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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十一章「襲撃」
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第三百三十五話

御伽学園戦闘病

第三百三十五話「偏差1」


「精度はどうじゃ」


「まぁまぁだなー」


話をしながらも能力を発動し空気を爆発させていく。


「相当な時間が経過したが…ようやく習得出来た程度か、絵梨花よ」


「しょうがないだろー?そもそもこれ一番難しい技術なんだからよ」


「そうだな。だが私が見る限りアイトは一日で使いこなして居ったぞ、その後はほぼ使っていなかったが」


「知るかよ。あいつ普通に天才じゃん、私は別に能力が強いってだけであって戦闘自体が得意な訳でも無いし、同列で語らないでくれよ」


「そうだな。確かにお前は弱い」


「……なんかムカつくんだよなーお前」


一旦練習を止め、絡新婦と共に飯を食う。そこは青森県の山奥、洞穴の中だ。絡新婦はレイチェルとの約束を果たして以降ずっとここに暮らしており、一人だったそうだ。

だがアイトの死を子蜘蛛を通じて見た事により自分も何かしなくてはいけないと考え、絵梨花を鍛えているのだ。だが現在出来た事はある技術の習得のみ。ろくな精度も無いし不安定、二年半かけたにしては不出来な代物である。

ただ絡新婦が今までに見て来た能力者は全員天才だった。恐らく全員TIS重要幹部最強格の力はある。確かにそんな怪物達といきなり肩を並べるのは厳しいだろう。


「あと半年かー。もう生徒会の奴らは帰って来てんのかなー」


「どうだろうな。結界の様なもので子蜘蛛の侵入さえ出来ん。私も見たいのだがな、アイトがどんな遺書や物品を残したのか」


「あーそう言えば先代と死んだラック両方の事で気になってるんだけどよ、大会でレジェストが紫苑の方に魂を移し式神術を使わせたってのは理解できなくもないけど、その後災厄を殺すためにアイト(ラック)が式神術を使えたのはどういう事なんだ?

あれってラックがマモリビトだったから出来たんだろ?紫苑は魂の移動とか出来ないだろ」


「そうじゃな…あれは簡単に言えば残り香というべきかのぅ。レジェストのマモリビトとしての力、その残り香によって魂の移動を許可された……と言っても私も良く分かっていない。それは本人に聞くのが一番早いし正確じゃ」


「でもあいつ死んでんじゃん。紫苑もいないし。誰も分かんなくね?それとも新しいマモリビトでも探すのか?」


すると絡新婦は希望に繋がる仮説をべらべらと喋り出した。


「本人にも言ってないのだが子蜘蛛で見ていた。レジェストはマモリビトだったが、ある方法を使って受け継いだ。本来現世のマモリビトは百年が経つと死して別の者へとランダムに継承される。

だがレジェストとその前マモリビトは元々友人の仲でその友人がマモリビトを引き継いでから百年が経過する丁度前日、ある提案をしていた。喰ってくれないかという提案じゃ。

どうやらレジェストに継いでほしかった様だった。そしてその場でレジェストがマモリビト殺し、魂を取り込んだ」


「んでマモリビトになった、って事か」


「いいや、違う。その次の日までマモリビトに変化しなかったんじゃ。ただ体が適応出来なかったのかとも思ったが私は違うと思う。

私はこう考える、現世のマモリビトは寿命が来るまで魂が生きていると。

丁度寿命で死んだタイミングでレジェストへと引き継がれたのも子蜘蛛によって報告されているし、密かに私も見ていた。偶然と言われればそれまでだが…考える事が無駄にはならないはずじゃ」


「でも紫苑がラックの魂を喰ったからその説が合っていても生きてないだろ」


「そうかもしれぬ。だが生きているかもしれぬ。これに関しては本人しか分からないだろう。もしかしたら生きていて何処かを彷徨っているのかもしれないし、紫苑の体の中で残り少しの時間を待っているのかもしれない」


「……私は紫苑にこれ以上戦闘させたくない。多分黄泉の国にいるんだろうが…そう簡単には表に出されないはず…多分地獄の門番でもさせられているはずだ。そうなると様々な思想を知り、様々な人と会うだろう。

私は知ってる、それがどんなに苦しい事か」


「そうか、だがやるしかない。紫苑を零式で起こす事は恐らく不可能だ、フロッタが全力で阻止する。だから本人の希望に従う事となるだろう。その場合戦闘するかしないかを決めるのは私達では無く、紫苑本人じゃ」


「…まぁ、そうだよなー。でも最大限協力出来る様に強くなりたいんだよ。二年半でこの成果…ちょっと微妙じゃね?」


「いいやそんなことは無いぞ。私が見て、教えて来た能力者は全員"天才"だけだったからな。お前の様な凡人には少々厳しい訓練だったかもしれぬ」


「馬鹿にしてんのか?私は凡人じゃねぇぞぉ。普通に強い!」


「知っている。何なら今この瞬間私が爆散する可能性だってある。こちらも相当なリスクを背負っているのじゃ」


「まぁそれがお前の仕事だしな。んじゃ再開しようぜ」


飯を食い終わるとすぐに訓練を再開した。今はひたすら能力を使って空気を爆発させている。この訓練は別に能力の練度を高める事が目的ではない、練度はあくまでもおまけだ。本当の目的は能力のタイミングである。

ただひたすらに指を鳴らし爆発を起こす。二年半ずっとずっとずっと同じ事をしているのでもう余裕だ。喋りながらでもよそ見しながらでも出来てしまう。


「なぁ、レイチェルって結局佐嘉殺して黄泉行ったんだっけ?」


「そうじゃ」


「それってどう言う事だ?霊って自分の意思で黄泉の国に行くかとか選べないだろ?」


「…絵梨花は"守護霊"を知っているか」


「勿論」


「バックラーも分かるな?」


「当然」


「私はずっとレイチェルがバックラーの霊だと考えていた。だがラック・ツルユの研究室に子蜘蛛を忍び込ませ研究を見た時驚愕した。バックラーは何があっても喋る事が出来ないらしい。ラック・ツルユの推測ではそれもある一定の平和を保つためにいつかのマモリビトがそうしたのではないかとの事じゃ。

それも当然、バックラーの霊は元々人間じゃ」


「…は?」


絵梨花は当然バックラーの霊を殺したこ事がある。TISの下っ端にも何人かいたからだ。


「何らかの要因によって死んだ魂が人の形を成し、誰かに憑く。それがバックラーじゃ。そして元となる人物は何千年前の者でも問題はない。そうなると大昔の技術などを伝えられ平和を保つのが難しくなる。だからバックラーの言葉を封印した。あくまでも推測じゃ」


「ちょっと待てよ…じゃあ私は人を殺したのか?」


「何を言っておる。お前はTISを何人も殺しただろう、今更…」


「TISは全員悪人だ。だからしょうがない……でもバックラーは何の罪も無い人間…だろ?」


手を止め、そう訊ねる。絡新婦は少し面倒くさそうな顔をしながら言った。


「諦めろ、そうしか言えん」


「……分かった…続けてくれ」


思っていた以上にすんなりと受け入れた事に違和感を覚えながらも話を続ける。


「そしてレイチェルは喋った。その時点でバックラーではなかったのじゃ。そうなると何の霊だったのか、単なる降霊術ではない。それは初代ロッドの手記によって示されている」


そう言って絡新婦は古びた戸棚の一段を開き、ある本を渡した。無地、表紙には何も書いていない小冊子だ。


「これがそのロッドの?」


「そうじゃ。とりあえず今読んで良いのは一枚目だけじゃぞ」


「…あぁ」


緊張しながらも表紙をめくる。するとそこには丁寧かつ乱暴、そして雑な文字。その色々が混ざり非常に読みにくいが確実にキッチリとした字である日の事が書かれていた。


『今日(トン)白煙(ハクエン)を降ろす実験をしてみた。二匹とも大事なパートナーだし戦力でもあるけどこれが成功すれば物凄い成果だ。


行う事は単調で簡単な事、降霊をするだけ。降霊術の霊に降霊術の霊を降ろす。そんな事。でも誰もやった事が無いらしいし、結果も完全に未知。


私はそんな未知が気になってしまった。


結果としては失敗だった。何も発動しなかった。團は妖術や私が最近生み出した術式なども当たり前のようにマスターしているので降霊が出来ないなんて事は無いはず。


ただ一日で断定するのは良くないので一週間は色々試してみる事にした。』


そして少し開けて今度は少し焦っているのか更に乱雑な字で記されている。


『成功した。だけど白煙じゃなく私の守護霊。私の守護霊は人型、あの人。そんな守護霊が團に降ろされ、意識を乗っ取ていた。


何も暴走したわけではないが確かに意識があの人のものになっていた。なので私は最終的にこう結論付ける事にした。


降霊術の霊は守護霊ならば降霊出来る


と。』


そこで一ページ目は終わっている。


「…お前は確か神話霊だよな?」


「そうじゃ。もう言わんくてもわかるじゃろ」


「レイチェルは守護霊だった?」


「そう言う事じゃ。私は黄泉の国に行けぬ、だから完全には分からぬがそう言う事にしておく。だが、どうかその目で見てはくれんか、レイチェルがどうなったのか、本当に黄泉の国で暮らしているのか」


「おっけー。約束だ」


それは完全死をするなと言う警告でもあった。それを理解しながらもそう軽い返事をした。自信がある、魂だけは死なない自信が。


「んで話戻すけどさ、それでもレイチェルがお前の元から離れたのっておかしくね?」


「そうじゃ。だから私はこの世にいる守護霊持ち全員と掛け合った。これに関しては偶然なのじゃろうが全員男だったから適当に色仕掛けで落としてやったわ。

そして様々な調査をして行く内に分かった事がある。守護霊には目的があるのじゃ。

調査を始めた最初の頃から深く疑問があった。守護霊には人型が多いのじゃ。だがそれはバックラーでも良いのではないか、動物の場合降霊術で良いのではないかと。

だが調査の過程で何人かの守護霊が成仏した。それは本人たちにとって大きな目標を達成した時であった、漏れなく全員だ。だがその道中で死んだ者の守護霊は成仏ではなく、消えた。

その時点で大体は分かっておった。もう少し調査を進めたかったが…私が馬鹿の様に世界を練り歩いていたせいか守護霊持ちの数が極端に減ってしまったのじゃ。調査を中断した時にはこの世にはたった二人しかおらんかった。

[華方 佐須魔]と[多比良(タイラ) (サチ)]じゃ。まぁ幸の守護霊が何か分からぬ原因によって死んだ頃に、[櫻 流]が守護霊を手にした。

全員強い、私じゃ勝てん。だから結局諦めたままなのじゃよ」


「って事は今守護霊持ちって佐須魔と流しかいないのか?」


「そうじゃが?」


「そうか…じゃあその目標を達成すると成仏するっていうのもあくまで不確定なのか」


「母数が少なすぎるのじゃ。私が生きて来た中で守護霊が一番多い時代は百年前、能力者戦争時じゃった。それでも総勢八百人いるかどうか。だがここ最近は少なすぎるんじゃ、異常な程にな」


「その幸って奴がどんな目標を持ってたのか分かんねぇけど…まぁ多分失敗したんだろうな」


「そうじゃな…」


「…まぁ結論としてレイチェルは佐嘉を殺すのが目標の守護霊だったって事で良いんだよな?」


「うむ。そう捉えてくれ」


「分かった。んでもう一つ気になる事があるんだが佐須魔の守護霊知ってるか?流のは前教えた通り母親なんだけどよ」


「知らん。私も近付こうとしたら紫髪の刀を持ったバカ強いガキが邪魔してきたせいで接触すらろくに出来ていないんじゃよ」


「刀迦か。でもあいつ今死んでるぞ?」


「なぬ!?ならば行けるか?」


「無理だ。別に刀迦だけが強いわけじゃない」


「そうか…まぁ良い、お喋りはこれぐらいにして再開するのじゃ」


「おう」


絵梨花は再度能力を発動した。指を鳴らして爆発させる。だがその爆発には少しだけ時間の差があった。

爆発したのは指を鳴らしてから、三秒後だ。



第三百三十五話「偏差1」

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