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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第九章「干支組」
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第二百七十九話

御伽学園戦闘病

第二百七十九話「始まった戦闘」


その夜は結局野宿をする事になった。といってもただの野宿では無く、ハンドの手で完全に防御をして少なくとも不意打ちを割けることが出来る様にはして。そして島に着く寸前まで眠っていた優衣が適度に起きて周囲の霊力確認を怠らない、という条件下でだったが。

そして時刻は十一時、正午に差し掛かりそうになった頃、ようやく皆が目を覚まし始めた。昨日は様々な事があったせいで眠れていないので当然の事なのだが普段朝に起きている身としては少々焦りを感じてしまう。

別に遠征なので問題はそこまで無いのだが、やはり一日の数時間を無駄に消費した感覚がしてしまうのだ。そんな事を心に収めながら手を解除してもらう。


「いやー…この時間帯に起きたのは久しぶりだよ…」


時間だけで言えば打倒なのだが兵助は何とも憔悴している。だが桃季や唯唯禍は相変わらずうるさい。その声に反応して猪雄と生良の静かな二人は目を覚ました。

太陽の位置を見て何時なのか大体察し、その後シウに言われてから寝過ぎたと少し後悔する。とりあえずそんな事に時間を使っている暇も無い、出来るだけ早く朝食(ちゅうしょく)を済ませる。

あまり大人数で店に押しかけても迷惑になる可能性もあるし、位置を特定される可能性も無くはない。なのでまだ寝ているが周囲で動いている蝶を身に着けた。


「とりあえず僕が行って来るよ。皆さんは待っててください」


そう言って鶏太が行ってしまった。姿が消えてから気付く、シウは鶏太が戦闘向きでは無いと言っていた事に。すぐに問い詰めてみる。能力は弱いのではないか、と。

すると寝起きが弱いシウがヘロヘロと返答した。


「だいじょうぶだよ、そんぐらい…」


「いやでも、砕胡とかが来たら!」


「シウの言う通り!!鶏太の霊は戦闘向きじゃない。なら何を得意にしてるかっていうとね…探知よ、探知!」


桃季が首を突っ込んで来た。一応そこまで言うのなら安心なのだろうと感じ、適当な場所に腰かけてから鶏太の持ち霊の詳細を聞く事にした。


「鶏太の霊は見たと思うけど干支鳥!!でも霊の中には戦闘がメインじゃない奴もいるでしょ?鶏太はそれよ!!さっきも言ったけど探知が得意なのよ!!霊力探知!!

ホントにスッゴイのよ!!数キロ先までなら鮮明に霊力探知で状況把握が出来るの。それに加えて霊力消費は極端に少ない!!最早動く大型レーダー!!!」


「半分馬鹿にしてない…?」


「そんな訳無いでしょ!!まぁ今回は使うことは無いだろうから分からないだろうけどね!!」


「そっか。それなら一ついいかな」


「なに!!??」


「探知できても本体のスペックが高い、霊の力が強い、または別の能力を所持している。この中のどれかに当てはまっていないと一人じゃ何もできないくない?」


「……行かせた兵助が悪い!!」


「えぇ!?ちょ…ファス…」


既にいなくなっていた。即行で共に行く事にしたのだろう。とりあえずファストがいれば安心できる、何があっても即行で逃げて来るだろう。

さて次にやるべき事は待ち時間中に干支蛇の事を調べる程度だろう。


「さてさて…」


昨晩、仮眠に入る前の優衣にこう伝えておいた。「蝶で本集めてくれないかな?それっぽいの沢山」と。基本情報など意味の分からない本や一見関連しなさそうなジャンルにひょこっと乗っていたりするものだ。

なのでそれっぽい本をかき集めさせた。蝶というのもあってかそこまで数は無い。約二十冊程度だろう、正直寝起きのシウ含め干支組は生良以外頼り甲斐が無い。なので二人で徹底して読み込む事にした。

だがあくまでも書いてある文字をスラスラと読み進めるだけであって、内容を頭に入れる必要性は全くない。そんな事をしていると鶏太とファストが帰還した。何事も無かったようで一安心だ。

そしてそれと同時に二十冊に目を通し終わった。まぁ当たり前なのだが情報は何も乗っていなかった。干支の絵本などアテにもならない。


「コンビニで弁当買って来た。別に数日ぐらいこういうご飯でも良いでしょ?……まぁ私達は毎日携帯食糧だけど…」


サラッと取締課の闇を暴露したような気がするが気にしない。優衣も目を覚ましたので皆でさっさと食べる事にした。その間、周囲には警戒しつつも少しだけ油断を解いてしまう時もあった。

だが異様なほど何も攻撃が無く、まるで手を引いたかのようだった。普通に考えてニアがいなくなったので砕胡以外の誰かで攻撃を仕掛けて来てもおかしくないはずだ。

なのに足音一つもしない。いやおかしい、何故足音一つしないのか。ここは林、というより最早森の範疇だ。なのに野生動物や鳥など何の音もしない。


「…みんな」


兵助が呟くと皆黙り、耳に手を当て"耳を澄ませ"というジェスチャーをする。そして皆もそれがおかしい事に気付いた。だがたまたま、偶然そうなっているだけなのだろうと考えていた。

だが兵助だけはそうは行かないのだ。昨日見てしまっている、月夜に浮かぶ一人の男[コールディング・シャンプラー]を。彼の触手は何でも食らう、人も動物も。

推定でしか無いし、霊力も感じ取れないので断定は出来ないがもしかしたらこの周辺に待機していて、攻撃の機会を伺っているのかもしれない。


「…でも警戒してね。あまりにも静かだからさ」


ファストとハンドも薄々気付き始めているようだが、基本森で過ごす事などないので正直分からない。そのせいで何も言えない。干支組は全員気のせいだろうと言って聞かないのだ。

優衣は何も言わずに蝶を操作している。兵助はその時協調性の無さというものを感じた。だがそれと共に可能性も感じた。これほどバラバラなのにやっていけるのだから協調性を持たせることが出来たら更に強くなる事間違いないだろう。


「まぁみんな警戒は…」


念押しをしようとしたその時、鶏太が叫ぶ。


「伏せて!!」


ハンドは手を出し、最初の攻撃の盾を作って伏せた。そのおかげで少し反応が遅れた唯唯禍や桃季なども回避することが出来た。木が薙ぎ倒された音がする。

音がやむとすぐに顔を上げ、誰がやったのかを確認する。やはりだ、兵助の予想は当たっていた。そこに立っていた、いや立ってはいない。木に立体起動でぶら下がっている。


「外しましたか。まぁいいでしょう」


ほんの数日前、図書館で同じ情報を探した男だ。


「シャンプラー…!」


「さて、外したのなら私は不利です。引かせてもらうとしましょう」


一瞬にして逃げ出そうとした。だが許されるはずがない。鶏太が霊を出して探知をして、干支辰で木を薙ぎた沿いながらでも追いかける。

ファストはシウ以外を抱えて突っ走る。当然ファストの方が何倍も速いので追いつく事は可能だ。だが干支辰が木をぶっ壊して行くせいで迂闊に近付くことが出来ない。


「これじゃ近付けないから!!桃季!!」


言い聞かせようとするが干支辰が言う事を聞かない。今までこういう事は無かったはずだ。桃季はシウと干支犬の次に霊と仲が良い、そのため指示を無視する事などありはしなかった。

だが今、もう少し慎重に進めと言っても聞いてくれない。何が起こっているのか分からず、半分パニックになっている桃季を落ち着かせながら状況を把握しようと周囲を見渡す。

その時、一人の影を見た。


「あっ!」


だが風で完全にかき消されてしまう。誰を見たか、狐の面を付け通過していくのをのうのうと監視していた、紀太だ。兵助は万が一の事を考え、シウが危ない事を察知した。

もしやシャンプラーは囮でこれが本命なのではないか、と。そうするとやはり何処からか情報が引っこ抜かれ、結界術の事などはバレてしまっていると考えるのが打倒だ。


「ファスト!!僕を降ろしてくれ!!今すぐ!!」


焦っている兵助を見たファストは少しだけスピードを下げて兵助を放り投げた。上手く受け身を取ったが体が結構な数切ってしまった。ただそんな事関係ない。あまり離れていないので全速力で走る、破壊されている森の道を進む。

すると先程紀太がいた場所には靴の跡があるだけでそれ以外は何も無くなっていた。当然霊力残滓さえも。そもそも霊力放出が一切無いように感じた、本当に一切。


「まさか…シウみたいに何らかの方法を使って一時的に霊力放出を完全に無くしたのか…?」


「そうだね。良い仮説だ。まぁでももう少し霊力への理解を深めるのが先決だな」


背後からだ。すぐに振り向き、拳を突き出す。だがそこには何もいない。再度背後から声が聞こえる。


「"今は"敵じゃないから攻撃しないが時間の問題だ。アリスは恐らくTISに戻る、そうなれば嫌だが俺も戻る。諦めた方が良いぞ、ニアじゃアリスには到底敵わない。どんな手段を使おうともな」


攻撃の意思が無いのなら体力は使わない事にした。


「それにしても何故そこまで焦るんだ?何かやましい事でもあるのか」


「いいや?どうだろうね。そんなに気になるのなら確認してみればいいじゃないか、僕らが来た道を」


「…そういう半分賭けの引っかけはやめた方が良いぞ。俺は興味が無いから行かないが、アリスや佐須魔だったら絶対に行く。良かったな、俺で」


すると霊力放出を再開した。それと同時にそこから霊力反応は消えた。いなくなったことを知らせる為だったのだろう。何だか優しい対応に違和感を持つがそれ以上にシウが心配だ。

シウの方に霊力反応は全くしないがもしかしたら消している誰かが近付いているかもしれない。全速力で到着した。


「どうした!?一人で」


「いいや…よかった…無事なら…」


走ったせいで息切れが凄いが何があったかを説明した。するとシウは大きな溜息をつきながら呟く。


「アリスはやべぇだろ…」


「知ってるの?」


「あぁ。軽くだがな。多分俺の結界も指一本触れるだけで破壊される。あいつは正真正銘人間じゃないからな。ニアって奴も死なないで対抗出来てる時点でおかしいな。やっぱエスケープチームはヤバいのが多いな。お前だったり、素戔嗚、蒿里、流に紫苑も謎の力を得てたしな」


「まぁね…とりあえず僕はここで待つから一緒に…」


何も聞こえなかった。本当に。だが感じ取った、首元で。


「桃季!!」


干支辰の霊力反応が、一瞬にして消滅した。そう、最強の干支神であるはずの干支辰が。一撃で葬られたのだ。


「少し腕は痛むが…急襲後の神との治療よりかは何百倍もマシだな。さぁ使うぞ、真澄」


その瞬間、二人の体は動かなくなった。兵助は感じた事がある、昔に本土でも、数ヶ月前島でも。それは紛れも無く御伽学園生徒会に所属していた者の一人、[駕砕 真澄]の『威圧』であった。



第二百七十九話「始まった戦闘」

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