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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
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第三百六話

御伽学園戦闘病

第三百六話「救出」


今度はフルスピードで突っ込む、衝撃波を伴う程の高速。ファルは捉える事は出来ないが、ダメージを軽減することは出来るのだ。すぐにその動作を行い、腹部にくらった思い打撃を半分程度の威力で抑える事に成功した。

だがアリスの気はどんどん高まっているらしく、半減してもハンマーで殴られたような痛みが消える事はない。あまりに痛いせいか、一瞬だけフラッとよろけてしまった。

当然アリスがその隙を逃すわけが無い。


「駄目です」


その言葉と同時に、修練場の壁に打ち付けられた。この状態から見るに、壊れはするが部屋の外には絶対に吹っ飛ばされない仕組みらしい。ただの頑丈な壁だったら既に外に飛び出している。

ファルは血を吐き、鼻の粘膜も切れて大量の鼻血を流す。不快感が募るが仕方無い、自信の実力不足は事実であり認めなくてはいけない現実だからだ。

そんな実力差がある中でも実践に乗り出し、効果を発揮している。ここで終わらせるには勿体ない技術だ、そう感じていた。勿論アリスも。


「素晴らしい力ですね。私の攻撃を大幅に軽減しています。どんな力なのですか、その戦術とやらは」


「…秘密!」


「そうですか。私は今ここでファルちゃんを殺す気は無くなりました、最大限いたぶって情報を落としてから、神の間の方で遊ばせてもらいます」


アリスの雰囲気が変わる。驚愕した、今までは手加減と言って良いのだろう。明らかに殺意が増したのだ。だが殺す気は無いと言っている、恐らく死亡一歩手前で連れて行くか、魂を無理矢理押し込んでおくのだろう。

そんな事をされてニアのように仮想世界で共に訓練など正直やりたくない。ファルは別にアリスに対して特別な感情を抱いた覚えは無い、あくまでも実験体であり怪物としか見ていないのだ。


「あら、そんなに嫌ですか」


「え」


「顔に出てますよ、露骨に。まぁ私はそれでも、連れて行きますけどね」


再度腹部への打撃を行う。今度は動き出す際の目線で腹部を殴る事を察知し、防御と軽減をかけた。するとそこそこ軽減され、昔ラックにボコボコにされていた時程度の痛みになった。

この程度なら今のファルにとっては全く問題ない。楽しい、この技術が活かせるのが。こうやって身体能力では最強のアリスと戦えているという事実だけでも、心が踊る。

最強への挑戦、心踊らない方が狂っているだろう。ファルは戦闘病なんかではない、覚醒なんかでも無い。それはアリスも同じ。

戦闘での楽しさを見出したのだ。


「ようやく気付きましたね。私はニアちゃんに気付かされましたよ、この楽しさ」


「そうだね!強い奴と戦えると、楽しい!!」


「なら行きましょうよ、神の間であと一年半は出来ますよ、大会まで」


動きを止め、勧誘する。ここ最近のアリスはつまらなかった、誰ともろくな戦闘も出来なかったし折角佐須魔とやれると思ったのに止められた。

ニアも姿を現わさない。そこで代わりのファルだ。


「いや!!私ラックと約束したもん!!」


「そうですか…」


それでも諦められない。少し強引で、卑怯な手を使ってでも遊んで欲しい。


「ですがそのラック・ツルユは貴女の事を[コルーニア・スラッグ・ファル]としては見ていませんでしたよ?」


「…え?」


一瞬にしてファルの表情が曇る。


「あの人は可哀そうな人です。私は能力者戦争を"フル"で見ました。当然倍速などはありませんでしたよ。そこで当時活躍していた人の心理などが色々と読み取れて面白かったです。

ですがアイト・テレスタシア改めラック・ツルユは逃げ出してからとても平凡でつまらない生活を送っていました。数十年前にこの島で起こった戦闘病のクラスター、あの時も助けに入っていたそうです。

ただそれは求め続けた平和のため。本位では無かったようです。ですがそう言う事をしている内に[平山 佐助]、理事長ですね。彼が目を付け島に滞在する様に命じました。

ラックはとても嫌がっていましたよ。有望な能力者を島に送ったり、影ながらサポートしていたので万が一その事を思い出されたりしたら正体がバレるかもしれない、と。

結局は強い勧誘に折れ、数年前に島に来ました。そこで生徒会に所属し、島への渡航警備任務であなたと咲さんに会いました。貴女はラックがあの時あれ以降、何を思って貴女を見ていたと思います?」


まくしたてる様にして発された言葉を整理してから、不安になりながらも言い返す。


「……友だ…」


そんなファルの言葉を遮って、アリスは思考を誘導する。


「いいえ、違います。ラック・ツルユ、彼は貴女をある人と重ねていました。妙に元気ですがたまに見せる真剣さと勘の鋭さ。表では違くとも、根本は似ていたのでしょう。私もそう思いますよ、現に成長した貴女の性格は更に似ている」


「誰の…事」


「[多比良 桜花]、彼の初恋の人であり命の恩人でもある。私と同じロッドの血筋の人です」


にっこりと笑いながらそう答えた。決まっただろう、尊敬していたラックがそんな理由で自分の事を見ていたなんて知ったら失望し多少は自暴自棄になるはずだ。そこにつけ込めば、良い。


「それを伝えて、何がしたいの」


大きな声ですらない、怒り。それと共に、アリスは気付かなかった、ファルが近付いている事に。ぶん殴れらたアリスは吹っ飛んだ。見えない筋肉で強いガードが入っているのでそんな簡単には吹っ飛ばないはずだが、ニアより力は強そうだ。

立ち上がり、体勢を整えようとしたその瞬間に再度吹っ飛ばされる。動きも速い、これは戦闘病か覚醒のはずだ。『覚醒能力』の場合まずは見抜かなくてはいけない。ひとまず覚醒かどうか確認するために顔を上げた。


「えっ…」


真正面に飛び込んできているファルの顔には、笑いも炎も、映っていなかった。ただの怒り、ただの怒りだ。


「面白いですね」


アリスの気持ちが昂って行く。自信では抑えきれない程の未知数との遭遇、無理矢理抑えつけたい。支配してやりたい、そいつの限界を見たい。

様々な感情が交差し、アリスの口角をほんの少しだけ上げた。ファルはその危険に気配だけで気付き、冷静になって距離を取った。恐らくここで突っ込んでいたら殺されていただろう、そして問答無用で地獄の仮想世界に付き合わされていたはずだ。

まるで運のようにも感じるが、それは備わっている本能でありしっかりとした才能だ。そしてその危機回避能力さえも愛おしく感じる。

アリスの能力は元々『念能力』だった、今となっては影も無いが。だが末期癌にかかり死にかけの所を佐須魔に救われた、当時病院での死の恐怖から呼び覚ましていた血、それを見込まれてだ。

体は変える事になり、成長はしないが筋肉は蓄積されるという無法なものを無理を言って数日で伽耶に作り上げてもらった。それが今の体なのだ。

ロッドならば使えて当然の術式しか術という術は使えない。そのせいか身体強化が高い者か、強化が使える者にしか興奮しなくなっていた。

その対象はインフレしていった。健吾、佐須魔、刀迦、と。そこでタイミングも良かったので脱退し、紀太をつれて原石を見つけようとしていた。

そんな中見つけたニア・フェリエンツ。彼女はもう言葉では現せない存在である、アリスそのもの、生きる理由なのだ。だがそんなニアも姿を現わさなくなった、死んではいないだろうから死ぬわけにはいかないが、つまらない。


「さぁ行きましょう、一緒に。ラック・ツルユなど忘れて」


そこで現れた、新星。


「…」


「さぁ、言うだけで良いのですよ。私と一緒に…」


「言っとくけど!!私今でも…ラックの事好きだから!!!」


大声で、地味に頬を赤らめながらそう言った。梓や虎子あたりが聞けばニヤニヤして色々突くのだろうが、アリスはそうは行かない。純然たる殺意、逃げ道は無いと確信した。

そして呆れたような声で言われた。


「なら力づくでも私だけ見させます。あんな心も体も能力も弱い男など、見てほしくない。貴女の様な、才能の塊に」


最速。

アリスの最速、全てを加味した上での最速と剛力。殺す気だ、そんな雰囲気が伝わって来た。ラックに教わった半・身体強化で半減しても全く意味のない力量。このまま死んで何が起こるか。ここで死んだら皆に迷惑がかかる。

そんな事が頭の中で交差した、そして腕でガードしながら半減しようとする。だがアリスの拳が腕に当たった時理解した、無理だ。経験と勘、いやそれだけではなく本能さえもそう喚いている。だからと言ってどうこうなる話ではないのだ、ここで終わり。それ以上でも、それ以下でもない。


「行きましょう」


だが、違った。ファルは背後に飛んで来た何者かによって掴まれ、庇われた。そいつは一度死んだが、主の掛け声によって再度飛び出した。


「僕のファルに、手を出すな」


理事長に連絡を受けた躑躅とメルシーである。無霊子という霊力を持たない特異体質、普通のアリスならただの気配で気付けるがムキになっていたせいで分からなかった。

だが躑躅はずっとこの時を待っていた。少し遠くで、メルシーに石ころを持たせて待っていたのだ。大体で良いのでタイミングを教えてもらい、突撃した。

そしてメルシーの能力で背後に移動し、避けさせた。


「可愛らしい王子さまですね、殺しますが」


霊力も無いバックラーなどに興味は無い。


「なんで無霊子という部類があるのか、僕は最近ようやく知った。霊力は持っていない、だがその場合、能力者の攻撃は全く効かないはずなのさ。だが僕は効く、霊力は無いが攻撃をくらうのが無霊子?そうも思ったよ。

でもそれならわざわざ甲作さんがそんな分類を作るはずがない。あの人は一方的に不利になる原理なんかを探すのが嫌いだった。だから僕はこの一年近く無霊後の利点を探し続けた」


甲作とは[杉田 甲作]である。彼は密かに能力者の分類などを研究していたのだ。


「霊力反応を、作れる」


アリスが放った拳は見事に宙を舞った。おかしい、躑躅に避ける予備動作は無かったはずだ。しかも躑躅如きにかわせるはずがない。だが確かに彼は背後に立っていた。


「僕らは霊力が無い。その代わりに霊力反応が作れる、厳密には霊力反応を装った何かだけどね。でも効くでしょ、君みたいにろくに霊力感知もしない奴には」


背後を殴ろうとしたが既に何もいない。


「…分かりました。やめましょう、今の私に勝ち目は無いらしいです」


アリスが拳を降ろし、立ち尽くす。だがファルと躑躅は警戒を休めず、話を続ける。


「止まってください、躑躅さん。私はあなたの顔が見たいです」


「…はい。これでどう」


躑躅は動きを止めた。背は伸びたのだろうが、元々が相当低かったのでそこまで変わっていない。というよりも何ならファルより小さい気がする。


「あら、まだカワイイままですね」


「一向に成長しないからね、まぁ別に嫌じゃないから良いけど」


未だに女装している。だが全く違和感は無いし、むしろ女の子感は増した気がする。


「さて、とりあえずファルは返してもらうよ」


「あ、そうです。「僕のファル」とは何ですか?私許しませんよ?」


乱入した時にはいた言葉だ。


「あれは間違い、僕の友達であるファル、だよ。僕はファルなんかに興味はないよ」


「そうですか。なら良かったです、では行ってください。今にもファルちゃんを連れ去りたくなってしまいます」


うずうずして拳を抑え込んでいる。躑躅は危険だと感じ、すぐにファルを抱えて修練場を飛び出した。そしてそこで説教をしながら理事長へと連絡を送り、とりあえず別の重要幹部を誘き出す任務に集中する事にした。当然、ファルと一緒に。


「…どうにかして一緒に訓練したいですね、ファルちゃん」


修練場に一人、アリスはとても楽しそうに微笑みながら、頬を赤らめていた。そしてその奥、壁を跨いだ何も無い"無"の空間。譽がうろついていた場所で一人の少女が息を殺して動こうとした。

だがアリスは途中から気付いていた。ファルに将来性がありそうだったので優先したが、いなくなってしまったのなら仕方無い。ゆっくりと振り返りながら、その空間にいる者へと声をかけた。


「良いですよね?ニアちゃん」



第三百六話「救出」

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