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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第三章「工場地帯」
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第三十三話

御伽学園戦闘病

第三十三話「遺書」


赤く澄んでいた空は時間をかけて黒く染まっていた。街灯の一つもないこの街は夜になっても機械音は止まずただ黙々と作業をこなす住民以外はほんの数人しか外にいるものはいなかった。


「で、成果は」


「なーんかニアと同じ苗字のやつがここを作る前の街をぶっ壊した的な感じの情報しか手に入らなかった。後生徒会の奴ら二人と会った、二人ずつに別れて行動しているらしい。」


軽く情報を共有した。結局寝床は確定していない、どうにかして寝る場所を確保できないかと思い詰める。すると素戔嗚が「あっ!」と声を上げた。何か心当たりがあるのか訊ねると素戔嗚はあまりにも酷い案を提示してきた。


「フェアツ達が寝泊まりしてる部屋に乗り込もう!」


「…は?」


「英二郎とフェアツで一部屋借りてるらしいからそこに乗り込もう!」


「そいつらがどの部屋で泊まってるのか知ってるのか?」


「知らないが見張ってれば何とかなるだろ」


「良い案や…!金もかからんしな」


「あぁ我は無駄に金を使わない主義なのだ」


「普段そう言うフリを見せないから忘れてたけどそういえばケチだったな…」


「じゃあ団地前で見張るということでいいですかね」


四人はそれぞれ団地外周の東西南北で張り込みを始めた。そのまま一時間、二時間、何もないまま月が沈み太陽が登り始めた頃、礁蔽から連絡が来た。『北側の入り口に集まって』といった内容だった。

全員が集まった頃には夜は明け、朝が始まっていた。


「やっと…来た…か」


「どうした?僕たちは今から寝るんだが」


「昼夜逆転してんのかよ…クソ」


「えー?どうしたのー?」


何があったかは素戔嗚が説明した。英二郎は賛同しているが一つ問題がある、部屋はワンルームなので狭すぎるのだ。フェアツはどうにか出来るとしてエスケープ四人と英二郎が寝れる大きさでは無いのだ。

悩んでいるとフェアツがポロッとある方法をこぼした。


「じゃあさじゃあさ私たちは夜に行動するから夜はニアちゃん達に、ニアちゃん達は昼に行動するから昼は私達が使えばいいじゃん」


「お!それいいな」


「いいのか?」


「大丈夫だ。じゃあ部屋教えるから着いて来てくれ」


英二郎とフェアツを先頭に二番棟の階段を登る。三回に達したところで右折し数件の部屋を通った先のなんでもない一室の部屋のドアを開けた。誰も泥棒するような奴なんていないので鍵は掛けていないらしい。そんなこんなで部屋に上がり六人はとりあえず地面に座った。


「まぁ好きにしてくれよ。どこで寝てもいいからな」


英二郎は全員の顔色を見てニアに向かって尋ねる。


「ニアちゃん…だったかな。顔色悪いよ?大丈夫?」


ニアは頭を抑えながら唸るような声で呟くように返答する。


「頭が痛いだけです…」


毎日健康だったのに今日は徹夜をしたので体が付いてきていないのだろうと言うことで今日は寝ることになった。


「じゃあ僕も寝るよ」


英二郎と素戔嗚が部屋の中心を陣取っている二つのソファに寝っ転がった。礁蔽は床で座り込むようにして、ラックも床で、フェアツとニアは唯一ある布団で一緒に寝はじめた。皆長時間の探索をして疲れも溜まっていたのだろう一瞬にして目の前が暗くなって行くのだった。



寝起きは最悪だった。眩しい日差しと至る所から鳴る大きな機械音で目を覚ます。ふと時計を見てみると昼の二時を指していた。それを見た瞬間一気に目が覚める。残り九日間という短い期間では一時間のロスも大きなものだ、しかも今日の目的は本題のルーズの件だ。急いで三人を叩き起こした。三人とも満足そうに目を覚ましすぐに朝の支度を終わらせた。そのまま急いで部屋を出て煌びやかな陽光でさえ遮断してしまうような煙が舞っている工場地帯での探索二日目が始まった。


「ニア…すまん!起こしてくれてありがとう!」


「完全に家だと思って寝ていた」


「我もだ…」


「まぁ昨日は夜遅くまで起きていましたししょうがないですよ」


ニアは元気に笑った。その笑顔を見た礁蔽は少し疑問に思ったので問いを投げかける。内容は頭痛が治ったのかと言うものだった、ニアはアパートから離れた急に痛みが引いたと説明する。まぁ治ったらいいだろうと誰も気にしていない、実際ニアも気にして無い。

そして今日も昨日と同じように二班に分かれて動くことになった。チームは昨日と同じだ。


「じゃあ行くぞ礁蔽」


「へいへい」


昨日と同じようにラック&礁蔽、素戔嗚&ニアに分かれて別行動を始めた。



[素戔嗚&ニア]


「別れたはいいものの何をすればいいのやら…」


「うーん…あの干支神を使役する男の子の場所に行ってみませんか?とりあえず干支神を使役した経緯を聞きたいです」


「それもそうだな」


二人は昨日と同じ道を辿り例の工場の前までやってきた。昨日より機械音が凄まじくまともに会話が出来ない状態だった。ジェスチャーで工場内に入ろうと素戔嗚が示しニアもその指示に従って工場内に入ってみる。

工場内は外より音が激しく耳を塞がないとキンキンしてくるレベルだ。工場内に入ると十数人の青年や少女、様々な年齢性別の人間が仕事をしている。

二人が工場に入ってきた事が直ぐに分かったが誰も動こうとはしなかった。ただ奥の方にいる少年が素戔嗚達を見て隣の人に頭を下げてから小走りで近づいて来た。少年はジェスチャーで外に出ようと示し二人はそれに従い少し遠い路地裏へと入っていった。


「昨日の今日でどうしたんですか?」


「すまないな。ただ聞きたい事があるんだ」


「…はぁ」


「生良は干支神をどうやって使役したんだ?」


「僕も分からないんです…ただ急に気が飛んで気付いたら霊を召喚できる様になっていて…」


「そうか。じゃあ他の霊は出せるか?」


「はい。干支神の羊、牛も出せます」


二人はこれでもかと驚く。それもそのはず神話霊は世界に一体のみなのでそれを三体も使役しているなんて信じられない確率なのだ。素戔嗚は体が大丈夫か心配するが生良は平然と「大丈夫です」と返した。

素戔嗚は少し考える、そして最後に一つ問う。


「フラッグ・フェリエンツを知っているか」


生良はビクッと反応した。


「あるのか」


「…はい…」


「じゃあルーズ・フェリエンツは…?」


生良は知らないと答える。素戔嗚は更に思考を重ねる、そして今何をすべきかを完璧に思いついた。


「ニアとフラッグは苗字が同じだ、そしてここにルーズの情報があるかもしれない。そうだと考えたらフラッグはニアやルーズの親戚、又は家族かもしれない」


「でも…聞いた事ないんですよ」


「ニアは何歳の時に島に来たんだ」


「知らないですが物心はついていない時です。」


「じゃあ覚えてなくても不自然じゃない」


「…ですけど…」


「なんだ?何か嫌なことでもあるのか?」


「フラッグさんって犯罪者なんですよね?そんな人と親戚だったりしたら嫌だなって…」


「…そんな事気にする必要ないだろ」


「そう…ですね」


「あのー僕はもう…」


生良が帰ろうとするが素戔嗚が絶対に離さない。少年にかけてはいけない程の強さの力をかけ離さない。


「いやダメだ。お前には今からフラッグ・フェリエンツの生前の行動や生き様、遺品が無いかを一緒に探索してもらう」


「え?僕が?」


「あぁ、今フラッグに一番近い人物は生良だ。だったらお前に手伝ってもらいながら探すのが手っ取り早いだろう」


生良は仕事の事を心配している。そんな生良を安心させるかのように素戔嗚は御伽学園から来たのだと分かりきっている事を堂々と言い放った。そしてその後に「融通が効く」と付け加える、生良は安全かどうかだけ聞く。

素戔嗚はこう答えた「ほぼ確実に100%だ」と。生良は決心したようだ。そして捜索に加担すると言った。


「よし。なら早速だが知っている事を話してくれ」


「分かりました。まずフラッグさんは島や取締課に所属していない所謂[非所属能力者(ひしょぞくのうりょくしゃ)]ですね。次に僕と会った経緯ですがあの事件の時です」


「あの事件とはここに本来あった街を破壊した事ですか?」


「そうです。彼は何故か女の子と本気で戦い街を壊しました。生き様は…よく分からない人でした。普段は楽しげに話しているんですがふと見かける一人の時や休憩時は辛そうな目をして常に何かを悩んでいました」


「そんなところで大丈夫だ、じゃあ次の質問。フラッグ・フェリエンツに子供はいたか?」


「黙秘権を…」


「言え」


その瞬間素戔嗚は豹変し生良に顔を近づけ低い声で言った。霊力をわざとオーラの様に醸し出し、圧をかけにかけた。生良はあまりの変化に驚き吃ってしまう。素戔嗚はもう一度「言え」と言った、生良は無言で頷き少し後退る。そしてゆっくりと口を開く。


「子供は…二人いました」


ほぼ確定した。ニアは「うぅ」と言ってから落ち込む。


「そう落ち込む必要もない。ニアとフラッグはほぼ赤の他人なんだ」


「ずっと思ってんですけどニアさんってフラッグさんの子供?」


「多分そうです…」


「なら…フラッグさんの最後の頼みを!」


素戔嗚はすぐに詰め寄る。生良はもう怯まず遺書がこの街の何処かにあるらしいと言った。素戔嗚はすぐに目的を変更する。変更後の目的は[フラッグ・フェリエンツ]の遺書を探す事だ。


「で、その遺書はどこにあるか知ってるのか?」


「分からないんです…ただこの街の南方面だとは思います」


「根拠は?」


「明確にはないんですが…フラッグさんが死んだのが南側なんです」


「何故フラッグが死んだ場所を知っているんだ」


「…最終的に僕が殺したからです…でも!自分で死にたいけど死ねないからって…!」


「我は生良が殺人犯でも何とも思わないから落ち着け」


ニアは少しの困惑と憂鬱を混ぜたような顔をしていた。殺したのは霊なのか訊ねる。


「僕が霊を使える様になったのは二ヶ月ぐらい前からだったのでナイフです。ちなみに殺したのは三年前です」


「生良は何歳だ」


「十三歳です」


「十歳に殺させるやつがあるか…話したくなければ話さなくてもいいからな」


「大丈夫です。ですけど詳しい場所が分からないんです。元あった街が崩壊している時に殺して半年前に工場が立ってしまったので…」


あまりに情報が少ない。ひとまず今は移動しながら話す事になった、その時に歩きにくいと言う話になる。すると生良は不思議そうに「地下通路使ってないんですか?」と言った。二人は頭に?を浮かべ何のことか追求する。


「地下に通路があってそこから一気に移動できます」


「英二郎とき…フェアツ…教えてくれよ」


とりあえずどの工場にも通路はあるので一番近い工場に入る事になった。生良は工場内に入り様々な機械を避けて工場内の奥に歩いて行った。二人も生良に着いて行く、ただ周囲の労働をしている能力者からは冷たく嫌な目を向けられた。

生良の正面には床下扉があり生良はその扉を開いた。地下通路はただ掘っただけのまるで防空壕の様な通路だ、明かりもほぼ無い。生良は躊躇うこともせず通路に入って行く、二人も続いて通路に入って行った。

少し歩いたところで生良が口を開いた。


「ごめんなさい。みなさん島に住んで奴隷の様な労働もしていない素戔嗚さん達が妬ましいんだと思います」


「いや、大丈夫だ」


「私も大丈夫ですよ。当たり前の感情です」


「そう言ってくれるとありがたいです」


方向も分からないまま生良の後ろに付いて十分程経った、生良が立ち止まりすぐ側にある梯子に掴まり床下扉を開き地上へ出て行った。素戔嗚とニアもそれと同じく梯子に掴まり地上へ上がった。


「多分ここら辺だと…ここって…」


「団地だな!」


「ところでここら辺なんですけど…団地が立っているって事はもう埋められて…」


「うーん…流石に遺書を地面から見つける事は無理だろう」


生良は黙り込んでしまう。何か考えがあるのかと聞いてみると生良はある事を口にする。


「フラッグさんは常に先の事を考えていました。あの戦いの時を除いて、ですが。それで常に先の事を考えると言う行動が癖になってると僕は思ってたんです。まぁたった三日間の交流だったので確信は無いですけど…そんなフラッグさんが何も考えずに遺書だけ託して死ぬとは思えない、と言う話です」


「埋め立ての後に工場地帯を建設…なあ生良一つ質問だ。生良とフラッグは三日間一緒にいたと言っていたがどこで寝泊まりをしたんだ?」


「地上は酷い状況だったので地下鉄のホームだったはずです」


「なら普通に考えて地下鉄のホームにあるだろ」


「いや…それは無いんです…地下鉄は埋められました」


「そこに電車はあるか」


「たしかあったはずですよ」


「じゃあもう一つ。誰がどうやって埋めた」


「能力者を奴隷の様に使って…一週間ぐらいで埋めたって聞きましたけど…あ!でも一部埋めてない通路もあるらしいです」


「分かった。今から地下鉄のホームに行く」


「え?急になんですか」


「時間があまり無いのに残っているかも分からない場所を目指すんですか」


ニアは今までに無い程真剣な面持ちでいつもより低い声で訊ねる。だが素戔嗚は笑いながら大丈夫だと安心させようとする、ニアは納得できずあると思う根拠を引き出す。


「どれだけ奴隷の様に扱おうと一週間で完璧に埋めるのは無理だ。だったら作業箇所を削って埋めないで放置した場所があるはずだ。ただ削りすぎると基盤が崩れて崩壊する。だったらどこを埋めないか、まぁ普通に考えて『電車とレールの間』とかだろう。そこを入念に探す。」


「…私は嫌です。たとえそこに遺書があったとしても地下鉄を探す事が不可能に近いと思います」


「なぁニア、我らはなんだ」


「え?」


「我らは何者だ」


「能力者…ですか?」


「そうだ!我らは能力者。そして我は降霊術士、降霊術で呼び出した霊には壁をすり抜ける事が出来る種類がいる、分かるな?」


「半…霊」


「我と言えど降霊術士最強格の一端、半霊ぐらいは持っている」


ニアは渋々納得した。そして素戔嗚は安全な位置を生良に聞く、生良は地下通路だと即答した。地下に戻る事に決まったが通路だと人がいるかもしれないので生良とニアで見ててもらう事になった。

地上に出たのは数分間、すぐに地下通路へと戻って行った。生良は少しだけ進んで小部屋の様な場所へ案内した。


「ここなら万が一誰か来ても邪魔はされないでしょう」


「じゃあ始める。今は何時何分か教えてくれ」


ニアは携帯を取り出し時間を確認した。


「十五時五十分です」


「ありがとう。じゃあお前らは小部屋の外で待っててくれ。後十六時になったら教えてくれ、なかなか気づかないだろうから殴ってでも教えてくれ」


「分かりました」


ニアと生良は小部屋から出て素戔嗚は小部屋で地面に何かを書き始めた。それは魔法陣のような紋様だ、その紋様に手を翳しながら唱える


『降霊術・陣・鳥』


唱え終わると魔法陣のから半透明の目白が現れた。素戔嗚はその半霊に右手をかざし左手を自分の心臓に翳して再び唱える。


『独術・委託』


素戔嗚は目を閉じがっくりと、まるで死ぬようにして動きを止めた。目白はそれを確認してから壁をすり抜け地下鉄を探しに飛んでいった。



[素戔嗚視点]


『独術・委託』は素戔嗚が生み出した霊術である。呼び出した霊に自分自身を憑依させ思い通りに行動できる。今回は壁や地面を通り抜けながらスムーズに移動できる半霊の鳥霊を選び委託を行なった。現在の素戔嗚は目白視点で動いている事になる。


(何も変化がないな…ただ暗いだけだ。まともに操作できるのは十分、そのうちに見つける事ができなければ明日に回すことになるがここに無かった場合残り七日間ということになる、最悪の場合も考えて…いや考えなくていいか)


ただひたすらに音や光を探り飛び回った。だが五分経っても見つかる気配すら無く少し素戔嗚は焦り始めた。


「(後五分程度…何かヒントがないと見つからない気がするな…だからと言って情報があるわけじゃない…何か情報はないか…?考えろ。本体の地上からの深さは大体35m、現在が何mかが分からない。じゃあ我の体からどれぐらい離れた?分かるわけが無いな。じゃあやれることはただ一つ、無闇矢鱈と飛び回り無かったら終わり、あったら勝ちの賭けをするしかない。ただこのままとんでも意味がないからスピードを二倍にするか…だがそれをすると残り時間は約半分となる結局は変わらないがその後のケアがしやすくなる…やろう、失敗したらその時はその時だ。行くぞ!)」


目白のスピードは今までの二倍となり地下の土をものすごいスピードで飛行している。残り二分以内に見つけることができなければ明日再び探すことになる。そして地下鉄が無かったら遺書が見つかる可能性はゼロに近くなる、ここで地下鉄を見つけ遺書を発見しなくては詰みに近いのだ。

一分走行したが見つかる気配はない、ほぼ諦めたその時ある考えが頭をよぎった。

(地下通路の深さは何mだ)

よく考えれば気にしてもいなかったが梯子を使わないと怪我を負うぐらいには深かった。素戔嗚は気づいた、そして霊をすぐさま本体へと還らせた。



素戔嗚が目を閉じてから十分が経った。ニアは素戔嗚を起こすため小部屋に入ろうとする、すると小部屋からは鼻血を出した素戔嗚が出てきた。


「大丈夫ですか!?」


「あぁ。それより分かったぞ」


「本当ですか?」


「うむ。地下鉄はここだ」


「は?」


「ここは地上から約40m離れている、そして地下鉄には埋めていない場所があるのだろう?だったら埋めていない場所はここだ!」


「でも列車はどこに?…」


「ここだ」


素戔嗚は真横を指差し言った。そして窓や扉などは土で埋めてそのまま通路として利用しているのだろうと言う。だが二人は半信半疑と言ったところだ。そんな二人を見た素戔嗚は証明する事にした、そして地面を力強く殴る。すると拳は土を掻き分け鉄に当たる音がした。


「本当に…」


「ありますね」


「今から刀で穴を開けるからそこに生良の兎を入らせて取ってきてくれないか」


「分かりました」


「じゃあ開けるぞ」


刀を抜き先ほどの拳とは比にならないほどの力を入れ車体に突き刺した。すると刀は貫通し車体に小さい穴が出来た。その穴には生良の兎は入ることが出来ない、なので刀を一度抜いて型抜きのように刀を刺していき四角形の穴を開けた。


「これならいけるだろう」


手で兎を作り唱える。


『降霊術・神話霊・干支兎』」


小柄な兎が一匹現れた。生良はその兎に遺書を取ってこいと命令した。兎は頷いてから穴に飛び込み遺書を探しに行った。

その場の空気は重く数分の待ち時間が何時間とも思えるほどだった。五分ぐらいが経って兎が戻ってきた。生良はすぐさま遺書を持っているか確認した。


「どうだ!?」


生良は目を見開き薄く笑いながら振り向いた。その手には一通の封筒を持っていた。


「あります!」


「よし!」


「じゃあニアさん。読んでください」


生良は封筒をニアに手渡した。ニアはゆっくりと封筒をあけ中に入っている紙を取り出した。そして少しずつ紙を開きフラッグ・フェリエンツの遺書を読み始めた。


『ニア、ルーズ又は生良かもしれない。誰が読もうと私は死んでいるだろう。私はある者と揉め何の罪もない一般人を多数殺害し挙げ句の果てには街まで破壊してしまった。私はバレないように地下鉄で寝泊まりしている。そんなことはどうでもいいな、私は許されざる行為をしてしまった。そんな人物の子供なんて殺されてしまうと思い先読みしてニアとルーズを平山さんの島へと送った、本当はそんなことなどしたくなかった、だがしょうがないのだ。これを読んでいるのが私の子供だったとしたら私を憎め、彼女を護れなかった私を死ぬまで憎め、だがお前たちには一人一人言いたいことがある。今からそれを書こうと思う。


ルーズへ

これを読んでいるのがルーズだったらお前は生徒会役員か優秀なチームのメンバーとして遠征をしているのだろう。どうだニアは元気か?お前の家族はニアしかいない、同じくニアにはお前しか家族がいない。島に送る直前に言ったがお前が親になってやってくれ。本来は私がするべきだということは重々承知している。だが私は重大なミスを犯してしまった。今ニアを守ることができるのはお前だけだ、どうかニアを守ってやってくれ。


ニアへ

ニアお前は今何歳だ?中等部か高等部か?そんな事を聞きたいが快く答えてはくれないだろう。なんせニアからしたら私やクレールは兄と自分を島に捨てたクズ、としか考えられないもんな。

ニアは私たちの顔など覚えていないだろう。物心がついていないお前をルーズと二人にしたくはなかった、ずっと一緒にいたかったが私たちはどうやっても一緒にいることは出来ない。私は明日生良と言う少年に殺してもらう、自分では死ぬことが出来なかった。不甲斐ない、こんな私の最後の願いを託す。ルーズに伝えてくれ「お前は立派だ」と


生良へ

本当にすまない。私の死に十歳の少年なんかを巻き込みたくなかった。だが君以外に今の私と関わってくれる人がいなかったのだ。本当にすまない。

最後に生良は私を殺したと言うことでTISという能力者集団に追われることになるだろう。最後の最後まで迷惑をかけてしまってすまない。そのTISは現在少数精鋭と言う言葉が似あう集団だが確実に力を付ける、その中で警戒すべき人物を三人教える。一人目が…』


名前を声に出そうとニアが口を開けた瞬間ニアは腹部に違和感を覚える。その違和感を確かめるべく腹部を見てみるとそこには背中から突き刺さる刀があった。その刀は血で染まり次第に純白のワンピースに血の染みが出来始める。

刺さっている事を確認した瞬間に刀はニアの腹部から抜かれた。その傷痕からは血が溢れ止まらない。ニアは何も言うことが出来ずに気を失い倒れた。


「え…?どういう?」


ニアが握っている手紙をひったくり軽く目を通した後、手紙を刀で目に見えないほど粉々に切り裂いた。


「なん…で…」


「全くあのクズは印象を下げた上にあの方達の名前までも…」


刀をニアに刺し、手紙を切り裂いたのは他の誰でもない。

ニアを見下ろし返り血で紫の髪が赤い色に染まった大男、数年間エスケープチームで汗水垂らし努力を重ね、嘘と言う仮面を被り演技をしてきた男、そいつの名は

『杉田 素戔嗚』



第三十三話「遺書」

2023 8/17 改変

2023 8/17 台詞名前消去

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