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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第九章「干支組」
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第二百八十五話

御伽学園戦闘病

第二百八十五話「Raise or Call」


「第一、第四で私が攻撃するから、やって」


覚醒や戦闘病では無い事は明らか、だがそれに匹敵するほどの力を持っている事も事実、一番の問題はその第四蝶隊である。こいつらはどうも人外に強いらしく、神との関係のせいで人外である砕胡には特攻を持つらしい。

こうなると非常に厄介だ。そして生物ではないので急所を作る事が出来ない。砕胡の能力は動物にしか効力を持たず、死骸には適応できないのだ。

なので投擲物や武具などには弱く、本体のフィジカルだけで何とかしなくてはいけない。だが砕胡はそこを見直し、ひたすらに訓練をしたのだ。その程度何とでも無いはず、であった。


「バカじゃないの、ボーっとするとか」


優衣がそう言った時砕胡の左眼に蝶が刺さっていた。おかしい、手なら視界に入っていなくとも分かるが眼を攻撃されて全く気付かなかったなどあり得ない。

必ず仕掛けがあるに違いない、そう考えトリックを見破る事が最優先に躍り出た。左眼が潰れた以上そう悠長にはしていられない、最短で見つけ出し封じて、叩き込む。


「いつもそうさ。僕より強い奴はごまんといて、そいつらは常に僕より速い。速度は正義だ、行き過ぎた速度は身を亡ぼす。だが適度な速度は必須なのさ。僕にはそれがないらしい、だから今、ここでお前を越える」


その時、砕胡は笑っていた。優衣は当然知らない、戦闘病の事など。ただ本能でそれがヤバイ事には気付き、回避行動に打って出た。この行動は非常に覚悟がいる事であった、何故なら攻撃の準備は済んでいたのだ。

自身が第四で一度攻撃を入れて、次に第一で襲い掛かれば殺し切れたとも思う。だがそれ以上に恐れてしまった、自身を見て笑う男の事が。


「馬鹿はどちらか、よく考えるんだな」


砕胡は珍しく戦闘病を発症すると妙に落ち着くタイプだ。それでも得る力は皆と同じ様に莫大だし、勿論心が壊れていく感覚も覚える。あくまでも性格がどうなるかであり、効果にまで影響はしない。

それよか衝動的に動く普通の戦闘病より、意識的に頭を使わなくてはいけない砕胡のタイプの方が苦しいだろう。こんな所でさえも皆より遅いスタートなのだ。

何もかもに見捨てられ、何にも愛されない。だが勉強と來花だけは裏切らないという心の奥底からの信頼があった、そのようにして作り上げられた戦術。

呪は使えない、それに通ずる術が使える訳でもない。だが砕胡には生まれながらにして持ち合わせる最強格の念能力がある、そこに合わせるのは來花の言葉と、ちょっとした自身の知恵だ。


「僕の能力は視界に入る動物ならば全てに急所を作ることが出来る、当然微生物でもだ。お前は今流血している、僕が爪で切ったからだ」


優衣の頬には小さな切り傷が出来ていた、まるで紙で切ったかのような小さな、血も多少しか出ていない傷が。


「集まって来るよな、小さな傷だろうが…更に小さな微生物が」


「なっ!!」


何をしたいのか気付き、頬を隠そうとしたが遅い。何故なら既に能力は発動している。一瞬にして優衣の体の中の細胞たちが死滅していく、その傷の元へ集まった者は例外なく、全て。

通常ならば的確ではあるが、霊力消費が多すぎる。だが砕胡には戦闘病と碧眼がある、能力者としての本能の発揮、霊力を普段の二倍程度にして増やす事など他愛もない。


「やはりそうだな、身近な者にはそうそう視線が向かないものだ」


優衣の体が動かなくなる。ただ細胞が死んでいくだけならもう少し体は持つはずだ、だがその時優衣は興奮していた。いや、緊張の方が近いのかもしれない。

鼓動が速くなり、血の流れが速くなってしまっているのだ。そのせいで物凄い勢いで細胞が死んでいるのだ。もう分かる、このままだと死ぬだろうと。

だからといって何か出来ると言われた不可能だ。もう体が動かない、赤血球などが足りなくなって来たのか苦しくなって来た。まるで毒でも盛られたかのような感覚、実際には食らった事が無いがこういうものなのだろうと予想が付くレベルだ。


「…明度の土産だ、一つ教えてやる。大体技に名前を付けている奴は二つに別れる、余裕があり堂々と唱える事が出来て面倒くさい操作を省いている"強い奴"。そしてもう一つが何かカッコいいからなどという理由でつける"弱い奴"だ。どうやらお前は後者だったようだな、さぁ死んでその能力を僕に…」


「何言ってんの」


一瞬理解が追いつかなかった。何故当たり前のように立ち上がり、口をきけているのか、それが分からない。普通に考えて人ならば死んでいるはずだ。そして覚醒や戦闘病のようにも見えない。

だが何か特殊な動作をしたようにも見えなかった。ただ言わずもがな気付く事が出来た。顔を上げた時、明らかな変化に。優衣の傷口には一匹の蝶が引っ付いていた、そしてその霊からは兵助に似た霊力を感じる。


「人外って例外なく強い。だから第四に集中させてるの、回復役」


だが生きている。どうやら攻撃役だけが死骸のようで、回復役は別に死んでいない様だ。よく考えたらそれもそのはず、あくまでも括りであり術ではない。ならばもっと複雑にしても本人たちが理解できていれば良い話なのだから。

どうやら砕胡の考えは少し凝り固まっていたらしい。あまりに初歩的な事を見落としていたのだ、大昔、本当に一番最初に教えられた事だった。


「回復持ちは、一撃で沈める」


砕胡はいきなり突撃を始めた。すぐに優衣は第一の背後に隠れるがそんな事関係ない、今まで砕胡は少し弱気だった。見知らぬ能力、そして磨き上げられていない未知の才能。

その二つを前にして何処か怯んでいた。だがもう違う、初歩的な事だ。どんな相手にも通じる、基礎とはそういうものだろう。特に戦闘の基礎となれば、尚更だ。


「意味ないさ、もう次は無いからな」


ぬろんとしながらも鋭利な目線と共に飛び出す片手、だが優衣からするとその腕さえ吹っ飛ばせば何とかなる。すぐに第四を手に、投擲をしようとした。

だがそんな事許されるはずがないだろう。砕胡は大量の蝶から身を乗り出し、手に取っていた一匹の蝶の死骸を咥えた。その瞬間に少しでも勢いをつけられていたら死んでいただろう、だが咥えた。

あまりに予想外の行動に優衣は対応できず、次の第四を取り出す間もなく触れられてしまった。


「本領を発揮できる盤面に追い込むのが戦いってもんだ」


能力をほぼ発動したその時だった。


「待ってください」


それは仲間の声だった。だがここで迷ったら負ける、そう判断した砕胡は悪いが無視して攻撃をする事にした。そして能力を発動しようとしたのだが、触手によって手を弾かれる。

すぐに身を引き、どう言う事か説明を求めた。


「どうしたんだ、僕は今ノリにノッテいる、邪魔しないでくれ。シャンプラー」


「僕がここに来た理由、お分かりですよね。あいつを殺すためです、干支の数人を撒いて来ました。あなたはそちらを…」


「退け、僕がやると言っている」


「ダメです」


頑なに譲ろうとしないシャンプラーに痺れを切らした砕胡は胸ぐらを掴み、放り投げようとした。だが触手の立体起動によって軽々と受け身を取られ、すぐに妨害された。

優衣は急いで回復をしているようで、折角与えたダメージが全て無に帰してくのが見て取れる。それが嫌だったので無理矢理攻撃しようとしたのに全て台無しにしてくれた。

上という一応格下である身分のくせをして、何故こんな事をして良いと判断したのか。シャンプラーは全くと言っていい程説明していないので当然理解されるはずがない。


「退けと言っている」


「ダメだと言っています」


「何故だ!?今ならあいつを殺せた!!お前は戦っていないから分からないだろうがあいつは…いやすまない少し取り乱した。だが退け、あいつはお前で相手出来るような奴じゃない」


「僕はそんな話をしていません。僕が殺すからあなたは別の奴を相手にしてください、そう"言って"いるんですよ。"提案"なんてしていません」


「…ダメだ。それでも上の最上位であるお前をここで死なせるのは愚策だ。別に仲間意識は無い、だがお前は佐須魔や來花の駒だ。そして僕はお前より強い、TISでは基本的に力がものをいう。

黙って下がっていろ、お前は…」


「うるさいですね」


シャンプラーはあろうことか砕胡の口を触手で無理矢理封じ、他の触手で掴んで放り投げた。だが砕胡の身体能力を持ってすれば着地など容易、だが目的が放り投げて何処かに飛ばす事では無いと気付く事も容易だった。

何故ならシャンプラーはまだ戦闘体勢に入ってない。ただコートから四本の触手を出して様子を伺っているだけ、それも砕胡の方を身ながら。

もう訳が分からない。恐らくシャンプラーにとって組織の勝利などどうでも良いのだろう、ただ自分のやり方で殺したい、それ以上でもそれ以下でもないのだ。


「いい加減にしろよ、お前は僕より弱いんだ。今ここで半殺しにしても文句は言わないだろうな」


流石の砕胡でも我慢の限界になり、少し威圧を使用しながらそう言った。だがシャンプラーは顔色一つ変えず、何処か蔑んだような目を向けながら言った。


「醜いですよ。戦闘病や覚醒に頼るなんて」


そう吐き捨て、優衣の方を向き返った。


「ふざけるなよ!!!」


まるで自身の戦闘の全てを格下に馬鹿にされたような気がしてならず、つい声を上げてしまった。するとシャンプラーはほんの少しだけ振り向きながら、伝える気が無いであろう声量である事を伝える。


「そもそもあなたの相手は、既に来てるじゃないですか、島から泳いで」


その瞬間背後から感じるとんでもない殺気。すぐに誰のものか察知し、とても心が踊ると共に落ち込んだ。様々な感情が交差する中、表情は嘘をつかなかった。

ゆっくりと薄ら笑いを浮かべながら、そいつの名を呼ぶ。


「久しぶりだな、拳」


眼鏡を押し上げ、ほくそ笑む。


「ぶっ殺す!!!砕胡ォ!!!」


島から全力で泳いできたのだ。三十分前にようやく伝わって連絡によって、砕胡が来ている事を知り。


「相手をしてやろう。来い!」


楽し気に砕胡は森の中へと駆けて行った。拳も怒り心頭ながら追いかけて行った。そしてその場には完全回復を果たした優衣、そしてシャンプラーだけとなった。


「さて、貴方は知っているのですか?自身の蝶がどうやって生成されるのか」


「…知らない」


「そうですか。ならばあなた目線、ただの逆恨みになってしまいますね。ですが仕方無いでしょう、死んでください」


シャンプラーはそう言いながら追加で四本の触手を出した。それは既に限界状態、本来ならば。シャンプラーの覚醒効果は砕胡と同じく能力の底上げ、そしてその詳細は触手の無限化である。

最早別の能力と言っていい程に強化されるこの効果、ただし当然弱点もある。二つだ。

一つ、消費霊力の莫大さ。元々一本生やすのにも指数で表し50~60程度はかかるのだ。だが覚醒しても数値は変わらない、なのでおのずと短期決戦へと持ち込まれてしまう。

そして二つ、体が壊れる。これは非常に珍しいケースで覚醒だけで体が追いつかないのだ。これはシャンプラーに才能が無いだけであり、現在重要幹部最弱の原でも余裕で耐えられる程度である。

それでもシャンプラーにとっては霊力オーバーでヒビ割れ並みの消耗を受ける。そのためあまり戦術も開拓できていないほぼ未知の領域、だがそれを初っ端から使用した。


「…ふぅん」


素人の優衣でも見るだけで分かる、危険だ。そんな事をしてくれるとは、少々舐められている様にも感じる。多分第四は通用しない、だがその代わりに第一が刺さるはずだ。

押し切る、一気に。


「時間はいらない。復讐にリソースを割ける程、僕に余裕は無い」


そういいながら、攻撃を仕掛けて来た。



第二百八十五話「Raise or Call」

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