第二百六十七話
御伽学園戦闘病
第二百六十七話「やるべき事」
「さぁ乾枝先輩、能力取締課の場所を教えてください」
二人は薫のゲートで既に外に出て来ていた。場所は東京都六本木のとあるビルにあるらしい、乾枝がそう伝えると兵助はスマホで探し始める。
「大体は分かりますよね。霊力探知でも多少は特定できますし」
「そうだね。とりあえず私も詳細は分からないから探してみよう」
「はい」
ひとまず能力取締課のオフィスへ行かなくては話にならない。兵助は元々外で暮らしていたし、乾枝も何度か長期遠征に出されていたので生活を送ること自体に問題は無い。
だが干支組の場所が分からない。能力取締課はその特性上様々な能力者集団の居場所を記録しているはずだ、仮に無くともハックの能力で監視カメラを操作できるので見つけ出すにはそこまで時間もかからないだろう。
「ここか…」
三十分程彷徨ってようやく探り当てた。相当大きなビルである、まさかこんな所で仕事をしているとは思ってもみなかった。同じ能力者なのに扱いが酷いと感じながらも中に入る事にした。
だが警備員に止められる。兵助が軽く説明した。
「僕達能力取締課の人達に用があって…」
すると警備員の顔つきが変わった。恐らくは二人の事を能力者だと断定して、差別モードに入ったのだろう。ただそこで乾枝が前に出て訊ねる。
「通してください?私は以前から許可が降りているはずですが」
胸ポケットから何かカードの様な物を出しながらそう言った。警備員は不服そうにも二人を通し、再度仕事に戻った。何階にオフィスがあるか分からないので少し戸惑う。
「というかなんで持ってるんです?そんなものあるならここって分かったでしょうに」
「これは前、咲さんを追いかけている時に一応渡された物なんです。情報はかいてないし、あくまで通行券なので何の情報も乗ってないです」
「…ほんとだ。それならしょうがないか。というかオフィスって何階か知ってます?」
「私は来た事が無いから知らないな。連絡先も持っていない」
「……総当たりします?」
だがこのビルは結構高かった。どれだけのテナントが埋まっているかも分からないし、正直面倒くさい。何か案内板のようなものは無いのかとキョロキョロしていると声をかけられた。
「何してるんですか、あなた達」
エレベーターから出て来たパラライズだった。駆け寄り、事情を確認する。
「分かりました。僕は今から急な仕事が出来たので外に出ますが、七階ですよ」
「ありがとう。少しの間だけ泊まる気だからまた後でね」
「はい!」
余程急用なのか全速力で走って行ってしまった。ただひとまず場所は聞き出せたのでエレベーターを使用して七回へ向かう。その間何人か知らない人が乗って来た。だが全員七回という表示を見ると露骨に嫌な顔をする。
ただ二人共そんな事慣れているので気にせず到着を待つ。数秒後、七回という表示が現れると共に扉が開く。当然降りるのは二人のみだ。
「おーいライトニングーいるー?」
真っ当なオフィスと言った感じだった。それぞれのデスクにそれなりに仕事があるように見える。ただ誰も着席はしておらず、何なら誰もいない。
能力取締課は生徒会の派遣が数ヶ月前から無くなったので相当忙しくなっているのだろう。とりあえず帰って来るまで待つことにした。
「全部始末書ですか……これ相当前のですね」
「僕そう言う作業した事無くて分からないんですけど…そんな昔の物なんです?」
「いや、昔と言うほどではありませんね。工場地帯への遠征任務の時のものです」
「あー、半年近く前ですね。というか僕が起きてから半年も経つのか…全然実感が無いな」
「無理もありませんよ。三年近くコールドスリープで眠らされていたんですから……というか何故兵助君は眠らされていたんですか?」
言葉を詰まらせる。大方理由は分かっているのだがあまり大っぴらに言う事でも無い。
「別に言いたくないのなら言わなくても良いんですよ。あなたの祖母が様々な事象に関わっている事ぐらい知っていますから」
「…それほぼ答え合わせじゃありません?」
「…すみません」
「いえ、気にしないでください。それにしても綺麗なオフィスですね…もっと石板とかでやってるものかと思ってたんだけど…」
「流石にそれは無いでしょう。ただ私も驚きましたよ、なんだかんだ言いつつもしっかり高性能なパソコン使って出来るだけ最速で仕事出来ように色々な用品も買ってありますね」
「そりゃそうだろ。俺がいるんだぜ?」
背後から声がする。驚きながら振り返るとやはりと言うべきかハックが立っていた、そしてその後ろにはファストもいる。
「あ、勝手に入ってごめん。ちょっと用事があって…」
「とりあえずそこ座れよ。ファスト、三人分」
「自分で作ってよ」
文句を言いながらもしっかりとやってくれるようだ。二人は差し出された烏龍茶を少し飲んでから話を始める。
「ライトニングはいないけど良いの?」
ファストのその問いには首を縦に振るだけだった。
「まずは大会で何があったかは知ってるかい」
「あぁ、知ってる。負けだったな」
「そうだ。そして願いも知っているかい」
「あぁ、当然だ。三年後だな」
「なら話は早い、どうか僕らに…」
「力は貸す。既に薫とライトニングでそう取り決めた。それだけならさっさと…」
「違う。僕らに力を貸すのは前提だ。今から言いたい事はそんな事じゃない、確か…[シウ・ルフテッド]だったか。そいつが引きつれる干支神使いの集団、干支組の場所を教えてくれ。君なら知っているだろう、ハック」
すると困り果てた様な顔をしながら烏龍茶を飲む。その後携帯を取り出して誰かに連絡しはじめた。口調からして上司であるライトニングだろう。
そして事情を説明し、相槌を打っている。通話を切り、携帯をしまうとハックは面倒臭そうに伝える。
「ファスト、ハックは同行。オフィスに空きが出るので戸締り監視は厳重に。場所は不明だが大まかな場所なら分かっている。伊豆付近、更に言うと工場地帯の側だ……らしいぜ。ほんとなんでだよ……二ヶ月の長期の仕事ようやく終わったってのによ……また長期かよぉ……」
「仕方無いでしょ。気合入れて。私達はそれが仕事なんだから」
「そうは言うけどよぉ。霊力だってろくに回復させれてないんだぜ?体力もすっからかんだし……」
そう嘆いていると兵助が歩み寄り、触れて能力を発動した。するとみるみる内に回復していく、ただ霊力などは回復しない、あくまでも疲労のみだ。
すると兵助はいつも通りの笑みで問いかけた。
「これで行けるね?」
「お前結構鬼畜だな、まぁ良いぜ、やってやる。俺らも三年後、決めなきゃヤバいからな。リイカの暗殺は失敗したし、傀聖はTISに付いたし……ほんっとことごとく運が悪いぜ」
「傀聖と言うのは誰でしょうか。私達の情報網には無いのですが」
「そりゃ知るはずもねぇよ。ここでしか取り扱ってない情報だからな。まぁ軽く言えば今年…いやもう去年か。その夏に本土のある場所で大乱闘した奴だよ。智鷹とな」
「智鷹!?それはTISの智鷹か!?」
「そうだ。勝ちだったらしいぜ。ただそのあとすぐ佐須魔が来て回収されちまった。その後はもう何も情報が無かったが…どうやらリイカの暗殺を妨害、TIS側についたらしい。確かあいつ滅茶苦茶強いんだよな、まだ戦闘歴とかろくに無いはずだけど」
「そんな奴もTISについたのか…益々学園側の勝利が…」
「お前何言ってんだ」
ハックが今まで一番キツイ口調でそう言った。少し下を向いて考えていた乾枝は顔を上げた。
「お前らは出なかっただろ。こっちは重要な仕事があったから仕方無かった。絵梨花と薫もライトニングと一緒にリイカを殺しに言ったから仕方無かった。だが他の教師は全員、怖気づいて出なかっただろうが。何語ってんだよ、ただ生徒を見殺しにしただけじゃねぇか。
神は完成しちまった。絶対方法は記されているはずだ。もうTISは手に負えない状況になっている。あんらのせいって言っても過言じゃ……」
「やめな。あんただって知らないじゃない、佐須魔と対峙した事あるの?私はあるよ、あんただってあれは怖気づくよ。生徒会とかエスケープの奴らのネジが外れてるだけ。普通なら二度と戦闘なんてしたくないって考える。だから襲撃の時もライトニングが出た、なんでそんな事も分からないの。ほんっと馬鹿だね」
「はぁ?お前そんな事言ってるけど戦闘下手じゃねぇか。俺は出来るぜ?機械操れるからな」
「あっそ、今そんな話ししてないから。とりあえず同行するよ、私とハックも。これからは手を貸さないわけにもいかない、これ以上TISを好きにさせていたらこっちも面倒な事になるからね」
「ありがとう。ただまだ行かないよ、二日程で良いからここに泊まらせてくれ。どうしても別件で調べなくちゃいけないことが出来た」
「ほう、何だよ。言ってみろ、俺も手伝ってやるよ」
「凄く助かるよ。でも今回は遠慮しておく、僕は君を信じているから詮索しないでくれ。これは僕と薫だけの話だ、絶対に踏み込まないで欲しい」
「…分かった。俺とファスト、乾枝は干支の方の捜索を少しでも進める。お前はそっちに集中して一時間でも早く終わらせろよ、俺らも忙しいんだからな」
「ありがとう!それじゃあ早速言ってくるよ…」
「待て待て待て待て。これもってけ、通行券だ」
ハックは乾枝が持っていた通行券を投げ渡した。
「ありがとう!じゃあちょっと行って来る!」
兵助は出て行ってしまった。するとハックは大きな溜息の後に乾枝に話しかける。
「俺は予想がついている。あの二人の仲だしな」
「私も軽く予想はついているよ…だけどこの世には踏み行ってはいけない領域がある。薫は私達の為に先行してそこに立ってくれていた。だから私達もここまで強くなれた……ただその結果多大な物を失っていた。私はここ最近まで気付けていなかったよ、薫の変化に」
「別に良いんじゃない。そもそもあいつはあいつで戦闘楽しんでる節あるしね。私だってたまに楽しいって思っちゃう時あるもん。結局逃れようは無いんだよ、その踏み込んでいけない領域からは。
特に、敵がその領域に踏み込んでいる場合はね」
「TISは現在形態を変えつつある。佐須魔一強から重要幹部の底上げ、それに驚異を先手で引き抜き。私達は遅すぎる、そう自覚はしているんだ。だが出来る事に限界がある……私達を引っ張っていた薫はもういない、落ちぶれたものだよ私達も」
「そりゃ駄目だろうな、そうやって全員を括って評価するような奴は。お前は一回落ちに落ちぶれろよ。近すぎるんだ、最強達の距離が。俺は弱い、だから嫌でも浮き出て来るんだよ、強者との違いが。
そこには当然優越感に浸れる事もある。だがそれ以上に不幸に繋がる事が多い、それはお前だって分かってるはずだ。だが今のお前はそこしか見ていないし、そこしか見ようとしてない。
見てやれよ、薫の良い所。あいつは今、何に支えられている。俺は"負の義務"だけだと思うぞ。今のクソ雑魚メンタル状態のお前らが出来る事は最強を立ててやる事だろ」
「…」
「そうね。私だって同じ、取締課はハンドとライトニングのおかげで成り立っている様な物。だから残りの三人でひたすらに立てて、崩れないようにする。弱い奴に出来るのはそれぐらいなのよ」
「ありがとう。そのアドバイスは、しかと受け止めるよ…」
「まぁ良いわ。さっさとやるぞー!少しでも時短するんだ」
「了解。さっさとやろっか、あんたも手伝って」
「分かった。一緒に進めよう。私は教師だから慣れているぞ、そういう仕事は」
「じゃあ色々頼むわー」
「あぁ、勿論だ」
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第九章「干支組」
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第二百六十七話「やるべき事」




