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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第十章「突然変異体」
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第二百九十五話

御伽学園戦闘病

第二百九十五話「固まり始めた心情」


「さっき集まってもらったけど、もう一度会議を開こうと思う」


神を除いた重要幹部全員、そして上もシャンプラーと伽耶が集められている。そしてほとんどの者が始めて見た、王座が全て埋まっている光景を。圧巻そのもの、言葉も出ない。

ただ皆何か言いたげな視線を中央の智鷹へと送っている。だが智鷹は無視してマイペースに話を進めようとするので、原が佐須魔の方を見ると中央の王座を無理矢理取られたせいか少し不貞腐れている。多分何を言っても適当に流されるだろう。


「じゃあ最初は僕の名前から、[南那嘴 智鷹]、今まで姿を現わさなかったTISのボスさ」


やはり、確信に至った瞬間数人の重要幹部が口を開こうとしたが銃声が鳴り響く。天井に向かって発砲したのだ。そしていつものふわふわとした笑顔のまま忠告しておく。


「まだ説明は終わってないんだよ~質問タイムは後で取るから、今は静かに聞いててね~」


場が凍り付き、重苦しくなる。それもそのはず、こんな適当な男がボスなど信じられない。しかも急に、脈絡も無く出て来たのだ。どうしても質問をしたくなってしまう、すると智鷹は皆のそんな表情を読み取ったのか仕方なく説明を始めた。


「今回出るのは四人、さっきも佐須魔が來花が言ったけどね。それでさ、一つ思いついたの!今回あいつら"ここ"に来るよ」


「英 嶺緒…」


伽耶がふと呟き、すぐにハッとして口を塞いだ。


「そー!そいつ!前突然変異体として拾った奴が狙われてると思うんだ、僕はね。だから全力で叩き潰したい、別に半年もある。神とか砕胡は無理しなければ多少無茶苦茶しても許容範囲内だし、最悪リイカが何とかしてくれれば良いもんね~!」


「そうね!」


数少ない智鷹直接スカウトのリイカは仲が良く、一番緊張していない様子だ。


「それで防衛は適当にボコボコにするとして……僕が出てきた理由を言っておこうか」


本題と言っても差し支えないレベルの話だ。設立当初から顔を見せなかった智鷹が今更、こんなタイミングで姿を公開したのはあまりにも不可思議だ。

待ち望んだ答えは、思っていた以上にしっかりとしたものだった。


「断言しよう、僕らの転換点は今だ。今学園側は最後の引き入れを行っている。突然変異体(アーツ・ガイル)が終わったらもう練度を上げ、僕らを倒す手段を身に着ける段階に入るだろう。

だがそれはあくまでも突然変異体(アーツ・ガイル)を引き入れる事が前提だ。だがどうだ?僕らには様々な手段があるだろう。人質、力、権威、有り余っている武具。それら全てを用いて学園側の崩壊を始めるのさ。

今まで僕が隠密に徹していた理由を教えよう。これを探す為だったのさ」


そう言いながら佐須魔に出させたゲートに手を突っ込み、特殊ルートからしか辿り着けない智鷹の部屋から武具を引っ張り出す。


燦然(ブリリアント)は現在絡新婦と思われる何者かによって神の力、(レジュメント)と共に回収されてしまった。だから集めたよ、残りの四つ」


神殺しの武具。かつて天仁 凱が育て上げた人型の蟲毒王三人に持たせるべくして作られた四つの武具。一つは燦然なのだが、それは現在行方不明になってしまったので仕方が無い。

なので放置されていた[菫]と残りの三つを回収して来たのだ。智鷹はこの作業に現世換算で二年以上の月日をかけた。それもそのはず、置いてあった場所があまりにもクソみたいな場所だったからだ。


「まずこれ~[権威(オーソリティ)]、特殊効果は『権威の証明』。まぁ簡単に言うと簡易版言霊的な感じ。今僕が色々探ってみてる。これが一番探すの簡単だったよ、だって現世にあったんだもん。でも変な場所に埋まってたから気になって調べたら能力者戦争の記録で度々出て来た桜花の屋敷があった場所だったんだよね~まぁどうでも良いけど」


オーソリティ、それは武具と言うにはあまりにも小さすぎる見た目をしていた。丸っこい球体のようなもので、智鷹の動きから見てそこまで重さがあったりするわけでもなさそうだ。

灰色の球体、それ以上でもそれ以下でも無さそうな摩訶不思議な武具らしい。一番最初に見つけ出したにも関わらず、一番扱いが難しいらしい。


「次は~これ~[混濁(ジャミング)]~。これはね『潜在意識の自由操作』が出来るの。凄く強いんだけど~それ使う度に100近くの霊力を使用するからあんまり使い道は無さそう~。

こいつは結構難しかったよ。でもまだ楽だった。地獄の番人が咥えてたよ、何とか餌で釣って奪い取ったけどね!」


ジャミング。それは妨害をする武具とは思えない形をしている。正に斧、殺意や血なまぐささが剥き出しの錆びた巨大な斧だった。智鷹は持つだけでも一苦労、來花が支えていないとろくに説明も出来なさそうだった。


「それで~僕も知らなかった奴で、最後がこれね~[(さき)]。唯一能力者戦争でラック達が使わなかった奴…というか使えなかった奴だね~。まぁ仕方無いよね、だって天仁 凱が神殺しのために仮想世界に来て、そこで敗北して落として行ったんだから。

ほんっと酷かったよ!執事君は僕を殴り飛ばすし、鬼の双子ちゃんもお手玉みたいにして僕で遊ぶし、寝巻男と眠り少女ちゃんはずっと寝てたし、堕天使は超高い所から落下させて笑ってるし、天使ちゃんは何もしてくれないし、魔女ちゃんは実験体にするし、病人の()は戦闘病悪化させて遊ぶし、赤髪の男の子も付きまとうわりに役立たずだったし、女装野郎も役立たずだったし…お洒落して一緒に遊んだけど、眼前の女の子も妨害ばっかしてきたし!!

ほんっっっとに面倒くさかったんだよ!!これのせいで二年かかったと言っても過言では無いよ、ほんとに!」


全員それが誰か大体把握しているので想像するだけで顔面蒼白、嫌な気持ちになってくる。仮想世界の住人はマモリビトが様々な所から取って来た選りすぐりのエリートだが、全員長い事退屈をしているせいで頭がおかしいのだ。

そんなヤバイ集団をあてにして無限に広がるこの世界の中で一振り、これを見つけた智鷹の功績を讃えるには言葉なんかでは物足りない。


「でもそのおかげで、僕らは最強になれたのさ。岬、天仁 凱自らが持っていた武具」


一振りの刀。刀身は錆び、鞘も見つからないおんぼろ。


「能力は『一時的かつ、疑似的な神への昇華』さ。これのおかげで、佐須魔は半分神へとなった。もう薫なんて比にならないよ、あっちで色々やってみたいだったからちょっと覗いてたら、めっちゃ弱かったからね。

執事にボコボコにされてたよ。ほんと、一方的」


そしてその武具を見せ終わった後、智鷹は話を戻す。


「そしてこの武具を手に入れた事により、僕らは神への挑戦権を得ることが出来る……そう考えてたんだけどね~」


急に腑抜けた声に戻ってしまった。


「多分これあっても勝てないや。ごめんね!」


全員ポカンとしている。一応神に挑戦する事自体は知らされていたが、勝てないとなると諸々の作戦が変わってしまう。今まで鍛えていた戦術も全てが無駄になる可能性だって出て来るのだ。

当然不満が抑え込めず、矢萩が口を開こうとした時だった。再度銃声が鳴り響く。


「僕は佐須魔と違って楽しければ何でも良い。だから邪魔な部下達は排除する。下は全員、上はシャンプラーと伽耶以外全員記憶を消去して街に放流するよ~」


流石にこれには黙っていられなくなった佐須魔が口を出そうとする。


「智鷹!」


「黙ってなよ、佐須魔。そもそもここは、僕の(そしき)でしょ」


「…はぁ…どうなっても知らないからな」


「大丈夫さ、安心して勝ちに向って行こう」


向き直し、方針の説明を再開する。


「運営自体に問題はない。ただ君らの中で害になるかもしれないだろう?裏切りやらなんやらでね。まぁどちらにせよあの子達がいて得になる事は金だけだ。どうせ革命が終われば安心して暮らせるようになるだろう。だから…」


智鷹が続けようとしたその時だった。佐須魔が立ち上がり、智鷹の首を掴む。その時の殺気は凄まじく、來花を含めた全員がそごんでしまう程だった。智鷹一人を除いて、だが。


「言っただろ、もう安息なんて言っている場合じゃない。僕らは神になり、この世界を壊す」


「嫌だと、言ったはずさ。僕はこの世界が好きなのさ。だから安心して暮らせる状況だけ作って、あとは放置で良いじゃないか」


「良い訳が無いだろ。どうやっても争いは生まれる、僕はそれが嫌なんだよ。一番の安心っていのは何も無い事なんだよ。いい加減気付けよ智鷹。お前は馬鹿だけど、阿呆じゃないはずだ」


「ごめんね。僕馬鹿だからさ。馬鹿と阿呆の違いも分からないや」


どう考えても智鷹が屈する場面、なにも関わらず反抗的で煽りを含んだ目でそう言った。


「俺はお前を殺す気は無い。だけど生かすつもりも無いんだぞ。ここで一番強いのは紛れも無く、俺なんだぞ智鷹」


霊力濃度も高くなっていく。正直怖すぎるのでさっさと喧嘩を終わらせてほしい、そう考えていた時だった。扉が開き、槍が飛んで来る。だがそれはグングニールではなく、ただの槍だった。

その槍は智鷹の髪を少しだけ切って、壁に突き刺さった。


「おお!来たね、傀聖」


「もうちょい霊力抑えろよ。寝れないんだけど」


現在TISに所属しただけで下でも上でも重要幹部でもない唯一の男、[松雷 傀聖]だ。智鷹が見つけ出した天才。そいつは実に普通の高校生といった感じだった。イキッている様子も無く、ただダルそうに欠伸をしながら部屋の中に入って来た。

全員それが傀聖だとは気付づ、一瞬警戒したが智鷹が名前を読んだ事によってすぐに気付いた。あまりにも雰囲気が変わっている。前大会の直前に皆に顔を知らせる為に会った時とはまるで別人、だがそれと同時に言いようの無い感覚、それと共に「強い」それが伝わった。


「さぁ佐須魔、手を退けてくれ。傀聖も来たんだし、今回の作戦を話して終わりにしよう……というかここまでで何か質問ある人いる~?」


智鷹が訊ねたが到底何か聞ける雰囲気ではなく、誰も口を開かなかった。すると佐須魔は溜息をつきながら王座に身を戻した。だが明らかに不機嫌で、珍しく笑顔の欠片もない表情を浮かべている。

そして再開された会議。今回の防衛での配置についてだ。


「今回は皆は指定された範囲から動いちゃいけない事にする。嶺緒は出来れば手放したくないんだ。蟲毒王の方の怜雄との交渉とかで何か使えるかもしれないしね。

だから絶対に死守する。だけど大前提として皆の命が優先だよ。なんたって革命が近いんだ、無茶は駄目だよ。死ぬなら半年後、あの小島でね。

それじゃあ配置を発表します!!適当で!!」


本当に頭が悪い。それじゃあそんな題材を持ち出す必要すらも無かった。そこで素戔嗚が質問をしようとする、だが智鷹は無理矢理その声をかき消す。


「それじゃあ終わり、解散!神に頼んで出来るだけ安定化+空き部屋の収縮頼んどくから、基地の中央にいてね、それじゃ。がんばろ~」


そして智鷹は、駆けて出て行った。その瞬間佐須魔も姿を消した。すると皆の緊張がとけ、様々な事を話し始める。言えなかった事、気になっている事、愚痴。本当に色々な事を。

そして最早雑談の域へと突入したので部屋を出る事にした。ただ部屋には四人だけ残った。來花、原、アリス、紀太だ。


「どう言う事ですか、來花さん」


「すまない…私達も出て来るなとは長年言い聞かせていたのだが…」


來花は非常に辛そうな顔をしている。察した原は少し慰めた後、言葉の真意を探り出す。


「多分、素戔嗚さんの言葉遮ったのってわざとですよね」


「恐らくな…」


「じゃあ何か意味があるってんのかよ」


紀太が突っかかる。するとアリスが一瞬にして答えた。


「ありますね。私は分かりましたよ。ですが言ってしまっては意味が無い事です、当日を楽しみにしましょう」


まるでお祭りかのように喜んでいる。正直原も楽しみではある、強くなった自分の力がやっと実戦で使えるのだから。だが一つだけ、不安が残っていた。

アリスと紀太は部屋を出て行き、二人になった。そこでようやく切り出せる。


「どうするんですか、元生徒会の子達」


「……後は私が、何とかするさ。ひとまず原は休んだ方が良い、私も頭痛がして来た…自室でゆっくりさせてもらう事にするよ」


そして二人も出て行った。空になった王座の間には筆舌し難いどんよりとした空気と霊力のみが漂っていた。



第二百九十五話「固まり始めた心情」

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