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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第九章「干支組」
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第二百七十八話

御伽学園戦闘病

第二百七十八話「状況報告」


兵助は言われた通り回復に努め、ファストは少しでもニアの支援に入ろうとしたがまるで間に合わない。ファスト自身が戦闘を得意としないと言う点はあるがそれにしても速い、本当に人間の速さかと疑いたくなる程だ。

するとニアは強い口調で突き放す。


「邪魔!」


砕胡には追いつけるがすぐにニアが突っ込んで来るので手出しをしないのが最善策だと取り、兵助の元へ戻る事にした。邪魔者がいなくなったニアは本気で殴り掛かって行く。

一方砕胡は少しも焦らず、的確に受け止めてかわしていく。どれだけ急所を作っても何も起こらないのでどうやっても勝てない、砕胡はそこまで馬鹿ではない。ここは引く事にした。


「悪いな」


そう言いながら自身の腕に急所を作り出した。ニアとは違い普通に風でスッパリと離れ、血が噴き出した。その行動が何を意味しているか全く分からなかったニアは一瞬だけ日和ってしまった。

その直後、砕胡はゲートへと姿を消した。あまりに一瞬の出来事だったので対応できなかった。恐らく何処かのタイミング、または最初からずっと『阿吽』で佐須魔と連絡を繋いでいたのだろう。

逃げられてしまったのなら仕方無い。ニアだって別に砕胡にこだわる必要は無い、今やるべきなのは"TIS勢力の排除"である。目的はそう、アリスだ。


「…」


すぐに別の場所へ走って行こうとしたその時、肩を掴まれる。仮想世界で文字通り血反吐を吐く特訓をしたニアは反射神経も物凄い事になっており、話をしようと掴みかかって来た兵助を殴り飛ばそうとしてしまった。だが寸前で拳を止める。この行動からみてニアはやはり敵ではない、そう確信し兵助は少し安堵した。

それと同時に嫌な予感も感じ取った。今までは仮想世界で鍛練を重ねているとの事だった。なのに何故こんな節目も何も無いタイミングで出て来たのだろうか。アリスは青天井、どれだけ鍛えても追い抜く事が出来ないのだからこんな所で油を売っている場合ではない筈だ。


「なんでここに?」


「…放してください」


そうは言うが力で引き剥がそうとはしない。やはり優しい子だ。


「放したらすぐ行っちゃうでしょ。少しだけで良いから、聞かせてくれ。ニアだって見ただろう?大会」


「……仮想世界の住民、その時担当をしてもらっていた人と一緒に。ダイジェストですが見ました」


「それなら今僕らがどういう状況なのかは大体わかっているはずだ。それでまだあるんだ」


「薫先生と絵梨花先生が島からいなくなりましたね。薫先生は私と入れ違いで仮想世界へ、絵梨花先生は現世ですが詳細が分かりません。変な術でも使われて気配を完全に消されていますからね」


非常に驚いた。ニアは別に霊力感知を得意としているわけでも無かった。だがそんな事を自信満々で言えてしまうぐらいには強くなったのだろう。ほんの少しの期間しか触れ合っていないが何だか感慨深い。


「私から言える事は一つ、薫先生は帰って来ないと思った方が良いです。私の場合はロッドの血が薄いですが入っていたので初代(ひとがみ)が助けてくれましたが薫先生の場合はそうは行きません。

何よりほぼ別世界と言いきれてしまいますが、TIS本拠地は仮想世界にあります。ほぼ攻撃はされないでしょうが…佐須魔が何をするかは不明です。なので私達には何も出来ませんよ」


「凄いね…僕だってそんな事分かってなかったや……本当に強くなったんだね…というかなんでニアは現世に戻って来たんだ?まだ訓練して何処か良いタイミングでアリスに特攻を仕掛けたりする方が良いんじゃ…」


「アリスは既に仮想世界を出ています、こちらの世界で言うと昨日です。なので私も来ました」


「…本当に?」


「はい」


「…まさか…TISに再加入なんて事は…」


「私もそれを突き止めようとしています。折角砕胡を見つけましたが……誰か強い能力者を喰ったりしていませんでしたか」


「えっと確か…急襲作戦の時に真澄の魂を喰ったとか…」


「最悪ですね。多分真澄さんは能力を受け渡していますよ。黄泉のマモリビト絡みの事なので拒否も出来たでしょうに…」


「え?」


「ひとまず私は行きます。残念ですが今、あなた方と協力してもこちらに利はありません。するならまた次の機会にでも」


引き留めとめようとしたが真澄の件で力が緩み、無意識に放していたので逃げられてしまった。一瞬にして姿を消したニアとは別に、ファストがやって来る。そして追いかけるかと訊ねたが首を横に振った。

現在ニアは単独で行動している。アリスの事を追いかける為にTISを殴ってくれるのならありがたい事このうえない。今は放っておくことにして、自分達は干支蛇の件を進める事にした。

ファストに連れられて皆の元へ戻る。既に回復は終わっていて全員目を覚ました。真澄やアリスの事などは意図的に隠し、端的に説明した。


「ねぇ兵助さん。なんでその砕胡っていう奴は僕らの事を追って来ていたんですか?」


生良がそう訊ねた。だが兵助にもその意図は不明だ。シウの結界術の事はバレていないはずだ。ならばたまたまか、いいやそれであの大量の下と思われる能力者達の説明がつかない。そもそもただの港付近の街に砕胡が投入されたのか、それが分からないのである。

別の作戦を行っていた所を偶然通りかかってしまったのかもしれない。だがそれはあくまで一番良い場合だ、こういった緊急事態は常に最悪の場合を想定して動くべきだと言う事ぐらい祖母に教わっている。


「今から言う事は全て想定だ。そして最悪の場合でもある。ただしこれからは今から言う事を前提として動く事にする、最善じゃなく最悪を考えて動くんだよ」


そう前置きをしてから話し出した。


「恐らくTISは何らかの手段を用いて僕らが動き出したことを既に認知している。でなくちゃあんなに大量の能力者が一つの街にいた事の証明が付かない。

ただ街中で襲ってこなかった点を鑑みるとそこまで大掛かりじゃないのかもしれない。あくまでもリスクは取らず、何かをしようとしてるだけなのかも…」


その時シウがある事を思いついてしまった。


「なぁ兵助。俺らの話って聞かれてたないんだよな?本当に」


「うん。そのはず…」


「半霊とか念能力での干渉とかそこら辺のケアはしっかりしてるのか?あの島」


「え?…ちょっと分からないけど…」


その瞬間、取締課の二人は何かを察し、半分絶望した。そしてシウも半笑いで聞く。


「まさか…盗聴されてたって説は…」


兵助の顔も青ざめて行く。


「…さて、どうしようか」


「いやいやいやいや!!そんな冷静になってられるかよ!!!俺の結界術バレてる可能性クッソ高いじゃないか!!それじゃあ干支蛇取りに行く意味が…」


「ある、普通に」


口を挟んだのは優衣だ。蝶を何匹か操作しながら語り掛ける。シウが呆れながら言及すると優衣は説明をする。


「シウの霊力が変化する事に意味がある。これ、飲み込んで」


そう言って一匹の蝶を取り出した。だが明らかにそれは死骸だ。蝶なんて元々鱗粉も付いているので口に含みたくない、それに上乗せするようにして死骸。嫌に決まっている。

断ろうとすると身長差があるにも関わらずジャンプして無理矢理口に押し込んで来た。抵抗しようとするがハンドが手を使って拘束してくる。悲鳴を上げるが虚しく飲み込んでしまった。


「っぶふぇぁ!!!何喰わせて…」


文句を言ってやろうとしたがそれ以前に感じる事がある。何か違う、自身では気付けないが周囲の全員気付けているそうだ。


「すご!!霊力反応消えた!!」


桃季が驚きシウの周りを駆け回り、霊力反応を感知しようとするが一切出来ない。どうやらその蝶は霊力放出を完全に不能にするモノらしい。

だがそんな者を飲ませて何になるのだろうか。霊力放出がなくなると持ち霊が形を保てなくなってしまうのだ、現在のシウは生身で戦うしかない雑魚に成り下がっている。


「何の為にこんな事…」


「今回シウは潜伏して。というか三年近く潜伏して。TISに絶対にバレないようにしてほしい。この蝶は私が二年かけてようやく一匹連れて来れた奴だから。なんか分からないけど一部の蝶は飲み込む事で変な効果を発揮する事があるの。

そいつは霊力放出の停止。そのまんまの意味。でも一応解除方法はある、霊力反応を変える。私は他の動物で試して、他の食べる蝶を与えたら霊力反応がちょっと変わって、解除された。

これで干支蛇を取れなかった場合もシウの位置を安易に特定させない保険が出来た。まぁでも姿見られて反応覚えられたら意味ないからね。今すぐにでも…」


伝わっている。ハンドとファストが即刻取締課のオフィスへと送った。今回は干支蛇の情報を見つけ、寸前になるまで匿ってもらう。少々リスクはあるもののここまで来たら仕方無いだろう。

そしてすぐに帰って来た二人を集め、優衣がコソコソ話である事を伝える。


「みんなの背中には蝶がそれぞれ引っ付いてる。一応霊力で形成されてるから一般人にはバレない、というか霊力が多くないと見えないから。それである一定、戦闘で必要な量霊力放出をしたら勝手に私の蝶に通話がかかるから、最悪何か情報残してから死んで」


完璧だ。本当に子供かと言うほどに様々な事を考えている。兵助が褒めると照れて恥ずかしそうにしているが、実は内心でどす黒い笑みを浮かべているかもしれない。

理事長が言っているだけの事はある様だ。あまりにも無茶苦茶な能力だ。蝶を縛りにしただけの何でもあり能力、これは非常に期待出来る。ただ本人曰く戦闘は苦手なのでカバーしてほしいとの事だ。

だがそこは兵助、ハンド、ファストだけでも補えるし、干支辰だっている。何とでもなるはずだ。


「さて、保険が出来た。ただ僕らはいつ監視されているか分からない。あまり迂闊な行動を取らないでくれよ、みんな」


そう呼びかけ、兵助はある方向を向いた。その先、斜め上、月がある方向だ。霊力を感じ取っていた、兵助とほんの少数だけが感じ取れるであろう霊力だ。いや、他の者はそこまで鮮明に覚えていないから分からないかもしれない。

月夜の陰に浮いている一人の青年の姿を。あえて攻撃しなかったのだ、何故なら射程で負けるから。干支辰は空中戦と言うよりも上から下に攻撃するのが強いはずだ、どちらも空中にいる場合そこまで強くなさそうだ。

ならば抵抗するのは難しいだろう、最低四本の触手相手は。


「…まぁでも上なら何とかなったかもな…」


「どうしたの」


「何でもないよ。それよりファストは霊力を温存しておいてくれ。移動で重宝はするけどいざという時に使えなかったら元も子もないからね」


そう取り繕い、いつもの様な笑顔を浮かべる。だが桃季は一人、違和感に気付いていた。だが聞き出す気にもならない、恐らく盗聴対策なのだろう、そう考えている。

実際は違う。兵助の油断なのだが。



「どうやら動き出したようですよ」


「お疲れ。それじゃあ今回の件は君と砕胡に任せるよ……まぁ砕胡は二日ぐらい動けないけど。それじゃあよろしくね、シャンプラー」


「はい。必ずや守り切りますよ、干支蛇は」



第二百七十八話「状況報告」

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