第二十八話
御伽学園戦闘病
第二十八話「怪物と怪物」
「待たせたな、後は私達『能力取締課』に任せてくれ」
能力取締課を名乗る人物が三人やってきた。その人達には霊力はほぼ感じない、だがそれを補う程の圧と謎の心強さがある。
[name パラライズ]
一人は黒髪で低身長の少年だ。スーツを着ている。目付きが悪いがそれがまた圧を出している。彼の眼は綺麗に光っている、だがどこか薄暗い感じもする。何に例えれば良いだろうか、そうまるで原石のようだ。少しの光を映しながらも薄暗く少し汚い、そんな目をしている。
[name ハンド]
一人は銀に近い茶髪で眼鏡をかけ、気弱そうな男だ。少年と同じくスーツを着ているが少年との雰囲気は大違いだ。ただその男の周辺には沢山の『手』が浮いている。その手は自由に動き、指を絡める者もあればなにもせずただ指示を待っている手もいる。
[name ライトニング]
一人は金髪高身長の女性だ。左目に眼帯をしている。スタイルが良くシュッとしていながら力強い体をしている。その女性は剣を携えている、その剣は鞘に収まっていながらも電気が放出されている。彼女が放った言葉には重みと怒りを感じる。
薫は間に合ったと歓喜している。兵助は能力取締課が分からず頭に?を浮かべている、誰なのか聞くが薫は後にしろと相手にしない。少し不満そうな兵助を無視してライトニングに話しかける。
「サーニャ!佐須魔をやってくれ!」
「今はライトニングだと何度言えば良いのだ!」
薫は「そんな事どうでもいい」と言ってから三人に全てを任せた。ライトニングが行くぞと言うと二人はゆっくりと首を縦に振った。動こうとするライトニングに佐須魔が話しかける。
「よぉサーニャ」
「黙れ」
「なーんでそんな事言うんだよ〜“元”TIS仲間じゃないか〜まぁ君は逃げちゃったけどね〜」
「黙れと言っているのが聞こえないのか」
「逆に聞くがお前なんかの命令を素直に聞くと思うのか?」
「思っちゃいないさ、だからこそ力で黙らせるしか無い」
ライトニングが少年の名を呼ぶと「了解です」と言ってから少年は動きを見せる。少年が佐須魔に向かって手のひらを向け、つぶやく。
『パラライズ』
すると佐須魔は少し顔をしかめ、体をほんの少し屈めた。パラライズは手を同じポーズでキープしている。ライトニングはハンドにアイコンタクトを行ってから叫ぶ。
「行くぞ!ハンド!」
構えている剣は金色と白色に光り輝き、碧き雷を纏っている。
ハンドは両手を前に突き出し、グルグルとねじった。すると無数の手達は一斉に集まり二本の腕と化し、ハンドの手と同じ動きをしながら佐須魔に突撃して行く。
佐須魔は刀でその手を切り裂いていく、だが突撃してくる腕を切り裂いている途中何か違和感を覚えた。その違和感は小さい事だった、本当に少しだが肩が軽くなっている。何故肩が軽くなっているか検討が付いたのか腕を切るのをやめて腕の猛攻を避ける事に徹底し出した。
様々な方向に避けながら肩を抑えた、その手には真っ赤な血がベットリと付着している。
「あ〜電気か」
「そうだ」
佐須魔の後ろには剣を高く振りかざしたライトニングがいた。佐須魔は気持ち悪い笑みを浮かべながら剣を刀で去なしながら語りかけた。
「なぁサーニャ〜諦めてくれない〜めんどくさい」
「その名前で呼ぶのをやめろと言ってるだろ!」
「じゃあ本気でいいか〜?」
「…来いよ」
「じゃやってやるよ」
そう言って本気を出そうとした佐須魔を止める。ライトニングは自分と佐須魔以外を学園に遅れと言う、佐須魔はしょうがないなぁと言ってから飛ばそうとする。だが兵助が「待って!」と抗議しようとするが兵助の言葉は届く事がなく、ライトニング以外は一瞬で学園まで転送された。その場にいるのはライトニングと佐須魔だけになる。しかもそこは学園私有地だ、好き放題出来る事だろう、怪物と怪物の本気勝負が始まったのだ。
「パラライズがいなくなったから本気でやってやるよ!」
『蒼剣・ライトニング-モードRED』
ライトニングは左眼につけている眼帯を外し、そのまま右眼に付け替えた。右目は見ていると沈んでいくような赤色、瞳は陽光で綺麗に光り輝いている。眼帯を付け替えた後の剣は蒼い雷から赤い雷に変わり、霊力は全く感じなくなったがその分圧が強くなった、ビリビリと肌で感じれる程だ。
「いくよ」
佐須魔は刀を構えながらライトニングに向かって走り出した。ライトニングは受ける構えではなく攻める時の構えをして佐須魔が来るのを待っている。佐須魔はライトニングの正面で立ち止まり脇腹に刀を振るった、ライトニングはその攻撃を受け流さず脇腹に刀が切り込んだところで剣を喉のど真ん中に突き刺した。剣は止まることを知らず赤い雷を発しながらそのまま足の付け根のあたりまで一気に切り裂いた。
その後刀を握っている両手を斬るために剣を振り上げた。佐須魔はライトニングから刀を抜いてそのまま後ろに飛び跳ねて逃げた。
佐須魔の傷からは血は一滴も出ていないどころか既に完治しかけている。ライトニングは舌打ちをしてから再び攻撃の構えをして佐須魔の方を向いて唱える。
『紅剣・ライトニング-紅雷斬』
唱え終わった瞬間に青く澄み切っている空から赤く輝く雷が数発落ちてきた。佐須魔は避けずその雷を全て受ける、雷が全て落ち終わった。佐須魔はその場からほんの数ミリも動かず刀を頭上に掲げているだけだった。
「雷を斬ったか」
「世界最強を侮るなよ、なんなら空間だって斬り裂いてやるさ」
流石の強さに少し呆れてしまう。ライトニングは息を整えるついでに少し話をしないかと呼びかける、佐須魔は快く受け入れどんな話をされるか少し楽しみにしている。
「お前は私がいた時より数倍の力をつけただろう」
「あぁ、強くなった」
「では何故その力を住民や生徒達を傷つけるために使った」
「サーニャ…いや能力取締課としてのライトニングに聞こうかな。多大な犠牲が無く僕らの目的は達成されるか?」
「目的は変わったか?」
「いいや?一言たりとも変わっちゃいないさ」
「そうか、なら答えはノーだな」
「ほら認めたじゃないか」
「だが他に手があるはずだ…」
そう言いかけた所でずっと笑っていた佐須魔の顔が豹変し大声で怒鳴り出す。
「もう遅いんだ!何故それが分からない!後二年以内には達成しなければ全てが水の泡だ!」
「そんなことは私も承知の上で話しているのだ!」
「なら何故!僕らのやり方を否定するんだ!お前にだって悪い話ではないだろう!?」
「私はそのやり方が気に食わないと言っている。絶対に他のやり方があるはずだ」
「ふざけ!…もういい」
両者和解は諦め再度戦闘体勢に入った。ライトニングは右眼に着けていた眼帯を外しそのまま放り投げる、すると首に謎の模様が浮き出てきた。それはただの線のようにも見えるし何かの模様にも見える、なんとも気持ち悪い紋様だ。それに対抗する様に佐須魔も召喚する。
「来い猫神」
呟いた瞬間に少し前に薫に殺されたはずの猫神が呼び出された。猫神は死んだはずにも関わらず霊力は元に戻り怪我も全て消えている。
「上級を二十六匹も食ったのか…また補充しなくちゃだな」
「来い」
佐須魔は猫神と同じタイミングで走り出した。ライトニングは空気を切る、すると佐須魔の唐突に左腕が吹っ飛んだ。だが佐須魔は止まらずそのままライトニングの右肩を切った、肩からは血がどくどくと溢れてくる。ライトニングは右肩を数秒抑え怪我の具合を確認した後再び剣を握った。
ライトニングは佐須魔に向かって剣を構えた瞬間、元々斬られていた左脇腹に猛烈な痛みが襲いかかった。脇腹を見てみると猫神は鋭利な牙で脇腹に噛みついていた。なんとか引き剥がそうと剣で斬ろうとしたが正面には佐須魔がいる、迂闊に剣を振れない事に気付く。
佐須魔は刀を振り上げ先ほどと同じく右肩を切り付けた。ライトニングは顔をしかめ剣を掲げ叫ぼうとした。
『紅剣・ライトニング-紅雷…』
「それはダメだ」
素早く刀を右肩から外し右人差し指をライトニングの口に当てた。ライトニングは困惑し、固まってしまった。
「いくらピンチでも自分を犠牲にする様な戦い方はしちゃいけないって教えたはずだろ」
そう言って柄をライトニングの顎に本気でぶつけた。ライトニングはうろたえ剣を落とす、その隙を突いて佐須魔はライトニングの腹部を蹴った。後方に吹っ飛んだライトニングはうつ伏せ状態から体を動かす事が出来ない。佐須魔は猫神に還って来る様命じた、猫神は佐須魔の中に入って行った。
「じゃあ終わりにしようか」
佐須魔はライトニングの剣を踏みながら近くに立ち、刀を振り上げた。ただライトニングはうつ伏せのまま顔を上げない、もう死んだかと思い刀を振り下ろした瞬間の事だった。体が一ミリたりとも動かなくなった。
「…なんだ?これ」
「かかったな!」
ライトニングは顔を上げた。その顔と言えば口角は最大限まで上がり、目は先程までの冷酷な目とは違いまるで子供のような楽しげな目に変わっていた。
「どういう…」
「あの剣がたった一つの事しか出来ないと思うか!?お前らの大好きな[ギアル]で作った剣だ!もっと能力がある!それは能力の一つ『帯電』、剣に触れた時間や回数によって電気が溜まっていく、私はその電気を自由なタイミングで解放できる。そしてお前は今まで五分以上剣に触れた!それなら致命傷レベルのダメージをぶち込める!!!」
「まじかぁ」
『解放・紫雷』
その言葉が放たれた瞬間に佐須魔の身体からは紫色の雷が放出された。すると佐須魔は至る所から血を吹き出し座り込んだ。反対にライトニングは剣を拾い、立ち上がり佐須魔を見下ろしながら言った。
「私の勝ちだ」
「負け…か」
負けの確信と共に大笑いを起こした。嫌な笑みではない、本当に子供のような笑みだ。佐須魔は楽しかったと感謝してから帰ると言って立ち上がる、ライトニングは追い返す様な言葉を吐き続ける。ゲートを生成し帰ろうとした間際一言だけ放つ。
「考えが変わったらいつでも戻ってこいよ」
「もう…帰らないさ」
「そうか、それじゃあバイバイ、サーニャ」
そのままゲートに入って何処かへと消えた。完全にいなくなった事を確認してから学園へ向かおうとした所である人に話しかけられる。
「サーニャ先輩!」
そこには翔子と水葉、流がいた。
「翔子か…終わったぞ。後私は今ライトニングだ」
「あ!そうだった」
ライトニングはとりあえず何があったかを説明してから学園に帰る所だと説明した、翔子も丁度帰ろうとしていたと言い一緒に帰る事にした。
「さぁ行くわよあんたら」
水葉はあからさまに態度が変わった事を言及しようとしたが面倒臭い事になる可能性があるので心に秘めておいた。そしてライトニングを含めた四人は学園に向かって歩き始める、学園私有地を出た辺りで目の前に莉子が現れた。
「いた!」
「何故…急に」
「ん?誰…?」
「私は外で働いている能力取締課、[name ライトニング]だ。よろしく」
「…あぁ!能力取締課の!…私は中谷 莉子。能力はテレポートです」
「テレポートか、だから急に出てきたのか」
「と・り・あ・え・ず行きましょう!みんな待ってます」
莉子が触れないとテレポート出来ない事を説明してから触れる様促す。全員が莉子に触れ、能力を発動した瞬間五人は学園の玄関口まで移動していた。玄関口付近には怪我の治療を受けているメンバー達がいる、軽く見渡しても皆傷はある程度治っているらしい。
「あ!サーニャ!」
兵助が駆け寄ってくる。直ぐにライトニングの脇腹の触れ、霊力で出来た傷を完治してしまった。
「今はライトニングだと言っているだろう」
「まぁそんなことはどうでもいいんだけど、それって刀の傷だよね」
「あぁ」
「じゃあタルベー!」
「はいこの方の回復ですね。分かりました」
玄関からタルベ・カルムが出てきてライトニングが刀で斬られた傷を兵助と同様にたちまち治してしまった。ライトニングは驚きながら褒める、するとタルベは「師匠が同じなんですよ」と言ってから学園内に帰って行った。
ライトニングはなんとも言えない顔をしてから再びびっくりしたような顔をして納得した。そして勝手に納得しているライトニングに薫が話しかける。
「おーいサーニャ」
「だから…もういいか」
「佐須魔はどうした」
「勝った」
「おお!どうやって」
「紫電だ」
「あーそう言うことか」
「いやいや二人とも軽すぎない!?あの佐須魔に勝ったんだよ!?」
翔子が声を荒げながら聞く、だが二人は冷静に何故反応が薄いかを説明し出した。
「いや俺あいつに七回勝ってるし…十四回負けたけど」
「私は二回だけ勝ったことがある」
翔子は「ありえない」と言ってから尻餅をついた。
そして他の場所ではニアが中等部の友達の様子を見て来ると言って走って行ってしまう。そんなニアの後ろ姿を見ながら素戔嗚が何かに思い出したようで大きな声を出す、ラックが眉間にシワを寄せながら何か聞く。
「紫苑と礁蔽!」
「まさか忘れてたのか…」
「そんなこと…あるが」
「え…最低…」
「酷すぎる」
「クズだ」
蒿里、流、薫の三連撃が綺麗に決まった。素戔嗚は少しションボリしてから薫の悪口はブーメランだと反論する、その二人の喧嘩を会長が仲介役になり止めた。
「まぁ何はともあれ襲撃は市民に被害が出ることなく終わったんだ!いいじゃないか!」
「…お姉ちゃん傷が」
「あぁ…兵助が復帰したから治してもらった。勘違いで捕えようとしてその後には回復まで…感謝しかない」
「そう思うんだったらなんかくれよ、僕今一文無しどころか服以外何も無いから!」
「バッカ!」
蒿里が思い切り兵助の頭を叩いた。その場の空気は非常に軽いものとなり数十分前まで戦闘を繰り広げていたとは思えない状態だった。だがそんな楽しい雰囲気も長くは続かなかい。ライトニングがある事に気付き薫に質問をした。
「なぁ和服で刀を持っていた男子生徒はどこにいるんだ」
その質問が投げかけられた瞬間、空気が重苦しく、酷い空気へと変わった。
タルべ・カルム
能力/念能力
粒子レベルに残っている生命体を回復できる(物理攻撃の場合)。軽い攻撃なら回復できる(霊力攻撃の場合)。
強さ/信じられない強さ
第二十八話「怪物と怪物」
2023 6/30 改変
2023 6/30 台詞名前消去




