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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第九章「干支組」
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第二百八十話

御伽学園戦闘病

第二百八十話「近付く勝機」


「なっ…」


「そんな驚く事は無い…いやよく考えたら仕方無い事だな。あえて言おう、駕砕 真澄は僕"の"仲間になった」


「どう…いう…」


「凄いな。ようやく最近使えるようになったとはいえシウの方は言葉も出ていないぞ」


普通なら思考もバグって何も考えられなくなるはずだ。だが兵助はとても冷静だった。ただ体が動かず、恐怖に支配されていく感覚。だがそれ以上に問いただしたかった。


「んで…お前が真澄のっ…!!」


だがやはり言葉が最後まで出ない。ただ砕胡は食い気味に答える。


「普通は出来ないんだがな、僕は少し特殊だ。知っての通り(シン)の栄養源だ。そのせいで魂が常に姿を出している」


「意味…がっ…」


「分からないだろうな。佐須魔や來花、叉儺ぐらいの天才しか分からない。当の僕も全くと言っていい程分かっていないからな。だからこれ以上の説明が不必要なように言おう。

僕の記憶や心を視て、駕砕 真澄はTISではなく、僕個人に力を貸してくれようになった。これが答えだ」


「だから…意味が…」


「これ以上話す必要は無い。お前はまだ殺せないが、シウの方は…」


「そっちじゃない!!なんで、シウの名前を知ってるんだ!!」


捻り出したその言葉。意表を突かれた砕胡は少し硬直した後、向き直る。


「これは謝罪案件だな。まぁ良い、流と同じ様に監禁するまでだ」


二人に対して遠距離から能力を使用した。その時、ある事に気付く。二人に対して全くと言っていい程攻撃が効いていない。何が起きたのか分からないがひとまず様子を見ていると背後から物凄い殺意を感じる。

振り返りながら蹴りを繰り出したが既に遅かった。一撃重いのをくらった砕胡は吹っ飛び、十本近くの木を巻き添えにして倒れた。だがすぐに起き上がり、壊れた眼鏡を外す。


「…ニアか」


だがそれだけでは説明が付かない。何故二人が切れないのか、すると一人の少女が姿を現わした。


「良かった。兵助に食べさせておいて」


優衣だ。一人だけ戻って来たようで状況把握を済ませると同時に兵助の元へ駆け寄り、新たな蝶を押し込んだ。それは一時的に能力での干渉を不可能にする蝶だ。これも非常に見つけるのに時間がかかったものではあるが、別に出し惜しみをする程ではない。


「同じタイプの奴を二つ食べさせたのは初めてだから気を付けてね」


「あぁ。ありがとう」


そう、兵助はただ威圧が効いているかのように演技をしていただけだ。実際には全く効いていないし、チャンスが到来するのを待っていたのだ。ニアがほんの少し、寝ている間から霊力放出をしているのを感知してから。

砕胡はそこまでは理解出来た。だが目的であったシウが未だに何も動かない事に違和感を覚える。するとその時、兵助がシウに対してこう言った。


「もう良いよ、ありがとう」


「それなら…良かった!!」


シウはみるみる変化していき、最終的には唯唯禍へと変化した。


「残念!!あたしでした!!……いや、ちょっと違うね!!あたしの干支猿は変身出来るの。そして解除した時に"強制的"にあたしがその場所に移動させられる。便利だけで不便、でも結構楽しいよ!!」


それが干支猿の力である。少し異様ではあるが受け入れるしかない。だがあまりよろしくない結果になってしまったのも事実、何故なら砕胡からすると「シウを知っている」事を知られ、何の成果も得られていないからだ。

だがニアもいるし、くらわない兵助、また干支猿で何とでも出来てしまいそうな唯唯禍、何でもありの優衣。正直勝てる気などしない。威圧があってもどうにもならないだろう、となると選択肢はおのずと一つに絞られる。


「また撤退だな」


後ろに下がろうとしたその時だった。


『パラライズ』


動きが止まる。だが思考は正常、だが言葉はでない。


「完璧です」


ニアが殴り掛かった。当然避ける事など出来るはずもなく思い切り吹っ飛ばされた砕胡は一瞬にして意識を持って行かれそうになっていた。だがここはもう気合で耐える。

毎日のように積み重ねてきた努力の結晶であるこの戦闘方法、それをこんな所であっさり失っていいはずがない。だが何処かにパラライズが潜んでいる様なのでどうしようもないだろう。

ただ吹っ飛ばされる時に一瞬だけ、今までなら考えもしなかった事を脳内で浮かべた。


助けてくれ、(シン)


砕胡は神を心底嫌っている。別に脱退したい訳ではないのだが、神がいなかったら普通の生活を遅れていてはずだ。神がいなければ頭脳や身体能力なども持って行かれる事が無かったので現在の倍だったはずだ。そしてこんな苦しい目に合わなくて済むはずだった。

半ば当てつけ、だがそれは初めてだったのだ。(シン)は來花に懐いている、呪の化身なので当たり前の行動だ。ただ親に近しい存在の砕胡とは何度もコミュニケーションを取ろうと試みては、跳ね除けられていた。

だが今、感じ取った。運命共同体(いっしんどうたい)である二人は、ようやく初めて分かり合おうとしたのだ。


『呪・自身像』


大きく全てがどす黒い赤目の黒い怪物は意外にも優しく、砕胡を受け止めた。そして立ち上がらせ、代えの眼鏡を出してあげる。そこに現れた(シン)はとても無邪気に喜んでいた。


「…来るなよ。クソ野郎が…」


「えっ!!」


「…これ以上の失態はしない。見たけりゃ見てろ、お前の半身の戦闘を」


「ほんとぉ!!」


やはりそうだ。砕胡は少し変化している。その事がとても嬉しく、神は心の底から嬉しかった。工場地帯で蒼を殺した時と同じ程度には。


「手出しは無用だ」


迫って来るニアから庇う様にいて、砕胡は前に出る。


「僕の本気は、これだ」


両者同時に殴り掛かった。だがどう考えても砕胡が不利である。ただし砕胡には能力が付いている。ニアは体が呆れるほどに頑丈で空気だけでは切れなかったのだろう、だがそこに鍛え上げた半人分の拳をぶち込んだらどうなるか、考えずとも分かるだろう。

本当に久しぶりの出来事であった。あまりに鈍い音がなると同時に、ニアは腹部を抑えその場にうずくまった。そしてそこに躊躇わず追撃を入れようとする。


「させません」


猪雄が猪に乗って突撃して来た。速すぎた故に制御は効かず、容易に避けられてしまった。だが問題は無い。


『降霊術・神話霊・干支鼠』


大量の干支鼠が砕胡に向かって突撃する。やはり所詮は戦闘経験が無い者、戦いが何たるかを一切理解していない。ただ突撃するだけでは到底敵わないのだ。

全部の鼠に急所を作るのは霊力消費が計り知れない。なので本体に急所を作り出した。能力に干渉出来なくなる蝶などそんなぽんぽこ消費出来るものでも無いはずだ。

なのでこれは必ず効く、そう考えていた。だが猪雄の正面に兵助が回り込んで来た。すると砕胡の能力は発揮されない。


「もう見抜いたか」


「そりゃあね。普通に考えて視界に入ってなくても対象になるのならわざわざ姿を見せてくれる必要が無いだろう。君の能力は強い、だがその代わりに対象が視界に入っていないと使用できないんだろう?」


「そうか。分かっているのなら退いてもらおう」


「嫌だね。そのためにレアな蝶を貰ったんだ。どうやら色々バレているようだからね」


聞く気が無い様なので突っ込んだ。まるで俊足、すぐさま兵助の背後、猪雄を視界に入れた時だった。


「封殺、どうぞ」


ハンドの声がすると共に砕胡が無数の手に張り付かれ、身動きを封じられた。当然視界も奪われ、拘束状態だ。どうやらファストが運んできてくれたようだ。

だが血だらけでヘロヘロである。すぐに回復に入ろうとしが「霊力操作が乱れます」と断られてしまった。そして続けてある事伝える。


「この手は数秒しか持ちません。すぐに体勢を…」


そう言った瞬間、砕胡は球体状になった手を突き破って飛び出してきた。予想以上に突破されるのが早く、次の手が間に合わない。だが当然問題は無い。


『パラライズ』


動きが止まると同時に、ようやく場所を割り出せた。上だ。木の上に立っている。


「ハンドさん!!」


「助かりました。封殺、どうぞ」


今度は先程の倍の数を出して発動した。パラライズのせいで動けないのもあり、段々と圧迫されていく。息も苦しく、何より暑い。何とか突破できないか能力を発動しようとするがそれすらも出来ない様だ。

ただの無力な人形と化した砕胡の眼鏡にヒビが入る。もう無理だ、そう感じた時だった。皆が意識しないところから飛んで来る強い術。


『呪・重力』


一瞬にして場が止まった。ただ二人を除いて。


「手を出すなと、言ったはずだろう」


そう言いながらも元気に手を破壊して飛び出してきた。(シン)の術は砕胡の術、全体にかかる術でも全く効かないのだ。なのでこういった事も悠々と成し得てしまう。恐ろしいコンビだ。

今までの関係性だったからこそ抑えられていた脅威がこんな時になって発揮されてしまったのだ。もう無理だ、パラライズも動けていない。ファストも鶏太も桃季も生良も来ない。


『女神の血を引く 我が名はニア・フェリエンツ・ロッド 其方の記を辿り蠱無しとあれば力を頂戴致したい 欲するは光 与えるは霊魂 力戴く女神の名こそ黄粉姫 我の力を信じよ 女神の血を引く姫名の下に 黄に輝く光線を卸したまえ』


一瞬にして放たれる無数の霊力で構成された光線。


「奉霊無しでも出来たな、そう言えば。だがちょっと詠唱が違う気がするが、どう言う事だ」


「降霊術やバックラーなどの詠唱などはあくまでも呼び出したり、力を借りたりする者に対して意思を表示するもの。そもそも本来は日本のロッドしか使えない術です、無理くり作っているのですから多少変えても何も変わりません」


この重力下でもニアは当たり前のように動いている。もう本当に化物の域なのだろう。だが冷や汗をかいている、少しずつ勝機が潰されている事にようやく気付いたのだろう。

だがもう手遅れも同然、(シン)もやる気満々だ。


「もう良いでしょ!!」


「…勝手にしろ」


『呪術 羅針盤』


頭がおかしい。

普通に考えて全方位攻撃を砕胡がいる所でやるだろうか。というのも呪はあくまでも天仁 凱の能力から受け継がれているため砕胡でも普通にくらうのだ。


「バッカ野郎!!!」


急いで木に飛び移り、事無きを得た。だがニア以外の他の者は動く事が出来ない。ゆっくりと回り出した鋭い羅針盤にただ絶望するしかなかった。

右回り、ゆっくりと体を引き裂くため動き出す。ニアも何とかしようと模索はするが何も出来るはずがなく、諦めて回避行動に出た。だが皆覚悟していた事だ、この遠征で死ぬ可能性がある事ぐらい。

だが実際に間近になると恐怖が勝ってしまう。兵助も久しぶりの死を肌で感じ取り、苦笑いをするしか出来なかった。


「これにて僕の勝ち~!」


一番近かった兵助の首元に歯が食い込んだその時だった、響く安命の詠唱。


『蒼剣・ライトニング-モードRED』


紅剣(こうけん)・ライトニング-紅雷斬(こうらいざん)


その瞬間、羅針盤の針は破壊され、一人の女が降り立った。


「さぁ、どうする」


[name ライトニング]、最強の一人である。



第二百八十話「近付く勝機」

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