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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
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第三百二十一話

御伽学園戦闘病

第三百二十一話「ラッキークローバー」


テレポート後、四葉はひとまず咲との合流を目標にした。昔なら焦ったかもしれないが、遠征を幾度となく行い緊急事態でも大して焦らないようになった。

とりあえず班で集まりたい、まだ封が発動中なので能力が使えない。四葉の能力は日付が変わると強化分はリセットされるので、今日はほぼ生身の状態。まだ重要幹部とやり合える程整っていない状況だ。

だが封が終われば、真波が作ってくれた人工心臓によって何度も死ぬ事が出来て、更に生き返る事も出来る。これさえあれば基本青天井、場合によってはアリスとも渡り合える可能性を秘めている。


「咲ちゃんと合流して…とりあえず優衣は探しておくべきかな、すぐ死にそうだし。躑躅とファルはまぁ崎田先生に任せて……ベロニカも心配だなぁ。ま、大丈夫か。虎子も何とかなるでしょ。梓…梓もヤバいな、早めに合流しよう」


第一優先は咲、次いで梓と優衣だ。優衣はまだ戦闘が出来るが、梓は正直本当にヤバイ。もう死んでいても全くおかしくない、というか死んでいた方が自然だ。

テレポートから五分が経ち、能力が解禁された。瞬時に『阿吽』で理事長と生徒会の仲間に連絡を取る。まずは理事長だ。


『四葉 桑です。大丈夫です?』


三十秒程して返答が来る。皆も連絡を取っているはずなので、多少混みあっても仕方が無い。安心して連絡が出来る様に適当な部屋の隅で固まっていた。


『大丈夫だ。どうやら基地内にいた者が全員ランダムに移動させられたらしい。君は強いから指示はいらないだろう、無理をしないよう、自身で考えて動いてくれたまえ』


『了解です。頑張ってください』


正直指示があった方が安心なのだが、干支組や教師など他に指示を優先すべき人達がいるのは理解している。それに先程の言葉は信頼の証、少しだけ浮かれながらも部屋を出て、咲と連絡を取ろうとする。

だが繋がらない、恐らく気絶か拒否しているのだろう。こうなると探し出すのはほぼ不可能、咲が無茶苦茶をして死ぬ可能性は大いにある。

ただ心配などしていても仕方が無いので他の者との連絡を図る。


『あ!繋がった。こっち四葉、大丈夫そ?』


『大丈夫です~ひとまず私の所には誰もいませんね~そっちは大丈夫ですか~?』


優衣はこんな時も呑気だ。


『大丈夫。とりあえず合流したいからさ、今連絡出来る皆で繋ご』


この二年、『阿吽』は少し進化した。前までは一人一人の個人通話しか出来なかったが、数人ならば同時に通話が可能になったのだ。なので数人で情報を共有しながら探索が出来る、能力版トランシーバーのような事が出来るようになったのだ。

とりあえず生徒会のメンバーに片っ端から連絡を取り、『阿吽』だけでも合流を試みる。結果として繋がったのは四人だった。追加は虎子とベロニカのみ。四葉、優衣、虎子、ベロニカ。


『私全員にかけたけど咲ちゃん、梓、躑躅、ファルには繋がらなかった。躑躅とファルはまぁ気絶してるのがほぼ確定なんだけど、梓が心配。咲ちゃんは多分その内見つかるよ』


『そうですね。私は先程崎田先生と一瞬すれ違ったのですが、躑躅さんとファルさんを回収しに行くそうなのでその二人はとりあえず大丈夫だと思います。

一番心配なのはやはり梓さんですね。能力が戦闘向きではないのに連絡が取れないとなると、今頃どうなっているのでしょうか…』


『まー良いんじゃね?どうせ梓も生きてるでしょ、それより私來花に喧嘩売られたの!でも通用したよ!砂塵王壁(さじんのおうへき)!』


『え~すごいですね~』


『マジ?凄いじゃん、じゃあ八懐骨列は実質無効化みたいな感じなのね。というかそんな話してる場合じゃない、とりあえずみんなで合流しない?』


『あ~それなら私の蝶で先導しましょう~』


『え?何の事?』


『実は生徒会の皆さんにこっそり蝶付けてたんですよ~その子達が私の所まで先導してくれるので付いて行ってください~』


その瞬間、三人の服の中から一匹の蝶が飛び出した。そして付いて来いと言わんばかりに飛び始めた。何故今まで秘密にしていたのかと小一時間問いただしたくもなったが、正直ありがたい。

この蝶に付いて行く事で四人同時に行動が可能になるのなら相当アドバンテージだ。そう思い、通話は絶対に切らずに各々が足を勧めていたその時だった。

シウから全員へ連絡が入る。


『復旧完了!こっちは大丈夫だから何かあればもう直接俺に言ってくれ。猪雄とははぐれたから俺に直接な!とりあえず俺は王座の間に籠るから出来れば一人護衛が欲しい!頼んだ!』


結界が再度使えるようになった。これで戦闘でもアドバンテージを得る事が出来た。ここまでくれば重要幹部との戦闘でも勝機は見えて来る、予想だにしないランダムテレポートによって作戦は多少崩れてしまった。

突然変異体(アーツ・ガイル)の面々がしっかりと嶺緒を回収し、撤退の命令が出るまでは時間を稼ぐついでに重要幹部と戦闘し、実力を測っておきたい所だ。


「…ラッキー」


そう呟き、戦闘体勢に入る。いたのだ、視線の先に。


『私戦闘するね、シャンプラー見つけた。勝てるから、一旦通話切る』


三人の言葉も聞かずに『阿吽』を解除し、理事長へ一言だけ伝える。


『こちら四葉 桑。コールディング・シャンプラーと遭遇、戦闘を開始します』


やはり返事は聞かず、全員からの連絡を拒否する。


「やりますか?あなたが勝つ手立てはありませんが」


「何言ってんの?私が負ける道理なんて世界のどこ探しても見つからないけど」


「そうですか…残念ですね。僕が殺したいのは蝶理 優衣なんですが…あなたも殺さなくてはいけないですかね」


限界は超えず、通常の四本。触手は地味に厄介だ。そこまで速い訳ではないので対処が出来ないわけでは無いが、絡め取られたら脱出するのが難しいだろう。

だがそれも大した問題には成り得ない。四葉にとって相手の攻撃は力の源、死んで死んで死にまくって、その都度生き返り強くなるのだ。


「それでは、行きますよ」


次の瞬間、触手が突っ込んでくる。四本全てに口だけが付いている、完全に攻撃特化のようだ。その時点で意味が分からない、四葉に対しての攻撃とは隙を与えているようなものだ。

だがまだ抵抗はしない、人工心臓での死亡は正直怖いのだ。真波は地味に性格が悪いので計何回人工心臓で死んだら生き返れない等の効果をしれっと付与していそうだ。なので基本的には相手の攻撃で死ぬと決めている、それはシャンプラーからも丸見えの思惑だろう。

なのに攻撃を止める気は一切無い、むしろ激しくなってきた。その時点で何らかの作戦があり、試されているのだと悟った。


「そういう手には…乗らない!!」


ならば先手を打つ。そこまで強化が入っていなくとも突入前に四回程度は死んでおいた、なので屈強な成人男性並みの力はあるはずだ。

突っ込んでは引っ込んでを繰り返す触手を跳ね除けて走り出す。シャンプラーはすぐに二つの触手で立体起動を行い、すれ違う様にして回避した。速い明らかに速い。

以前シャンプラーと戦闘をした事がある者や、外に居た頃追跡されていた咲の情報では立体起動自体は体への負荷のためか大して速くないと言っていたはずだ。

なのに四葉はシャンプラーが既に背後に移動した瞬間に立体起動を使った事をようやく理解した。それは多少の強化が入っている四葉にとってはあり得ない事だ。

元々反射神経が良い方というのもあるのだが、戦場はただの廊下。天井が高い廊下とはいえども自身の横を触手が通り抜け、そこを起点として引っ張られたのが到底理解出来ない。

実際二本の触手は四葉の背後の壁に突き刺さって、シャンプラーを支えている。


「どう言う事…?」


とりあえずこのままでは分が悪いと判断し、瞬時に人工心臓を起動させた。言葉に出来ない痛みと共に十五回死亡した。すぐに体勢を立て直し、大体の力を確認する為に地面を殴る。

すると地面は相当抉れた。大体は現在のファルと同じぐらいの力だろう。これぐらいあれば問題ない、速度も上がっているはずなので追いつけるし、何よりしっかり捉える事も出来るはずだ。

そう思った次の瞬間だった、再度背後にシャンプラーが移動した。


「…何か使ってるね。おかしいもん」


「どうでしょうね。あなたの目が悪いだけでは?」


「…じゃあさ、もっかいやってよ、その高速移動。今度こそ捉えるから」


「それであなたが納得して死ぬのならこちらとしても気分は良いですから、分かりましたよ」


四葉は明らかに何か考えてはいるだろう、だがこの移動を見破る事など出来るはずもない、その自信が命取りになるとは思ってもみなかった。

触手を伸ばし、移動を始めた。その瞬間、四葉は回し蹴りを行った。自身の背後に向って。すると次の瞬間、シャンプラーの体にヒットした。

体勢を崩し転がっている所を逃がすわけもなく、追撃を行おうとした瞬間シャンプラーは消えた。すぐに自身の背後へ攻撃を行った。するとやはりシャンプラーはそこにおり、攻撃が当たる。


「どんなやり方までは分かんないけど、なんであんたが躑躅(メルシー)の力を使ってるの」


数年来の仲間なので分かる、これはメルシーの背後への移動能力だ。何故分かったかと言うと二度目の移動だ。あの時四葉の反射神経は拳や佐須魔にも劣らなかった。

だがそれでも見れないのは何か能力を使っているとしか考えられない。だが周囲に誰かがいる気配も無いし、遠くからサポートしている感じも無い。本当にシャンプラーが移動している様に見えた。

だがシャンプラーにそんな能力は無いし、『覚醒能力』だとしたら元の触手は使えない。ただの強化だとしても性能があまりに触手と関連性が無いのであり得ないだろう。

となると誰かの能力を借りたり武具を使ったりしているという風に狭まって行く。武具の場合は見当も付かない放置するしかない、半ば諦めだ。そして誰かの能力を使っていると仮定した。

そこでピンと来たのがメルシーの力だったのだ。理由も勿論ある、すぐ背後に来た瞬間に察知できた事と、触手が自信の体に一回も触れななかった事だ。

シャンプラーの立体起動はパチンコのような仕組みである。二本の触手を壁か何かに引っ付け、その伸びた部分をゴムのようにして引っ張り、発射する。

そうだとしたらシャンプラー本体かそのゴムの役割を担っている触手部分が四葉の体に少しは当たるはずだ。天井が高いので四葉の頭上を通ったのかもしれないが、その場合支える触手の先は天井付近に引っ付き、壁に傷が出来ていないとおかしい。だがその高さに傷は無く、四葉と同じぐらいの高さに傷がある。

その時点で高さは常に同じ、なのに触れなかったのは背後にテレポートしているとしか考えられないのだ。


「まぁ分かるよね、大体」


そこで見破った。あとはどうやってその力を得たかだ。だがネタを破られたシャンプラーは呆れながら真相を明かす。


「仕方無いですね…この力は喰って手に入れました。楽でしたよ、気絶していたので」


その瞬間、四葉の雰囲気が変わる。殺意に満ちた顔をしながら人工心臓を起動し、七十五回死亡した。恐らくは体の限界ギリギリ、だがそんな様子は全く見せず訊ねた。


「選べ。完全死か、初代ロッドの地獄か」


「では選ばせてもらいます、あなたが完全死です」


対抗するようにしてシャンプラーの目に炎が宿った。四葉はとうに察していた、シャンプラーが重要幹部と同じ実力を持っている事を。



第三百二十一話「ラッキークローバー」

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