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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
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第三百二十三話

御伽学園戦闘病

第三百二十三話「遺品」


「なんであんたがいんの、智鷹」


「いや~みんなより先に起こしてもらったのさ、どうせ地獄なんかにいても面白くないからね。流は残るらしいけど」


「…どうする、ベロニカ」


正直智鷹は未知数と言うべきだ。銃を扱う以外の情報が全く無く、複数持ちなのか、覚醒や戦闘病を使用できるのかさえも完全に不明。

二対一とはいえ自信満々で出て来た以上何か策があると読むしかない、そうなるとここで戦うのは非常に分が悪い。シウに結界を頼んでも勝てるかは不明だ。


「あなたに言葉は通じますか」


ベロニカはおそうじ対象を智鷹にしてモップを手に取った。脅しだ。


「どうだろうね~」


「ならば交渉しましょう。私達はあなたと戦いたくありません。あなたも情報を持って行かれるのは嫌でしょう?ならば…」


「勘違いも甚だしいね~僕が出てきた時点で、君らは何の情報も落とせず死ぬのさ」


銃口を向ける。二人は瞬時に戦闘体勢に入ると共に、『阿吽』を使用して誰でも良いので情報を共有しようとする。だがその時だった。


『呪・封』


能力が使えなくなる。だがそこは問題ではない、声が聞こえた。広域化での能力封じではない、近くにいる。すぐに振り向く、するとそこには來花が立っていた。

挟まれた、三獄に。


「お疲れ」


それでも諦める事はしない。何か逆転出来る手段があるかもしれない、そう信じて。ただ能力は使えないので完全に身体能力だけで戦わなくてはいけない。

一方智鷹は銃、來花は呪と干支神を使用できる。数秒後首が飛んでいても全くおかしくない状況だが、一応凌ぐ事は出来る。封は能力や術、霊力を使用した技術さえもが全て使えなくなるが、そんな状態でも戦闘に貢献出来る特殊な物体がある。


「死ぬ間際に使えって書いてあったけど…良いよね、ここで」


「えぇ。使う前に死んでしまったら元も子も無いですからね」


二人はポケットから小さな球体を取り出した。そして球を強く握り、潰した。次の瞬間球からある物が飛び出して来る、それは武器だった。

虎子にはコンタクト、ベロニカにはモップだった。これは真波の遺品である。大会直前、どんな気持ちで作り上げたのかは分からないが遺書にはこう書かれていた。


死ぬ時に潰して。それぞれに必要な物が内包されているから。


そしてそれはどんな場合でも扱えて、相当な強化になる武器だった。意図を瞬時に把握し、虎子は片目分しかないコンタクトを利き手側の目、右眼にはめた。

ベロニカは封によってモップが消えたので、代わりに飛び出したモップを持つ。


「あーあの"アンスロ"ちゃんの事ね」


「何、アンスロって」


「簡単に言えば神に作られた世界のバランスと保つための調整役さ。空十字 紫苑、鹿野 真波、あと怜雄とかもそうだったはずだね」


「…どう言う事?真波が人造人間って事?」


「そう言う事。まぁでも蒿里に殺されたけどね、アンスロの中でも相当弱い部類だよ。実際今の紫苑なら蒿里なんかには負けないからね」


「ほーん、んじゃ殺すね」


二人が動き出した。虎子が智鷹、ベロニカが來花の方へ走りながら。


「マジ?一対一とか、バカすぎでしょ~」


普通に考えて片方の攻撃を避けながら二対一の盤面を作り出す方が良いだろう。だがそんな事はしない、何故ならこの遺品があるからだ。ただ三獄の二人もそれがどれほどの脅威性を持っているかは理解している、元々は佐須魔が持っていた能力を真波に渡したからだ。

だからこそ知っている、その付与効果の弱点と言うものを。


「残念だが、それは通用しないぞ」


能力で生成された物体は、幾ら時間が経とうとも能力で生成された物に過ぎない。当然封の対象内であり、結局はただのモップになってしまう。あまり殺したくは無いが、ここで生かしても良い方向には傾かないだろうと判断した。

突撃してくるベロニカに向って唱えた。


『呪・自身像』


現れた少年。鈴でモップに対抗する。ほぼ確実に少年が勝つだろう、力勝負も負ける未来は見えてこない。最悪の場合は重力を使ってから伽藍経典を撃ってしまえば良い。少なくとも八懐骨列は学園側に広まっているのだから。

この後の事を考えていた時だった、鈴の音が止まった。もう勝ってしまったのかと顔を上げる。それと共に驚愕した、自身像の胴体と下半身が別れている。


「強いですね、このモップ。鋭いです、持ち手とかないので痛いですけど」


そう言いながら突っ込んで来る。


『降霊術・神話霊・干支馬』


瞬時に盾を呼び出し、距離を取った。だがその干支馬も一瞬で殺された。


「どう言う事だ、それは能力で生成されたもの、封を使っていればただのモップに…」


「私達は知っていました。いつかは忘れましたが、美琴さんの能力で色々試していたのです。そして真波さんが作り出した機械の特殊な力も停止するのか、と。

四葉さんの心臓の件もありますし、そこは判明させるべきだと思ったのです。結果は正常に動きました、なのでこれも同じです。封や霊力操作が出来なくとも、実質的に普段の能力者と同じ程度の戦いは出来ます」


「…そういう事か。美琴が未熟だったは考え難い、本当に厄介だ。死後も私達の邪魔をしてくる、アンスロというのはどこまでも厄介だな」


そう言いながら來花は目を瞑り、集中する。ベロニカは何をしてくるか理解し、速攻で突っ込む。詠唱を中断させれば相当なダメージが來花への反動として向かうはずだ。そこを起点として畳みかける。


『伽藍経典』


そこまで言った所で既にリーチ内、モップを振り上げた。だがその時、來花は目を開き、思い切りベロニカの腹部を殴った。ただ中断したので來花にも相当なダメージが入った。


「お相子、と言った所だな。やられるぐらいなら相打ちにするさ、私はそう言う能力者だ」


「そうですか、ならば反撃も相打ちも出来ない程に、スパンを縮めます」


一気に速度を上げる事にした。日々の訓練は欠かさなかったが、元々ベロニカの体は貧弱寄り。右眼は昔から潰れているし、紀太との戦闘で体もボロボロ、正直ろくなスピードは出ない筈だ。だがそこで役立つ真波の機械、そのモップに付与されていた効果は『速力増加』だ。


「行きます」


見違える速度で距離を詰めた。だが來花にとっては大して速いとは感じなかった、刀迦の足元にも及ばない。すぐに唱える。


『呪・瀬餡』


ベロニカの足が沈む、まるで沼にハマったかのようにして。だが來花が回避はしていないのでそのままモップを振り下ろした、モップは右肩へと直撃する。

まるでヤスリのような痛みを促すモップは來花の右肩に、弾かれた。普通ならば肉を抉るようにして食い込むはずだ、なのに弾かれた。驚く間もなく優秀な体術でモップを手から落とされ、無防備な状態になってしまった。


「その特性を持つ者の攻撃は、人外には効かないのだよ。私は最近完全に人をやめてしまったようなんだ、だから今の君達に私を殺す方法はない。使わせないさ、能力は」


やはり間違いだった。良く分かっていない真波の特性を利用した武器を、良く分からない特性を持っている來花へ使う事が。しかも相手はその特性が何かを知っていて、相性のようなものまで理解しているらしい。

明らかに不利、逆転など最初から出来なかったのかもしれない。そう考えながらも、虎子の方を見る。


「も~当たらないな~」


虎子は連射される弾丸を全て避けていた。発動しているのだ、効果を。コンタクトの効果は二つある、だがその一つは封をされている状態だと発動出来ない。そんな事は知らないので、『反射神経増加』という効果のみを発動していた。

その効力は凄まじく、フルパワー拳やファルなどを超えるレベルに増加する。銃弾なんて簡単に避ける事が出来てしまう、こうなると智鷹など敵ではない。

封が溶けるまで時間を稼ぐ事が出来れば狐神を出して一網打尽だ。


「当たんないよ!そんな銃とか!」


「う~ん…すばしっこいな~どうしよっかな~……そうだ、こうする」


今までは左手で撃っていたが、右手も上げた。だが右手は普通の手だ、何をするのか分からなかったが智鷹が能力を発動した。その瞬間、右手は機関銃へと変化した。

そして左手もただのライフルだったのが機関銃へと変化した。一気に二つの機関銃による弾幕を浴びせられることになる、その時虎子は悟ってしまった、反射神経じゃどうにもならないと。

まだ能力は使えない、精々三発程度ならくらっても何とかなるだろうが、視界に埋め尽くされていく銃弾をたった三発の被弾で避け切るなんて事は不可能だ。


「…ヤバ…」


ベロニカは動けないどころか流れ弾をどうするか考えなくてはいけない。真波の武器だけではどうにもならない、少し考えが甘かったのもあるが、それ以上に封が強すぎた。

死ぬ、二人がそう思い、覚悟を決めた。だがその時、廊下全体に響く声。


『パラライズ』


焦っているのか少し声が裏返っていたが、そのおかげで全員の動きが止まった。銃弾の雨は大きな"手"によって防がれた。その二人は少し遠くから走って来ている。


「えー…めんど~」


パラライズとハンドだ。二人はそこまで近い場所にはいなかったが、携帯に付いているGPSを利用して迅速に合流した。そして周囲で戦闘音がしたので駆け付けたのだ。

とても運が良い、ここで三獄二人に重傷を負わせる事が出来れば実質的に取締課の力を証明する事ができ、半年間は現世での行動を封じられるだろう。半年、非常に重要な期間なのでTISの動向で学園側の能力者に無駄な心配をかけさせたくないのだ。


「來花、撤退だ」


「ん~しょうがないね~」


二人が逃走しようとしたその時だった、取締課の二人がいない方、逃げ出そうとしている方から足音が聞こえた。ここの通路はは少しだけ長い、そして鉄製だ。

ほんの少し遠く、光に当てられたその人物の姿を目に映された。その瞬間、智鷹はニヤリと口角を上げ、來花は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

学園側の四人も視界に入れた瞬間、驚きで声が出ない。そいつは武具か何かであろう短剣を投げて、キャッチしてを繰り返しながら近付いて来る。


「なー教えてくれよ來花、智鷹。なんで俺がお前らみたいなゴミに遅れを取ってたのか」


「マモリビトは今回出さないって言ってたんだけどな…」


「なぁ、答えてくれよ。それかなんだ?そんな事も分からず、俺らを殺そうとしてんのか?言っとくが俺はもう、お前らに負ける程の雑魚じゃないぜ」


「遅れを取っていた理由か、私は分かるさ。だがそれを自分自身で考えられない時点で、教える意味もないと、そう思う」


「そうか。んじゃやるか、佐須魔は後回しだ、あいつはクソバカだからな。色々言ってやりたい事もあるんだ……まぁ何より、楽しそうじゃん」


笑った。ハンドは危機感を覚え、三人を手に乗せて速攻で逃げ出した。非常に賢明な判断だ、今のこいつは全く手加減などしないだろう。何故なら戦闘病を発症しているからだ。

最強に戦闘病を被せるとどうなるか、予想しなくても分かってしまう。ここら一帯は吹き飛ぶだろう、なので全体へ向けて連絡をしておく。


『來花、智鷹が戦闘を開始!音が聞こえたり危なさそうだったらすぐに退避する事!相手は戦闘病を発症し、非常に強くなった"薫"です!!』


その瞬間皆の心に、電流走る。



第三百二十三話「遺品」

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