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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
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第三百三十四話

御伽学園戦闘病

第三百三十四話「誘拐」


英二郎の作戦は酷く単調で、どうやっても透達が思いつけないものだった。内容としては簡単、蟲毒王である怜雄を使う。怜雄は元々神に作られた人物であり、一番最初の能力者でもある。

非常に慈悲深く、蟲毒王として行動していない時はただ人助けに徹している善人だ。だがそんな怜雄でも許せない事はある、自身の威厳を貶される事だ。

最初の能力者という事に優越感を感じている訳でも、強いから圧倒的な征服間による傲慢さからでも無い。ただ単に自身の為に死んでいった人達を知っているからこそ、自分が貶される事が許せないのだ。

そんな人物の子孫である[英 嶺緒]は現在世論でいう悪党のTIS側についている。そんな事を知らされたどうなるだろうか、黙っているはずがない。


「俺らは本当に待ってるだけで良いのかよ…」


フレデリックと佐伯以外の突然変異体(アーツ・ガイル)メンバーはあるタイミングまで待機を命じられていた。そのタイミングとは怜雄が嶺緒に接触する時だ。

そう簡単に説得出来るとは英二郎も考えていないが、多分何とかなる。透にカリスマ性や希望があるわけでもない、だが恐らく成功する。完全なる勘によって動いているのだ。

だが英二郎はまるで英雄の様にも見えてしまった。だから従う事にしたのだ。あの状況で透は記憶を消す事を躊躇った、普段なら何の躊躇も無く携行蟲を使用してはずなのに。それが何故なのか、未だに分からない。だが分からないままで良い気がした。これもまた、勘であるが。


「最初の能力者って事だし、怜雄の諸々記憶しておきたいよな?透」


「まぁそうだな。無理ない範囲で記憶してくれると助かる、まぁ無理はするなよ。帰る手間もあるんだ」


「分かってる。とりあえず今は待機するしかやる事ないから聞いただけだ」


一方エリはいつも通り走り回ってはワガママを言い放っている。目を覚まし状況を把握した海斗が遊んでやっているが正直やめてほしい。少し場所は移動し開けた謎の空間には来たもののTIS本拠地内である事に違いはない。

そんな中大声を出すという行為は敵に位置を知らせている様なものだ。だが違和感がある、十分近く騒いでいるにも関わらず近付いて来る気配が一切無いのだ。

シウが結界で遮断してくれているのか、はたまたTISが意図的にそうしているのか、どんな推測を立てても推測にしか成り得ないのでやめた。

それよりも先に考えるべきは今後の事だ。怜雄を連れて行くのは確定事項として、大会での戦闘を見据えなくてはいけない。突然変異体(アーツ・ガイル)は基本戦闘向きの能力だし普段から最低限の訓練はさせているので雑魚処理は問題ない。ただ大会は雑魚処理では無く、敵一人一人がボスクラスである。そのため全員がもっと強くならなくてはいけない。

現状で満足に戦闘できるのは透、要石、フレデリックの三人だけであり他の全員は少々決め手に欠ける。生存能力が低いわけでは無いが、TISとの戦闘で長い事生きるには結局の所突撃して来る者を退ける力が必要になるのだ。


「どうすっかな…」


「どうした?何かあったか」


優樹がそう問いかけた。


「これからの事だ。お前はまぁサポート系だからまだしも…俺と要石、そんでフレデリック以外はろくに戦闘出来ないだろ?大会まであと半年しかないんだよ、このペースで行くと捨て駒にでもされかねない。俺はそれを絶対に阻止したい、少なくともエリだけはな。

だからどうすっかって話だよ」


透が煙草を吸い出すと連鎖するようにして優樹、雷、海斗、要石の順に煙草を咥え出した。臭いが漂う空間で考える、どれだけ無茶でも良いのでエリだけは生き残らせる方法。


「駄目だな。やっぱ俺はふとした時にしか思いつかねぇわ」


透が研究者として能力に関する様々な事を発見出来たのは全て運と言っても過言では無い。何気ないルーティーンをこなしているとふと思いつく事があるのだ、そしてそれを言語化する事によって新発見が見つかる。そう言う意味ではしっかり特徴を掴み言語化しているので運では無いのかもしれないが。

ひとまずこんな緊張する場で考えてもどうしようも無いので気長に煙草でも吸いながらエリに構い、待つ事にした。

数分後物凄い爆発音が鳴り響いた。どうやら始まったようだ。まだ途中だったが吸うのをやめて準備しておく、いつでも逃げ出せるように。


「来る!!」


雷がそう言って全員の霊力放出をOFFにした。


「いや、ONで良い」


「え?…分かった!!」


再度霊力放出をONにした。透は分かっていた、相手が敵では無い事を。やって来たのは不服そうな嶺緒の首根っこを掴みながらズカズカと近付いて来る怜雄の姿だった。

どうやら英二郎の推測は当たったらしい。これならば連れて行ける。信用や友情などは後で幾らでも挽回が可能だが、ここで強制的にでも仲間に引き入れなくては今後一切関われないだろう。それに伽耶へと突然変異体(アーツ・ガイル)の情報が回ってしまう、それだけは阻止しなくてはいけないのだ。研究者としても、ただの能力者としても、姉弟としても。


「なんだよ…急に掴まれたと思ったらお前らかよ」


「いいや違う。そいつは俺らの協力者でも何でもない、そうだろ」


「そうです。ただ僕はこの馬鹿を引き取って欲しいんです、透さんもそれを望んでいるはずであり、僕もそれを望んでいる。この馬鹿はTISがどんな組織で、どんな事をして来たのかを知らないんですよ、本当に。洗脳などではないですが昔から情報なんて得られない場所で暮らしていたので…仕方無いのかなとも、少し思ってしまいます…

ただこれも全て僕のせいなので大変おこがましいとは承知している上での提案です。どうかこいつを引き取ってください」


怜雄は深々と頭を下げながらそう言った。


「いいぞ」


即答。

最初から分かっていた、ここでその提案に乗らない程用心深くは無いと。


「助かります」


首根っこを放し透の方へぶん投げた。いつにも増して乱暴だがそれもそのはず、一番嫌な事をされているからだ。TISなんて下劣な組織には蟲毒王の状態でも協力などしたくない。それなのに子孫が堂々とその仲間になろうとしている。そんな状況が許せるはずがないのだ。


「悪いな。俺もこんな雑な手で引き入れたくないんだが…お前はこのままだと本気で死んでいた。伽耶はそう言う奴だ」


「…そうか?俺にはそうは見えなかったがな」


「お前、あいつとどれぐらいの付き合いだよ」


「覚えてない。ただそんな長くないぞ」


「じゃあ俺の方が知ってるな。なんせ俺はあいつの弟だ。結構前だけど一緒に暮らしていたし、TISに持って行かれた時もこの眼で見ていた。そんな俺が言う、お前は殺されていた、俺が助けに来ない場合はな」


「…まぁ俺死にたくないし、お前らの仲間になってやるよ」


「そもそも選択肢は仲間になる以外ないぞ。んじゃ行くか、さっさと逃げよう。他の奴らもまだ外で待ってるらしいからな」


他のメンバーも撤退モードに入ったその時だった。


「何故僕が、そう易々と特殊な個体を逃がすと思ったんだい?なぁ、透」


予想だにしていなかった、まさかあそこまで派手な勝負を繰り広げた後なのに止めに入る気力と力があるなんて。佐須魔だ。


「いや、お前には渡さない」


「駄目だ、返してもらう。そもそもエリの母親が抵抗しなければ…」


だがその瞬間、佐須魔の背後から一人の男が斬りかかった。殺気と禍々しい霊力を放ちながら、燦然を手にしている。


「やめろ、それ以上は僕が許さない」


怜雄だ。その燦然が本物かどうかは分からないが確実に殺そうとしている。一能力者としての怜雄ならば普通にやりかねない、それに燦然はマズイ。恐らく偽物だろうが力を使う事は出来る。それがどんな状態の模造品であった場合、万が一にでもラック・ツルユの能力が刻まれていると非常にまずい。

仕方が無いがここは諦めるしかなくなってしまった。発動帯はそこそこ回復したが第二形態にも移れない程弱っているのでここで戦闘をするのは悪手だ。


「二連続か、敗北」


そう言い残しゲートで逃げて行った。するとそれとほぼ同時タイミングで怜雄も走り去ってしまう。だが透にはその意図が伝わっていた。


「全速力で外出るぞ!走れ!!」


エリを怜雄を掴みながら全速力で走り出した。現在怜雄が警護をしてくれている、何者も寄せ付けない最強の抑止力。原初の能力者としての怜雄は本当に強い、それを理解しているTISメンバーは誰も近付けない。近付くなと智鷹も言った。二年半ぶりの戦いではあったが、また敗北に終わってしまうようだ。


「よっしゃ!!」


出口から飛び出した。瞬時にファストとフレデリックが全員を兵助の元まで案内し回復を行わせる。海斗は酷い状態で兵助でさえ回復するのに少々時間がかかってしまった。

だが全員感知、誰も何の傷も負っていない。


「理事長は何処だ?」


全ての説明を終えた透がそう質問した。そして今度は乾枝が全てを説明する。すると誰も思いつかなかった事を嶺緒が言った。


「生きてるだろ。一瞬しか見えなかったがあの爺さんはそう簡単に死ぬわけが無い」


「そうですよ。私が一番付き合いが長いので断言しますが、佐助は生きています。なので信じましょう、拳さんも共にいると。そして待ちましょう、半年以内に帰って来てくれるはずですから」


フレデリックの一言には妙な信憑性があった。ここで撤退するのは非常に悔しく、心残りがある。だがそれでも上出来だろう、突然変異体(アーツ・ガイル)は全員生きていたし目標も達成した。理事長と拳は必ず生きていて何か策を練り、戻って来てくれるはずだ。

今はひとまず、二連勝の嬉しさと悔しさを噛みしめながら、堕天使に案内されて帰還する事となった。



そして同時刻、現世の東京都の一角。二十三区内に特殊な"なんでも屋"のようなものがあると密かに噂になっていた。だが同じ様にしてあまり良くない噂も流れていた。そのなんでも屋に属している者は全員漏れなく能力者だという噂である。

だがその能力者だからこそ需要があると言うもの。時刻は午前十時、丁度鍵が開かれる時間だ。ガチャリという開錠の音がするとほぼ同時に扉が開かれた。

どうやら高校生ぐらいの女の子だ。小柄で黒髪、眼鏡をかけているがある人の面影がある。


「す、すみません。こんなすぐ…」


「いえ、構いませんよ。どうぞ座ってください」


まずは用件を聞き出す。対面するようなソファにそれぞれ座り、軽く挨拶をする事とした。


「[国後(クナシリ) 皐月(サツキ)]…です。ここって…能力者の方がやっているん…ですよね?」


「えぇそうですよ。ですが貴方は見た所能力者ではないようですが、どう言ったご用件でしょうか」


「…弟を、探して欲しいんです」


「やはりそうでしたか」


「えっ?なんで分かったんですか…」


「恐らくその探している人物の名は[風間 宗太郎]でしょう。何だか似ていますよ、顔立ちが」


「はい!そうです。でもなんであなたが知っているんですか…?」


「宗太郎さんは平山島と言われる謂わば能力者を隔離する島にいました。そしてその島で唯一の学校、御伽学園の中等部に所属していまいたから。分かりますよ、なんせ私は先輩でしたから」


「本当ですか!なら弟の行方も…」


「率直に言いましょう。分かりません。というよりも行けません、弟さんは非常に厄介な場所に自分の意思で留まっているのですよ」


「そんな…じゃあやっぱり会えないのかな……」


「失礼ですが何か理由があるのですか?私が知る限りそんなに仲が良いとは思えませんでしたが」


「宗太郎は…大会に出るんでしょう?私は分かります。当然能力者の家系ですから…私自身は能力者ではないんですが……そしてTISや学園の関係性も全て把握しています。二年ほどかけて、探し出しました」


女は少し驚きながらも微笑みながら口を開いた。


「ですが協力しましょう。私達も宗太郎さんの行方は心配だったのですよ」


「本当ですか!?ありがとうございます!」


「そこまで知り尽くしているのなら私の事も知ってるかもしれませんが一応…」


そう言って名刺を差し出す。そして名乗った。


「私は[姫乃 香奈美]、短い間でしょうが、よろしくお願いしますね」



第三百三十四話「誘拐」


被害

[軽傷,重傷者]完治

[死者]

[行方不明者]学園側二名、TIS側零名、計二名

平山 佐助 - 御伽学園理事長 - 生死不明

駕砕 拳 - 無職 - 生死不明


第十章「突然変異体(アーツ・ガイル)」 終

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