当然、昔ながらの仲間の腕を落とされたのだ。フレデリックは既に兵助の元まで辿り着き、兵助とタルベの治療を受けた。だがそれでも腕は治らなかった。

やられた。自身が動くのが遅かったせいでもあるが、一番悪いのはこいつらだ。


「透!いけるのか!?」


草葉の陰から見守っていた要石が顔を出し訊ねた。返答は無い。それが答えだ。要石は生徒会の奴らを出来るだけ抱えてその場を離れる。それを少し遠くから見ていた兆波も残りの生徒会メンバーを連れて即離脱した。


「俺じゃない、英二郎だ」


「そうか。残念だ。連帯責任でお前を殺す」


『潜蟲 息蝕 五百』


物凄い数の潜蟲である。それが一斉に宗太郎に寄生し、息を蝕んでいく。だが問題はない、誰も気付いていなかったが最初から宗太郎は呼吸をしていない。

透は寄生させてから気付いたが、一応そのままにしておく。一時的に呼吸をしていないだけかもしれない。だがそれでも人間が出来る事では無い。相手は怪物だと踏まえた上で戦闘をするべきである、それにフレデリックでさえ腕を持って行かれる程の力を持っている。


『潜蟲 神経蝕 七百』


止まらない投入。今回は容赦しない。宗太郎がどんな人物かは知らないが、生徒会と同期で相当な実力者だった事も知っている。だからこそ手加減などしてられないのだ。

宗太郎はそれが寄生してきて蝕んで来る事を理解する。そして防ぎようがない必中攻撃だとも知って少し怖れた。人を捨ててはいるが弱点はある。そこを見抜かれて対応された時点で負けるだろう。

なので速攻で決める。相手がもう、何も出来ないように。


「鷹拝!」


再度突っ込ませる。兆波と同じ様に選択肢を提示させるが実質的に一つしかないだろう。宗太郎を対策するしかない、鷹拝を防いだ時点で死だ。だからといって宗太郎を防いだから生き残れるわけでも無いが。

ただ何故これが決まらなかったのか。それは狙撃のせいだ。


「邪魔すんなよ、バカが」


直後、鷹拝が狙撃される。


「うっざいな!!」


弾が飛んできている方を向いた。すると英二郎が何者かに突撃されながら物凄い勢いで近付いて来ている。


「はぁ!?」


よく見るとそれは干支猪だった。山の方を見ると狙撃手の他に二人の能力者がいる。白髪の青年と茶髪の少年だ。どちらかの霊なのだろうが、本当に凄い勢いだ。英二郎が抵抗できずに腹部を押されている。

そこで遂に堪忍袋の緒が切れる。


「作戦変更だ英二郎!!破壊するぞ!!」


それに応えるようにして叫ぶ。


『エクスカリバー』


島全体を包み込んだ連撃。それは当然、寮も範囲内だ。ほとんどの住民は逃げ、戸惑っているがそんな時でも部屋の中に籠っている奴もいる。巻き込まれて死ぬ、このままでは。



その攻撃の少し前の事。TIS本拠地内、いや最早外だろう。真っ暗な下の世界、一人の男の足音だけが響いていた。そして二人の能力者の前に立つ、まだ生きているし、息はある。だが誰かが霊力を流さなくてはずっと気絶したままだろう。ここはそう言う場所だ。


「起きろよ拳。借り返しに来たぜ。死んじまうぞ、このままじゃ」



第三百四十一話「作戦変更」

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