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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百六十二話

御伽学園戦闘病

第二百六十二話「ダツ」


「さぁ行くぜ、ガーベラ」


一瞬にして増加した霊力、何をしてくるかも分からない状況下で叉儺は戦闘を強いられる。長年の研究によって神への昇華に成功したカワセミがいる。攻撃をくらう事はそうそうないが一つ心配な点がある。

災厄が言っていた反体力だ。これは叉儺も知らなかった事である。だが明らかに神格か神に対して非常に強力な力を発揮する事は確実である、それだけは注意しなくてはいけない。


「まずはお前じゃ、ダツ」


ひとまず様子見だ。高速で移動し、驚異的な瞬発力を持つダツにいかせる。カワセミと本体は後ろに下がり、警戒を怠らない。


「とりあえずお前の力見せてくれよ、ガーベラ」


そう言うとガーベラは即動き出す、まずは(レジュメント)を持って。速さにそこまでの変化はなかった。だが羽がもげたからかは知らないが飛んでいない。しっかりと地面を踏んで走っている。

そしてダツも同じ様に突っ込んで来る。だがガーベラはレジュメントを盾にするように突っ込む。負傷なんて厭わない、そういう風に見える動きだ。

ぶつかり合う二匹、だが異様な光景だった。ダツは剣に触れる寸前で命の危機を感じ取りピタリと止まった。ガーベラはその様子を見て同じ様に止まっている。


「何してんだ?やっちまえよ」


紫苑がそう言ったが聞き入れる気は無いようだ。剣では無く、手で弾いた。吹っ飛んで行ったダツはすぐに姿を消し、叉儺のすぐ傍に再度現れた。

何をしたかったのかが分かる。恐らくダツは不死身だ、死ぬことが無い。だからそこで無駄に力を使うよりも、死ぬ可能性があるカワセミか一撃で終わる本体を攻撃する気なのだ。


「にしても厄介だな。大量に出てこないだけマシだけどよ」


一匹相手ならどうとでもなる。だが問題もある、一匹しかいないと言う事は意識がそいつに向く。ふとしたタイミングでカワセミが仕掛けてくるかもしれないし、何なら本体が突っ込んで来るかもしれない。

そんな事を考えヤバそうだったら自分が入ろうと決めた紫苑は戦闘体勢を取っていつでも動けるようにしておく。すると首元に何か違和感を覚えた。


「…?蜘蛛?」


小さな小さな蜘蛛だった。その時ラックと共に見た記憶を遡り、蜘蛛の正体を察する。


「もっと安全な所に潜れ、見て良いからよ」


懐に誘導する。それが何か、恐らくは絡新婦の子供の一匹だろう。絡新婦はまだ生きていて、この試合を見ているがそれだけでは飽き足らず、子供を直接派遣し生身で体感した感覚を教えて欲しいのだろう。

ただ小さな蜘蛛は危険なので安全な場所に入れたのだ。


「あれがあいつらの力だからな」


ガーベラは剣でひたすらにダツを切り裂いている。だがダツはすぐに新しく現れ、らちが明かない。だがこのまま放置してカワセミに斬りかかっても不意打ちをされたり本体に突っ込まれるかもしれない。

正直ここで殺したい。だが奴は神では無く出来損ないの"霊"、"神"ではないのであまり有効打が無く困っているのだ。その様子を見かねた紫苑はサポートに入る事にした。


「ガーベラ!ダツは俺がやる!お前はカワセミを頼む、終わり次第助けに入る」


そしてダツの方へ走り出す、ガーベラはカワセミの方へ走り出した。紫苑はまず適当に攻撃を試みる。ガーベラが駄目でも自分なら攻撃が通るかもしれない、そう思ったのだ。

だが実際には全く意味が無かった。殴ってみたが堅い、滅茶苦茶に堅い。手応えはあるのだが痕も付いておらず殴った幻覚でも見せられたのかと勘違いしてしまう程だ。


「うお、かってぇな」


とても悠長だ。そんな紫苑の心臓目がけてダツが突っ込んで来た。


「悪いが俺も強くなってんだ」


ダツの尖っている口を、手で受け止めた。掴んで止めたわけでは無い、弾いたわけでも無い。手の平に刺さった、だが血が出ていない。薄皮一枚、代償はそれだけだ。

凄まじい硬度だ。元の身体能力でそれほどの力となるとダツでは到底敵わない。一旦下がり、叉儺の指示を待った方が良いとも思った。だが叉儺はカワセミの方に尽力している、ここで逃げても邪魔になるだけだ。


「良いぜ、やりたいって言うんならとことん付き合ってやる。でもどうなるか、分からねぇぞ」


余裕を見せる。それに反するようにダツには焦燥感が募り始めていた。ゆっくりと口を引き抜き、距離を取る。焦る必要は無い、紫苑は本気で殺そうとはしていない。奥義などは無いが堅実に体力を削って行けば勝てるはずだ、それにガーベラを出すのだって霊力を使用しているはずである。その内時間が来て生身で戦うしかなくなるはずだ、そうなるとカワセミにボコボコにされて勝てる、そういう算段だ。


「さぁ来いよ」


かかってこいと言わんばかりに手を大きく広げた。ただダツは冷静だ。罠の可能性、どう攻撃するか、ガーベラがどうしているか、その三つをしっかりと考えてから動き出す。

今まで一番早い最速で突っ込んでみた。だがやはり薄皮を貫ける程度であり攻撃と呼ぶにはあまりに貧相な傷しかつけられない。このままでは足手まといだ。


「やっぱお前もつまらないよな。じゃあこうするか」


すると紫苑が奇想天外、いや最早馬鹿の域に近しい行動を起こした。左手の薄皮を全部破った。


「多分再生するし、どうせ死ぬ。だからたまにはこう言うのも良いだろ?さぁ来いよ、流血はさせてくれないと話にならねぇぜ」


ダツは迷った。迷いに迷った。だが結局自分は無限に生き返る事が出来る、ならば突っ込んだ方がマシだろう。その左手に向かって突っ込んだ。

だが直撃する寸前で突き出している左手の前に右手が重なった。だがもう止まることは無い出来ない。右手の薄皮に突き刺さった。


「馬鹿だろお前、普通に考えて戦闘病でも無い奴が楽しむわけないじゃん」


右手で抑え、左手で掴む。その後右手から引き離し、とある攻撃をする。だがそれは殴ったりするものではない、霊力を流し込んだ。お得意の霊力操作だ。

そして流された霊力を思い切り逆流させた。すると起こるのは紫苑とダツの霊力の拮抗、血流のように管があるわけではない。だが霊力同士は相対すると互いに押し出そうとする、譲り合おうとはしないのだ。

なので当然霊力の流れは止まる。そして霊は九割九分の霊力と残りの体力で構成されている。そんな霊力の活動を停止されたらどうなるか、答えは明白死ぬ。


「研究室で聞かされたんだよな、霊の造り。お前ら霊力が無いと消滅、還って行く。だからお前の霊力全部止めてやったわ。雑魚に構ってる暇は無い、さっさと失せな。尖った魚」


段々と体が崩壊していくのが分かる。だがここで引っ込んで何になるのか、たった二分程度時間を稼いだだけだ。出来損ないとはいえども叉儺が丹精込めて作り上げてくれた体だ、プライドがそれを許すはずがない。

だがそれでも体は崩壊していく。そこで思いつく、一つの策。鋭い口が崩れ落ちた。その瞬間に紫苑の手から暴れて脱出する。その後落下していく口に自らの体を貫かせた。


「…マジかよ」


ただの魚だと思って舐めていた。このダツには"覚悟がある"、再度現れたダツは問答無用で紫苑に突っ込んでいく。先程の事をふまえて考えるのは無駄だと判断したのだ。

あまりに知能が高い。当然霊なので多少は上がる、だがそれにしても人の様な心を持っている。その真意も知りたいがそれ以上に攻撃のスタイルが変化した。

先程までは適当に、一直線で突っ込んできていたが今回は蛇行運転のように距離を詰めている。安易に掴まれないようにするためだろうがそこまで効力があるとも思えない。


「そう言う事ね」


生き返った際に霊力は治る、当然紫苑が流し込んだ霊力も無くなる。というよりも放出される、空気中に漂うのだ。だがそれは非常に少量となる為ほぼ干渉する事が不可能である。

だがしかしこのダツはその少量の霊力でも全て回収する。毎日毎日それの繰り返し、先程殺された際も出来るだけ回収をしていた。となると非常に霊力が増えていく。

人間の場合多すぎる霊力を取り込むと体にヒビが入り、未だ解明されていないその先の何かが起こるとされている。だが霊にとっては関係ない事象、そう式神や降霊術にバックラーなどで呼び出された者が貯め込める最大霊力量は実に"無限"だ。


「まぁそうだよな。よく考えたら前マモリビトの力全部、現マモリビトの力半分が入ってる俺と戦えてる時点でおかしいよな」


腐っても神の成りをしている。試してみる価値はある。


〈怠け者を罰し、働き者を救え〉


《キキーモラ》


ひとまず式神術のやり方があまり分かっていないのでレジェストの詠唱を一言一句間違えず唱えてみた。すると現れる一匹の怪物。時間が止まり、ダツと紫苑とキキーモラだけの空間になった。

するとキキーモラは二人の状態をチェックする。まず式神術は前提として詠唱で全ての効果が変わる、そしてこの詠唱は対象二匹の内全体的な攻撃総数やダメージ量が少ない方にダメージを与えるというものになっている。

そして当然、この状況で強力な攻撃をしたのは勿論紫苑だ。キキーモラはダツの方を向き、指を差してから口を開く。


〈お前じゃ、魚〉


その瞬間元の空間に戻る。それと同時にダツの体がグチャグチャに弾け飛んだ。すぐさま復活を果たしはするがこのままやっても時間の無駄だ。既に叉儺とは契約を切っているので霊力の無駄にはならないが、助けに入りたい。

だがあまりにも無謀である。霊力量は匹敵しようともそれを生かす手段を持ち合わせていない。正に宝の持ち腐れだ。かと言って今から何か手段を作るのも難しい。

一つだけ、ある。だがそれは自爆ともいえる技だ。ただそれでも何も貢献できないよりはマシだ、このままでは叉儺が死んでしまう。自身の命より優先するべきなのは、ここまで導いてくれた叉儺の命だ。


「来るか、本気で」


紫苑も少し力を強める。両者の霊力放出が増して行く。霊力放出は意識的に抑えておかないとドンドン増えていく。それ即ちその瞬間に極限まで集中している事となる。

ダツは迷わず一直線で、自身の霊力全てを口先に集める。そして突っ込む場所は首元だ。それを察した紫苑は手で防御しようとした。だが少しだけ遅かった。

ほんの一瞬の差でダツが貫いた。首元から溢れ出る血。当然それだけではない、集めておいて霊力を全て流し込む。


「同じやり方か!」


ガーベラは霊だ、紫苑の霊力生成を止めれば消滅するはずである。命がけの特攻、既に体の霊力は全て無くなり、体が崩壊していく。だが紫苑にとっては全くの無問題、勝ちだ。


「悪いな。霊力の生成方法は知ってんだ」


過去の映像で知り得た事、霊力は息をすればするほど生成される。そして今の紫苑には乗っている、身体強化が、アーリアの身体強化が。

大きく息を吸う。拮抗する霊力を数で押し返すイメージで体内に循環させていく。放出も最低限に、全てを体に集めて。ガーベラには変わらず同量送り、ひたすらにぶつけ合わせる。

次第に朽ち果てて行くダツの霊力。少しでも油断を見せたが最後、一気に押し返される。


「良かったな、役には立てたぜ。ごちそうさん」


霊力を完全に失った霊は死ぬ、ニンゲンでいう完全死。二度と生き返ることは無い、それが魂のやり取りである。鉄則、逃れようのない事象。

無敵ではない。だがそれに最大限近付けてくれた叉儺に最愛の感謝を込め、紫苑の力となって死んでいった。


「さぁ、神殺しだ。行くぜ、ガーベラ!」



第二百六十二話「ダツ」

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