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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十一章「襲撃」
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第三百三十六話

御伽学園戦闘病

第三百三十六話「偏差2」


嶺緒を回収し撤退してから二ヶ月、決戦まであと三ヶ月となった学園の空気はピリついていた。教師陣は相変わらず無茶な仕事をしながらも衰えた力を取り戻す為訓練に励んでいる。

未だ理事長と拳の所在は分からないがTISに変化があった。ここ最近全く事件を起こしていなかったが、急激に目撃が増えた。だが何かをしている訳でも無いので取締課は動けず、学園側の能力者もむやみやたらと派遣など出来ないので手つかずだ。

そして突然変異体(アーツ・ガイル)は嶺緒と共に学園で一時的に生活をしている。元々家を紹介するつもりだったが理事長がいなくなってしまいそんな状況では無いと理解しワガママは言わない。


「ちょっと散歩でもしてくるわ」


透は散歩という名目である人物に会いに行った。エスケープ基地内、兵助だ。現在能力者をまとめているのは実質的に教師となり、その中でもより一層統率力が高いのは兵助なのだ。

ただやはり信頼は理事長には及ばず疲労が溜まっている。そのせいか最近中々干支組や突然変異体(アーツ・ガイル)の方まで顔を出せていない。流石に心配なので様子を見に行く事にしたのだ。

時刻は二十一時丁度、そろそろ帰って居る頃だろう。


「あ、透」


話しかけて来たのは蒼だ。


「何だ、こんな夜に」


「ちょっと皆に伝えてほしい事があるんだ」


「何だ?いつ言えばいい?」


「明日の朝にでもよろしく。一旦任せるよ、って」


「どっか行くのか?」


「行く。黄泉の国にちょっと会話したい奴がいるんだ。安心してくれ、僕はエンマのお気に入りさ、いつでも歓迎してくれるだろう」


「まぁそこは良いんだけどよ、帰って来れるか?一ヶ月だぜ、あっちだと」


「大丈夫。何処にいるのかは大体予想がつくから……一番の心配はファルとか虎子だね…ちゃんと仕事してくれるか…」


「まぁそこは俺とかフレデリックにまで任せてくれ。とりあえず力付けに行くなら一応これ持ってけ」


そう言って頭に触れ能力を発動した。


「携行蟲だ。宿主の任意のタイミングで記憶を消せる、万が一TISが黄泉の国に来ていてやばそうだったら発動しろ。帰ってきたら取ってやる」


「助かるよ!それじゃあちょっと、行って来るね」


「おう、気を付けろよー」


蒼は禁則地の方へと向かって行った。ひとまずその事を忘れないようフレデリックと佐伯、そして優樹の三人にのみ共有し基地へ向う。現在は九月の中盤、そろそろ夜は寒くなって来た。

歩き煙草をしながら歩いていると再度声をかけられる。


「こんな夜にどうしたんだい?透」


今度は兵助だ。


「いやお前に会いに来たんだよ。最近忙しそうで全く顔見てなかったからな」


「ごめんね…ほんと忙しくて…優衣にも同じ事言われたよ」


「まぁほどほどにしろよ、あんまり体制変えすぎても帰って来た奴らが困惑するからな」


「分かってるよ、それぐらい。維持が難しいのさ、維持が。理事長と結構仕事してたからなぁ…今は生徒会と分担してやってるけど正直厳しいよ」


「そうか。悪いが俺は手伝えないぞ、頭良くないし」


「そう?研究者じゃん」


「馬鹿か?能力の研究に知識は基本必要無い。そういう世界じゃ無いんだよ、勘と運、それさえあれば何とでもなるんだよ」


「そっか…それで、顔を出しに来ただけじゃないんだろ?」


「分かってんのかよ。基地行くぞ、地下の方」


「うん」


二人は基地前まで移動し、エレベーターに乗り込んだ。その後秘密の行動をして急襲作戦以来の特殊作戦室へ到着した。兵助はちゃんと掃除しているので綺麗なままだ。


「掃除してんのか?」


「うん。思い出だからね、四人の」


「…野暮な事聞くけどよ。ならなんで礁蔽に付いて行ったんだよ。あの時はまだ薫が生徒会長だっただろうが。大会には出ずとも、安全圏でどうにか…」


「恐らく僕はあの時から予兆があったんだと思う、戦闘病の。薫や紗里奈に出場させないって言われると凄いムカついて、意地でも出場したくなったのさ。

まぁそれよりも礁蔽と蒿里、素戔嗚が楽しそうだったからつい穴埋めとして参加しちゃったってのもあるけどね。まぁその結果一回死んだけど」


「コールドスリープか。ラックと伽耶しか出来ないんだよな、あれ。俺機械見たけどなーんも分からなかった」


「まぁラックは百年以上生きていたからね。格が違うんだよ、僕らとは」


「そうだな」


「それで結局目的は何だい?何を話したい?」


「前大会から決めていた。残り三ヶ月になったらその時のトップにこの事を伝えるって。突然変異体(アーツ・ガイル)の事だ」


「…良いのかい?そこ突っ込むと凄い嫌そうな顔したじゃないか」


「正直戦線に出るお前に教えたくは無いが、現状のトップはお前だ。黙って聞いてろ」


両者モニターの前の椅子に腰かけ同じ方向を見ながら突然変異体(アーツ・ガイル)に関しての話が始まった。


「発見した経緯は全部省く、クッソ面倒だからな。

まずは突然変異体(アーツ・ガイル)がどうやって生まれるかだ。まず突然変異体(アーツ・ガイル)は元々ただの能力者だ。だがあるタイミングで開花する可能性がある。

そのタイミングって言うのは"能力者の魂を取り込んだ時"だ。お前らが分かりやすい例で言えば蒼だな。あいつは莉子を取り込んだ後に能力の変化が生じた。ある一定の精神状態を保つ事により能力の安定化が可能になっただろ?あれも突然変異体(アーツ・ガイル)だ。

……いやすまん、少し間違っていた。正確には魂を取り込んだ時では無く、"魂が発動帯と同化した時"だ」


「…?」


「発動帯ってのは声帯に少し似ている。傷付けられたり半壊したりすると能力が変化したり弱くなったり、反体力が扱えるようになったりする。だがそれはあくまでも物理的に干渉された時だ。

俺は気になっていた、発動帯がどういう原理で能力を分けているのか、単純声帯と同じ様に霊力の振動か何かかとも思った。だが調べた結果また別の事だった。

発動帯にはそれぞれ能力が刻まれている。そこで判別するんだよ、何の能力なのか。

ここからが本題だ。発動帯には能力が刻まれると言った、だがその能力とは何なのか。それこそが死んだ際天に昇って行く"魂"なんだよ。

だから簡単に言えば魂は個人の判別の為の道具であり、何か神秘的な物でも能力の強化に関する事なんかでもない。ただ(マモリビト)が便利だから作り出した物だ。

そんで人を取り込む時は魂を喰うだろ。そうなると刻まれているはずの能力は元の人物から抜け出し、取り込んだ奴に譲渡される。それが基本的な形だ。ちなみに佐須魔や薫は別な、あれは能力で吸い取ってるだけだ。

普通はそうなる、それが普通だ。だが突然変異体(アーツ・ガイル)は違う、魂を取り込んでもそいつの能力は使えず一定の期間何の以異常も無い。

だが魂を取り込んで最低の場合は二ヶ月、最大は不明。その期間を過ごすと急激に夢などでその人物と対話する事がある。そしてそこで決まるんだ。何をすれば良いのか分からない、誰も覚えていないんだ。俺自身も。

結果として残るのは今までの能力に愛着があったと言う自分への猜疑心と虚無感、そしてこれからの能力への期待だ」


「…じゃあ突然変異体(アーツ・ガイル)は皆何者かの魂を取り込んでいる…って事?」


「そう言う事だ。何を話したのかは覚えていないが、誰を喰ったかぐらい覚えている。俺は親だ。伽耶が殺した親を喰った。その結果能力が変化した、寄生虫にな。エリの場合は母親。フレデリックは仲間数人だ。

まぁでも本人には追及しないでやってくれ。この島で言う過去の事ぐらいタブーなんだよ、俺らの中では」


「分かったよ。とりあえず諸々は把握した、でも一応何人か挙げてみるから合っているか教えてくれ」


「あぁ、良いぜ」


「薫は紗里奈のガネーシャを使っていたから突然変異体(アーツ・ガイル)では無い、よね」


「そうだな。紗里奈の場合は能力で吸い出したわけじゃなく魂喰ってたからな。その認識で合っている。薫は違う」


「じゃあ原は(フェアツ)の能力を使っていたから違うね」


「そうだ」


「蒼は莉子の能力が使えず、特殊な身体強化の効果が少し変化したから突然変異体(アーツ・ガイル)、なんだね?」


「そう言う事だ」


「うん。大体分かったよ。でもなんで、このタイミングなんだ?」


「決めるなら今だからだ」


「何を?」


「誰かを殺し、魂を取り込んで強化するかどうか、だ」


「…は?」


「お前も分かっているだろう。薫や絵梨花が帰って来ない場合今の俺らじゃ佐須魔に勝つのは全滅と引き換えだろう。そうなると元も子も無い。

だから一人は生き残らせなくちゃいけないんだ。そうなると力が足りない。言わなくても分かるだろ、戦力の増強を図るならここら辺で決めろって事だ。突然変異体(アーツ・ガイル)になるかどうかのチャレンジするのか」


「…やっぱ理事長に行ってほしかったなぁ…」


頭を抱え悩む。


「まぁしょうがねぇだろ。その理事長が大会前、というより最大期間の二ヶ月前までに帰って来るのかさえも不明なんだ」


「そうだよね、透も大分頑張ってくれてるのは理解してるさ…でも僕には荷が重いよ、やっぱり。ラックにでも押し付けたい気分だ」


「出来れば俺もそうしてぇよ。突然変異体(アーツ・ガイル)を一番理解してるのは当事者の俺達でも無く、研究者の俺でもなく、現世の何者をも知り得るあいつのはずだ」


「だよね……まぁ決めた!やらないよ、そんな事」


「そうか。まぁそう言うと思ってたぜ」


力を抜き煙草を吸い出した。


「でもさ、やる気は無いけど突然変異体(アーツ・ガイル)チャレンジするとして、結局はガチャでしょ?能力」


「そうだな。だからお前に判断を任せたんだよ、俺は何か口を出す気は無い」


「ありがとう、言ってくれて。でもそれって仲間にも言ってないんだろ?」


「そうだ。信頼はしているが裏切り者がいないとも限らないだろ?俺らはちょっと前までTISに狙われていた身だしな。エスケープみたいに危険視されて刺客を送り込まれてもおかしくない」


「…見習いたかったよ…ハハ…」


「いやしょうがないぞ、素戔嗚と蒿里は。多分誰も気付けない。なんせ蒿里は元々TIS大っ嫌いだし、素戔嗚は本当に楽しがっていたぞ、ここでの生活」


「…え?ほんとに?」


「おう。そんな感じしてたぜ」


「そっか…ちょっと嬉しいな。報われた気がしたよ、少しだけ」


「そう気にすることは無いだろ。とりあえず話は終わりだ。まぁそっちもあるんだろ?別の聞きたい事が」


あるのだ、兵助にも聞いておくべき事が。突然変異体(アーツ・ガイル)としてではなく、透に聞きたい事だ。


「うん。でもその前に…ここ禁煙だよ」


「…わりぃ」



第三百三十六話「偏差2」

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