第三百二十二話
御伽学園戦闘病
第三百二十二話「崩れ始め」
「嫌いなのですがね…勝つ為には覚醒も仕方無いのではと、考える様になったのです。そして僕の覚醒は単純な強化、『覚醒能力』でも身体能力の大幅な向上でもありません。知っているでしょうが、単純に触手の生存能力が力が増します」
「黙れ、選べと私は言った。完全死か、地獄行きか」
「だから言ったでしょう。僕は死なず、あなたが完全死に陥ると」
「話にもならない。ならずっと苦しめ、地獄に落としてやる」
信じたくは無いが、現状では躑躅が殺されて喰われたとしか判断できない。怒りを燃やす四葉の速度は凄まじいものへと変化していた。速いなんてレベルではない、瞬間移動とも勘違いしていしまう程だ。
だがそれぐらいなら対応出来る。接近して来た瞬間背後に移動し、立体起動で距離を取る。これを行っていれば変な対策の手を打たれない限りは何とでもなる。
ただそれがずっと続けられるはずもないだろう。出来るだけ急いで策を練るべきだ。触手を使った戦闘の幅は広い、だが四葉となると話は変わって来る。
人間の限界にも近しい力によって触手は全て千切られ、生命力が高まった故に本体のシャンプラーと離れても動けるが、それも通用しないと予測出来てしまう。
正直こんな場所で戦いを挑んだのは失敗だったかもしれない、そう小さな後悔を挟みながらすぐに思考を回す。
「考えさせないに決まってるでしょ」
その瞬間、思考によるほんの一瞬の緩みを見逃さず距離を詰めて来た。すぐに背後に移動し回避を行おうとしたが、少しだけタイミングが遅かったのか強烈な痛みが体に残ったまま背後に移動し、距離を取る事となった。
こうなるのであれば最初から反撃しておいたほうがマシだったかもしれないと結果論を頭に浮かべながら、今度の攻撃はしっかりとかわせる様油断はせず、思考を回そうとする。
「だから、させないって言ってんじゃん」
予想外、先程よりも速くなっている、明らかに。そして四葉の顔を見て気付く、非常に苦しそうだ。まさかとは思ったがそれしかないだろう、四葉は現在人工心臓で何度も何度も死にながら、攻撃を行っている。
毎秒何回死んでいるか自分でも数えられないだろうに、そこまでして殺意を向けて来る理由がシャンプラーには到底理解出来なかった。それもそのはず、シャンプラーには友達と言える友達などいないので、友を傷付けられた時の怒りや悔しさを知らないのだ。
「死ねよ!!」
その声と共に、気が遠くなるような激痛を伴い、壁に衝突した。すぐに立体起動とフィジカルで逃げ出そうとしたが間に合わず、首根っこを掴まれてそのまま膝蹴りをくらわされた。
文字通り内臓が飛び出そうになったが、触手を無理矢理口に押し込んで抑えた。最早それで良いのかと当人も疑問になってくるが、まぁ大丈夫だろう。
「結構やりますね…」
だが血は止められず、相当量を吐いてしまった。それを見た四葉は自身が優勢なのだと察知し、更に攻撃を激しくしようとする。だがその瞬間だった、唐突に心臓がドクンと音を立てる。
普通ではない、明らかに何か死に近付いている音だ。すぐに人工心臓を停止し、連続での死亡を止めた。単純に体に悪いからなのか、そろそろ心臓にガタが来ているのか、どちらかは分からない。
だがそんな事ここでは関係無い、先に殺す。
「悪いけど、殺させないよ」
背後からの一声、聞いた事が無い女だ。すぐに誰なのか予想が付き、逃げる様にして距離を取った。
「そんな爆速で逃げる事は無いでしょ、私如きに」
「譽…あんためっちゃ強いでしょ…能力もあんま良く分かってないらしいし…怖いんだよね、ちょっと」
「あっそ。じゃあ早くどっか行きなよ」
「…じゃあそうさせてもらうわ。そいつから話を聞くだけ聞いてね」
すると譽は少しだけ驚いた顔をしながら、普通の会話で何があったのかを聞き出した。そして躑躅が喰われたのだろうと言う事を聞いた後、シャンプラーの方を向いて命令した。
「吐き出せ」
「…え?折角一人…」
「吐き出せって。強制的に吐き出させるぞ」
「…分かりましたよ」
何故重要幹部はこんなにも身勝手な人が多いのだろうと内心苛立ちながらも触手に命令する。
「吐き出してください」
すると触手の一本が躑躅を吐き出した。消化中だったのか服は少し溶けているし、何なら肉も少し溶けている。薫はシャンプラーの事を死体処理班と称していたが、初めて意味が分かった。
人をも溶かしてしまう程の酸性を持っている口、しかもサイズは明らかに躑躅の方がデカいので口の中は四次元空間か何かなのだろう。そう考えると何でも飲み込めて溶かす事ができるという相当優れた能力と言う事になる。
躑躅をすぐに回収し、逃げ出そうとしたが、少し気になった事があったのでついでに聞いておくことにした。
「なんでメルシーの力が使えたの」
「教える義理は…」
「言えば良いじゃん」
「…はぁ……僕は消化している最中のみ、その人物の能力が使えるんですよ。まぁ消化がどれ程進んでいるかなどはチェックできないので使い勝手は悪いんですけどね」
「ふーん、情報ゲット。んじゃバイバイ、マジで死ね」
捨て台詞を吐いてすぐに走って逃げてしまった。結果としてはシャンプラーは死を回避できたし、四葉は躑躅を回収出来たし情報もゲット出来たのでwin-winだろう。
すぐに『阿吽』で理事長に連絡する。
『四葉 桑です。なんやかんやあってシャンプラーとの戦闘は引き分けで終わりました。ただ躑躅が触手に飲み込まれて少しだけ消化されています、回収は完了しましたし、追手もいません。出来ればファストさん辺りに連れて行って欲しいです』
すると思っている以上に早く返事が来た。
『了解。君の仕事は終わった。すぐに帰って来ると良い、ただしファスト君は向わせられない』
『何かあったんですか?』
『突然変異体の元へ行ってもらっている。優衣君が連絡をくれたのだ、何か異様な空気間が蝶から伝わってくると』
『そうですか…では私は脱出して躑躅と私自身の回復を優先します。それでは』
次は崎田だ。
『崎田ー』
『なに~?もうへとへとなんだけど~…』
『躑躅見っけたよ、帰ろ。私はもう脱出して良いって指示出たから』
『マジ!?やった~!それじゃあ私も脱出しちゃうね~』
『はい。それじゃまた後で』
お次は先程の通話を切断してしまった三人だ。
『帰ったよ』
『ベロニカです。お帰りなさい、安全そうで何よりです』
『虎子。ダイジョブそうだね、どうだったの?勝ったの?』
『引き分け。今はシャンプラーの触手に喰われてた躑躅を連れて脱出してる』
『えぇ!?それ大分ヤバくね!?』
『大丈夫。ちょっと溶けてる程度だから、問題は無いよ。優衣は?』
『優衣さんは現在突然変異体の皆さん、あとシウさんと会話しているそうですよ。何やら変な空気を感じ取ったそうで』
『理事長も言ってた。とりあえず私は躑躅連れて脱出しろって指示が…』
するとその時、一人が合流する。
『咲です……皆さん大丈夫ですか…』
明らかに疲れ切っている咲だ。三人で歓喜し、何があったのかを軽く説明してもらった。どうやら咲は蒼に連れられて以降気絶していたらしく、現在は基地の外で回復が終わり目を覚ました所らしい。
後方支援部隊はファスト以外全員元の位置で待機しているらしく、たまたま出口のすぐそこに飛ばされた生良をどうするか話し合っているそうだ。
『それで少し残念なのですが…先程自分で眼球を破壊したと言いましたよね……あの時に傘牽で破壊したせいで完全には再生できず、視力がちょっとだけ落ちてしまいました…』
『えぇ…咲ちゃん元々目そこまで良くないじゃん…』
『はい…そろそろコンタクトですかね…嫌なんですが…』
母親はそこまでだが、父親の視力が悪い。視力は結構遺伝するという、やはり來花の娘なのだろう。
『とりま私達は特に指示出されてないから合流したんよね。ねーベロニカ』
『はい。なので心配は無用です』
『それは良かったです…申し訳ないのですが眠気が凄いので休んでも良いですか…?』
総意で眠らせる事にした。リイカとの戦闘などどれだけ神経をすり減らした事か、疲労も相当溜まっているだろう。そしてまた三人になり、特に話す事も無くなって来た。
四葉は全速力で出口に向っているが、構造が複雑なので中々出口が見つからない。同じような場所を何度も経由しているので少し頭がおかしくなってしまいそうだが、何とか雑談を正気を繋ぎとめる。
そこでふと、ある話題が出た。
『ねぇねぇ、そう言えばさっきベロニカとも話したんだけどさー』
『うん』
『なんで重要幹部は全員待機してたの?來花と再加入、新人しか居なかったらしいじゃん?何か意味があったんかな?』
『普通に試験とかしてたんじゃない?まぁ、そうだとしたら何を目標にしてるのか良く分かんないけどね』
『そうですね。紀太は私を殺す気は無いように感じました、明らかに手加減をしていたと言いますか…温存?のような感じでしょうか』
『え?そうなの?』
『はい、私も本気は出しませんでしたが…』
『…うーん……もしかしてさ、特定の人物狙ってる説とか無い?咲ちゃんと蒼も結局追いかけられたりしなかったんでしょ?私も結局追いかけられなかったし、試験で誰か殺せだったら譽は梓と私を殺すチャンスがあった。でも殺さないどころか友好的にも見える行動したんでしょ、私達の中である特定の人を殺せみたいな指示か、誰も殺すなみたいなやつじゃないと説明つかなくない?』
『確かにーでもそれだとしたら誰になるの?』
『知らないよ、でも何か気になる所はあるよ。音が無い、戦闘の音が。私出口見つからないから二百回近く死んだ体で全力ダッシュしてるけど、どこからも戦闘音がしない』
『…もしかしてですが…基地の外にいる人を狙っているのでは?情報共有によって既に基地内には目標の人がいないと判明し、無理に戦闘をしていないとかはありそうですが…』
『てゆーかさ、だったら結構ヤバくね?今外にいるのって後方支援部隊のファスト以外、咲ちゃんだけ何でしょ?ある程度戻って来るだろうけど、全員一気に突っ込んで来たら勝てなくない?』
『確かに!!なんかボーっと話してる暇とか無いんじゃない!?』
『そうですね。どうせ私と虎子さんぐらいなら離脱しても問題は無いでしょう。私達はその可能性も考慮して外に出ます。通話は切らず、全力で走りましょう』
『了解』
『りょ!』
この三人が考えた路線、既に基地の外にいる人物が目標。その推測は的中している、この試験にはある指標があった。智鷹は殺害Pと呼称していた、それぞれ殺した人物にポイントが振り分けられており、合計点数が高い者ほど良い報酬を与えるというものだ。
そしてある人物だけは異常なまでに高ポイントだった。特に何の変哲も無い者は1Pなのだが、後方支援部隊の一人、沙汰方 兵助のみが10,000Pなのだ。
だがそれを妨害されては面倒だ。なので出る。
「ん~良い推理だけど、駄目~」
ベロニカと虎子の前に現れたのは、現在蘇生対象の流と刀迦より一足先に現世に舞い降りた最凶の男、[南那嘴 智鷹]だ。
第三百二十二話「崩れ始め」




