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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百六十三話

御伽学園戦闘病

第二百六十三話「小手調べ」


ダツは殺した。あとはカワセミと本体だけだ。本体は使えても人術を少し程度だろう、となればカワセミさえ殺すことが出来れば勝利も同然である。

ただしそこが一番の鬼門である。カワセミは神だ、ラックでの戦闘で分かった事は防御に徹している事だ。全ての攻撃を無効化し、何もさせず一方的に攻撃して来る。


「さてやるぞ。なんか策はあるか、ガーベラ」


首を横に降った、無いらしい。だが躑躅が起こした謎のエネルギー、反体力。これは神に対して非常に強い特攻を持っているらしい、理屈はまだ分からないが使わない手はない。

同時に、重ねるようにして殴ると発生するはずだ。躑躅メルシーの二人と同じ様に、重なりカワセミに対して拳を放つ。だがその攻撃は無に消えた。

あまりにも異様だ。カワセミは全て飲み込んだ。その時点でこのやり方では通用しない事が分かった。ただ他に勝つ方法は無い、反体力を使ってぶん殴るのだ。


「無駄だと言うのが分からんのか。その神は妾が生涯をかけて作り上げた最高傑作じゃ……失敗作でもあるがな」


「は?」


「妾は最初攻撃に特化した者を作ろうとしておった。だが失敗し、防御極振りになってしまった。別に問題は無いのじゃが…つまらんだろう。抵抗しないわけでないが相当な事が無いと何もせずただ身を護るだけ、正直こちらとしてもつまらないのじゃ」


本当に言っているとしたらどうしてこんな性能になったのか理解できない。それもそのはず、紫苑は神について何も理解していない。いや違う、叉儺がハズレ値のニンゲンなだけだ。そもそも霊から神への昇華など普通は出来っこない偉業、それでも文句を垂れる事が出来てしまう、それが叉儺だ。

そして叉儺には恐怖が無い、楽しもうともしない。目的はただ一つ、神を作りたい。それだけだ。


「妾は神を作りたいだけじゃ。強くなりたいわけでは決して無い、強いて言うと全てを壊す神は作り上げたいがな」


「じゃあなんでTISなんかでやってんだよ。別にこっち側でも出来る事だろ」


「分かっておらんな、何故妾が小さな頃からTISに付いて行っておるのか」


「知る訳ないだろ。興味も無い……で、なんでだよ」


「妾は佐須魔に勧誘された。同年代じゃったがあやつからは果てしない力と希望が垣間見えた。当時妾は貴様と同じような孤児での、狐神と二人で彷徨ってたんじゃ。

そんな時に現れた強者、付いて行かずしてどう生きるのじゃ。妾も昔は世界征服とか考えておったが今となっては無茶じゃ、だから目標を変えて神を量産する事にしたのじゃ。

妾の人生に重みなどない、必要も無い。何故なら妾は駒じゃ、強力な、マモリビトの力を得るためのな」


「お前はそんな生活で良いのかよ、到底下僕が勤まる器じゃないと思うが?」


「やはり何も分かっていない。貴様は強者が弱者を支配した際、弱者が何を思うか知っておるのか」


「…ムカつく?俺だったら下剋上でも申し込んでやる」


「違う、安心じゃ。それがどんなな見え見えの泥船だろうが乗りたくなるのが人間の性、だから妾はTISじゃ。絶対的な安息感に包まれる為に、誰かの下に付き研究を続けたのじゃ。その完成品がこやつじゃ」


カワセミをの方に視線を向ける。だが紫苑は既に動き出していた。(レジュメント)を持ったガーベラにカワセミを相手させ、自身は叉儺を殴り行こうとする。

だが無理だった。カワセミが一瞬にして紫苑の元へ飛んで行き、クチバシで軽く小突いた。すると紫苑は物凄い勢いで吹っ飛ぶ、そして普通の人間のように血を流している。


「うっそだろ…クッソいてぇじゃねぇか……動けるけどよ」


驚きながらも立ち上がり、ガーベラに指示を出す。


「そのまま斬れ!」


剣は全てを破壊しつくす剣だ、神でも敵う事のない真の神の力だ。ただ一つ、弱点があった。神の模倣品であるマモリビトの場合多少使い勝手は悪いが使用自体は可能である。その代わりに体が崩壊していくのだ。

何処かにある霊力発動帯や血肉、全てをばらばらに消して行くのだ。そして霊が崩壊を起こした場合当然それはオーバーキル、本体へダメージが向かう。

紫苑の腕にヒビが入った。


「すぐに剣を離せ!俺の手が壊れかけて来ている!」


それを聞いたガーベラはすぐに剣を放り投げた。そして後ろに下がり、紫苑の状態を確認する。何故ならガーベラは傷ついていないのだ。

おかしい、本体が傷ついて霊が傷ついていないなど見た事も聞いた事も無い。何か特別な力が働いているとしか思えない、それともバックラーの特性なのか、はたまたそう言う特殊能力を持っているのがガーベラなのか。

そこら辺の特性も見抜かなくては神を殺す事は難しい。だからと言って無造作に突っ込んで何か特性を掴んでもその頃にはボロボロだろう、折角チャンスが訪れているのだ。致命傷を撃ち込む段階で理解すれば充分だ。


「まぁ良いか。持て、やるぞ」


ガーベラは少し心配している。だがやるしかないのだ、最悪紫苑が壊れようが叉儺だけは持って行く。その心意気で戦え、そう伝えて紫苑は突撃する。

元々リアトリスは戦闘が出来なかった。なので本体を鍛え上げて戦うのが基本だった、それに加えてアーリアの身体強化だ。人間の域を越えている、兆波や拳に健吾のような力、そしてニアや流そして刀迦並みの速さで突っ込んで来た。

だがカワセミはしっかりと捉えている。叉儺の前で大きく羽を広げ、口を開く。再び攻撃を吸い込むのかと思い、ガーベラに繋げるジャブでも撃とうかと迷っていた。


「違う、これ攻撃だ!!」


遅かった。カワセミは尋常じゃない速さを目の当たりにし、攻撃するしかないと判断したのだ。防御に比べた場合少し劣るがそれでも神の力、強いという括りに放り込む事は出来ない力である。

放たれた衝撃波。それは紫苑の体を破滅へ追い込むのには大きすぎる力だった。だがガーベラを破壊するには、小さすぎる力だった。


「サンキュー…びっくりしたぁ…」


ガーベラが(レジュメント)で防いでくれたから良かったが、普通にくらっていたら即死だっただろう。やはり神、今まで戦ってきた中でも別格だ。何なら佐須魔よりも厄介かもしれない。

だが今の紫苑には勝つ力がある。そして特徴も見つけた、攻めに転じる。何をするかはガーベラも察してくれた、動きを合わせる。だがガーベラは紫苑の二歩分後ろで。


「ふむ、やるのう」


カワセミは異常な速度に危険を感じ、先程と同じ衝撃波を飛ばした。だがそれをガーベラが(レジュメント)で破壊する。そうして徐々に距離を詰めていく。

新生した霊との連携はばっちりとは言えないが、ほぼ完璧に近い。剣の特性を完全に見切ってここまでやれているのは感心してしまう。だが駄目な点もある、剣の弱点を考えていない所だ。

もう少しでカワセミに届く、そんな大事な所で紫苑の腕が崩れ始めた。右手の拳が次第にヒビが入る、まぁ手放して次の策を練るだろうと油断していた。


「行くぜガーベラ!突っ込め突っ込め!!」


馬鹿すぎる。右手が崩れ始めているのにも関わらず剣を放さず、突っ込んで来ている。もう拳が半分近く消えた。流石に何か大技でもあるのかもしれない、そう考えた叉儺は即時決断を下した。


「殺せ!」


するとカワセミの霊力と殺意が増す、本気になったのだろう。だが関係ない、(レジュメント)は全てを破壊する事が出来るのだ、衝撃波なんて眼中に納める必要も無い雑魚攻撃だ。

そしてすぐそこまで近付かれる。ガーベラと紫苑の動きが重なる、右手と左手で、放つ殴打。そして発生する反体力、神への特攻。異様なほど静かだった、風の音すらしない。ただただ息遣いだけ。


「残念だったのう。妾でも、上反射ぐらいは使える」


カワセミの前に作り上げられたバリア。それは霊の力などを全て反射する最強の盾。だが、弱点があった。上反射は霊力で出来ている、そんなものが神の剣で破壊出来ないのか。

答えは否。破壊できる。

瞬時に崩壊する霊力の盾、だがその数秒はカワセミにとってこれまでにないチャンスを生んだ。既にチャージは済んでいる、自身の霊力の半分、指数で表すと500程度の霊力を全て放出する。


「なっ!?」


するとガーベラはすぐに紫苑の首根っこを掴むと無理矢理後方に放り投げた。自分はどうせ霊、生き返る事が出来るのだ。なので本体の紫苑を優先して避難させるべきだと判断した。

だが少し遅かった。選択が悪いわけでは無く、少し遅かった。カワセミが放出した霊力は紫苑が吹っ飛んで行くよりも早く、周囲に散って行く。

そして広範囲に広がった霊力たちは、一斉にして爆破を始めた。連鎖爆発、小さな爆発だが量が尋常じゃない。まるで地獄にでも飛ばされたようだ。

宙に浮いているせいで抵抗も出来ない。寸前まで爆発が連鎖し、目を閉じた。二回の小さな爆発を顔面にくらった。だがそれ以降は音もせず、全く痛みが無い。


「…?……なんでお前が…」


「まだマモリビトの力を見れていない。殺すのはその後、佐須魔様からそう指示を受けただけだ。もう少ししっかりしてくれないとこちらとしても困るのだ」


そこにいたのは犬神に乗った素戔嗚だった。犬神が全ての霊力を急襲し、爆発を抑えたのだ。


「なーんだ、折角戻って来てくれたのかと思ったのによ。まぁ良いわ、サンキュー助かった」


「これを使った実力を確認した次第に殺すよう指示を出された。使え、brilliantだ」


その手には神殺しの武具、[燦然(ブリリアント)]が握られていた。紫苑は仕方無く受け取る。するとその瞬間気色の悪い感覚に包まれる。別人の負の感情だけが蝕んでくるような不快な気分。

だが瞬時に理解する。これは前の持ち主の感情だ。ラックではない、怜雄の。恐怖や憎悪、その中にポツリと立っている尊敬の念。そこに意識を集中していると何者かに乗っ取られていくかの様な感覚に陥る。


「やっべ…これヤバいな…」


「あぁ。俺は行く、精々頑張る事だな。勝てるとは思えないがな」


少し嘲笑しながらそう言って、素戔嗚は行ってしまった。


「あいつホントはあんなムカつく野郎だったのか…まぁ良いか。実験体みたいになってるけど…痛い目見るのはお前らだからな」


不敵な笑みを浮かべながら再度剣に意識を集中させる。すると段々と垣間見えて来た怜雄の容姿、それは数分前(すうじゅうねんまえ)に目にした蟲毒王の姿だった。

奴だったのかと思うと同時に過酷な人生が流し込まれる。先程までラックの濃密な人生を見せられた後だったので面倒くさくなり、意識を剣から放した。

だが体が何だか重い、自身の意思で動かない時があるのだ。ラックの映像で見た、まるで別人のようになっているアイトを。もしやと思い体を任せる。

すると片手で、構え始めた。その瞬間、頭の中に声が聞こえる。


『さぁ行こう。僕も仲間をするよ』


「ん!お前怜雄だろ!」


『そうだ。早く行くよ、時間が無い』


どうやら敵では無いようだ、見方をしてくれるのなら好都合。剣技は苦手なので全て怜雄に任せる、体も動かせるようなので。判断は全て紫苑、剣技は怜雄だ。

そしてガーベラは一旦温存する。先程の爆発で一度死んだようで霊力を相当消費して帰って来た。次死んだら少々厄介な事になる霊力量だ、一度剣で戦えるのなら試してみる価値はある。

走る、ひたすらに走る。そして見てえ来た叉儺。


「…ふむ。使ったか」


「あぁそうさ、ぶっ殺す」


意識も少し浸蝕されているのか妙に変な言葉遣いだ。だがそんな事気にする暇は無い、紫苑は片手で構えた。現在アリスが持ち出した能力者戦争時の映像を残した短剣、その映像の中にいた[アイト・テレスタシア]と全く同じ構えだ。


「ならば妾も本気でぶつかろう」


深呼吸をして、何とも悪そうな顔をしながら面を取り出す。そして装着しながら言った。


「覚醒」



第二百六十三話「小手調べ」

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