第二百七十二話
御伽学園戦闘病
第二百七十二話「邂逅」
「式神術…マジで?流が使えんの?」
「憶測の域は出ないが…まぁ使えるはずだ。來花にはそこそこ近い華方の血が入っている。完全に入っている訳では無いが…まぁ遠い親戚だ。だからその息子である流にも入ってるはずだ、それに流は戦闘の才能が凄まじい。ここ半年でそこら辺の熟練能力者を圧倒出来るぐらいにはなってた。今は黄泉の方に行ってるが俺が起こすから問題ない」
薫はラックによって過去の記憶を見せられはしたものの本当は流がTIS側に付いていると言う事を知らない。知っているのはその場にいた者だけだ、心は学園側の蒿里でも扉を閉めてから起こった事なので阿吽などで伝える事も出来ない。当人達と佐須魔、來花以外は誰もその事を知らされていないのだ。
「さて。一旦報告は終わりだ。それじゃあ入って来なよ、盗み聞きは感心しないよシウ」
どうやらバレていたようだ。ゆっくりと扉を開き、覗き込む。四人共全員気付いていたようで、さっさと部屋に引き込んでから扉をしめた。そしてソファに座らせ、聞く。
「何処まで聞いていたのかね、シウ・ルフテッド」
「…全部っす」
「ふむ、隠す事ではないがやはり盗み聞きは良くない事だ、反省したまえ。だがここに来たと言う事は何か用があるのだろう、包み隠さず言いたまえ。君達は既に我々の仲間だ、出来るだけの事はやってやろう」
「分かりました。じゃあ何も隠さず言います。まず俺の目標なんですけど……干支霊使いを全員集めて平穏に暮らすって言うのが目的なんですよ。協力はしますけどこの根本を変えるつもりはありません。
なのでこの目標を遂行したいんですよ」
「…?どう言う事だ?虎と馬は來花に行ったらしいけど…他は全部お前らが持ってるんじゃないか?」
菊が煙草を取り出しながらそう訊ねた。するとシウは煙草を奪い取ってから返答する。
「蛇、こいつだけいないんですよ。厄介者でね、どうにも誰にも憑かず放浪してるらしいです。まだ会った事も無いし…TISに取られたら面倒です、馬も虎も取られてるのに……なので蛇こそは掴み取りたいんです、この手で…………あと家の霊が臭い敏感なので煙草やめてください」
「しゃあねーな。にしても蛇か、そう言えばいねぇな。でも一匹のためにそんな労力割くのだるくねぇか?」
「菊、今回君は出さない。理事長にも言われただろう?僕が進めるんだ。少し強い口調にはなるが手を出さないでくれ」
「ん、すまんすまん」
「で、干支蛇か。桃季の辰の陰に隠れてしまっていたね。そいつは強いのかい?」
「何て言うんでしょうね…ちょっと諸事情で必要なんですよ、そいつの力が」
「ほう。続けてくれ」
「干支蛇単体に何かがあるってわけじゃなく…その霊力に目を向けてるんですよ。俺ら干支使いって本来は複数持ちがいないはずなんですね。ただ今期の干支使いは色々と異常で…鼠田 猪雄は鼠と猪。生良に関しては牛、兎、羊、抜き取られましたけど虎と馬も使役してましたからね」
「…ちょっと良いか?」
薫が質問をぶつける。
「生良は全部使役してるか?俺心読んだけどまるで霊と宿主の関係性じゃなかったぞ?生良はただ霊力を供給して、兎以外の霊は寄生虫みたいな感じだった」
「それはあいつらの性格の問題ですね。長く生きてるもんですから捻くれてるんですよ、だから生良に沢山の人数で飛び込もうって悪戯紛いの事もしたわけですし」
「そう言う事か。悪いな、口挟んで」
「いえ、別に良いっすよ。それじゃ話戻します。そして干支霊に限る特殊な現象なんですけど…複数持ちになると霊力反応が変化するんです。これは猪雄の時に発見したんですが、本当に多少なんです、だけど確実に何かが変化するんですよ。
俺はその霊力の変化が必要だと考えているんです」
「ちょっと待って、何か作戦でもあるの?」
「いえ、ご存じだとは思いますが俺しか使えない固有の能力『結界術』です。これの最適化が今の霊力では出来ないんです。ですが俺以外はどうやっても出来ないし…俺も感覚でやってるので教えることは出来ません。なので俺が変わるしかないんですが……中々上手くいかなくてですね。
霧島の所行くのもちょっと遠慮しちゃうし…二年ぐらいずっとこの調子なんですよ」
「大体分かった、まぁ良いよ、協力しよう。こっちとしても何の対価も無しに協力してもらうのは後々難癖つけられるかもしれないしね。
ただ聞かせてもらっても良いかな?その結界術の詳細と、発展性について」
「…はい。盗み聞きしてる人いませんよね?」
「……あぁ大丈夫だ。今小っちゃい虫に確認させた、誰もいない」
「分かりました。出来ればあまり口外しないでくださいね、TISには一切バレていない術…謂わば切り札に成り得る能力ですから…」
皆驚く。てっきりバレていて対策されているものだとばかり考えていた。だがよく考えたらTISが干支霊達を放っておくはずもない、結界術のおかげで場所が特定されなかったのだろう。そう考えると相当ラッキーだ、取られる前に引く抜く事が出来たのは。
そしてシウは説明を始める。
「まず結界術は名の通り結界を生成する事が出来ます。サイズや付属効果はそれぞれ"自由"に決める事が出来るんですよ。ただサイズが大きくなるほど、効果が強いものになればなるほど霊力消費が大きくなっていきます。
ただ海底の家程度のサイズなら消費は100程度で抑えられます。まぁ付属効果は無しですが……そして一番の強い点は"張ったら壊されない限り永久に留まり続ける"という所にあります。
維持に関しては何の労力もいりません。ただものによっては付属効果が弱くなっていくものもあるので注意は必要です。ですがまぁ気にしなくても良い程度には便利ですよ。だから海底にコツコツと張っていく事によって七百五十二枚も展開出来たんです」
「七百五十二!?」
「え…あなたは突っ込んで来たでしょう…」
「いや…沢山あるなぁとは思ってたけど…予想以上の枚数だったよ…」
「はぁ…まぁ良いです。それで説明は終わりです。次は発展性についてですね。色々予測は出来ますが長くなるので今回は干支蛇を手に入れる事によって何が起こるかを説明させてもらいます。
結論からです。二重に出来る、そう予測出来ています。この能力は元々俺が"所持"していた能力です。そして干支犬を手に入れたのは数年前です、桃季や鶏太に唯唯禍とも意気投合し仲を深めていた時でした。
詳細は省きますが干支犬が憑きました。そしてその時初めて気付きました、自分が能力者と言う事に。霊力数が引くすぎて自分でも気付けていなかったようです。
それと同じ日に気付きました、自宅に覆いかぶさっている結界に。干支犬は意図せず手に入れた俺は半パニック状態で何の疑問も持たずそれに触れました」
少しだけ強調する。
「当時の未熟な俺でも気付きました、明らかに変化した事に。先程干支霊を複数所持際に変化する、といいましたがあれは少し違います。干支霊を手に入れた時に変化するようです。
そして変化した霊力の結界と、元の霊力の結界がぶつかり合いました。その時は無意識に結界を作っていたんです。
その結果何が起こったか、色が変化しました。霊力で生成されているのでガラスに近かったのですが、色が付いたんです、ほんのりと赤い色が」
「ま、待ってくれシウ。でも海底にあった結界は光は遮断してたけど…透明だったよ?」
「それは全ての結界に自然に透過するよう効果を付けただけです、何もおかしくありません。
話を戻すと当時は理解出来ませんでしたがそれは"二重結界"なのではと今では思います。ある程度の扱いに慣れてから破壊してしまったのでもう残っていないんですよ……なので詳細は分かりませんが…何か力になるのは明確なんです。
TISを倒すのには必要な能力、俺はそう考えます。付属効果には全ての霊力を二倍にする、みたいな事も出来るんですよ。なので必ず力になるはずだ。だから干支蛇を…」
「それ以上は言わなくても良い。言わずとも理解出来ている。兵助君、今回の件は非常に重要な一手になると踏んだ。それ故君だけとはいかない。一人だけ、護衛を付けても良いかな?」
「あまりバレたくないので…霊力は少なめの人が良いです。薫とかはちょっと多すぎるので…」
「大丈夫だ。それも考慮している、付けるのは教師では無いさ。乾枝君は少し他の仕事をしてもらうからね……先日この島にこして来た者がいるんだ。非常に強い能力を持っているのだが戦闘経験は無く、まだ小さな子だ。
本土で何があったかも話そうとせず、一人でやって来た子だ。どうか君に任せたい、どうだい兵助君。教師の為の訓練も兼ねて」
「…はい」
最後の方に嫌な言葉が聞こえた気がしたが一旦置いておく。どちらにせよ頭が良い兵助は少し落ち着いてから強制的に教師をさせられるだろうから。
そしてそれよりもその子の事が気になる。話を聞く限りでは問題は無さそうな子なので引き受ける事にした。
「それにしても理事長自らが推薦するほど強いんですか?その子は」
「あぁ。絵梨花君や薫先生には及ばない…いや訓練を詰めば場合によっては越す事が出来るやもしれぬ。ただ始めて見るタイプの能力だったために断言はできない。
ただし成長性は担保出来るのだ。なので今回連れて行ってもらう、顔合わせもしなくてはいけないな。日程はそちらに完全に任せる、各自相談し合い決める事」
「はい、了解しました」
「うす!分かりました」
「ん~理事長、そいつってもしかしてあのガキの事言ってます?」
「君が何を思い浮かべているかは分からないが。どうやら察知して寮からやってきたようだぞ、両手が埋まっているだろう開けてやってくれ」
霊力を感じ取った薫は怪訝な顔をする。兵助も誰かが来ているのは察知したが見知らぬ霊力反応だ。ひとまず扉を開けてみた。するとそこにいたのは少女だった。まだ小学生に見える程小さな少女が。
「うおぉ!」
驚くのも無理はない。何故なら少女の手には大量の"蝶"が停まっているのだ。サイズもまちまちで見た事も無い種類もいる、その細い腕を埋め尽くすかのように群がっているのだ。
そして少女は軽く頭を下げてから部屋に入った。シウは驚きながらも色々訊ねてみる。
「名前は?」
「……[蝶理 優衣]です……能力は…あんまり良く分かりません……ただ蝶を色々出来ると言う事は分かってます……よ、よろしくお願いします……」
非常に気弱そうな少女だ。まだ来たばかりで切れていないのか髪は少しボサボサしている非常に黒目の緑の長髪。そして目が少し違う、片目は水色、片目はピンクだ。
だがただのオッドアイではない。何だか霊力を感じるのだ。何とも言えぬモヤモヤとしている、感知し辛い霊力なのだ。明らかに異常で場がぴりついている。
優衣はその事を感じ取ったのかオドオドしている。逆にそれを察知した兵助が話しかける。
「ありがとう!もしかしたら嫌かもしれないんだけど…数日後に日本本土に付いて来てくれないかな?」
「…なんでですか…」
「この白いお兄ちゃんがある人を探しててね。もしかしたらその人を狙っている悪い人が出て来るかもしれないんだ。そしたら理事長先生が君を連れて行くと良いって言ってたんだけど……ちょっと難しかな…」
もう少し端的に説明しようとしたその時、優衣が呟いた。
「分かりました…あんまりそう言うのは自信ないですけど…がんばります」
「ありがとう。無理はしないで良いからね!何かあったらすぐ僕や白いお兄ちゃんに言ってね!」
「その白いお兄ちゃんって言い方やめろよ。俺は[シウ・ルフテッド]、よろしく」
「…はい」
兵助に比べると少し警戒しているように見える。だが全く気にせず、席を立った。
「まぁとりあえず日程調整とかしなきゃいけないけど…先に桃季に雰囲気慣れさせてからだな。他の奴らは別に問題ないけど桃季繊細な馬鹿だからな。最低でも三日ぐらいは待機していいか?」
「あぁ、そうだね。それぐらいは待ってからの方が良さそうだ。とりあえずシウは帰って能力取締課の人と接して来てくれ。ただ結界の事とかは口止めしといてね」
「言わなくてもする。んじゃ先帰ってる、後でな」
「うん」
シウが部屋を出て行った。
「そんじゃ私も帰るかな~おい薫、今日明日有給取ってあるんだろ?飲もうぜ、酒」
「…まぁ良いか。今回俺は出ないから全部兵助に任せる。一応あの時と変わってないだろうけど確認するぞ」
「第一優先目標で、第二が命で、三が声…でしょ。しっかり言いつけ守ってるよ」
「なら良し。ずっと伝わって来てるって事はそれなりの理由があるはずなんだ。しっかり守れよ」
「うん。それじゃあ行こっか、能力の事とか色々教えてくれると嬉しいな!」
「はい」
二人も出て言ってしまった。それに続くようにして菊と薫もいなくなる。いつも通りの一人になった理事長だが何か違和感があった。別に誰かがいるはずでもない、だが視線を感じるのだ。
何とも言えない、じっとりした視線を。
「…!」
背後、そちらからだ。だが振り向いても誰もいない。霊力残滓も確認できないし、ただ疲れで変な感じでもしたのだろうと思い仮眠を取る事にしたのだった。
『なんでそんな怒っているんだ』
『何を言ってる。兵助は別にお前の…』
『あぁ分かった分かった。良いからうるさいのはやめてくれ、僕はそういうのが嫌いなんだお前だって分かっているだろう。とりあえず情報は得た、長い道だが帰るぞ。報告だ。ようやく体も治ったからな、これが使えてよかったよ』
『にしてもお前の所のボスは頭が悪いんだな。どうやって今まで僕らが情報を集めていたのか疑いもしていないじゃないか』
『いやまぁ…そうか。これは僕と神にしか出来ない、いやだからこそ出来る技だからな。さぁ、行くぞ。三年後の勝利の為に』
第二百七十二話「邂逅」




