第二十七話
御伽学園戦闘病
第二十七話「襲撃」
「おいお前は手を出さないんだろ?何故こんなことになっている」
そう後ろから訊ねる薫に佐須魔はニヤニヤ笑いながらラッセルがやったと答える。薫はなら退けと言って来る、だが佐須魔は断った。薫がどう言う事か聞くと佐須魔はゆっくりと振り返りながら口を開く。
「だって今からお前を蹴散らすからさ〜」
その時の佐須魔は気持ち悪い程の笑みを浮かべていた。薫は生徒と兵助に少し後ろに下がるようジェスチャーをし、自分は佐須魔から目を離さず戦闘体勢に入った。兵助が大丈夫かと聞くが薫は「大丈夫だ」と言ってから三連続で唱える。
『降霊術・神話霊・白虎』
『降霊術・神話霊・天照大御神』
『降霊術・神話霊・ラー』
一匹は四方神の西、白虎だ。白虎は鋭い歯を見せつけながら体毛を逆立て霊力を放っている。
一匹は日本神話の最高神、アマテラス。神々しい光を放つその姿は最高神に相応しい。
一匹はエジプト神話の最高神、太陽神ラー。前に戦った時より少し霊力が落ちてはいるがそれでも頭痛を引き起こす程の霊力だ。ラーが呼び出された瞬間周囲の温度が何℃か上がり全員少しだけ汗を浮かべる。
三匹の神話霊はそれぞれ途轍もない霊力を放ち、その場の空気は七割以上霊力が占めていた。ニアは立つ事ができず座り込んでしまう、素戔嗚もラックも兵助も立っている事は出来るが威圧感も相待って目を完全に開く事が出来ず半目で見ている状況だ。
「行くぞお前ら」
薫が佐須魔に向かい走り出す、それと同時に白虎とラーが飛び出した。天照大御神は後方にいるラック達の方に近づく。そして皆の側で天照大御神は謎の光を発した、すると天照大御神の周辺だけは霊力が普段通りに戻る。
「天照大御神の周辺は霊力が普段通りになる!降霊術とかで援護しろ!」
『降霊術・唱・犬神』
素戔嗚からは犬神、ポチが呼び出された。ポチは天照大御神の領域外に立っている、その霊力は普段の約三倍まで跳ね上がっている、霊達はその場の霊力が高ければ高いほど力が強くなるのだ、今ポチが立っている場所は霊力が七割を占めているため普段より何倍も強い。だが素戔嗚はそれだけで終わらない。
『干支術・干支神化』
唱え終わった瞬間からポチは全く違う見た目へと変化した。毛は異様に伸び、殺気が立ち、身体も数倍大きくなった。素戔嗚が薫を援護する様命じると「承知」と言ってから佐須魔に向かって走り出したかと思うとラーに思い切りぶつかった。ラーは犬神より二倍の大きさはある、そんなラーに勢いよくぶつかった犬神はラーを睨みつけた。ラーは犬神の方に体の向きを変え高く高く手を振り上げた。
「おい!ラー!今はそんなことしてる場合じゃないだろ!」
薫の声を聞くとラーはハッとしたように踵を返し、再び佐須間に近づいた。佐須魔と薫達がタッチ出来てしまう距離まで近づいたところで両者が右腕を伸ばし、手のひらを開きながら唱える。
『唱・蜘蛛切』
『唱・髭切』
すると両者の手には一本の刀が現れた。蜘蛛切をしっかりと掴んで薫が切りかかる、佐須魔は軽く避け薫に向かって髭切を突き刺そうと構え、突き出した。
薫はその攻撃を避けようとせずそのまま刀が腹部に刺さる。だが薫は勢いを落とさず佐須魔に近付き刀を引き抜いた瞬間に薫の刀の峰が佐須魔の喉元まで移動していた。だが勿論佐須魔は避けるため後ろに下がろうとするが何故か後ろに下がる事が出来ない。それもそのはず佐須魔の後ろには直立不動の白虎が佇んでいる。
白虎が佐須魔の動きを止め、その隙を見逃さず薫が佐須魔の喉を刀で突き刺した。佐須魔の喉からは血が溢れ出す、佐須魔は急いで喉を抑えた。
「ポチ!追撃をしろ!」
「了解だ」
素戔嗚の指示を大人しく聞き佐須魔の喉元に噛み付いた。佐須魔はそれを振り解こうと刀を犬神に刺そうとした、だがそんな大きな隙を見逃すはずがない。薫が叫ぶ。
「俺の両腕をやるから全力で燃やせ!ラー!」
薫は両腕を差し出した。その瞬間薫の両腕はマジックの様に消え、ラーの力を増幅させた。その火力はとんでもないものだ、ラーは殺意が籠りに籠った炎を佐須魔と犬神に向かって吐き出した。犬神は素戔嗚の指示を聞く前に察して還って行く。
佐須魔は超高火力の炎で数十秒間炙られ続けた。ラーが炎を吐くのをやめた、いや吐けなくなったのだ。ラーの体の半分は消えていた。重要な佐須魔は背後に白九尾を召喚して力勝負に勝ったのだ。薫はすぐさまラーを還らせる。
そして佐須魔は笑い、天を仰ぐ様に手を広げ言った。
「さっいこうだ!それこそ最強神ラー!ますます欲しくなった!薫、そろそろそいつを俺に寄越せよ!」
薫は焦る表情すら浮かべず返答する。
「俺が死ぬ気で契約したんだ、お前に渡す義理なんてない」
「まぁ両腕がないんじゃ何も出来ないだろう!やれ[白九尾]!」
佐須魔が唱えた瞬間、白九尾の口から青い炎が出現した。白九尾は炎を鼻の前にポンっと出した、そして強く息を吹きかけ炎を薫に向かって放射した。薫は両腕が無いせいで避ける事が出来ない、直に炎をくらいそうになった時だった。薫は地面に吸い込まれるように消えた。その数秒後に天照大御神の領域に移動している、薫がいる場所には生徒会の影も一緒に立っていた。
「皆さん…私はなんとかなりましたが他の方々は動けません…私が外に行って応援を呼んできます、それまでどうにか耐えていてください。」
「分かった、出来るだけ早く頼むぞ」
「精進します。では」
それだけ言い残し影は再び暗闇の世界へと沈んでいった。兵助は薫の腕を治そうと触れて能力を発動した。だが腕は再生せずそのままだ。兵助が困惑していると薫は端的に説明する。
「これは霊との契約の代償、霊力的回復に優れているお前でも回復はできない…」
「どうすればいい」
「今はそんなことよりやられない事に専念しろ!あいつはなんでも出来る!」
「じゃ行くよ〜」
佐須魔は刀を構え、ラック達の方に踏み込んだ。素戔嗚は目に止まらぬ速さで刀を引き抜き、佐須魔が振り下ろしてきた刀を受け止めた。ラックは素戔嗚の脇腹を抜け、佐須魔の腹部を殴る。だが拳が腹部とぶつかった時の音がまるで鉄を殴った様な音がしたと共にラックの右手から血が流れる。
「硬すぎるだろ」
「いま薫が教えてくれたじゃ〜ん、なんでも出来るって」
その言葉を口から発声した瞬間、ラックの右腕に電流が走った。そして電流が流れ終わったかと思うとラックの右腕は動かなくなった。
「右腕が動かねぇ!」
「分かった!少しの間は時間を稼いでやるから兵助の元へ行け!」
「すまん!頼んだ!」
素戔嗚が時間を稼ぐことにしてラックは兵助の元に行った。兵助は直ちにラックの右腕を触り回復をかけた、だがラックの右腕は動かない。何度動かそうとしても、力を入れてもぴくりとも動かない。
「何が起こっているか分からないが右腕が動かせないことだけは事実だ、なんとかしてくれ新人」
「分かった…ありがとう」
ラックは回復することは諦め再び佐須魔の方へ近づいた。素戔嗚と佐須魔は刀が残像で見える程の速さで鍔迫り合いを繰り広げていた。ただ佐須魔の方が一歩リードしている様子だ。
二人の戦闘にラックは割り込む、完全に気配を消して勢いをつけ佐須魔の背中に向かって飛び蹴りをくらわせた。だが佐須魔が吹っ飛ぶわけではなく、ラックが吹っ飛んだ。
「反射か…クソ!」
素戔嗚と佐須魔は膠着状態から進行せず、ただ刀を振り合っている。佐須魔が諦めたのか急にラックの方を向き、刀を突き出した。ラックは避ける事が出来ず刺さりそうになったが素戔嗚がギリギリでラックを庇った。だが素戔嗚は庇う事に専念しすぎたせいで自分を守ることは出来ずに背中から胸部に刀が刺さった。
「素戔嗚!」
「クッソ…まだ戦えなくはないが…」
「いや、もう戦えないよ」
そう言いながら刀を引き抜き、無防備な背中を斬った。佐須魔からしたらカカシを切っている様なものだ、素戔嗚の背中からは血が吹き出した。素戔嗚は痛みに耐えながら佐須魔に切りかかる、だが佐須魔はそれを軽く受け流し体勢を低く保っている素戔嗚を蹴り飛ばした。意識はあるが体を起こす事が出来ず唸りながらなんとか刀を握り、這いつくばっていた。
佐須魔は次にラックの方に向かってゆっくりと歩き出した。ラックは立ち上がり左手だけ構えたが佐須魔はその左手を切り飛ばした。ラックはどうすることも出来ず少しでも時間を稼ごうと突撃をした、佐須魔は冷ややかな目をして柄でラックの顎を突き上げた。
ラックは気絶寸前の状態で左手を使って最後の抵抗として肩を殴った。
「潔く負ければいいのにな〜」
よく考えてみよう、あのラックが意味のない行動をすると思うか?ましてや負けが確定している状態でダメージにもならず体力回復の弊害になる様な行動をわざわざするか?答えはノーだ。さっきの抵抗も意味がある、その意味とはなんだろう。なんのためにラック達は負け戦を仕掛けたのだろう?影に言われた事を思い出せば分かる事だ。
そう時間稼ぎだ、援軍を呼ぶと影は言った。時間は十分に稼いだ。来た。間に合った。繋ぎ切った。
これ以上死人を出さなかった、これだけで十分だ。何故なら後は全てやってくれるからだ、この三人が皆を守ってくれる。戦いの最終ラウンドを知らせるゴング、いや剣を引き抜く鉄の音が、今鳴響いた。
「待たせたな、後は私達『能力取締課』に任せてくれ」
三人の能力取締課を名乗る人物が現れた瞬間、怪物[佐須魔]の表情が変わった。
駕砕 拳
能力/身体強化
身体能力を超強化し戦う
強さ/本気で殴れば地球の中心レベルまで穴を開けれるほどのパワー
第二十七話「襲撃」
2023 6/30 改変
2023 6/30 台詞名前消去




