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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百五十八話

御伽学園戦闘病

第二百五十八話「帰還」


その詠唱はとても端的で、かつ変異を催す事の無い最強のものだった。雨竜は一度姿を消し、再度現れる事になる。だが先程とは全く姿が違うのだ。

鉄の塊なんかではない。本来の姿、水色で、まるで雨を身に纏っている様な鱗、強烈な視線を送る眼、戦艦状態に比べると貧相に感じる図体。

そう、正真正銘、竜だ。


「なんだよこれ」


佐嘉も目にした事が無い、本当の姿。馬柄が無残にも散っている姿を見たレジェストは我慢できなかった。出来れば確実に殺せる作戦を立てている時にやりたかったが、仕方無いだろう。

それに災厄もすぐ傍にいる。アイトも何とか意図を汲み取ったのか無駄な攻防戦を行っている。どうせアイトはくらっても治せるはずだ、それよりも今は殺したい。


〈やれ〉


その瞬間、果てしない程上空から物凄い霊力の塊が降って来るのを感じ取る。災厄はすぐに佐嘉の元へ走り、口に掴んで逃げようとする。

だがそんな事許すはずもない。


〈拘束しておけ〉


《キキーモラ》


すると異形の老婆が姿を現し、一人と一匹の動きを止めた。特に攻撃の指示は出されていないのでボーっとしている。だがそれでいい、時間は正常に動かしているので心配する必要は無い。

約十秒後、その霊力が何者か判明する。あまりに無数の"雨"だった。その雨粒はそれぞれに強力な霊力をまとっているようだ。そんな雨をもろにくらったら霊力と同化している佐嘉、霊の災厄は致命傷で済むかも分からない。


「どうにかして逃げれねぇか!!」


「無理だ、あいつの拘束は誰にも解けないだろう。霊は式神の効力に抵抗できない、そう造られている」


「終わったか…」


諦めかけていたその時だった。一人の女が二人の上に重なる。


「女、餓鬼はどうした」


「ケツァルコアトルだ」


ルフテッドが助けに入った。もうほぼ残っていない霊力を使用してでも間に入ったのだ。この雨をくらったらケツァルコアトルの余分もくらい、生きてはいられないだろう。

だがそんな事関係ない、守るのだ。次の世界を作るのは佐嘉と災厄、そう信じているから。


「悪いな、ルフテッド」


「気にする事では無い。このために生まれて来たと、心から思っている。後悔はない」


スレスレまで降って来た雨を全て体で受ける。まるで無数の針に刺されているかのような感覚、それに加えて霊力を介したダメージもある。まるで毒針だ。

だがそれでも受け続ける。ケツァルコアトルも悲鳴を上げているが心配している余裕は無い。完全に防御する事は不可能だが、佐嘉を守っている災厄は霊力さえあれば再生が可能だ。佐嘉にこの雨が届かなければ良いだけなのだ。


「お前はいつもそうだ。人を肉盾かなんかと思ってんのか、おい」


レジェストがすぐそこまでやって来ていた。そして殺意を剥き出しにしながらルフテッドを退かそうとする。だが災厄が噛みつこうとすることによって最悪のケースは無くなった。

だがレジェストは既に感じ取っている、このままで良い。あと三秒、そのままだ。


「まぁでも、お前は終わりだ」


破裂音にも近しい音、だがそれは斬撃だった。約一分にも及ぶ超高練度の『遅延』、起こしたのは馬柄だ。最後の最後、切り裂かれる前にギリギリで発動したのだ。

出来るだけ霊力を籠めて、一撃分だが落とし込んでおいた。遅延は発動者が息絶えようと関係なく発動する、だが基本的には術などではないと発動しない。ただ刀を振るだけでは攻撃を試みるのさえもほぼ不可能だ。

だが馬柄にはある、二つ目の能力が。心を視る以外にも必中が。


「ホントナイスだよ、馬柄」


必中に"斬撃と遅延"を乗せたのだ。その結果起こったのはその場にいる二人と一匹をまとめて斬ったのだ。それに加えて射てる雨、既にケツァルコアトルは死んだ。

そして余分なダメージは全てルフテッドへと向かうのだ。あまりにも強い力の衝突、何か言葉を残す暇も無かった。置き土産がさく裂してから実に一秒、ルフテッドは墜落した。


「よくやった、女。だがお前は、無能だな」


災厄がそう言い放ち、レジェストへと飛び掛かる。佐嘉は霊力と同化し少しでも当たる可能性を低め、災厄の腹部に引っ付いている。それを見たレジェストは全く動じなかった。

キキーモラは霊力の関係でいなくなっているが、もう一つある。雨も滴る良い泥船。


〈一斉放射だ〉


《サンタマリア》


そして占領する空間、策の内だった。


「これで終わりだ」


何十発もの砲弾が発射された。その時だった、佐嘉は既に姿が無い、全てを霊力へと変換しているのだ。


「そっくりそのまま、お前に返すさ」


何処からともなく聞こえた声のあと、レジェストの眼前に一瞬にして姿を現した山羊。頭部は骨で、他は普通。そんな者が、蹴り上げた。

多大なる犠牲の元、この戦いは終わり、戦争が始まる。だがこの時にレジェストがいない事だけは駄目だ、日本に来れて桜花は大丈夫そうだ。

もう絡新婦の指示に従って、レジェストに些細な反抗心を持つ必要も無い。


「瞬宵、幻を見せる能力。そして俺の能力はコピー、甲作の能力だ」


そう言いながら菫を構え、ラックを掴んだのはアイトだった。まるで別人のような顔、覚悟の決まっている青年のようだ。


「…帰るぞ、狐。部が悪い」


「分かった、行くぞ」


終わりはあまりにもあっさりとしたものだった。だがその場に残ったのはアイトとレジェスト、ようやく目を覚ました團だけだ。地上に降り立ち、青龍に感謝する。


「ありがとう、飛ばしてくれて」


「良いんだよ。俺だってお前一人ぐらい連れて行ける」


「終わったか…?」


團がそう訊ねると青龍は頷き、戻って行った。すると團はゆっくりと立ち上がり誇らしげに言い伝える。


「我の名は[團]じゃ。よろしくな、人間よ」


「あぁ、よろしく」


アイトはいつも通りだった、菫は既にしまっている。そして團は行ってしまった。残ったのは完全に二人だけだ、ペルシャなどの霊力も全く分からない。

ここからどうするか考えているとベアが飛んで来た。


「終わったか」


「あぁ。佐嘉、狐は逃してしまった」


「…今から始まる、戦争が。俺はお前に託したい、アイト」


「…え?」


「腑抜けた声出すな。俺様は、お前に、託したいんだよ。これ以上の説明はいるのか?」


「なんで…俺…?」


「覚醒、紫は知らなかった。それにお前の信条や意思はララとソウルから聞いた、だからこそ付いて行きたい。それじゃ駄目かよ」


「いや、嬉しいよ。じゃあ行こう、一緒にさ」


「頼むぜ、ボス」


「その呼び名はやめてくれ」


立ち上がり、血まみれで気絶しているレジェストを抱えながらベアに触れる。


「そんじゃアイトでいいか」


「うん。頼むよ、これからも」


三人は一瞬にして姿を消した。そして辿り着いたのは桜花の屋敷だった。既に厳と桜花は起きている、しかも傷も完全に治っている。不思議に思ったアイトが訊ねると一人の少女が部屋に入って来た。


「その人もですね」


ひとまず説明を求める。するとその少女自らが説明した。


「私は[沙汰方 小夜子]、回復術士です。その方も治せるので早くしてください、手遅れになりますよ」


仕方無くレジェストを降ろし、小夜子に任せた。その間アイトは桜花に何があったかを説明した。馬柄の事を伝えると少し暗い顔をしたがすぐに明るい表情に戻り、アイトを褒めた。

そして目を覚ましたレジェストにも挨拶をする。


「ん、久しぶりだな……やらかしたわ、完全に」


「いえ、あの女の人を落とせただけで充分ですよ。それに佐嘉にとっても相当重い戦いだったでしょう、半年近くは成りを潜めると踏んでいます」


「そうだな。とりあえず準備期間は出来た。だから進める、戦線を。日本は狭い、だから甲作と桜花で充分だ。それに正円が死んでしまった以上大した脅威も無い。何かあればベアって奴が誰か連れて飛んで行けばいい」


「分かりました。甲作さん、これからもよろしくお願いしますね」


「あぁ…分かっている」


「そしてアメリカだ。俺らは別の国に手を出せるほど強くない、だからとりあえずアメリカだけでも何とかしたい。といっても俺はそこまで地理に強くない、だからお前に任せるわ、アイト」


「…へ?」


「言葉通りだ。俺らはお前に付いて行く、多分お前戦闘の才能あるよ。まぁ大丈夫だ、正直適当に指示出しとけば何とでもなるからよ」


「そっ…っかー……まぁ頑張るよ」


「おう。んで絡新婦は姿を消した。多分家にも帰っていない…まぁ良いだろ、元々あいつが住むべきなのはここだからな。んで元絡新婦の家にも二人、刺客が来たがアーリアが蹴散らしてくれた。

身体強化二人だったから楽勝だったわ。だから今あいつは一人で待ってる、早く帰ろう。ここでの戦いは、引き分けで終わりだ」


「分かったわ。私達も帰れる」


「俺も行けるぜ」


ララとソウルは帰れる。


「おいらも行けるでがんす」


「しゃあないな。俺も行くわ」


厳とベアも準備オッケーだ。当然レジェストとアイトも出来ている一刻も早く帰り、体を休ませるが吉だ。少し駆け足な気もするが問題は無い。


「それじゃあな、桜花。また」


「はい、また今度。ゆっくりと話しましょう、二人で」


最後まで桜花は笑っていた。だがいつもと違い、全く嬉しそうでは無かった。苦しそうな作り笑顔だった。だが誰も突っ込む勇気はない、ただ黙って、ベアに触れる。


「行くぜ」


直後、姿を消した。小夜子は完全に疲れ切っており、何も言わずに部屋を出て行ってしまった。二人だけになった甲作と桜花は何も喋れなかった。馬柄の死は予想していた、覚悟が決まっていたのも知っていた。だが信じられない、受け入れらない、解りたくない。

だが事実から目を背けても良いことは無い、一時的な安息以外は。だがこれからは地獄が始まる、何十万人の命が無くなって行くだろう、そんな中くよくよしていても何も始まらないだろう。


「俺は親父より強くなる、この能力を使って」


「はい。信じています、私は戦闘が出来ない。ですのであなた方に任せる事にします。小夜子さんがいる限り何とかなるとは思いますが……アイトが心配です、いつか潰れてしまいそうで……」


「大丈夫だ。あいつは弱くない、少なくとも俺よりはな」


「そうですね。信じましょう、どうか…勝ちで終わらせましょう。この能力者戦争を」


「そう…だな…」



なーラックー


なんだ


ここからつまらん作戦見せられるのか?


いや、カットする。特に得るものは無いからな。


どこら辺まで?


もう終わりだ。あと一日分だ、悪いなこんだけ見させちまって。


別に謝らなくて良いぜ、俺だって力が必要だしな。ただ一つ気になった場所があるんだけどよ…


なんだ?


霊力との同化って何?


そうだな……神への昇華、そう考えれば充分だ。難しすぎてお前には分からない。


な~んかムカつくな~まぁいいや。そんじゃ見ようぜ、最後の一日。


あぁ、俺も背けたい映像だ。一緒に見よう、紫苑。



第二百五十八話「帰還」

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