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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十一章「襲撃」
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第三百三十九話

御伽学園戦闘病

第三百三十九話「作戦遂行」


「戦闘病…?」


そいつはフレデリックの詳細を知らない。突然変異体(アーツ・ガイル)の一員ぐらいとしか認識していないのだ。だが実際はそんな甘っちょろい人物ではない。

数十年前の戦闘病伝染によるパンデミック、暴徒が沸き能力者無能力者見境なく殺される事も少なくなった。だがそんな世界で仲間と力を合わせ生き残った精鋭なのだ。それがサポート系の能力であろうと扱いは理解出来ているのだろう。


「行きますよ」


動く。やはりテレポートだ。今度はフレデリックが先に動く形になっているが、そうなればほぼ確実に背中を取って来るはずだ。恐らく反射神経だけでは間に合わない、少し賭けにはなるが外れる事は無いだろう。そう思いながら回し蹴りを行った。

だが回転する直前、視界の隅にフレデリックが現れた。完全に読まれているようだ。ただ今更軌道を変える事は出来ないので甘んじて受け入れる。

物凄い衝撃の後校舎に衝突した。元々ボロボロになっている中等部棟だが更に破壊が進んでいく。いつ崩れ落ちてもおかしくない、そんな状態である。


「強いな、あいつらとは別のベクトルで」


何処でどう判断したのかまでは不明だが、些細な変化を感じ取り正面に移動する事を選んだ事は事実。ギャンブルをしたと決めつけるのならそれまでだが、結局の所そんな思考をしても利点は無い。出来る限り最悪のケースを考え、対策する。そうした方が勝率は上がると双子鬼との訓練で知った。活かさない理由は存在しない。

ならば何故思考が読まれたのだろうか、重点を置いて考えてみると案外簡単だった。先程の動きだ。現在フレデリック側の情報は身体能力が高い、背後への移動を読んで回し蹴りをする精神力と反射神経、この程度しか要素が無かったはずだ。なのでここを加味して動くのなら背後へ移動してくるだろうと言う事を予測し、何らかの反撃を行って来ると読んでも何らおかしくない。

ただ少し意外である。情報が少ない状況でその情報に頼るというのは半ばギャンブルだ。もう少し堅実に攻めて癖を大体露呈させてからでも遅くはないはずだ。


「…いや、お前俺に勝つ気は無いな?」


「どうでしょう。もしかしたらこの話している時間も作戦の内かもしれませんよ」


そうだとしても攻撃する必要はない。余裕はある、戦闘病はそこまで長時間使えないので何処かで離脱が必要になる。能力的に見て誰かを連れて来れるはずだ、フレデリックの周囲にあった霊力も同時に移動していた。

だがそうしない理由は後ろで焦りながら回復をしようとしている生徒会二人のためなのだろう。現在もう一人が攻撃してこないという絶好に機会だ。それは攻撃に徹する場合でも、護衛に徹する場合でも。


「なんだよ、別に俺と本気でやり合おうって訳じゃないのかよ。じゃあどうでもいいや…おい!やれ!!」


「了解」


浮遊している方に指示を出した。すると聖剣を掲げる。それが校舎を破壊した攻撃だと察したフレデリックは瞬時に二人を回収し撤退しようと思った。結果として敵二人を自由にしてしまう事にはなるが、誰かが死ぬより百倍マシだ。

転移を多用し二人を回収、すぐにエスケープの基地辺りに飛んだ。既に兵助は動いているのか見当たらない。できれば回復して欲しいのだが、いないのならしようがない。


「私がいなくても大丈夫ですか、お二人共」


「だいじょぶ。もういける」


「私も大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」


「いえ。ですがもう少し休憩しましょう。私は行きますが、この周囲で待っているのですよ」


二人を置いて再度学園に戻ろうとしたその時、三人のすぐ側、いや三人が立っている場所へ閃光の様に光る斬撃が繰り出される。それに気付いたフレデリックが二人を掴んで転移しようとしたが間に合わない。すぐに二人を突き放した。

目を開けられない程の光だ。だが顔を上げるとそこは地獄となっていた。エスケープの基地はギリギリ壊れていないが、地割れのように真っ二つに裂けた地表にフレデリックは立っていた。

左腕からは切断され、血を流している。


「何という…速度」


「大丈夫ですか!?」


ファルが間に入ろうとしたがすぐに命令する。


「逃げなさい!!私の傍にいるんじゃない!!」


それでも助けに入ろうとするファルをベロニカは抱え、逃げ出した。


「ちょっと放してよ!!」


「…」


ベロニカは無言だ。顔を見ると真っ青だった。あの光が何なのか、ベロニカは知っている。絶対に勝てない、勝てっこない。逃げるしかないんだ、今は。二人ではどうにもならない、他の者が助けてくれる事をただ願う事しか出来ないんだ。

一方フレデリックは息を整え、止血を行った。飛んで来た光は霊力で出来ていて、物凄く細かかった。例えるならば両盡耿だ。もしかしたら左腕はもう治らないかもしれないが、それでも今を凌ぐ事は重要だ。


「なんでこんな面倒な事になってるの?しかもあなた…確か突然変異体(アーツ・ガイル)の人でしょ、学園に付いたの?」


知らぬ声。女だ。すぐに顔を上げる、敵だったら非常にまずい。だが敵対心は無いように見える。だが少し特殊なマフラーと武具であろう刀を身に付けている。何なら狐の面も所持している。

警戒しながら返答した。


「私にも分からない。ほんの少し前爆音がしてこの有様だ。二人だが、両者浮遊が出来る。片方は交戦的で身体能力が非常に高く、戦闘慣れもしているようにうかがえる。片方は指示されたらこんな斬撃を繰り出して来た。あの剣は私も知っている、武具の[聖剣 エクスカリバ]だろう」


それを聞いた女はすぐに動き出した。誰なのか問おうとしたがその時には既にいなくなっていた。物凄い身体能力だ。そう惚れ惚れしていると知っている声が聞こえた。


「大丈夫ですか!!」


兆波だ。どうやら指示を聞いて学園に向っている最中らしい。ここまで時間が稼げればフレデリックの仕事は終わりだろう。ひとまず端的に何があったのかと伝え、見送った。

フレデリック自信は兵助とタルベの元で負傷者を運ぶ仕事する事に決め、二人を探す事とした。

そして学園にはまた一人到着していた。


「来てやったぞ!!悪者!!」


桃季だ。


『降霊術・神話霊・干支辰』


現れた干支辰はいつにもましてどす黒い霊力を放っている。襲撃者二人はその気持ち悪い霊力に少々嫌気が差し、本気で殺したくなるレベルである。


「やれ、俺じゃ時間がかかる」


「はいはい」


再度剣を掲げる。だが桃季は怯まず、というよりもそれが光の斬撃だと言う事に気付かず突っ込んでいく。あまりに無謀なので何か作戦があるのだろうと感じ、一回剣を降ろして後ろに下がった。良い判断だ。

まだ両者の目標は到着していない。それまでは全力でやりながらも体力の消費は避けるべきなのだ。


「いけいけ!!!」


だがその言動と指示の雑さ加減から適当に動いているのだけだと瞬時に理解し、攻撃に移る。そう簡単に攻撃を受ける気は無い。剣を掲げ、叫ぶ。


『エクスカリバー』


すると光の斬撃が飛び出した。ただ思っている以上に遅いようで、干支辰からしてみれば変な妨害をされない限り当たる可能性は無い。とりあえず避けて突っ込む。それを繰り返していれば何処かで隙が生じ、大チャンスが生まれるはずだ。

干支辰はいつも同じやり方だが、その単調さ故に対策の手を打たれやすい。桃季と干支辰はまだ知らない、既に対策が用意されている事に。ただまだ使用しない。ここぞという時に使うのが切り札である。

だがそれは、固定観念でしかない。


「よっしゃ行くぞー!!」


すると干支辰が空中でとぐろを巻くようにして動き出す。明らかに何らかの術を発動しようとしている。


『エクスカリバー』


斬撃は剣の側面、普通の剣なら刀身がある場所から出現している。なので剣の方向を変えると飛んで行く方向も変化する。それをしっかりと推測し、サポートに回る者がいた。

剣は飛んで来た石によって弾かれ、方向を変える。全くの別方向へ斬撃は飛んで行った。すぐに下を向くとそこには要石が立っていた。どうやら一定の速度がある石を生成したらしい。

そして石によって妨害が妨害され、干支辰の術が発動してしまう。


雲中白鶴(うんちゅうはっかく)


最初の斬撃とほぼ同等の爆音。それは干支辰の咆哮だった。正に龍、胸が躍る程の精強さである。だがそれに反するようにして襲撃者二人は焦っていた。聞いた事の無い術、そして異常な霊力放出。避けられるかも分からない、島全体を包み込んだ自爆攻撃かもしれない。

ただそんな絡め絡まれる思考を捨て、叫んだ。


『エクスカリバー』


今までの斬撃とは一味違う。一撃一撃が重いわけではなく、まるで連続斬りのような斬撃だ。だがその軽い一撃も普通の能力者によっては致命傷に成り得る。

ただ目的は殺害ではない。分断である。島全域、住宅街なども全てを含めて斬る。住民をも守らなくてはいけない学園側の人間はその時点で行動に焦りと後悔が発生し、有利に事を運びやすくなる。

これは最後の方で心を揺さぶるために温存しておくべきだったが、仕方が無いと割り切るべきだ。実際島全域に能力者が分布したのが感じ取れる。

だがそれだけでは術を防ぐ事は出来ないだろう。それでいい、防ぐのはもう一人の方だ。


「来い!鷹拝(ヨウハイ)!!」


目撃させてはいけない、こんな序盤で。出て来た鷹は二人を掴み、大きく空に飛び立った。その間一秒未満、術を避けるには充分過ぎる時間だった。

そして数秒後、少し前まで自分達がいた場所が攻撃性の霊力に包まれている光景を微かに捉えた。その霊力は凄まじい、両盡耿などを優に超えている。当たったら即死だろう。

ただ空を飛んだことによって、不都合も生じた。


「何を…してるの…」


聞いた事のある声。そちらを向くとそこには朱雀に乗った灼の姿があった。あまり成長していないようにも見えるが、能力面では大幅に強化されたのが見て取れる。

だが重要なのはそこではない。問われたのなら仕方が無い、ここならば誰にも見られないだろう。そう思ってエクスカリバーを持っている方がフードを外した。

綺麗な赤髪、それに相反するように黒く濁った紫の瞳。

灼は当然知っていた。


「悪いね、灼。僕はもう君達の味方ではないんだ」


「英二郎…お前…」


木ノ傘 英二郎。御伽学園高等部二年生として立派に死んだはずの青年である。だが確かに眼に映っている、英二郎だ。死んだはずだった。いなくなったはずだった。

折角の再開だ。なのに、何故、こんなにも空気がよどむのか。それは英二郎が灼にゴミを見る様な眼差しを向けていたからだった。気付かなかった、英二郎はとっくに侵されていたのだ。


『エクスカリバー』



第三百三十九話「作戦遂行」

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