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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第九章「干支組」
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第二百八十二話

御伽学園戦闘病

第二百八十二話「策と憎悪」


「口黄大蛇だと、そう考える」


「口黄大蛇?誰の事ですか?」


「多分鶏太達は知らなかったと思う。大会でもあそこは激動過ぎてカメラで映せなかっただろうからね。口黄大蛇っていうのはさっき言った通り來花が持つ霊だ。といっても本来の降霊術のようにある一定の信頼を築いているようには見えない、謂わば暴走状態へと持ち込んだ際に現れる……いやもしかしたら現れる事によって暴走するのかもしれない。

ともかくそう言った危険な状態で出て来る黒くて巨大な蛇の事さ。干支犬の件があるんだから、普通の霊や動物から干支神に昇華していても何の違和感も無い。

むしろあの大蛇の事だ、無理矢理見つけ出して喰い、力を奪ったと言われても何ら疑問が浮かばないよ」


「そうですか…ですがとなると僕らは來花の元へ行かなくてはいけないのですか?」


「いいや、違う。あくまでも仮設に過ぎないのさ。ただね、結構有力だとは思う。取締課の二人はどう思う?」


「別に今回明確な期限は設けられてないし…私とあんたが生きてれば基本何回でも何処にでもトライ出来る。他に決定的な情報が見つかるまではその路線で追えば良いと思う」


「私も賛成です…というよりも消去法でそれ以外無いと言いますか……あまり猶予は無い以上そんなちんたら日本中を飛び回る訳にも行きませんしね……ただ一つ良いですか?仮想世界に突撃する、そう言った思考であると汲み取って良いのでしょうか」


「いいや、それは違います。僕らには來花を必ずや引き出せる手札がある。少々非人道的ではあるが、致し方無いでしょう。詳細はその時まで伏せますが…とりあえず皆は今夜辺りにでも再度やって来るであろう砕胡達との戦闘で"勝って"もらえれば結構です」


「無茶だよ」


珍しく猪雄が喋った。かと思うといきなり否定だ。


「あいつらは強い。シウがいないと僕らじゃ人員不足…桃季と二人ぐらいで一人、ハンドとファストと鶏太で一人、あと一人は生良、僕、唯唯禍、優衣、兵助でやらなくちゃいけない……適当に割り振ったけど…どうやっても神を倒せない。倒せる編成にした時点で砕胡に負ける。

何処かに集中させなくちゃ勝てないけど、集中させた時点で脆弱性が見て取れる程に露呈する。無茶だよ、三人を相手にするのは」


その通り過ぎて何も言い返す事が出来ない。だが兵助には策があるのだ、今はそんな割り振りにどうこう言っている段階ではない。どうやら猪雄はそれが理解できていない様だ。


「安心してくれ。僕にはやり方がある、君は安心して戦ってくれると良い。建物を破壊してしまっても全て取締課が後処理をしてくれるさ」


不信感を持たせないよう勢いでそうは言ったが背後から物凄い強い視線を感じる。兵助はそちらに目を向けずに次の話に移った。


「そして言っておかなくちゃいけないんだけど、シウは出せない。パラライズもいつの間にか離脱してたし、多分オフィスに戻っただろうから安全は確保されてるはずさ。まぁTISは明らかに僕達を排除しようとしているから、返り討ちにするのが先だけどね!」


いつも通りの笑顔でそう言い聞かせた。だが大会でのちょっとした戦いしか見せていない兵助の言葉など信頼に値しない。少しずつだが不信感が募って行く。

それを察した優衣が口を開いた。


「砕胡は私一人で相手出来る」


「えっ!?でもそれって消耗品の蝶を全部使い切るレベルって島にいた時…」


「重要幹部レベル相手だとそうなる、私は確かにそう言った。それで多分ほぼ全部消費する。だけどこれから私の移住先を守る奴らが死んだら元も子もない、蝶は似たようなのはその内現れる。でも兵助の回復術とかシウの結界術とか唯一無二、だからそっちを優先する。そこで自分の利を取る程頭は弱くは無い」


「…遠距離からの攻撃はどうする気?私みたいにそこまで俊敏性がある様にも思えないんだけど」


「速度を上げる蝶は今切らしてる。その代わりにこいつ」


そう言いながら一匹の蝶を取り出した。そいつは他の消耗蝶とは違い、まだ生きている。確かに触角がうごめているのだ。それを食うのだろうと察した皆はドン引きだ。

だが一番嫌なのは本人だろう。そんな嫌悪感さえ感じる行為を迷わず実行すると言ったのだ、相当の覚悟を持っての事だろう。ならば応えなくてはどうするか。


「分かった。深くは聞かないさ、ただ砕胡は頼むよ」


「…うん」


兵助に頼られた優衣は少し嬉しそうだ。


「さて、となると相当楽にはなる。ただシャンプラーはどうにかなっても…神が難しい。多分僕は手も足も出ないと思う、霊とか遠距離攻撃を使える奴じゃないといけないね」


「…いや。私に良い案がある。さっきハンドから一部始終を聞いた、ライトニングの戦いの事。伝言だけでも解った事があった、だから神は私、ハンド、兵助、猪雄で行く。生良、桃季、唯唯禍、鶏太でシャンプラーを頼む」


ここはファストが言う案に乗るが吉だろう。そして配分が決まった。優衣一人で砕胡。ファスト、ハンド、兵助、猪雄の四人で神。残った生良、桃季、唯唯禍、鶏太でシャンプラーだ。

それぞれに勝機はあるようなので心配は不必要だろう。この人数で戦うにはあまりにも実力差のある相手達だ。だがシウがいない今でも勝利を収め、來花を引き出さないとライトニングやパラライズにまで力を借りてここまでやった意味がない。

そして、こんな時に突っ走り心配をかけているであろう島の皆に申し訳が立たない。何としてでもここで掴み取り、即行で帰還するのだ。


「さぁ、それぞれ迎え撃つ準備を始めよう。夜はそう遠くない、あまりモタモタしている時間は無いよ!」


短い遠征、短い戦闘。だがこれで良いのだ、むしろこうでなくては戦闘経験の無い干支組や優衣は付いて行けない。決して楽な勝負とは言えない、だが初めての出撃にしては最適な遠征だ。

まるで神のお告げのようだった。優衣を連れて行くのは正解であった、そうでなかったら砕胡なんて相手に出来ていなかったのだから。ただしそんな優衣も一つだけ不安な点が存在していた。



「威圧、使えるようになってるんですね」


「まぁな。あいつが寝てる間に話しかけて来るせいで嫌でも仲を深めてしまった。まぁ今のあいつは敵でも見方でも無い、学園側としても我々としてもそこまで脅威になる存在ではない。威圧は僕のような能力者が使う事によって真価を発揮……お前が使いこなせていないとは言っていないだろう、静かにしてくれ」


急襲作戦が終わった頃から砕胡は独り言が多くなっていた。ただし皆その理由ぐらい言わずもがな把握している。真澄の魂喰った。非常に意志が強い者は喰われてもその者と対話が出来る事があるだけだ。

だが他に本体が魂を喰った者は少なく、多少は珍しい事ではある。稀にいるのだが言伝ではあるがマモリビトが使用できる謎の話し合い空間、あの白い空間のような者を作り出せるようになる者もいるらしい。

真澄はそのパターンらしく常に話しかけて来るそうだ。繊細な砕胡にとってはストレスも凄いはずだが、何故だかその頃から機嫌が良さそうだ。


「僕には到底、理解できませんがね」


食堂へと向かって行った砕胡の方を向きながら、シャンプラーはそう呟いた。正直砕胡にとって威圧など使い道も無いに等しい、そんな事をせずとも視界に収めて急所を作ってしまえば瞬殺出来るからだ。

だがまるで嬉々として使っているのには何か理由があるのだろう、誰にも明かしていない内面的な何かが。


「來花さんの場所にでも行ったらどうです?」


「そうする!!」


砕胡の体力を吸収して完全回復した神は來花の元へ駆けて行った。誰もいなくなったシャンプラーの部屋。作戦会議は終わった。あとは時刻まで待つだけだ。

といってもそこそこ時間がある。現世より三倍なので決して長くはない、絶妙な時間。適当にベッドに横になった。すると視界に入る蝶の剥製コレクション。

ふと気になり、立ち上がって手に取った。


「……僕は許さないから。あいつを。必ず、絶対に仇は取るさ、母さん」


まるで蝶に語り掛けるようにして、そう言った。そして元の位置に戻す。剥製の下にはお洒落なネームプレートがかけてあった。【レリエル・シャンプラー】と。そしてその右隣には【ジェイムズ・シャンプラー】と。更にその中央下、そこには一際小さな蝶がかけられていた。

ピンクに近い緑色、模様は無く、ただの単色。お世辞にも綺麗とは言い難い、趣味の悪い剥製。名を【リリエル・シャンプラー】と。

再びベッドに横になり、腕で顔を覆い隠しながら独り言を呟く。


「確かに僕は弱いさ。だがそれは普通の能力者との戦闘の場合だ。僕はあいつを殺す為に力を磨いてきたんだ。必ずだ、殺してやるからな…」


「そーんな事言ってないで仮眠でもしたらどうなの?」


リイカが許可を出していないのに入って来た。二人は先祖の事もあってか何だかんだ仲が良い、先祖はあまり良くない行動をしたのは確かだが今、二人にとってはあくまでも引き合わせた運命というだけであり憎んだりする理由になんてならないのだ。

問答無用でベッドに腰をかけて来た。


「そう言うなら退いてくれいないか」


「何?上が重要幹部に楯突くの?」


「…もうしわけありませんでした。いごこのようなことがないようきをつけます」


「誠意の籠ってない謝罪は罵倒と同じよ」


「そうかい。それでなんだよ、僕は佐須魔から命じられたんだ。休みたいんだが」


「大した攻撃していなかったくせに~」


「干支辰は速い、最近速度の訓練を初めたがそれでも回避に集中しなくては足を持って行かれていた。そうなると砕胡の元へ行くのが遅れていた。そうなった場合…」


「別に言わなくて良いから。私もうそのルート見たし」


「…悪い」


「謝らなくていいわよ。それが私の役目だしね、出撃毎に監視して、ダメなルートに突入したら巻き戻して手を加える。何処の行動が鍵になっているのか、それをどうやって遠隔で動かすのか、現場に行ったら詰む事も無くは無いからね。

もう慣れたわよ。こっちは現世と三倍の速度だけどね、私からしたらマイナス数十倍の速度よ」


「ならなんでこんな事続けているんだ。お前は別に強要されて加入したわけでは無いだろう」


「…知ってるでしょ。弟。私が早とちりしただけなんだけどね…それでもこれから起こる事を加味したらこのままでいい、過去……いや未来の私がそう決めたの」


「僕だったら精神が壊れる役回りだ。尊敬はするよ、縁の下の力持ちがこれほど似合う重要幹部は他にいないよ」


「……ならもっと敬いなさいよ」


「何故だ。僕の目的はTISの目的に向かって進む事じゃないと言ったはずだが?」


「蝶理 優衣を殺す、ねぇ……まだそのルートまで行った事無いから分からないけど無理だと思うわよ?単純に実力差が…」


するとシャンプラーは起き上がり、より一層憎しみに塗れた声で言い放った。


「魂を愚弄するあいつに生きる権利が無い事を押しえ込んでやるんだ。万が一、僕が死んでもな」


ここまでしたシャンプラーが狙う理由は優衣の能力にあった。まだ本人は気付いておらず、TISでも一部の人間しか気付いていない。だがその特性を理解した者は皆早く死んでくれと"願う"のだ。

どうして自身で殺しに行かないか、返り討ちにあうからだ。恐らく佐須魔や來花でも一回でも選択をミスると終わりだ。何故なら優衣の能力は直接、模られていない状態の魂にさえも、無意識下で触れて来るからだ。


「だが僕は、それでも殺す」


そのために考えた秘策がある。シャンプラーの心は息を吹き返し始めた、今、この時。



第二百八十二話「策と憎悪」

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