第三十四話
御伽学園戦闘病
第三十四話「start」
[ラック&礁蔽]
二人はダラダラと歩きながら会話をしていた。寝泊まりする場所は見つかったので任務をどう進めるか相談した。だがラックはメイン任務、ルーズの件は触れないで独断で三獄の事に触れるらしい。
ただ任務に関係ない事をやるのは御法度である。
「そんなこと言ってる場合じゃない、この街に三獄が潜伏していたらどうするんだ。俺らどころか住民が全滅しかねない。対時した事のあるお前なら分かるだろ?」
「そりゃそうやけど…調査するって言ったってどうやって調査するんだ」
「いるじゃないか今同じ内容を調査してる奴らが」
「大丈夫なんか?本来の目的と関係ない事をやったら報告されないか?」
二人が言っているのは生徒会の四人の事だ。ただ四人はあくまで生徒会、学園のルールには従わなくてはいけない存在。そんな奴らに堂々と御法度を見せつけるだけではなく協力を仰ぐのは結構リスキーな行為である。本当に酷かった場合チームが解体される事だってあり得なくはない。
ただ今はそんな事を言っている場合では無いのは礁蔽も重々承知している。致し方なく須野昌達を探しに行こうとしたその時声をかけられる。
「おい」
「うわ!なんや!」
礁蔽の背後に突然須野昌が現れた。
「急に悪いな」
「いやこっちも探していたところだ」
「どーせ任務外の事やろうとしてたんだろ」
「何か悪いか?」
「まぁ規約違反だからな。だが今回だけは協力してもらう」
須野昌は不良寄りの生徒とはいえ生徒会だ。何故規則を破ってまで力を貸して欲しいと言ったのか不明だ。礁蔽が訊ねると須野昌は説明を始めた。
「本日午前九時、工場地帯中央部にて途轍もない霊力反応有り。と蒼から連絡があった」
「蒼の霊力指数は」
「最高記録は180/500低くても100とかだったはずだ」
「だいぶ高い方だな…その蒼が途轍も無い力か…ほぼ三獄と見て間違い無いだろう。違かったとしてもなんらかの対応をしなくてはいけないのは確実だ。対象の正体を確認、その後撃破又は捕獲するぞ」
「霊力指数ってなんや?」
「俺が開発した機器の一個で測れる霊力の値だな。500が最大だ」
「わいはどれぐらいなんや?降霊術士でもない蒼が180ならわいはもっと…」
「20ぐらいだ」
驚愕する。いくらなんでも低すぎないか、そもそも測っていないのだから言い切れないだろうと何とか事実から目を逸らそうとする。だがラックは淡々と返答していく。
「まず俺らには生まれつき霊力指数がある。訓練を積めば指数は上がるが逆に言うと鍛えなければ上げる事はできない、蒼もお前も特段鍛えてはいないだろう?だから蒼が異常に高いのは九割が才能だ」
がっかりする。結局は才能なのかと。そんな礁蔽に追い打ちをかけるように須野昌は自分の霊力指数が160だと言い放った、礁蔽は須野昌の数値に関心は行かず蒼が何故そんなに高いのか、と言う疑問に行き着いた。するとラックが返答する。
「そりゃなんども黄泉の国に逝きかけてるからだろ」
「へ?」
「あいつは何度も自殺しようとしてるからな」
「はえ〜そんなんでも変わるもんなんやな」
「まぁこんな話はいい。どうするんだ?どうやって探す」
「今日の霊力反応が自ら放ったものか手違いで放ったものかによって変わる」
「どっちか分かっているのか」
「それが分からない。自ら放ったものだったらまだ中央部にいるだろし手違いだったらもう移動しているかもしれない。まずここを一緒に考えて欲しい」
二人共そこは分からないと答えた。馬鹿を見るような目で見てくる須野昌に弁明では無いが寸前まで寝ていた事を伝えた。すると呆れた様に溜息を吐きどうするか悩む。
すると礁蔽が一つの案を出した。
「じゃあわざとじゃないっちゅー期待も込めて手違いで放ったって考えようや」
「そうだな…自ら放ったなんて知ったら戦う気満載で俺ら絶望だもんな」
「じゃあ手違い霊力は放った、て言うことにする…っとそういや蒼はどこだ」
蒼は現在中心部で霊力の原因を突き止めているらしい。ラックはすぐに合流しようと言って移動を促す。二人とも納得した。
須野昌は宙に浮く。ラックも能力を発動し工場の屋根に登った。ただ礁蔽は移動する手段がなくあたふたしている。それを見た須野昌が礁蔽の元まで降りてきた。
「なんだ?能力使って移動しないのか?」
「この街扉がなさすぎて使いようがないねん」
「あーじゃあこいつに掴まってろ」
すると須野昌の背後には何もなかったところから目が出てきた。礁蔽はフェアツがいるのかと思い声をかけるが一向に返事は無い、すると須野昌が自分の霊だと言った。須野昌はバックラーなので相棒の人型の霊が憑いているのだ。そしてその霊の能力が『透明感』なので今まで透明化していただけと言うわけだ。
礁蔽が須野昌の持ち霊にしがみついた瞬間須野昌と礁蔽は宙を舞った。礁蔽は叫び、喚く。二分ほどその状態が続きラックはフィジカルで二人を追っていた。街の中央部で歩いている蒼を見つけた須野昌は霊を急降下させる。それに気づいたラックも蒼を視界に捉えそこへと向かう。
蒼の目の前に着地した須野昌は「連れてきたぞ」と一言だけ言う。蒼は急な出現に驚き、悲鳴をあげ尻もちをついた。
「大丈夫か…?」
「あ…あ…あぁ…だいじょ…ぶ」
礁蔽が手を差し伸べ蒼はその手を掴んで立ち上がった。
「え…えと…確か一年の[菅凪 礁蔽]くん…だっけ…?」
「そうやで!よろしゅう」
ラックが礁蔽に耳打ちをした。
「あんまり蒼を舐めるなよ?今日のコンディションによるがめちゃくちゃ強いからな」
「え…!?僕の悪口…!?」
「あー違いますよ蒼先輩。ただ俺らのチームのメンバーから連絡が来たのでそれを伝えただけですよ」
連絡が来た、なんてのは嘘で蒼はすぐに自責行為に至るのでラックは誤魔化したのである。
そんな話をしていると須野昌が進展はあったのか訊ねる。すると蒼はたじたじながらこの街の中央部分の地下に物凄い霊力を感じたと報告した。ラックはその霊力の強さが学園にいる人で表せるか聞く。
「大体…あの…数学の…[幸徹 恵梨香]先生…ぐらい…」
「は!?」
「恵梨香嬢の霊力指数ってどんぐらいなんや?」
「その嬢ってつけるの嫌ってたからやめた方がいいぞ。その話は置いといて…霊力指数は最低値60…最高値465…」
「絵梨花嬢は振れ幅がすごいから特定できないよな…流石に本気状態じゃないとは思うが…どれぐらいの状態の時の絵梨花嬢だ?」
「え…あ…大体…ほぼ本気?…ぐらい…です…」
その言葉を聞いたラックはすぐに時間を確認する。十六時を過ぎた辺りだ。礁蔽に「ニアと素戔嗚に今日は帰れないと連絡しておけ」と言ってすぐに考え込む。
礁蔽はスマホで今日は帰れない旨を連絡した。だがいつまで経っても既読はつくことがなかった、それはそうだろう。十六時過ぎ、それはあの時、素戔嗚が正体を表した時だからだ。
「まじか…こりゃガチでヤベェな」
「今すぐにでも行かなきゃいけない。蒼先輩、どうにかしてその反応があった場所までいけませんか?」
「あ…あ…いけなくは…ないけど…」
「行きましょう!連れてってください!」
「あ…うん…分かりました…」
四人に休む暇など無い。蒼が先導して小走りで目的地へと向かい始める。西側に十分程走った、蒼が急に立ち止まる。そして現在地が霊力反応があった場所だと伝える。
確かにより一層嫌な雰囲気が漂っていてその周辺だけ霊力が強い。
「へ?別に何も感じないで?」
「多分霊力関係のものだろう。礁蔽は霊力が弱いから感じることができないんだろうが俺と須野昌と蒼先輩は霊力結構高いからな…で蒼先輩どこから行くんですか?」
「こ…ここです…」
そう言って真下を指差した。そこには何の変哲もないマンホールしかない。まさか下水道に入るのかと詰め寄る須野昌に「そのまさか…です」と答えた。
須野昌はマンホールを開け舌打ちをしてから下水道へと入っていった。それに続いてラック、蒼、礁蔽と次々下水道へと入っていった。
下水道は薄暗くチョロチョロと水が流れている。ただそんな事が脳に伝わらない程強烈な異臭がする。それは下水の匂いではなく明らかに何かが腐敗している匂いだ。
「おえ!くっさ!」
「臭いと異様な圧のある霊力で…嫌な空間だな」
「俺らの中で一番霊力が高いのは蒼だから何とかして根源を突き止めてくれ」
「う…うん」
蒼は感覚を研ぎ澄ましながらゆっくりと水温と足音が反響する下水道を歩いていた。礁蔽を除き皆異様な霊力と臭いが合わさっている空間に置かれている事で気分が悪かった。約五分間ダラダラと歩き続ける、立ち止まった。
「た…多分…こ、こ…ここです…」
先程の場所より酷い。ただこの周辺に何かあるのは確実だ。何かないかと見渡していると何故か壁に鉄扉がある事に気付いた。
そして須野昌がドアノブに触れようとしたが蒼が引き留めた。
「き…き…気をつけて!そこ…から…霊力…が…」
「まじか!」
鉄扉から遠ざかる。ラックは流石に酷い空気のせいか顔色が悪く体調が悪そうのただ須野昌達を見ているだけだった。ただ礁蔽だけは超楽そうで扉を開けてやろうなどと言ってふんぞり返っている。
須野昌がさっさと開けろと言うと少し不満そうにネックレスの鍵を手に取り鉄扉の鍵に差し込もうとした。だがその時黙っていたラックが呟く。
「中に何があるか分からない。俺らも身構えて待っていなくちゃならないし礁蔽も気をつけろよ。ホントに」
「へいへい。じゃ開けるで」
鍵穴と明らかに形が違うがそんな事はお構いなしに礁蔽の鍵は鍵穴へと侵入し、ロックを解除した。そのまま重いドアの音を立てながら開く。ドアが開かれた瞬間その場の空気中の霊力は八割を占めた。そう、部屋の中は酷く異様な霊力が蔓延していたのだ。鉄扉は謎の仕掛けで霊力を遮断していた、だがその封印とも呼べる鉄扉を開けてしまった。
流石の礁蔽もこの霊力がマズイものだと察する。だが今更引く事はできないので自分だけ部屋に飛び込んですぐさま鉄扉を閉めた。
「なんだよ…あの霊力」
礁蔽が部屋に入った事さえも気付いていない蒼と須野昌を置いてラックは礁蔽に声をかける。礁蔽は全然大丈夫そうだ、一方蒼は少しだけ涙を流し嗚咽をもらしながらも頑張って話す。
「うぅ…気持ち悪い…あと…なんか感じた事がある…霊力だ…」
「何!?蒼先輩!知ってるんですか!?」
「ごめん…気持ち悪…」
我慢出来なくなり下水道に向かって盛大に吐瀉物をぶちまけた。須野昌も結構限界の様で蒼に構っていられない。そんな地獄みたいな空気の中礁蔽の声が響き渡る。
「おーい!ラック!部屋になんかあるぞ!」
「ほんとか?どういう状況か教えろ!」
「部屋の中央に小さいテーブルとそれに乗ってる木箱しかないぞ!」
「木箱…?もしや…おい!礁蔽!その木箱を持ってこい!」
「へいへい」
返答をした数秒後には扉が開いた。すると須野昌も耐えきれず吐いてしまった。ラックはかろうじて耐えているがそれが何かを確信する。そして今この街にどんな厄災が降り掛かろうとしているかを瞬時に理解した。
「なんでだ…それは…八懐…」
「…!今すぐ!セン公達に…」
それは一瞬の事だった。下水道内の空気中の霊力は八割から九割半を占めた。全員まともに呼吸が出来なくなり会話をやめざるおえなかった。須野昌とラックは原因を突き止めるため周囲を見渡す、一瞬で分かった。分からないはずがなかった。須野昌のすぐ横、中身を完全に吐き切ったが未だ嗚咽が止まらない蒼の背中を優しく撫でている人物がいた。
「無理もない。八懐を目にして吐かない方がおかしい。私には君達ぐらいの子供がいる、同じ年代の子を持つ親としてはあまり無茶させたくなかったにだがバレてしまった…辛い思いをさせてしまったな。礁蔽君?だったかな、返したまえ私の『コトリバコ』を」
その人物は礁蔽に向かって手を突き出した。それは「返せ」と言わんばかりの仕草だ。礁蔽が抵抗しようとするがラックがすぐに返す様強い口調で言った。その態度に違和感を覚えた礁蔽は何処かから襲ってくる恐怖に苛まれすぐに木箱を投げ渡した。
「いい子だ。だがすまないな、これを見られた以上記憶を消さなくてはいけない。今から佐須魔を呼ぶ、すぐに来るだろう。辛いだろうが待っていてくれ」
男が何か魔法陣のような物を壁に描いている。描き終わりそれに手を翳そうとした瞬間、動いた。動いたのだ、ここにいる仲間を守るため。いや、それ以上に再び起こってしまうかもしれない、あの地獄が。そう思うと自然に体が動いたのだ。
力強い拳が男を襲った。男は軽々と避ける、その拳は空気を切り裂きながら壁にヒビを入れ魔法陣をかき消した。
「安定したか。まぁいい、抵抗するなら片付けてから佐須魔に連絡するまでだ」
殴ったのはラックでも須野昌でもない、吐いてまともに動けなかった蒼だった。その顔はまるで別人で戦うことしか考えていない、まるで獣のようだ。
「ダメだ。もうお前らには好き勝手させない。あんな地獄もう懲り懲りだ」
蒼は本能的に動いたのだ。
すると動けないラックが頑張って息を吸い、その少ない息で言葉を零す。
「そもそも何でいるんだよ…死んだはずじゃなかったのか…」
「それは君たちが知る事ではない…そうだ流は来ていないのか」
「いねぇよクソ野郎」
「口には気をつけた方がいいぞ。口が悪いと印象は良くならない、元々君は好かれなくてはいけない役者だろう[ラック・ツルユ]」
「んな事どうでもいいんだよ!![翔馬 來花]!」
金髪白メッシュ、黒眼鏡に和服。礁蔽と蒼は対峙したことがある、それは正に地獄と言うべき時に、だ。その地獄が何か、一つさ。約四年前、能力者同士の頂点を決める大会、いや殺し合い。そこでこの男と戦った。その男は何チームに属していただろう、答えは簡単TISだ。
しかも上でもない、なら重要幹部か?いいや違う、TISを支える三人衆『三獄』の一人
『<呪いの王>[翔馬 來花]』
第三十四話「start」
2023 9/25 改変
2023 9/25 台詞名前消去




