表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
332/556

第三百三十一話

御伽学園戦闘病

第三百三十一話「撤退命令」


理事長と拳が落下し、全体への連絡が中断された。全員その違和感は気付き、理事長へ『阿吽』を行う。だが誰も繋がらず、困惑している。ひとまず全員との連絡を取る中継者が必要だ。だが相当な練度や霊力、状況判断能力が必要となる。

それに基地内にいる人物だと戦闘が始まったりすると連絡を受け、他の者に伝達するのは難しいだろう。となると基地外にいる者がやるべきだ。

生良も目を覚まし、再度入口辺りの警備に務める事となった。今度は咲も一緒だが。


「僕達の誰かが理事長の代わりをするべきです。どうしますか」


兵助がそう言った。その場にいるのは兵助、タルベ、佐伯、時子、乾枝、ハンド、四葉、警備の二人、一度は起きたがすぐに寝てしまった躑躅、未だに寝ている翔子のみ。

この中でそれなりの練度と霊力があるものとなると絞られる。兵助、佐伯、乾枝、ハンドの四人だ。だが乾枝は出撃前に理事長から『阿吽』である指示を受けていた、なので兵助か自分が中継係になるしかない。

だがこれをそのまま言うと怪しまれるので、少しぼかしてその旨が兵助にのみ伝わるようにする。


「私か兵助がやりましょう。ひとまず私はもう中に入る程の余力がありません。一度霊力を全て使い切ってしまったので…霊力はチョコで何とかしますが、私はあれへの耐性がそこまでありません。なので戦闘は少々難しいでしょう。

そして兵助は単純な練度、そして霊力の残りも考えると…私がやるべきでしょうね。兵助は霊力量だけでいえば結構少ないはずですから」


すると佐伯が意見を申す。


「それならば僕も出来ますよ。それに僕の能力は周囲全体の重力増加、正直な事を言って誰かが突っ込んできても容易に使える能力じゃありません。なので…」


「駄目です。私はチョコを使っての戦闘ができません。それに比べてあなたは霊力の残りも充分、そもそも戦闘が出来るはずです。戦闘の出来ない私と不便だが戦闘の出来るあなた。どちらが中継係をするべきかは分かるでしょう」


「…分かりました。頼みますよ」


少し不服そうにそう言って、佐伯はふと携帯を取り出した。恐らく誰かと連絡を取りたいのだろう。だが次の瞬間、悲鳴にも近い声を上げる。


「どうした!?」


兵助が駆け寄り、画面を見る。するとそこには何件もの不在着信があった。折り返そうとするが相手は全員電源を切っている。確実におかしい、電話をかけて来た後にわざわざ電源を切る理由が分からない。

すぐにその事を伝える。当然その場にいる全員は驚く。今回は突然変異体(アーツ・ガイル)が嶺緒を回収するまで時間を稼ぐことが他の者の仕事、なのに肝心の突然変異体(アーツ・ガイル)が死んだり気絶してたら元も子も無い。

この時点で作戦は崩壊している。そもそもランダムテレポートと言う恐らくは佐須魔が発動した能力のせいだ。フレデリックも来ていないし突然変異体(アーツ・ガイル)は何者かによって討伐されたと考えるべきだ。


「…皆さん、ここで撤退命令を出す事に、異議がありますか」


乾枝がそう言った。だが誰も反論など出来ない、理事長との連絡が取れないと言う事は非常事態である事は確定だ。それに作戦の要である突然変異体(アーツ・ガイル)もダメ、もうこちら側にどうにか出来る手立てはない。それに何とかして嶺緒を回収したとして、突然変異体(アーツ・ガイル)がいないのだから何の意味もないだろう。

十秒間、沈黙。その後乾枝は崎田が置いて行ったチョコの残りの内一つを食べ、霊力を補給した。そして全体へ届くように『阿吽』を発動した。


『こちら乾枝 差出。理事長との連絡が途絶えたので私が代わりを務める。そして現在突然変異体(アーツ・ガイル)とも連絡が取れない。

この状況で何をしても私達に勝ちの目は無く、万が一にでも死んだ場合はただの無駄死にだ。なのでここで、撤退命令を行う。全員全力撤退、外で後方支援部隊と待機しているので即時戻る事。

状況説明は後ほど行う。それでは頼む』


当然ほぼ全員からの抗議に近い連絡が飛んで来る。だがそれ以上言う事は無い、現に全員理事長との連絡は取れていないのだ。もしかしたら封を打たれているのかもしれない、なので希望自体はあるがそこに賭けるには情報と戦力が不足し過ぎている。

もうこれ以上人が死ぬと今後の戦闘でどうしようもなくなる。皆忘れているのかもしれないが、TISを殺すだけではダメだ、戦闘が終わった後に能力者の権利を勝ち取る為の人物も必要となる。

本当にこれ以上、誰も死んではいけない。なので乾枝の判断は最適解であり、正直な所全員が心の内では納得していた。だが理事長を手放す事になると先が見えない。なんだかんだ言って一番信用されている人物であり、強力な能力を所持している人物でもある。

ここで皆の命を賭けてでも、理事長を探しに行った方が良いのではないか。乾枝の頭にもそんな思考ぐらい浮かんでいた。


『何があっても、私はこの判断を曲げる気は無い』


再度全体へそう呼びかけ、意思を固めた。これ以上迷い、中途半端な判断をする事も駄目だ。振り切る、突き抜ける、それが一番良い。

すると段々帰還する者が現れた。ファルを担いだ崎田や、急いで戻って来た兆波、ベロニカ、優衣、虎子、桃季と唯唯禍。そこで乾枝はある事に気付いた、他の帰ってきていない者は連絡自体は取れていたが、元のみ全く連絡が無い事に。


「兆波、元を知らないか?」


「元か?知らないな、はぐれた時から特に連絡もしてないし…」


「ずっと連絡が無いんだ。もしかしたら戦闘しているのかもしれないが、流石に気になる」


「確かにそうだな。ファストはまだ中なんだろ?捜索を頼んでみれば良いんじゃないか?」


「そうだな。無理はしないよう付け加えて頼んでみるよ」


現在中に残っているのは梓、元、パラライズ、ポメ、菊、蒼、鶏太、猪雄、シウ、ファスト、拳、理事長、佐伯を除く突然変異体(アーツ・ガイル)全員の計十九人だ。

元と理事長、『阿吽』が使えない突然変異体(アーツ・ガイル)、そして最初から『阿吽』を拒否していた拳以外は全員生存確認が出来ている。

梓、蒼、鶏太、猪雄、シウは単独行動。菊とポメは合流済み、パラライズとファストも同時に行動しているらしい。この中で心配なのは梓と鶏太辺りだろう。両者戦闘能力は低く、不意打ちでもされたら死が確定するようなものだ。

だが乾枝にとって鶏太は絶対に残しておきたい存在であり、梓はいつか来る日の為に取っておかなくてはいけない。何があっても殺せない、自身の命に変えてでも。


「帰りました!!」


梓が戻って来た。ひとまず安心だ。どうやら誰にも会う事は無かったが、明らかに異常な場所を取って来たらしい。まるで巨人か何かに踏み抜かれたかのようにして真っ暗な穴が出来ている場所だ。

恐怖もあったし何より危険だったので避けて帰って来たので遅くなったらしい。梓が検知した範囲では誰かのいるわけでも無く、霊力残滓も全て消えていたとの事だ。

恐らく薫に近い霊力の者が戦っていたのでその痕跡だろう。


「とりあえず分かった。傷が無い確認し、あった場合は治してもらう事」


そして何事も無く数人が帰還する。ポメを抱えた菊、全力ダッシュで帰って来た蒼、途中で合流したシウと猪雄。連絡の取れるほぼ全員が帰ってきたようだ。

残りはファストパラライズ、鶏太だけだ。ファストパラライズは速度も速度なので様々な場所を巡り、理事長がいないかを探しているらしい。

捕まえられない様釘を刺しておく。


『大丈夫か?鶏太』


『大丈夫です!ちょっとだけ入り組んでいて…なんか透明な迷路?ですかね…壁も堅くて中々……だっ!誰かいます!』


『何だと!?どういう奴だ、見た目を教えてくれ!』


『学ランを来ていて、黒髪です。男の人です……そして何か…凄いこっち見て訝しんでます…』


『そんなのTISには…まさか…そいつは能力者と同じ霊力放出か?』


『はい。ですが僕に襲い掛かって来る気配は無いです…一応干支鳥出しておきました』


『いや、しまっても大丈夫だ。そいつは恐らく敵じゃない、だが味方でも無い可能性がある。私達ではそこまでの判断が付かない、とりあえず急いで迷路を出るんだ』


『分かりました』


乾枝は少し安心した。鶏太が殺される事は無いだろう。ひとまず現在連絡が取れる者は帰還出来そうだ。だが問題は連絡が取れない者達である。

やはり今回の任務もいつも通り敗北で終わるのか、そうも思ってしまう。無理はない、正直絶望的だからだ。全員集合しそのまま帰って何になるのだろうか、だが撤退は変えないと決めたはずだ。


「帰ったよ。ついでに回収して来た」


ファストが帰還した。そして両手にはパラライズと鶏太を掴んでいる。


「よくやった!これで突然変異体(アーツ・ガイル)、元、理事長、拳以外は帰って来た。だが…ここで撤退する」


当然抗議する者が現れる。その中でも兆波は大反対だ。ここで逃げ帰って将来に繋がるとは到底思えないだろう。だがそれは乾枝も理解している。

リスクを抱えてでも先を見るか、リスクを抱えず先を見ないか。それだけの話だ。ただ今までリスクを抱えてやって来た結果敗北を連ねていた。

現在は旧生徒会、エスケープの主力能力者がいない。大会までに戻って来るのか、それも不確定なのだ。曖昧な状況、どちらを取っても正解なのだ。なので乾枝はリスクから逃れる、そう決めただけだ。実際菊や取締課のメンバーなどは納得している。


「薫と…会った…」


兆波は秘密にしようとしていた事を吐露した。


「…何?」


「あの霊力、やはり薫だった。みんなには秘密にしようと言ったけど、もう言う。薫だった!薫と佐須魔が戦闘し、薫が勝っていた!!頑張っている、まだまだ力をつけようとしている!!

それなのに俺らはリスクを捨てて敗走?ふざけるなよ!!だったら薫や絵梨花が帰って来た時どうするんだよ!!理事長がいなくてどうするんだよ!!

統率できないだろ、誰も!!行くべきだ、今、助けに!!」


何も言えなかった。だが、決めた。


「変更……作戦を、変更する。少数精鋭による残存兵の救出を行う。だがこれより投入するメンバー以外を追加するつもりはない、どうか注意してくれ」


薫の事を良く知っている兆波の発言に動かされてしまった。だがそれで良かったのだ。


「よく言った。僕らの邪魔が無かったらもうちょっと良い方向に進んでいただろうし、協力してあげるよ」


また聞き覚えのある声。堕天使だ。すぐにそちらを向くと一人の女を連れている。口がほんの少しだけ裂けており、茶髪の挑発、適当に着たのであろう適当な服。だが分かる、強い。


「ニアがいればアリスはそっちに行くはずだ。だけどそうじゃない、それはニアじゃないからだ。だから僕はここに残ってアリスが来た場合退ける、そして一緒に連れて行くと良い、こいつを」


そう言って女を指差した。


「私は[仮想の病人]。まぁその名の通り特殊な病気にかかってる。でも安心するといい、そっちの世界でも通用する病気だ」


「…分かった。信用させてもらう。目的は分かっているか」


「あぁ、勿論」


「助かる。では今から救出班の名を呼ぶ、本当に少数だぞ…」


そう前置きをしてから最後の段階、救出作戦に出るメンバーを紹介する。病人を除く計三人、霊力にも余裕があり戦闘や移動など基本んなんでも出来る奴らだ。


「[蝶理 優衣][松葉 菊][沙汰方 兵助]の三人だ。兵助は戦闘病を使ってでも、行ってこい」


「了解。心配はいらないよ、僕がいる限りね」


できればファストも付けたいが四人は駄目だ。病人を含め計五人、ここまでの人数がいると霊力感知などで一瞬で見つかり人数不利な戦いを強要されるかもしれない。


「分かった。行くぞ、優衣」


「は~い」


この時間も惜しい、病人を連れて全員で突撃する事になる。まだ勝てる、そんな事、誰も知らなかった。



第三百三十一話「撤退命令」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ