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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
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第三百十五話

御伽学園戦闘病

第三百十五話「生産」


崎田はファルと躑躅の二人を回収していた。やはりニアとアリスに巻き込まれ気絶していた所を拾ったのだ。そして適当に担いで帰ろうかと思ったタイミングで強制テレポートが起こってしまった。

空間転移だったら掴んでいれば連れて行ける可能性が高いので、強く体を掴んで離さなかったが嶺緒の場合は個人を対象としているので折角見つけた二人を手放す形で移動してしまった。


「嘘でしょ…面倒すぎ…」


『阿吽』が使えず、自身の能力も使えない事から何処かから封をされたのは分かる。だが周囲に気配な無いので恐らく広域化だ。こう言った緊急事態で一々慌てふためく程未熟ではない。

すぐに状況を飲み込み、自身の役目である二人の回収に乗り出す事にした。幸い周囲に誰かがいる気配は無いようだ。ただ遠くでドンパチ殴り合っている音が聞こえるし、佐須魔のスピーカーでの放送相まって本戦は始まったと見ていいだろう。


「多分ランダムだよね。私は強いから重要幹部を当ててくるはず…でも誰もいない、多分ランダムでたまたま誰もいない所にテレポートされたんだ!……ってなるとまさか後方支援の皆もランダムに!?」


実際にどうかは分からないが、しっかり考慮に入れるのはとても良い。こうする事で万が一回復の三人がいない場合の事を考えて動く事が出来る。

ただそれは自身への攻撃を最小限に抑える動きを取らなくてはいけないので、勝ちという勝ちを取りに行くのは到底不可能だろう。だがそれでも良い、今回取るべき行動は重要幹部の削りでは無く嶺緒の救出だからだ。


「まぁ嶺緒とかは突然変異体(アーツ・ガイル)に任せよ。とりあえずあの二人は何処に飛ばされたんだろ、不安だなぁ」


とりあえず歩いて探索するしかない。走っても良いがふとしたタイミングで不意を突かれた際に反応がし辛いし急に動きを止めると負荷が掛かる。

元々トレーニングなどを全くしないタイプの人間なので戦闘は能力頼り、つまり現状では相当な雑魚なのだ。


「とりあえず五分ぐらいは誰とも会いたくないけど…まぁ会っちゃったら会っちゃったで仕方無いから戦うけど……何処までが許容範囲だろ」


二人を連れて逃げ出せるレベルの損傷、四肢は絶対持って行かれてはいけないだろう。精々片目や内臓一個程度だろうか、それぐらいなら自身でも修復が可能だし敵から逃げるにもそこまで支障は出ないと予測出来る。

一般人なら無理だが、一応崎田も大会に出て生き残った精鋭中の精鋭。少し前までは戦闘を怖れていたがここ最近はなんかもうどうでも良くなって来て恐怖心は無くなっていた。その代わりと言っては何だが責任を重く感じ過ぎる事が増えたとは思う。

ただ今までの行動が大人として無責任過ぎたのかもしれないので、何とも言えないが。


「二人を回収するのには時間かかりそうだな…多分接触しないっていう選択肢は取れなさそう……でも戦うならどっちも持ってない状態か、二人共回収した段階だね」


どっちも回収していなければ一人で戦えば良いので気楽だ。そして二人回収済みであれば全速力で逃げれば良いのだ。問題となるのは一人回収している時だ。

そいつが起きていれば話は変わるが、気絶した状態の場合一人を守りながら戦闘を行わなくてはいけない。崎田は能力柄一人でやった方が上手く行く、それに人質にでも取られたら詰みとなってしまうからだ。


「まぁ何とかなりそう、頑張れば」


だが崎田には心強い味方、霊力補強チョコが四つもある。体への負担は凄まじいがその負担が襲い掛かるのは大体翌日、流石に作戦が二日に及ぶ事は無いはずなので実質ノーデメリットのようなものだ。後日の仕事に目を瞑れば、だが。

おおよその予測やシミュレーションを終えたその時、封が解除された。それは複数の場所で起こっている戦闘の音が全て変化したから分かる、明らかに能力を使い始めた。

すぐに自身でも『阿吽』が使えるかどうか試そうとしたその時、理事長から連絡が入る。


『嶺緒の方は突然変異体(アーツ・ガイル)に全て任せる事にした。君達は自身と仲間の身を第一に動きたまえ』


特に問題はない。すぐに能力でスクーターを生成し、楽に足を進めながら理事長への報告を始めた。


『こちら大井 崎田です。躑躅、ファルは回収しました。両者アリスとニアの戦闘に巻き込まれ気絶はしていましたが軽傷でしたね。ただ回収した直後、謎のテレポートではぐれてしまいました。

すぐに移動を開始し、両名を回収後撤退と考えています』


一分程して返答があった。


『了解。何かあり次第連絡を頼む』


短く、少しだけ早口だった。他の者からも大量の連絡が来ているのだろう、ひとまず方針は固まった。二人を回収し撤退する、それが目標だ。

スクーターを放り投げ、今度は全速力で走り出した。理由は一つ、バレるからだ。極力霊力放出を無くしていたが術を発動する際にはどうしても霊力が出る、それで位置を特定されたら厄介だ。

現在は放出を無くしているが、微かな残滓を追って来るかもしれないので出来るだけ距離を稼いでおくのが吉だろう。そう思いながら角を曲がったその時、誰かとぶつかった。

しりもちをついたがすぐに立ち上がり、戦闘体勢に入りながら確認する。すると相手はボロボロのベロニカだった。


「崎田先生。大丈夫ですか」


「こっちの台詞!とりあえず応急処置だけはしてあげるから…」


「いえ、結構です。それよりも躑躅さんとファルさんの回収を急いでください。あの二人、気絶してるはずですから」


「知ってるの?」


「はい。私も軽く巻き込まれたので知っています。ですがアリスとニアさんの戦いのせいで吹っ飛ばされてそのまま気絶です。そしたら移動していて、さっき起きたばかりなんです」


「そう…心配だけど二人を優先させてもらうね。でも気を付けて!ヤバそうだったら逃げなよ!」


「はい。そちらもお気を付けて」


そこまで深刻な傷でも無さそうなのでベロニカを放置して走り出す。前の中等部員だったら心配が勝っていて少し躊躇ったかも知れないが、今は違う。

全員屈強な覚悟と力、それなりの思考を持ち合わせている立派な能力者だ。前の世代は普通に頭がおかしいので比較するのは少し可哀そうだが、普通にタメを張れてしまうレベルには成長している。

そんな子に構って自身の役目をほっぽかすのは決してやって良い事は無い。しかも二人に関してはいつ殺されてしまってもおかしくないのだから。


「お願いだから生きててよ…!」


走り続けた。ベロニカ以降誰かと遭遇する事無く、走り続けた。十分程進み続けた所で足音が聞こえて来た。すぐに足を止め、息を落ち着ける。

すぐ真ん前の十字路の右側からだ。ゆっくりと頭を出し、確かめる。するとそこには、目標が一人いた。


「あ!」


「…んぇ…あ!」


ファルだ。想定より早く合流する事が出来た。だがファルははぐれた時より血だらけで顔色が悪い。どうやら飛ばされた先で誰かの戦闘に巻き込まれ、瓦礫に押しつぶされていたらしい。

幸運な事に良い隙間に居たらしく致命傷は避ける事が出来たが右腕が折れてしまっている。しかも利き手である右手が動かせないせいでろくな止血も出来ておらず、相当な血が体外に放出されてしまったのだ。

仕方無いのでその場で緊急修理を行う。ギプスと消毒と綺麗な布を生成し、布で止血し消毒、その後ギプスを取り付けた。戦闘をする場合は邪魔になるだろうが、再度テレポートを使われない限り離れるつもりは一切ないので大丈夫だ。


「大丈夫?普通に歩ける?」


「いや…ちょっと…貧血かなぁ、頭がくらくらするんです…」


相当な出血量と見て取れるので仕方が無い。ひとまず崎田がおぶって移動する事にした。だが普通に歩いていると危険なのである物を作り出す。

崎田の能力は『何でも作り出せる』能力だ。なので当然科学を完全否定するものだって作れる。ただしそういった超常的な物体を生成するには相当の集中力と霊力を要する。

霊力はチョコで何とでもできるが問題は集中力だ。普段から理科室か理科準備室でないとろくに集中できない崎田がこんな状況で集中出来るはずがない。

否、出来る。

小さな頃から多動が目立ち、基本何も考えない事が非常に多かった。だがそんな馬鹿(サキタ)でもこうして生き残っている理由がしっかりと存在しているのだ。


「……集中……」


明確な強みがある。崎田は人の命が懸かっている時、異様な集中力を見せる場合がある。それは幾度もの死線を乗り越えた仲間によって大体解明されている。

一つ、自分以外の命が直接的または間接的に懸かっている時。

二つ、その場に真っ当な戦力が崎田自身しかいない時。

三つ、敵と相対した時。

そして現在、この三つの条件は全て、満たされていた。


「お前は強いが枷があれば別だろう。ここで殺しておく」


刀が抜かれる。正直戦いたく無い相手だ。元学園にいたというのもあり大体の戦闘スタイルを把握している。マジで相性が悪い、戦闘中にパターンを現実的な事だけに絞って考える崎田と、現実的で無くとも勝てるならば迷わずにその選択肢を取る素戔嗚。


「ファル、掴まっててね」


「いや、その心配はいらない。ここで終わらせる」


「黙ってな素戔嗚。私が勝つから」


瞬時に二つの物を生成した。どちらも非科学的な物だ。一つ目が透明になる事が出来る布、最強の迷彩柄と言っても差支えのない性能をしている。ただ弱点として普通に実体はあるのでぶつかったりしたらバレる。そして二つ目は"爆弾"だった。

だがただの爆弾ではなく、非常にコンパクトだ。手の平に五つは余裕で持てる。そして普通ではない点はサイズだけではない、詰まっている物もだ。

これはただの爆弾やフラッシュと違い、霊力が籠められている。これを使ってある一発芸のような事を行い、逃げ出すつもりなのだ。


「消えた、か」


一方姿が消えた二人を探すため、素戔嗚は目を閉じた。そして軽く霊力感知を行う。どうせ逃げたとしても大して遠くへは行けないはずだ。

だがおかしい、反応が無い。そう、マントは霊力を抑え込んでくれるのだ。非常に便利なので普段から色々考えて性能を盛り込んでいた、だがそのせいでこれを作るだけで300程霊力を消費してしまった。

音は吸収してくれないのでチョコの包みを開ける音を発してしまうので一旦補給は駄目だ。現状の霊力は100も無い、霊力爆弾でやりたい事を封じられたら恐らく二人共死ぬ。

ファルは既に眠ってしまっている。呑気ではあるが、変に暴れられないのでありがたいとも言える。


「…」


息を殺し、少しだけ距離を取ろうとしたその時だった。素戔嗚が暴挙に出る。


『呪術・氣鎖酒(けささか)


アルコールへの耐性が求められる。崎田は初めて効いた呪に驚き、どんな攻撃が飛んで来るのか身構えていた。だがこの馬鹿はやはり馬鹿だ。

警戒しきれていなかった。まさかただの妨害系の術だとは全く頭に無かったのだ。元々素戔嗚が脳筋だったのもあるが、やはり馬鹿だ。

そして一番の問題、崎田は酒に弱い。阿呆のように飲む癖をして非常に酒に弱い、なので効く。滅茶苦茶に効く、この術が。酔った崎田など相手にならない、この周辺にいるのなら出てくるはずだ。そう読んでの唱えたのだった。

だがそれは、大間違いであった。この氣鎖酒によって素戔嗚は勝手に追い込まれる事になる、気付いていない自身の術の弱点を思い知らされるのだ。



第三百十五話「生産」

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