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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
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第三百十話

御伽学園戦闘病

第三百十話「違和感」


第三班は一旦の安全を得た。そこで欠かさず連絡を入れる。丁度四人全員と理事長との連絡が繋がっている状況だ。まずは虎子から説明が入る。


『急だったから連絡出来なかったけど來花と対峙した。遺言を阿吽で言ってるように見せかけてシウに霊力遮断結界を四分後に張ってって言う連絡して時間稼いだ。

最初は霊力九割のほぼ霊みたいなもんだし、突破するのに時間かかるだろ!程度で考えてたんだけど、なんか通れないみたいだった。遠距離から伽藍経典は撃って来たけど、砂塵王壁(さじんのおうへき)で防げた!』


『そうか。基本は連絡をしてほしいが、急だったのなら仕方無いな。三獄との戦闘と言う事なので一度戻って来てもらう、後々ファスト君を出すので、その際は霊力放出を少しだけしてくれ』


『了解!』


『それでは次、梓君』


『はい…私は紗凪架 譽と遭遇しました。瞬時に戦闘体勢に入ろうと思いましたが、分身の元先生が一瞬にして破裂。恥ずかしいですけど…足がすくんでしまって…ですが譽は私を見てこう言いました、「お前は白石 梓か?」って。

そして虎子を殺しに行こうとしてたので足止めも兼ねて彼女の自室で話をしました。宗太郎を知っているようでした、あいつはやっぱり仮想世界にいるらしいです。

そこで宗太郎からの伝言を受け取りました。「僕に関わるな」と…』


梓の声は震えていた。恐怖か悲しみかまでは分からないが、少なくとも戦場に放置しておける精神状態では無いだろう。


『分かった。虎子君より先に回収してもらう、同じく霊力放出を頼む。では次、ファル君と躑躅君。先にファル君からだな』


『うす!私は修練場?みたいな所行ったらアリスがいて、急に攻撃して来たので連絡した通り戦闘しました!そしたらなんか私の事気に入ったっぽいです!多分勝ちです、あれ!』


『そうですね。僕は理事長からの指示通り、救援に入りましたがアリスは知らないようでしたよ。霊力残滓の事』


『そうか、それは良い事だ。ならばここ最近の発見は筒抜けではないと言う事で…』


『いえ、それは違いますね。アリスは最近再加入をしたはずです、なので単純に伝えられていないと言う事もありえます。それに少し違和感がありまして…』


『待ってくれ躑躅君、それは全員に繋げてから話すとしよう。ひとまずファスト君を出す、二人の回収だけ先にやらせてくれ』


『了解です。待っているので連絡ください』


一旦全員の『阿吽』が終わった。そして伝達通りファストが投入され、二人の回収は問題なく終わった。軽く状態を確認しながら、躑躅の違和感についての説明が入る。

まずは理事長が一連の流れを皆に説明し、その後躑躅が話し出した。


『咲ちゃんが率いる第一班でもそうだったと思うんだけど、多分再加入と新加入の一人だったよね。対峙したの』


『こちらは再加入の紀太と新加入の[松雷 傀聖]のみですね』


『第三班は再加入のアリスと譽、そして來花なんだ。そして來花は一番強い虎子ちゃんの元へ出向いた、恐らくこいつは特例と見て良い。

まぁ何が言いたいかって言うと、多分舐められてるよ僕ら』


『それはどう言う事だね、躑躅君』


『試験にでも使われてるんだと思います。元々引き出したかった砕胡は回復に時間がかかるので今回は温存されても何ら違和感はありませんが、原とか素戔嗚とかの所謂普通の能力者が出てこないのはおかしいでしょう。

二人だって決して弱い訳じゃない。鍛えたはずです。明らかにおかしいですよ、あの四人と來花しか出てこないのは』


『ふむ、確かにそうだな。他にも重要幹部はいるはずだ、ひとまず躑躅君が言った通り舐められていると考えて良さそうだ。だが焦って主力を投入するわけにもいかない、逆に言えばその五人以外は万全の状態で待機していると言う事だ。

待ち伏せでもされて一網打尽にされかねない、何らかの方法で探りを入れた方が良さそうだ。…そうだな…躑躅君とファル君はまだ動けるかな』


『はい。僕は霊力無いので体力が持って行かれない限り』


『私もまだ行ける!流石に…』


声が途切れた。すぐにどうしたのか訊ねるが、二人からの連絡はない。こういう場合は大体霊力が乱れている、簡単に言えば能力を発動したと言う事だ。

あの二人が反射だけで能力を発動したとは考えにくい、何か確実な事を捉えて発動したのだろう。危ない、再度ファストを投入し回収を試みるか悩む。

だが無駄だと判断した。二人の連絡が無い以上どういう状況かも分からない、躑躅はチェイスが上手いので一旦連絡が来るまで後回しにする。


「理事長、あまり良い判断とは思えません」


「何故だい、パラライズ君」


「僕の経験則ではありますが、急に連絡が途絶えるのは緊急性が非常に高い事態です。しかも何か悲鳴のような声も無かった、ブツ切りと言う事は恐らく能力発動で霊力が乱れたのではなく、乱されたと見る方が良いでしょう。

そうなると先手を打たれたと見るのが妥当です。死にますよ、二人」


感情的にもならず、ただ淡々とそう説明した。ファストも同意見らしい。


「だがここでファスト君を危険に晒す必要は無い、あの二人は強い、君らが思っている以上にな」


「ですが三獄には到底敵わないでしょう。その強い二人が殺されたらどうするおつもりですか」


「死なない、と言っているのだ」


「いえ、ここは万が一の可能性でも…」


パラライズはそこでようやく理事長の顔を見た。そして真意を知る事になる。


「そこまでして救っている余裕が無いのだよ、私達には」


焦っている。冷や汗をかいているし、下唇を少しだけ噛んでいる。悔しがっているのだろう、こうして生きている事に賭けるしか出来ない事が。

それは自信が非力だからという訳では無い、これが最善策なのだ。パラライズの視界は狭かった、今回の目標を忘れていた。嶺緒を救出し、突然変異体(アーツ・ガイル)を引き入れる事。

突然変異体(アーツ・ガイル)の協力無しでTISに勝つのは無理だ、特に透やフレデリックの力が無いと。比較してしまったのだろう、突然変異体(アーツ・ガイル)全員とあの二人を。


「…申し訳ないです。僕が間違っていました。ですが僕は捨てませんよ、あの二人を。どうにかして…」


「駄目だ。いくら普段の君達が全員を救う方針だろうが、今回ばかりは諦めてくれ。そう言う甘い考えが通用する戦闘(フィールド)ではないのだよ。だから今回は…」


「そこで見ていろ。って言うと思ったよ、君ならね」


少し前に聞いた声、すぐに振り返り確認する。やはりそうだ、だがもう一人引きつれている。仮想の堕天使だ。連れは少年、赤髪で真っ直ぐな顔、黒いローブのようなものを身に着けている。


「どうも。別に邪魔するつもりは無いから安心してくれ、ただお仕置きしなきゃいけないんだ。あのバカ二人にね」


「そうそう。俺も何回も言ったよ!巻き込むなって!」


「本当に聞き分けの無い子達だよ。困るね」


そんな雑談をしながら二人は本拠地へ突撃しようとする。


「待ってくれ、何をしにいくんだ」


「そんな驚く事も無いでしょう?お仕置きですよ、それぞれの弟子へ」


理事長は瞬時に理解した。それと同時に何が起こったのかもおおよそ理解した。


「どちらがどちらだ」


待機している皆には当然伝わらない言い方だ。だがそれは、分かっている人物には非常に分かりやすい質問である。まずは堕天使からだ。


「僕はニアさ」


次は少年。


「俺はアリス」


「そうか。ならば一つ頼み事をしたい」


「駄目だ。僕らは本来そっちの世界の住人に関わっちゃいけないからね、まぁ王が許したら良いんだけどね。でも嫌だ、個人的に嫌なのさ。付き合いが一ヶ月未満の人間と交渉はしない、そう決めてるのさ」


「俺もやだね、責任とか負いたくないもん」


ファルと躑躅を助けてほしいと言おうとしたが見抜かれたのだろう、言っても受け入れてくれるとは思えない。ならば一つ、試してみる事にした。


「ならば君達は私達には関われない筈だ。いくら師といえどニア君は現世に降りて二年以上も経っているとの事だ、既に現世の住人であり仮想世界の住人ではない。

君達が関わって良い人間では…」


「黙ってろよ爺さん。お前みたいな奴が語れる程こっちのルールはシンプルじゃないんだ。僕達は弟子に説教をして帰る、それだけなんだよ。黙って見てろ……って言いたいが、まぁこっちとしても巻き込んで死なせるとペナルティあるんだよな。誰か一人なら付いて来ても良いぜ」


「本当か?そちらから…」


「良いから選んでくれ。そうじゃないと死ぬぞ、二人」


理事長は考える。誰を向わせれば良いのか、言い草的にアリスとニアが争っているのだろう。あの二人は無茶苦茶に強い、そんな二人の攻撃をかわしながら救出が出来る人物。

主力部隊とその護衛部隊は除外だ、一人でも戦力を減らすとどうなるか分からない。そうなると後方支援部隊か突然変異体(アーツ・ガイル)、最後は理事長自信から選ぶ事になる。

タルベ、時子には戦闘能力が無いのでダメ、兵助は回復に専念してもらいたのでダメ、佐伯はダメ、ファストも回収に行かせたいが、他の者への手が回らなくなり瓦解する可能性があるのでダメ、突然変異体(アーツ・ガイル)は嶺緒の救出に専念してもらいたのでダメ。

そして理事長はここで出てはいけない、何故なら(ケン)の制御が効かなくなるからだ。まだ砕胡と遭遇していないよ様なので抑えらているが、数年越しの怒りの爆発はあまりに危険なので理事長が止めに行かなくてはいけない。

となると残ったのはただ一人、唯一この場からいなくなっても何とかなる人物。


「崎田君、君が行ってくれ」


「え、私!?」


「そうだ。霊力補充チョコは…七個か、四個ほど持って行って良いので必ずあの二人を回収して来るのだ。そして出来ればニア君の意向なども聞いておきたい、頭の片隅は置いておくように」


「…はい!了解です!」


いつも通り元気一杯、やはり崎田なら何とかしてくれるだろう。大会に出ても生き残った精鋭の中の一人、こんな所で易々と殺されるような雑魚ではない。

信頼して送り出す。


「そんじゃ行こう、どうなっても責任は取らないからな?」


「大丈夫だよ、なんせ私強いから。元生徒会長だよ、しかもあの香奈美世代のメンバーほとんどを引き抜いた慧眼の持ち主だからね!」


「そうかよ。まぁ、死ぬなよ。助ける気はさらさら無いからな」


崎田はバカ過ぎて気付いていなかったが、堕天使と少年は密かに物凄い霊力を発していた。恐らくは軽い実力計測、バカで気づかなかったのが良いか悪いかは分からないが、少なくとも進展はしただろう。

仮想世界の二人の乱入により、事態は一気に進展する。そして理事長はとある策を思いついた、ほぼ確実に成功する、奇策を。

だが気付いていなかった、躑躅の結論は微妙な点が間違っていると言う事に。



第三百十話「違和感」

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