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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百五十四話

御伽学園戦闘病

第二百五十四話「古き年月の第一患者」


「よろしくね、團」


「あぁ、行くぞ。青龍」


「指示を出すな、クソボケが」


二匹は一気に飛び掛かる、それを察知した災厄は刀で何とか耐えている二人が邪魔になる。すぐに攻撃をやめ、付近の土を思いっきり尻尾で撫でる。

すると砂埃が発生し、目をくらませることに成功した。恐らく青龍タッグは霊力感知が出来るので意味は無いだろうが、馬柄と甲作の人間二人には有効だ。

実際移動しても追ってくる事は無かった。ただ桜花の護衛と言うのは知っている、それ故桜花を護る事に専念しているのかもしれないので油断は禁物だ。


「あまりに弱い、やはり災厄は生まれた瞬間に殺すべきだと言っただろう」


「うるさいぞ!!我が選択に間違いなどあるはずがないだろう!!」


こんな時でも仲良さそうに喧嘩している。そんな二匹の会話を聞いた突っ込んだ、災厄が。だが全くと言っていい程動じずに唱える。


『妖術・上反射』


「なに!?」


当然霊は妖術を唱える側では無く、使う側だ。それなにも関わらず團は唱えた。予測できる事では無く、避ける事も不可能だ。そのまま噛みつこうとしたダメージは二倍近くまで膨れ上がってから災厄へと跳ね返った。

すると團は煽るように言う。


「済まないが我は唯一霊ではない。あくまで生身、貴様を防ぐ術など幾らでもある。今降参するなら痛みを無く殺してやろう、名ぁ青龍」


「あぁそうだ。お前に勝ち目はない、今すぐ投了するんだ」


逞しい鱗に包まれた青白い龍、そいつは團の尾を掴みながら浮遊している。次第に砂埃が晴れ、両者の位置を捉えることが出来た。その瞬間災厄が動く。

再度噛みつくために跳び上がったのだ。だがそれを見た團は強気に自慢げに唱えた。


妖術・昏(ようじゅつ・こん)


直後災厄に襲い掛かるようにして現れるオレンジ色の霧、その霧はまるで意思を持っているかのように災厄を追い続ける。だが速度は非常に遅く、歩いてでもかわせる程だ。なので頭の片隅に置いて、たまに尻目にでも見ていれば問題は無いだろう。

そう思っていたその時だ、問題が頭を見せる。息を吸った際にその霧を吸っている事に気付いた、霊は呼吸をする。その時気付いたのだ、これがどう足掻いても当たる実質的に必中の術なのだと。


「効果は単純じゃ、霊力操作を不可能にする」


それを聞いた災厄は焦り出す。霊はほぼ全てが霊力で出来ているため霊力操作が封じられると言う事はまともに体を動かす事も出来なくなると言う事だ。

当然術なんて撃てるわけもなく、体が麻痺したような感覚に襲われ無効化される。それがこの術である。ただこの術にも当然弱みがある。


「そうか。だが既に対策の手は打ったぞ?」


口角を上げながら、ボソボソと呟くようにしてそう言った。その霧は霊が吸った時点で動けなくなるはずだが喋っている、その時点で効いていないのだろう。

だがどうやって効力を無くしたのか、疑問が浮かぶ。團は今までその術を対策されたことは無かった。それなのに生まれたての災厄なんかに破られた事が悔しくて悔しくてたまらない。


「どういう事じゃ!青龍、真面目にやっておるのか!!」


「黙れチビ狐!!俺だってしっかりやっているに決まっているだろ。あいつは見破ったんだよ、この術の弱みを」


「どういう事じゃ」


「この術、単純に俺かお前の霊力を流し込んだ橙色の霧を発生させる術だ。そして逆流させる、単純かつ繊細な術。だが今まで誰にも言わなかった弱点がある」


「早く言え!」


「霊力が相手の体に馴染んだら、完全に無効化される。それどころか次の攻撃も多少弱められるだろうな」


團は理解する。基本的に霊力とは自身の霊力以外を流されると逆流し、異常を引き起こして能力が使えなくなったりする。だが回復術というものあり、それは霊力が全ての者と共通した部分を持っている特異体質の者が稀に持っている能力であるとされているのだ。

霊力はそれぞれ差異が存在している。だがほぼ全ての構成が似通っている場合、稀に吸収し馴染んむ場合がある。そうなってしまうとワクチンの様にしてほんの多少だがその霊力に対しての耐性が付くのだ。


「ふむ。先程霊力を流したのは我じゃ。とするとあやつは我と似ているのか、霊力が」


「まぁそうだろうな。同じ狐ってのもあるんじゃないか、どっちも黒いし」


「あんな奴と同じにするな!!我はもっと高潔な狐じゃ!!」


「どうでも良いだろ、そんな事。それよりも今やるべきなのは、どう対処するかだ。お前の霊力はダメージが零になった訳じゃないが多少効力は減る、だが同じような事をしても俺のが順応するだけだろうな。だからどうにかして一撃で落とす、その策を考えろよ」


「それならもう、出来ておるぞ」


團は馬鹿だが無能ではない。初めての事象でも全く焦らず、むしろ普段より冷静に敵を見て特徴を掴んだ。そして既に行っている、対策への対策は。


「何をした」


災厄は睨み見つけながら訊ねる。どうやら霊力の流れがおかしくなってきているらしい。すると團は見下しながら答えた。


「霊力が逆流するのは体に合わないからじゃ。だが順応しようがあくまでも我の霊力。そもそも人間以外が降霊術を持つことは非常に難しい、それに加えて神話霊じゃ。霊力操作ぐらい心得ておるわ、例え貴様の体に流そうともこちらから操作できる程度にはな」


そう、無理矢理逆流させたのだ。何の変哲も無いゴリ押しである。勝手に流れても逆流しないのなら、自身の手でやるまでだ。あまりにも強引だが非常に有効であり、対策のしようがない。

みるみる体が動かなくなっていく。霊力が散り、更に散り、もっと散る。操作なんて出来るレベルではなくなったその時、体勢を崩した。


「いくら外敵から身を守る事が可能でも、内部からはどうしようもないじゃろう……出番が無かったな、青龍!!」


「ぶっ殺すぞ!!」


二匹は勝ちを確信していた。このままひたすらに霊力を乱す事が出来れば完封だ。生まれたばかりなのもあってか大分楽であった。視線も向けずいつもの喧嘩をしている時だった。


「忘れていないか、俺も仲間だぞ」


背後から聞こえる声。すぐに振り向くとそこには佐嘉がいた。術か何かで浮遊しているらしく目線が同じだ、すぐに團が地上を確認する。アイトはルフテッドに抑え込まれている。

そして青龍は思い切り口を開き、無詠唱で妖術を放つ。それは現代の『妖術・遠天』に近しい術だ。だが名前も無く、効果も少し違う。違う点は一つ、接触した相手は即死する。


「くらう訳ないだろ、そんな予備動作だらけの術」


佐嘉は青龍に触れ、唱える。


『人術・葬』


シンプルな殺傷能力の高い術、青龍が直接死ぬことは無いだろうがオーバーキルで團に余ダメージが飛んで行く可能性がある。それだけは避けなくてはいけない。だが宿主の鳫蛙には戦闘能力は無いし、アイトも下で戦っている、厳や桜花は意識が無い、馬柄と甲作は高く跳べても避けられて終わりだ。

絶対絶命、そう思った直後だった。ほんの一瞬前まではそこにおなかった男が現れた。宙に浮く能力があるわけではない、だが出来るのだ、実質的な浮遊が。


「ララの強化は受けてるぜ、佐嘉」


ソウルだ。

だが気配に気付いた佐嘉は術を使用する前に振り向き、触れようとした。


「許すわけがねぇだろ。この俺様がいるんだぜ」


そう煽ったのはベアである。ソウルと共に少し横に移動している。それを見た佐嘉は少々面倒くさい事になったと考えながらもどうすれば突破できるか考えていた。

今までの能力者のように適当に術を撃つだけで何とかなるコンビではない。それに背後には青龍タッグもいる。だが全範囲攻撃なんてしても意味はない、何故ならベアの能力は『空間転移』である。しっかりと見極めなくては避けられるだけだ。

だが逆手に取る事も出来る、ベアは完全サポート能力であるため戦闘が何たるかをろくに理解できていない。これまで何百戦もして来た佐嘉とは発想力の格が悪い意味で違うのだ。


人術・草散(じんじゅつ・そうさん)


全範囲攻撃、この術で何度も能力者が隠れ住んでいる場所を襲撃した。そして何百人も殺した。そんな術は単純、周囲数十メートル全域にダメージを与えると言うものだ。これは生物にでは無く、空間に対して使用しているので避ける術はその場から離れるしかない。

ベアはそれぐらい分かっている、一度くらっているのだから。そして青龍タッグも一度遠方へと離れ、ソウル達に任せる。


「掴まれ!ソウル!」


「分かってる!」


服を掴んだ瞬間、空間転移を発動した。だがそれがダメだった。佐嘉はその特性を利用したのだ。ベアの能力は瞬間移動では無く、空間の転移、当然周囲の霊力なども連れて行く事になる。

となると全範囲攻撃はどうなるか、共に移動するのだ。二人から血が吹き出す、斬撃をくらったかのような傷が出来て痛みが増して行く。


「やっぱり毒だよな…これで殺したもんな、俺の両親」


「それが何だ、弱い能力者など生きている価値も無いだろう」


「…立てるか、ソウル。悪いな。へまこいた」


「大丈夫だ。この程度大した痛手じゃない」


そう強がってはいるものの相当効いている様に見える。息を切らし、数個所だけでも止血しようとしている。だがそれは許されない、真正面から災厄が突っ込んできた。既に團の強制逆流は止まっているらしい。

あまりに唐突だったので流石に対象が出来ず、少しでも防御の構えへと移ろうとした。だがそんなものは必要ない、一つ刀によってそれは阻止された。


「どうよ、やってみねぇか災厄さん」


「杉田 馬柄と言うのか。お前は強いのか」


「どうだろうな、お前さんが俺より弱かったら強いって感じるじゃねぇか」


「そうか。どうやらお前は他の災厄にあった事が無いらしいな、そんな態度が取れるのは今だけだと言う事を思い知らせてやる」


災厄が攻撃を始めた。ソウルとベアは血を流しながらも応戦しようとしたが甲作が止めに入り、佐嘉に集中するよう言ってから消えた。どうやら厳と桜花を安全な場所に避難させているらしい。


「しゃあねぇ、ソウル、俺達はあいつをやるぞ。ルフテッドはアイトに任せる。蜘蛛ババアは大丈夫そうだからな」


「おっけー分かった。行くぞ」


ソウルが時を止める。動けるのはソウルとベアだけ、それ以外を動かしている程霊力に余裕は無い。そしてベアの空間転移で佐嘉の付近まで移動した。

だがまだ草散の力が残っているようで、時を止めているのでダメージは無いがどうにも使えそうだ。そう考えたベアは思いつく、屈辱と痛みを同時に与える方法を。


「ソウル、ちょっと痛いかもしれないぞ」


「まぁ大丈夫だ。やるなら早くしてくれ、疲れて来た」


「おう」


ベアは空間転移で先程逃げた所まで移動した。すると佐嘉の付近、寸前まで二人が立っていた所の空間はすっぽりと無くなり、暗黒空間のようなものが出現した。

やはりだ、時を止めている最中ならば空間すらも止まるのだ。そして重要なのはここからの挙動である、アイコンタクトをかわしたソウルは能力を解いた。


「いった!!」


やはり力は残っていたようで二人に再度痛みが付きまとう、微弱な毒も付与されていて少し眼が眩んだりして鬱陶しい。だがそれ以上に喜ばしい、佐嘉の腹部から真っ赤な鮮血が吹き出しているのだ。

ベアの予測は当たっていた。暗黒空間は急激に活動を再会する事によって穴を埋める為物質が集合する、恐らくは霊力で生成されているのだろう。ならば残っている力も引っ張られる、そして埋まった穴なんて構わずにそのまま多少の距離を引っ張られ、佐嘉に直撃する。


「排水溝みたいだな、なんか」


「確かにそうだな。だがどうやら分かった事がある、俺達が住んでいる世界はほとんどが霊力で構成されているらしいな」


「まぁでも何も関係無いな。俺の時止めでも干渉できない程に微弱な霊力達だ、何かに使用されても大した問題は無いだろう。それに使用した時点でその部分は壊れるのだから結局自滅行為だ」


「なら良いが…俺の空間転移はそう言うのも出来てるんだぜ?」


「…良いからやるぞ」


佐嘉は困惑しながらも会話を聞き逃さず、何を行ったのか瞬時に理解した。それと共におちょくられたようにも感じ取った、まるで自分達の力を使わなくとも倒せると言われているように感じ取ったのだ。

そして激昂する。だが静かに、最強の術を放つ形で。口を動かそうと思ったその時だった、強い霊力を感じ取った。そちらを向くとそこには青龍タッグがいた。


「今更何をする気だ、お前ら二匹に出来る事はもう無い。大人しく逃げていろ、生憎お前らは強い。まだ殺す気は無いからな」


「まだ、と言ったな。あまり我を舐めるでない、貴様なんぞとは違う、降霊術士じゃぞ」


「そうか。それは良かったな、仲間だ。俺も元能力者だ、お前が誇りに思っている降霊術だったぜ。まぁもう研究材料にして消え去ったがな。だから俺はこんな事をしているんだ、能力なんて持ってても良い事は無いぞ。お前らだって分かっているだろう?あんな豚箱のような場所で虚無な日々を過ごす、俺はもう見てられないんだ!!

……ルフテッドはその時代の俺を愛してくれた、だが能力者は醜く感じ、実験体として利用した。それでも付いて来てくれる奴は沢山いたさ、お前らはバカだ、無能力者に付いて来るバカの集まりなんだよ。いい加減自覚しろ、これは"革命"だ」


「革命、革命、革命。ど~んな頭してたらそんな事しようと思うのかね~。僕は不思議でたまらないや……だって僕が視た未来には到底、革命による平和は訪れていないよ、佐嘉君」


地上からの声。ずっと身を潜めていたので気付かなかった、真下にはペルシャが立っていたのだ。そしてこれでもかと煽る、佐嘉は当然ペルシャの能力ぐらい把握している。なので自身の全てを煽られたように聞き取れた、それがけたたましい闘志を燃やし、怒りを増長させる。

震える右手を左手で抑え、そのまま燃ゆる右眼へ手を運ぶ。純粋なる悪魔によって引き起こされた純粋なる怒り、何が起こるかなんて赤子でも分かる。


「やっと見せてくれたね、覚醒」


ペルシャは笑った。誰に対してでも無く、自身に対して。何度見ても変わらなかった未来、それをこの土壇場で塗り替えた。本来自身が干渉するべきではない領域に土足で立ち入り、狂気でしかない笑みを浮かべる。

それが快感なのだ。能力を使用する事によって果てしない苦痛と悲鳴を浴びたペルシャにとっては、それだけが快感なのだ。何を使ってもダメだ、どんな女を引っ掻けようと、どんな戦闘をしようと、どんな娯楽を嗜もうと、得ることの出来ない快感。

それは全くもって人が持つべきでは無かった現象である。


「殺してやるよ、ペルシャ・カルム」


赤く赤く燃え盛る決意の闘志。

対抗するような笑い。

ペルシャは患者だった、不治の病、狂い病(せんとうびょう)の。



第二百五十四話「古き年月の第一患者」

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