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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
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第三百二十四話

御伽学園戦闘病

第三百二十四話「花月」


「やれるか?智鷹」


「僕のセリフだよ、それ」


「ならば行くぞ、佐須魔が来るまででいい、時間を稼ぐ」


二人の額には冷や汗が浮かんでいた。二人共分かっていたのだ、ここで馬鹿正直に戦ったら殺されると。もう薫と対等に戦えるのは佐須魔しかいない、気迫と霊力だけでそう感じ取った。

すぐに構え、容赦などしない本気の先手攻撃を仕掛ける。


『呪詛・螺懿蘭縊』


天井が破壊され、蘭が降りて来る。だが薫は唱えた。


『人術・上反射』


「無茶だろう!上反射如きで跳ね返すのは!」


その通りである。上反射は本人の練度に強く依存している、あまりに力の差が激しい場合のみに限り反射が出来ず、突破される場合があるのだ。

しかも上反射という基礎的な反撃術、呪や術式などの高度な派生術ならば分かるが、人術などでは到底無理だろう。だが來花の頭の中にはこのまま螺懿蘭縊で攻撃出来るビジョンが全く浮かばなかった。

薫の頭上に現れたバリアに何か異変があったわけでもない、何か特殊な術で強化しているわけでもない。ただ奥底から溢れ出る本能的な恐怖、知っている、これが何なのか。


「怜雄に…会ったのか…」


ふと零した直後、螺懿蘭縊が上反射とぶつかる。すると物凄い爆音を立てながら螺懿蘭縊が崩壊し、來花にダメージが跳ね返って来た。


「大丈夫かい」


「あぁ、問題はない。ただあれは…どうするべきだ」


「いやーきついねー。怜雄が来てる事自体は知ってたんだけど、まさか遭遇しちゃうとは…」


「そんな怖いのか?怜雄が」


「怖いも何も無いだろう。お前はあいつがどんな存在なのか知っているのか」


「知るかよ、ただ力を貸してくれた男ってだけだ」


「そうか…ならば教えてやろう。あいつは人類史における最重要人物だ、一番最初のアンスロであり、能力者でもある。神が直々に一から作り出したために、我々とは根本から違う力を隠し持っている。普段はその面影すら見せないがな」


「んじゃお前らは俺に怯えてるって事で良いんだな。やっぱ大した事無いじゃねぇか。行くぞ」


智鷹は來花の背中に隠れ、來花は術で対抗しようとする。だがそれも無意味になってしまうだろう。


『降霊術・神話霊・ガネーシャ』


二人の顔色が変わる、青ざめた。数年前に排除したはずだ、神話霊の中でも最強格、紗里奈と共に。


「口言か…」


そしてすぐに防御の策が無い事を悟る。ガネーシャは破壊と再生を司る神、その破壊は神の力である(レジュメント)に酷似しており、物体や術で防御するという概念さえも破壊して来る故に回避するしか方法が無いのだ。

あまりにも強いため卑怯ながらも不意打ちで紗里奈ごと消し去った。あそこからTISに命運が傾き始めたのだが、遂にやって来たのかもしれない、帳尻合わせが。

大きな象の神は鎮座したまま動かない。薫が指示を出した。


「やってくれ」


するとガネーシャは右手を振り上げた、そして振り下ろしたその瞬間だった。廊下が崩壊した、本当に音も立てず崩壊したのだ。二人は螺懿蘭縊によって破壊された天井から上に抜け、一旦距離を取ろうとする。


「逃がさねぇよ」


だが薫本体も同じ様にして上って来た。智鷹が両手の機関銃をぶっ放すが、全て手で弾かれた。異常なまでの身体強化、反射神経と硬度があり得ないレベルまで跳ね上がっているようだ。

もう智鷹は使いものにならない。不意打ちは出来ても、正面から戦っても時間を稼ぐ事は愚か、精々生き残る事に全神経を使う事になってしまうだろう。


「次だ、ガネーシャ」


その瞬間、二人が立っていた地面は崩壊し、落花する。そしてその真下には鎮座しているガネーシャの姿があった。ガネーシャ自身に触れるなど言語道断、絶対にやってはいけない。


『呪・自身像』


自身像に二人の体を押し出させ、何とか避けた。劣勢も劣勢、時間稼ぎも出来ないだろう。何故なら遭遇してから経過時間が十秒、この時点で二人の呼吸は荒れ、死が間近に近付いている事を肌で感じ、完全に逃げの姿勢になってしまっている。

ただ仕方の無い事だ。当然と言ってしまえば当然、恥じる事ではない。そう正当化しようとも、体が勝手に逃げてしまう事を否定する事など出来ない。

奮い立たせようとしても、体が抑えつけられている。圧倒的な強者の存在によって、まるで両手を拘束されながら自身の体の数倍もある岩を背負わされているようだ。

今にも倒れてしまいそうな、そんな雰囲気が漂っている。


「智鷹…」


「良いよ、どうせ回復してくれるさ」


もう智鷹は役立たずだ、そう感じたので使う事にした。仕方が無いだろう、こうでもしないと攻撃すら出来ないのだから。


『伽藍経典 八懐骨列』


コトリバコの力を使った伽藍経典。十字状の二連撃、回避する方法は無く、砂塵王壁のようにそれ専用の術で防御するしかない。薫は恐らく存在を知っていても専用の術を作るまでには至っていないはずだ。

なので智鷹を捨ててでも、決める。


「あー悪いけどそれ効かないんだわ。何でかって?気が遠くなるほど、くらったからな」


何も起こらない、何も。いや違う、智鷹とガネーシャには攻撃が入った。だがガネーシャは瞬時に再生し無傷、智鷹は気絶した。なのに薫には何も起こっていないように感じる。

現代の呪使いで最強である來花ならば理解は容易だ。だがそれと同時に、最悪の結末も視界に飛び込んできてしまう。


「耐性か…」


「そうだ」


呪には耐性がある。これは天仁 凱が作ったものではなく、(かみ)が作ったものだ。天仁 凱の呪は非常に強力で神殺しをも成し遂げてしまう潜在能力がある。なので作り上げた本人が知らぬ内に弱点を付与しておいたのだ。耐性という弱点を。

具体的には同じ術をある一定回数くらうと完全に無効化する事が可能になるのだ。そしてその回数というのが実に"三億回"である。現実的ではないし、人間では生涯をかけても到底不可能な回数だ。

それもそのはず、これは基本神以外に使えてはいけない効果だからだ。だが薫は使った、それも神が滞在するエリアにいながら。


「佐須魔にはどうせ意味の無い効果らしくてな。別にお前らの事は何とも思ってないらしいから備えさせてくれたぜ、良い事教えてやるよ。俺には呪、呪術、呪詛、そして伽藍経典。全ての呪が、無と同じだ」


絶望なんて言葉では表せない。今まで來花は死の恐怖というものを感じたのが二度しかなかった、佐須魔との殺し合い、そして京香と出会った日。だがその二つでも感じた事の無かった不自然さ、それが何なのか、ようやく理解出来た。

狂気だ。二人共真剣に來花を殺そうとしていた、だが薫だけは違う。笑いながら、まるで復讐でもしているかのように笑いながら攻撃をしているのだ。そして手加減している、ガネーシャの本気はこんなものではない。

だがここで即殺してしまっては佐須魔が駆け付けるまでの数分が退屈になってしまう。なので手を抜き、暇を潰している。現代では最強の一角である來花を、退屈凌ぎの道具として扱っている。


「…ならば、こうするまでだ」


『覚醒 内喰』


「強覚醒か。ま、敵じゃないけどな」


口黄大蛇が現れ、薫の方を向く。だがその瞬間、内喰いは解除された。


「何!?口黄大蛇!」


怖れた。あの時と同じ雰囲気を感じてしまったのだ。千年以上前、天仁 凱が口黄大蛇の討伐に向かい、怜雄の実力を確かめたあの日の事を。瀕死にまで追い込まれ、生死の境を彷徨ったあの日を思い出し萎縮し、逃げ出そうとしたのだ。

もう來花に策はない。干支神二匹でどうにかなる相手では無いし、そもそもあの二匹は傲慢なのですぐに逃げ出すだろうから頼りにはならない。

だが、もう大丈夫だ。戦闘が始まってたった一分、駆け付けた。


「お前か、やったのは」


智鷹の傍に立ち、怒りをふつふつと煮え立たせている。


「いや違う。來花が勝手にやった」


「お前だろ、言い訳は聞きたくない」


「だから違うつってんだろ。やっぱ馬鹿だろ、お前」


「馬鹿はどっちか、教えてやる」


佐須魔が来た。そしてそれと同時に、紫の炎が、右眼に灯った。


「一丁前に菫眼かよ。嬉しいなー弟の成長を感じられた。でも残念だ、お前が学園(こっち)側じゃない事だけが、ただ残念だ」


そして対抗して燃え上がる、紫の炎。


「來花はもう良いよ、後は僕がやる。智鷹を連れて逃げろ、周囲に誰かいたら連れて逃げろ」


そう言ってゲートを生成した。すぐに霊力探知で周囲に誰もいない事を確認し、智鷹を抱えて飛び込んだ。そこは既に二人だけの空間、ガネーシャも一旦引っ込めているので誰もいない。


「行くぞ、クソ野郎」


「あぁ、来いよ」


『唱・髭切』


『唱・蜘蛛切』


いつかの襲撃の時のように、両者刀を掴んで突撃する。だがあの時とは全く違う、二人共の気迫はまるで別人のように変化し、力も数倍だ。

物凄い音を立てながら鍔迫り合いを繰り広げる。恐らく誰の目にも止まることは無いだろう速さで、二人共完全な脊髄反射のみで対応する。


「言っとくけどもう俺は負けないぞ、お前を殺す」


「僕と違って学園生活なんていうしょうもない事に時間を使ってた奴にそんな事言われるのは、心外だ」


佐須魔は全く笑っていない。ただ怒りに身を任せ、攻撃を行っている。そして鍔迫り合いは完全に互角、攻守を一手ずつ入れ替えている。

これではいつまで経っても決着はつかないので両者距離を取り、別の方法も試す事にした。


『降霊術・神話霊・ラー』


『降霊術・唱・人神』


ラーとロッドが出現した。


「えー!?私あんなのとやりたくない!!」


「良いからやれ、命令だ」


普段とは違う佐須魔に少し危機感を覚えたロッドはすぐに攻撃を始めた。


『漆什弐式-伍条.衝刃』


その刃は他の誰もが使う衝刃とは一線を画す威力だった。回転をかけながら、ラーに向って飛んで行くその刃。だがその規格外の力を以てしても、敵わない敵。


『消えてくれ』


ロッドは消滅した。


「言霊!?マジかよ、ロッド返すのとか…700はかかるだろ、最低でも」


「あぁかかった、778ぐらいな。だが問題ない、仮想世界(こっち)にいる時の俺は、霊力が無限だ」


神の寵愛、佐須魔にはあってないもの。そして感じる、格差の壁。だがそれと同時に、ボルテージが上がって行く。


「そこまで強くなったんなら…良い相手になりそうじゃん」


いつもよりは控えめだが、笑った。そしてそれと同時に、胎動が始まった。紫の変貌、度重なる修練と苦痛、回想。鑑みる間も無く変化した、力の最極端。

來花がくれた、最後の力。


「…そうか、お前も、そこまで言ったか…」


何処か悲しそうな薫の声は、もう届かないだろう。碧眼隻眼と同じ、菫眼の先。名は[神眼(しんがん)]、神の眼。白い炎を放ちながら、人間の全てを引き出す、限界の限界。


「もう俺は、お前を助けるつもりはない」


だが薫の心はもう揺らがない。両者の心は、果てなき元まで進み続ける。


覚醒(かくせい) 花月(かげつ)


内喰いと同じ『強覚醒』。ただ佐須魔のために作り上げた、薫最後の最高傑作。

炎は消え、空に舞う。まるで花畑のように美しく、昇る。そしてその霊力達は一点へと集合し、一つの物体へと変化する。


「さぁ行こう、紗里奈」


花が舞い、月が呼ぶ。

花月の如し、空の華。



第三百二十四話「花月」

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