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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第九章「干支組」
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第二百七十一話

御伽学園戦闘病

第二百七十一話「追い詰められる報告」


兵助の言葉により協力体制の確保に成功した。その後はとんとん拍子で話が進み、干支組は全員島へ移住する事となった。ほぼ毎月と言っていい程に編入は起こっているので理事長と乾枝が一瞬で手続きを終わらせてくれた。

そして早速向かう事になる当日、結界の中だ。


「お前ら準備良いのか?一時的な移住って言っても最低三年だぞ?大事な物は全部持ってけよ」


と言っているシウもそこまで荷物がある訳じゃない。全てを持って行くとまるで抜け殻になってしまいそうだ。今後結界は空間を保つための一枚だけになる。

なので誰かにバレて何か盗まれる可能性も無くは無いがそんな事どうでも良い。それよりもこの空間を保っておきたいのだ、万が一死んでしまってもそこに生きた証がある事を示す為に。


「出来たかい?」


兵助も問いかける。メンバーは頷き、荷物を持った。皆そこまで重荷では無く、基本最低限の服や私物のみだ。忘れ物が無いか最後に一度確認してからファストとハンドに頼む。


「それじゃあお願いします」


島で慣れない事や危険もあるだろうと言う事で、この二人は一ヶ月間だけ干支組のお世話をする事になった。なので共に島に行く。皆ファストの服を強く握る。


「行くよ」


一瞬にして結界を破り、外に飛び出た。シウは全神経を集中させて結界を即時修復、そしてそれが確認でき次第ファストが再度速度を出し、海上に飛び出した。

あとは待機していた手達が受け止め、浮遊するだけだ。


「うへ~塗れちゃったねぇ~」


唯唯禍は犬のように頭をブンブンしている。修復の為に一瞬だけ速度を落としたのでどうしても水が付いてしまうのだ。ファストの最大速度は物理的に計れないがまぁ海上に飛び出した時にある程度の水を払える程度には速度は出るはずだ。

ただ仕方無い事なので大人しく水を絞る。唯唯禍は何の躊躇いも無く服を脱ごうとしたがファストと鶏太が止め、男女で手を変えて視界に入らないがしっかり感知出来る距離で飛ぶ。


「さて、ここからどれぐらいかかるんだい?」


「えーっと…最大出力で三十分程ですかね……ただ私勘は鈍いし距離の計算とか苦手なので不正確ですが…」


「まぁ大体分かれば良いだろ。とりあえず島行ったら俺らは何をするんだ?そんで何処に住むんだ?手続きとかは?」


「手続きは乾枝先輩と理事長が終わらせてくれあるよ、勿論取締課の二人の滞在もね。それで住むアテは一応ある…ただ気にいらない可能性もあるからその場合は部屋は別れるけど寮だね。

最後に何をするか…まぁ最初の数日はゆっくりで良いから慣れてもらいたいな。遠征とかそう言う外出は除くとして、三年間は島にいるしさ」


「了解。でも心配だ、桃季と唯唯禍が暴れそうでな」


「基本僕も一緒にいるだろうから大丈夫だよ。最悪の場合翔子とか薫…は駄目だね一緒にふざける。まぁ菊…も駄目だね。絵梨花…も駄目だね。乾枝先輩とか元先輩連れて来るよ」


「やっぱお前らの所の教師とかヤバイ奴多いよな。なんで生き残れてるんだか」


「逆だよ逆、変だから生き残れるのさ。そもそも正常な思考してる奴は戦闘で最強になろうとか考えないからね。中途半端な力だけを持って特攻して無様に散るんだよ、僕みたいにね」


「そう言えば四年前は見てなかったんだけど、なんで死んだんだ?というか何で生き返ってるんだ?タルベか?」


「ちょ、ちょっとシウ…」


「いや大丈夫。別に隠す事でも無いし、全部話しておくよ。まぁそこまで難しい話でも無いから到着するまでの暇つぶしとでも思って聞いていてくれ」


そう前置きをしてから今まで何があったのかを語り出した。

一方女子三人は二人が騒ぎ、一人が早くも苦悶の表情を浮かべていた。


「やっぱ濡れるのは嫌い!!!」


「分かるー!でも一番は真っ裸でしょ!」


唯唯禍が再度服を脱ぎ始めたのでファストが止める。


「何なのあんたら…野生児じゃないんだからさ……いやあんたはほぼ野生児か」


唯唯禍の方を見ながらそう呟いた。すると当人は少し自慢げにに言い返す。


「違うよ!私の霊は干支猿だけどしっかりとした所で生まれたんだよ!」


「本当に?嘘でしょ、どうせ」


「いや、ホントだよ。唯唯禍の父親結構お金稼いでたはず」


「えぇ…じゃあ母親が…」


「共働きでどっちも高収入!それがモットーだったよ!」


「……はぁ…不条理……とりあえず服脱ぐのはやめて。冷えるから。島に行ってから変えれば良いでしょ。馬鹿は風邪ひかないから大丈夫よ、別に」


「おっけー!じゃあ暇だなー…そうだ、これからあたし達何するの?」


「まぁ島に慣れるんじゃ…」


「そう言う事じゃなくて、シウは何かまだやる事があるって言ってたよー?」


「…は?」


「え?なんかあるって言ってたよ。詳しくは知らないけど~」


「ちょ、待って。何か知ってる?桃季」


「知る訳ない!!」


「…折角楽な仕事だと思ったのに…最悪……絶対面倒事じゃん……」


頭を抱え、落ち込む。ファストの能力柄非常に大量の仕事課せられる。そのせいで休みはろくになく、今回の一ヶ月お世話任務は実質的な有給だとも捉えていた。だがそうは行かなさそうだ。

よく考えたらハンドとファストを配置すると言う事は移動役をどちらも割いていると言う事、仕事の効率はガタリと落ちるはずだ。そう言った観点から見たらこの仕事が相当重要なものだという事ぐらい分かったはずだ。


「浮かれてた…」


「どうしたのー?お仕事ってそんな辛いの?」


「あんたらのせいでね…」


「別に私達悪くないもん!!悪いのは仕事遅い無能なあんたでしょ!!」


一瞬ファストの目が本気(マジ)になったがこんな事に労力をつかうのは馬鹿馬鹿しい、心を落ち着かせ到着まで大人しく待つことにする。

数十分が経過した。唯唯禍と桃季はそれぞれファストの膝、肩を勝手に借りて眠っている。もう何も言わない、心を澄ませ落ち着くのだ。仏になった気分で。


「ん、見えた」


相変わらず起きる気配は無いが島が見えて来た。とりあえず起こそうと思い揺さぶるが気持ちよさそうに寝息をかいている。普通の能力者ならイラっと来るのだが何故だがそう言う感情が湧いて来ない。

だがファストは聡明である。自身が何を考えているかは理解できていた、といっても推測だが。同情している。一方的でエゴでしかないが境遇を事細かに知っているので筆舌しがたい哀しい気持ちが沸いて来るのだ。


「まぁいいや。ルフテッドが起こしてくれるでしょ」


そしてすぐそこで合流し、シウが手を飛び移った。そして二人の顔を軽くはたき、無理矢理起こした。そして寝ぼけている二人を担いで上陸した。

火山を中心にして北西、住宅街のすぐそこにある浜辺だ。確かここは襲撃の際に原が戦っていた場所である。ただ実際にその場に立ち会った者は薫と翔子の二人を除き、もう誰もいないのだ。


「さぁ行こう。学園に」


手移動はそのまま、学園へ進む。桃季だけは物珍しそうに様々な物を眺めている。すると普通に道を進んでいると正面から何やら白い物体が近付いて来ている。

ハンドはすぐに急上昇させ、回避した。するとそいつは急停止し、声をかける。


「来たのか!干支の奴ら!」


それは愛馬、グロロフルムに騎乗している菊だった。久しぶりに走らせているそうで中々制御が効かないらしい。自己紹介をするのはまた今度という事になりすぐに突っ走って行ってしまった。

それを見た桃季は目を輝かせ、興奮していたがシウが「あれは普通じゃないからな」と注視ておいた。実際ここの住民は菊の事を大体知っている、動物や植物と話し様々な人を助けているのは紛れも無い事実だからだ。


「さぁああいう変なのは置いておいて、さっさと学園行くよ!」


ハンドが再度指示を出し、学園までひとっ飛びだ。一瞬にして到着し、手から降りる。ハンドはお礼だけ言って還って来るよう命じた。どうやら霊に近しい存在らしい。


「やぁようこそ」


そこには乾枝が待ち構えていた。


「あとで菊が何処に行ったか教えてくれ。許可も取らずに爆走しているらしい」


密かに怒りを燃やしているが構わない。とりあえず到着したことを知らせに向かわせ、干支組には住居を紹介する事にした。


「さて、一旦報告出来たし住む予定の場所行こっか。掃除は菊がしてくれたはずだから…安心してね」


当然先程の様子を見て安心できるはずもなく、全員不安が募る。まさかゴミ屋敷にでも連れて行かれるのでは、そうも考えたがそんなことは無かった。

再度少しだけ歩き、足を止めたのは少し大きな一軒家だった。一見セキュリティも頑丈そうで相当金のかかっていそうな家に見える。こんな場所に住んでいいのか、そうも言おうとしたがそれより先にファストが口を開いた。


「ここラックの家じゃん。良いの?取っておいてあげなくて」


「良いんだ。一昨日菊が掃除してる時に遺書を見つけてね、好きに使って良いって書いてあったんだ。島の中では相当良い家だからさ、使ってあげないと廃っちゃうだろ?だから遠慮せずに使ってくれ、まぁ破壊とかはしないでね」


一応釘を刺してから、早速家に入る。セキュリティはポメがいないからかザルだった。今はその状態らしく、近々菊が自費でセキュリティを厳重に改造するらしい。

とりあえず入ってみると凄かった。そこまで大きくないが二階もあるし庭もある、それに一階がとにかく広い。それぞれの個室を作っても少し空きが出る程度にはデカい家だ。


「ここラックさんの家だったんですね」


「あれ、ラックの事知ってたの?生良は短い期間だけしかいなかったけど…」


「一度寮の部屋に訪ねて来たんですよ。干支神の事に関して質問されました、霊に関して研究をしてるだとか何だとか…」


「へーまぁ僕もラックとはそこまで深い関りは無かったし、友達って感じだったからね。とりあえず好きに使っても大丈夫だよ、何かあったらすぐ電話してね。僕はちょっと別件で理事長とかと話さなくちゃいけないから。乾枝先輩、ファスト、ハンドさん、頼みますね」


兵助はそれだけ言い残し、出て行ってしまった。大会は終わって数日、あまりに動きが早い。見方が全員いなくなり一人ぼっちになった寂しさを実感したく無いのだろうか、だがどちらにせよ無理は禁物だ。

だがそれでもシウにはやらなくてはいけない事がある。それを伝え忘れたので急いで追いかける事にした。だが見つからない、ただ学園だと言う事は分かるので走る。


「…結構デカいな。学園」


実物は始めて見た。生徒数が異常に多いからか相当なサイズの校舎だ。とそんな事よりも追いかけるのが先だ。理事長室にでも行けばいるだろうとふんで探し回った。

思っていたよりすぐに見つかる。ノックをして入室しようと思ったが何やら真剣な事を話しているようだ。気になったシウは聞き耳を立てる。

すると部屋の中からは理事長、兵助、薫、菊の声が聞こえた。菊は相当息を切らしている。


「で…何の話だよ…」


「そんな焦って来るからだろ。俺は干支組を引き入れるついでにある情報を探してもらった。まぁ元々情報共有のメンバーとして暗躍して貰ってたからな、今回も成果を期待してるぜ、兵助」


「うん。任せてよ」


「ふむ。その様子だと何か進展があったようだね、何でも良い、話したまえ」


「はい。まず依頼されていた事の一つ"TISの動向"ですが…僕が図書館で調べている際、コールディング・シャンプラーが隣に座って来ました。

敵意は無いようで、後に説明する依頼と全く同じ事を調べようとしていたのでひとまず協力しました。そこで情報を得る事には成功しました。

その後解散の流れになったのですが……その時に彼は言いました。「佐須魔は神になる」と」


「…は?ちょっ兵助!お前!」


「落ち着け薫。んで、他には何て言ってたんだ」


「僕らには勝てない、神殺しは出来ないなどと言っていました。ただその後一瞬でゲートに入ってしまったのでそれ以上の事は分かりませんでした」


「ふむ。良い収穫だ。では残り二つもお願いする」


「はい。二つ目の依頼"元生徒会メンバーの行方"ですがやはり分かりませんでした。霊力を微塵も感じませんでした……ただ僕は彼ら彼女らの自由にさせてあげてほしいです」


「ほう。それは何故だい」


「恐らく現在もリーダーである元会長の[姫乃 香奈美]は稀に判断を間違え、大きな損害を与える事もありますが基本的には優秀な子です。それは短期間だけしか見れなかった僕でさえも感じました、なので理事長も体感している事でしょう。

そして薫や他の教師だけの指導という手段ではこれ以上成長性は無い、そうも感じ取れました。僕が言いたい事は「自立させよう」なんてくだらない事ではありません。

恐らく彼女には思惑があります。そこに僕らが首を突っ込み、破壊してしまうと成長は無い。覚悟は決まっているはずです、その証拠に残った数名は何の悔いも無さそうです。それが彼女達の選択ならば、僕達は僕達で計画を進め、三年後に上手くやっていけば良い、そう言いたいのです」


「…概ね賛成ではあるが少し懸念点もある。仮想世界や黄泉の国に関してはそこまで問題視する必要は無いだろうが…TISの妨害が心配だ。奴らはその内どんな手段をとわないやもしれない。その場合にも私達は傍観するのか、そこはどう考えているのかね。

それだけ聞かせてくれ。ただ言っておくが提言をした時点で、責任やリスクは君が背負う事になる」


「はい、重々承知の上です。そして答えですが、完全な無視で良いでしょう。わざわざ香奈美が何も言わずして姿を消したと言う事は関わるなという意思表示、そう受け取って良いでしょうからね」


「了解した。私も私で数年後をビジョンに入れて行動を始めている、そこら辺は君達に任せる事にするよ。他の先生方にも教えておいてくれ。よろしく頼む」


「…なぁ。なんで私呼んだんだ?教師じゃないしやる気も無いんだけど」


すると黙っていた薫が口を開く。


「今からだ。聞いとけ、お前だって見せられたんだろ。記憶(あれ)


「…良いのか。兵助の前で」


「別に良い。隠す事でも無いし、何なら俺が直接要点だけまとめて説明したから気にすんな。じゃあ頼む、本題だ」


「あぁ。最後の依頼"華方の血筋"に関してです。これは図書館にあった歴史書を全て読み漁り、ようやく見つけた一節です」


そう言いながら何かを差し出した。シウからすると分からないのだが、菊が声に出して読むので辛うじて聞き取ることが出来た。


「えーっと……古に続く強者の家系 争いを以てその血筋を断たれし ただし留意せよ 兄弟あるやもしれぬ……か。どう言う事だ?」


「……もっと先だ」


薫が呟くような声量でそう言った。


「えっと…あ……そりゃ確定じゃねぇけど……そう予測できるわな……」


すると兵助が代読する。


「[コア・ケツァル・ルフテッド]……そうです。ラック、いや英雄(アイト)の記憶にいた降霊術士の名です。そしてこれは恐らく生前の日記か何かを写したものなのでしょう。誰がやったかまでは分かりませんが…この家系というのが誰を指しているかは二択でしょう」


「ロッドか、華方か…」


「はい、理事長の言う通りです。当時[ガーゴイル・ロッド]というものもいましたし[鳫蛙]という者もいました。となるとロッドの方が可能性自体は高そうですが……正直な事を言うとラック・レジェストの方が単体としては強いはずです。

それで…分かったのかい薫」


「……あぁ。元と崎田の力をフルで借りて探し出した……『発動帯の場所』を。そして血筋によって発動帯の造りが似る事も分かった……そして俺は見せられた時、何を見せたいのか瞬時に察し、霊力発動帯の位置に触れ確かめた。

だがそれだけではどうも信じられなくてな…今回依頼したが……もう信じるしかないだろう」


「そうだな…」


「だね」


「理事長、断言はしません。だけど、言う」


「あぁ、言いたまえ」


「華方の血は…恐らく[ラック・レジェスト]の血筋の末裔で…間違いは無いでしょう……そして認めます。俺達華方の血が流れている者には失われたはずの術である『式神術』の適正があると。

更に進言させてもらいます。推定ではありますが、現在でも式神術を無意識下で取得だけした者がいる。自分を含めて現世と仮想世界に計四名、そして黄泉の国に一名。

黄泉の国は妹である[華方(ハナカタ) 静架(セイカ)]。そして問題となる四名…」


「…」


「[華方 薫][佐須魔][翔馬 來花]……[櫻 流]……この四名と、推測できます。この四名は…使えるはずです、降霊術の上位互換、式神術を」



第二百七十一話「追い詰められる報告」

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