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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
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第三百一話

御伽学園戦闘病

第三百一話「開幕」


前日、魂が抜けたかのような態度を取っていたシウは心配されながらも昼頃にはしっかりいつも通りに戻っており、学園へと足を運んでいた。

急遽休校になった学園には今作戦に参加する者のみが集まっている。会議室を開け、まずは作戦の本筋から説明していく事になった。全員集まっている事を確認した理事長が話し始める。


「能力取締の二人にも感謝する。では、作戦概要を発表しようと思う」


張り詰めた空気の中、明かされた作戦。安全のためといえども無茶も良い所、そんな内容である。


「まず仮想世界へ向かう。方法は一つ、今は亡きラック君の家に向かう」


ただ一人と一匹を除いて、その意味は分からなかった。本来理事長が喋っている間は黙っていなくてはいけないが、つい声を出してしまった。


「まて!」


「きゃん!!」


菊は何故急に吠えだしたのか分からず、何とか通訳をしようとするが、何か喋っている訳では無い。本当に吠えているだけ、威嚇のようだ。

すると理事長も少し驚いたような様子を見せ、恐る恐る訊ねた。


「まさか君達、知っているのか」


「…」


「口止めも当たり前だな。だが安心したまえ、かならず安心して行けるはずだ」


「その確証は何処に!」


「先日だ、作戦を立てている頃、『阿吽』で連絡が入った。元生徒会二年生、[木ノ傘 英二郎]からだ」


今度は全員が驚いた。英二郎は既に死んでいるはずだ。なのに何故連絡が入るのか。それもそのはず、ここにいる皆は英二郎が神の気まぐれで仮想世界に滞在している事を知る余地も無かったからだ。

当の理事長も連絡が来るまでそんな事に気付かず、年甲斐もなく驚いてしまった。


「こう言っていた。『仮想世界の執事は一時的に死んでいる』と。本当にそれだけだった、一瞬幻聴かとも思ったが、その数分後反芻するように再度連絡が来たさ。妙に心配性な所が彼らしい、だから私は彼を信じる。どうか、敵では無い事を願って。

何か言いたい事はあるかね、ポメ、シウ君」


「無いです…」


「きゃうん…」


「無いらしいっす」


「それは良かった。では仮想世界へ向かうにはラック君の家にあるゲートを使用する。彼の家の二階には仮想世界へ直接繋がるゲートがある、彼はマモリビトだったので何らおかしい事では無いだろう。

だがそこには常に仮想の執事が警備をしていた。ただその執事も何者かによって一時的に動けない状態にあるらしい、こんな絶好のチャンスを逃す事は許されない。

そしてそのゲートは恐らくマモリビトがいる場所に繋がっているはずだ。仮想世界はある一定の場所でエリアが別れており、基本的には互いに干渉が出来ないようにされている。

なので私の能力を使う」


当然、記憶操作ではない。


「円座教室、その能力は元生徒会の影君のように現世と位置がリンクしているんだ。だから解除した際に教室外にいるとその分移動するのだよ。その特性を使用し、バリアをすり抜ける。

TIS本拠地と神がいるエリアは違う。なのですり抜けたら本戦開始だ。それでは今言えるのはここまでだ」


更に驚愕を呼ぶ。


「何故それ以上説明しないのでしょうか。我々には結界もあるのですから、盗聴などの心配は…」


元が口を挟もうとした時、フレデリックが肩を叩きある男の方へ視線を誘導した。そこには溢れんばかりの殺意を醸し出し、今にも暴れ出しそうな拳が律儀にも椅子に座っていた。

大体理解した元は前言撤回を申し出た。


「前言撤回ですね。今すぐ向かいましょう、待ちきれない人もいるみたいですしね」


「あぁそれでは向かうとしようか。フレデリック、私達だけを転移させる事は出来るかね」


「…それは私への発症命令にも聞こえるのですが、そこのところはどうなのでしょうか」


「君なら分かるだろう」


「…了解した。十秒程、待ってくれ」


そう言ったフレデリックは目を閉じ、瞑想を始めた。その暗闇の中で何があったのかは分からないが、目を開けた瞬間霊力が少しだけ変わった。別に気にする範疇でも無いが、何となく雰囲気が変わった気がする。

するとフレデリックはパチンと指を鳴らす。その瞬間全員がラックの家の前へと飛ばされた。ポメは干支組がろくにセキュリティシステムを使っていない事に腹を立てながらも先導して階段へと向った。

シウの結界によって封鎖された空間。言われるがままに結界を解き、解放された。そこでシウは初めて気づいた。


「結界…?」


「どう言う事?ここに結界があるの?」


兵助に問いに答える前に、シウは何も無い空間を触れる。


「これ、接触出来ない結界だ。練度が上がったから分かる、ラックってのは結界術も使えたのか?」


「いや、そんなはずはない。ラックは一度も結界術らしきものは…」


「あーそれ、僕のなんだよね」


ファストが結界のすぐ傍にいる二人を回収し、下がった。狭い家の中なので戦闘はしたくないが、ひとまず皆を後退させる。予想外だった、ここから住民も来れるなんて予想だにしていなかったのだ。

階段を降りて来るのは黒い羽、黒く細くデカい天使の輪、紫色の髪、恐らく潰された事によって変色した片目、全体的に黒をイメージさせる格好をしている。


「こんにちは。僕の名は[仮想の堕天使]、あの時以来だね、こっちに来るのは。アイトが死んでしまったのは少し悲しいが、今の僕にはある青年を鍛える執務が与えられているからね。出来れば来たくなかったんだが…あの執事の命だからさ、許してよ」


そんな事をほざきながらどんどん近付いて来る。ファストは警戒し、一旦フレデリックへ逃げる様伝達しようとしたが、それは許されなかった。世界が止まった、比喩でも何でもない、堕天使とファスト以外の時が止まったのだ。


「何人か目はつけていたのさ、始めまして。ファストちゃん」


「…どう言う事?なんで私達以外の動きが止まったの」


「何らおかしい事は無いだろう?君達でいう能力を使用したさ、性質はちょっと違うけどね。まぁ安心してくれ、危害を加えよう何てつまらない事は考えていないさ。一つ聞かせてくれ、君は正義が好きかい?」


「…そこそこ」


「それは良かった。では世界を戻すよ」


その瞬間、世界は元通りになった。それと同時に、ファストは今の事を言葉にしたくても出来なくなってしまった。どうやら強制的に口止めがされるらしい、ラックにも会ったと言っていたが、これならば誰にも言わなかったのは納得できる。

そして堕天使は何も無かったかのように話し出した。


「安心してくれ。敵ではないさ、僕だって戦闘は好まない。でも君達には守るものある事も承知している。僕の頭は固くないのさ、仮想世界に入る事自体は別に好きにしてくれ。

だけど危険だよ、神の間は」


「どういう事かね。私が知る限り、あそこには神と執事三人しか入れない筈だが」」


その瞬間、理事長と堕天使以外の時が止まる。


「象が暴れているのさ、新しい主の力を見極めるためにね」


時が戻る。それと同時に、理事長は納得するしかなかった。


「そうか…では向かうとしよう」


「ちゃんと話を聞いたのか?」


ポカンとして、腑抜けた声で訊ねた。だが理事長の返答は一貫したもので、到底堕天使の言葉なんかでは変える事は出来ないのだと思い知らされた。別に面白そうとも思っていなかったが、少しだけ興味が沸いた。


「そうか、なら好きにしてくれ。僕は行くよ、巻き添えをくらいたくないからね」


その直後、堕天使は姿を消した。くらった二人は分かる、多分時を止めてゲートを潜ったのだろう。いなくなると急に楽になる、何か霊力とは違う圧を発していたのだろう。

ひとまず安心し、外で待機している者にも安全だと告げゲートを潜る事にした。戦闘のシウ、理事長、ポメは警戒しながらも禍々しいゲートへと足を運んだ。

そしてその後は拳に続いて全員が入って行った。



繋がった先は何も無かった。まるでマモリビトの精神世界の様に、何も無い空間だった。だが歩く事は出来る、違和感は拭えないが何とかなりそうだ。

進んでいくが、堕天使の言っていた象は見つかりそうにない。ただそちらの方が今は都合が良い、正直象の方へ向いたいが、何と説明すれば良いのか分からないので仕方無く本拠地とこのエリアを隔てるバリアを探す事を優先した。

そこそこの時間を歩き、ようやく壁を発見した。


「では発動する。私語は慎み、私の方へ付いて来るように」


無駄口を叩いて指示を聞き逃すなど言語道断、命がかかっているのだからする者はいないだろうが、一応の忠告をして理事長は能力を発動した。


『円座教室』


一瞬にして教室へと招かれた。だが定員オーバーなのか最初から教室外に送られる者もいた。初めてこんな人数を飛ばしたから分からないが、結構負担がある。

ただその様子も絶対に前に出さず、平然を装いながら窓ガラスを割って外に出た。そして教室の明かりがようやく見える辺りまで移動してから、全員がいる事を点呼で確認し、能力を解いた。

出た場所は見覚えのある建物の正面だった。まるで旅館の様な和風の建築に、夜桜。どうやらヒットしたようだ、来た。TIS本拠地だ。


「では班毎に別れてもらう。すぐに、今すぐ別れたまえ」


その動作に時間は要さなかった。一瞬にして班で別れ、それぞれが指示を待つ。


「後方支援である第六班はここに残ってもらう。佐伯君の広域化で回復の効率を上げてくれ、そして動けなくなった者などをファスト君が拾うのだよ」


「はい。分かっています」


代表してファストが返事をした。


「そしてまずは突入部隊である第一班に偵察をしてもらう。といってもそのまま中で戦闘をし、気を引いてもらっても構わない。とにかく通路の安全を確保し、主力の投入を確実なものにしてもらう」


「了解しました。必ずや」


「ただ、その前にやっておくべき事がある。優衣君」


「は~い」


名を呼ばれた優衣は唱えた。


『第四蝶隊 翔兵(しょうへい)


「これは隊人外特化の蝶です~なので皆さん、人外の何かヤバイ奴がいたらこの子に任せて逃げてくださいね~」


(シン)や佐須魔、來花などへ化物への対抗策だ。元々少ない第四蝶隊だが、迷わず全員に一匹つけて出動させる。ただこれだけでは下準備は終わらない。


「それでは第一班の突入と共に、戦線結界部隊である第五班も投入する」


「は!?俺ら入るんですか!?」


「あぁ。君達には基地"内"で結界を張ってもらう。そのための護衛だ。外にいるのなら兵助君にでも護衛を任せればいい話だ。わざわざ猪雄君をつけた理由はそう言う事さ」


「…まぁ分かりましたよ。そんで、俺は何の結界をどれぐらいの範囲で広げればいいんですか」


「君は何か勘違いしているようだ。君は支援をするための結界、何重にも、何枚も本拠地全てを包み込む結界を張ってもらうのさ。使えるだろう?『阿吽』。だが君に連絡が行くと気が散るだろう。その為結界での支援が必要な者は私へ『阿吽』をしたまえ、その後私が猪雄君に伝え、シウ君に結界を作ってもらう」


「結構無茶言ってるって、分かってます?」


「あぁ。だが出来るとも分かっている。君は優秀だ」


「まぁやりますけど…今理事長が言った通り、俺には連絡しないでくれ。結界には相当の集中力が必要だ、しかも変動する基地内全てを取り囲む結界となれば尚更だ」


忠告を済ませ、第一と第五班が前に出る。逆に第六班は邪魔にならないよう下がり、いつでも回復に従事出来る様、話を聞きながら準備を始めた。


「他の班の投入や指示などはこの後行う、ひとまずこの二部隊に突入してもらう。第一班の全員に告ぐ、まずは第五班の警護にあたり、確実に安全な場所を確保して結界の準備を行う。最初の難関であり、必要な事だ。

結界の準備が出来ない場合主力を投入する事は不可能だ。あまりにもリスクが高い。逆に言うと君達はそんな高リスクの中動いてもらう事になる、申し訳ないが頼んだぞ。

生徒会の力を見せてくれたまえ」


「ご心配なさらず。私達よりシウさんの心配をしてくださいね。それでは、行きましょうか」


咲が歩を進める。第一陣、第一班と第五班による結界構築用の安全な場所の確保。最重要と言っても過言では無いこの任務、たった六人で成功させなくてはいけない。

この時咲達は知らなかった。TISの脅威を、革命(せんとう)に魂を売った者達の底力というものを。



第三百一話「開幕」

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