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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百四十九話

御伽学園戦闘病

第二百四十九話「回復術」


皆と少しだけ違うタイミングで声がかけられる。少し早かった、ほんの一分程度だが早い。厳はすぐさま振り返り誰か確認する。そこにいたのはスラっとした体系とは相反するような冷酷な目線、顔立ちはキリっとしていて非常に強気な印象を受ける女だった。

赤く腰程度まで伸ばしている髪をたなびかせながら剣を担いでいる。


「佐嘉に言われてんだ。さ、やるぞ」


そのなりやワードチョイスからは想像が出来ない程ゆったりと喋る。少し違和感はあったが大きく息を吸い、戦闘体勢に入った。だが場所が場所、港町の中心で戦うのは少し気が引ける。

何としてでも移動して被害を減らしたい所だ。だがひとまず一撃は入れてどれだけ堅い敵か確認しておく。


厳・手添(ごん・しゅてん)


まずは種添で引き寄せ、至近距離で攻撃術を放つ。


厳・斬(ごん・ざん)


七本の剣が姿を現し、女に突き刺さる。


「結構やるな。佐嘉と同じ術か、でもそれだけじゃ私は倒せない。能力を使え」


全く効いていない様子である。それと共に意味の分からない一節が飛び出してきた。「佐嘉と同じ"術"か」という部分である、厳はこの術が能力だとばかり信じ切っていた。

だがどうやら違う様でこれは術の一つに過ぎないらしい。確かに誰も能力か術かなんて言ってはこなかったがそれが勘違いを促進させた。


「どういう意味でがんすか。おいらの能力はこの術でがんす」


「いいや、違う。それにお前の『人術』は練度が足りなさすぎる。正のエネルギーと負のエネルギーが混ざってる、もっと体力だけを放出しろ」


もう訳が分からない。正のエネルギーや負のエネルギーなど聞いた事も無いのだ。ただ女は七本の剣が腹部に刺さったにも関わらず血を流す事も無く、余裕綽々な所から見て身体強化辺りの能力だろうと分かる。

となると少々厳しい、厳の術はあまり肉弾戦を得意としない。普通の念能力に対しては見知らぬ術なので有効ではあるが既に術の内容を知っている者からしたら大した脅威にはならないのだ。


「さぁ、もう一度やれ。私は強い奴と戦うために佐嘉に付いてきたんだ。早くしろ、剣を振ってしまう」


女はそう言いながら剣を握る右手を自身の左手で抑えていた。何やら戦闘狂のような人物らしく今の内に対策を導き出さなくてはマズそうだ。

厳は一度距離を取ってから先程とは少し違う攻撃を試みる。今一番手っ取り早い攻撃は『厳・斬』であるが通用しないらしい、何とも良くない展開だがまだ何とでもなる。厳は一つを極めずにレパートリーを増やしたい派の人間なのだ。


厳・暗鞭(ごん・あんべん)


そう唱えると女の体に衝撃が渡った。だがそれはあくまで衝撃であり、攻撃とは認識されなかった。


「距離を無視する攻撃か、極めれば強いだろうが…どうやらお前はそう言ったスタイルでは無いようだな」


厳な何故通用しないのか不思議で仕方ない。普通に考えれば血の一滴程度は見えてもおかしくないはずだ。それなのに女は無傷で、痕一つ見せない。明らかに何か仕掛けがあるはずだ。

考える、厳はまだこの術への理解度が足りないのは確かである。だが小さな頃から向き合って来た術、多少勘は含まれるが手段が浮かんできた。


「そうだ、その目だ。よく似ている、佐嘉に」


女は抵抗する予兆すら見せず受け入れる。厳は近寄ってから胸部に手をかざしながら二回唱える。


『厳・手添』


至近距離からの手添、完全にタッチした状態で唱えた。


『厳・斬』


それは普段通りただ霊力を放出し形成する事はせず、手に流れて来る霊力を直接形成し放った。霊力操作などやった事も無いので完全に勘だったが上手くいった、今までは頭の辺りに霊力が流れて来たら形成するようにしていたが今回は手に流れて来た時点で形成したのだ。


「……なに?」


女は少し冷静さをかきながらもそう言った。この当時の霊力操作は最適解が見つけられておらず出来るだけでも一部の者には最強と言われてしまう程である。

そんな霊力操作を完全に勘だけでこなした厳は少々面白いかもしれない。そう思った女はようやく戦闘を始める事にした。剣を左手に持ち替え、距離を取った。雰囲気が変わった事を察知した厳も後ろに引く。


「私の利き手は右だ。だが左手を使って戦う、右手に持ち替えた時がお前の死が決まるタイミングだと言う事を覚えておけ。さぁ、行くぞ!」


始めて声高らかに叫び、突撃して来る。そこそこ速いが対処は出来る、大して速く無い。まずは距離を取っておきたい。


厳・梵雨(ごん・そよぎあめ)


基本的には応急処置に使っている術ではあるが妨害にも使えるのだ。まずは周囲のガラクタを集め壁を作る、その後自身の周囲を囲み防御した。

だが女は強行突破をするため突撃する。弱くは無いが所詮女、体だけで言ってしまえば弱いとしか言いようが無いのだ。鉄のガラクタを中心に作られた壁は女の体を弾いた。


「やはりダメか。ならばこうするまでだ」


剣を高らかに掲げ、斬りかかった。すると壁は崩れ落ち、厳の姿が見えた。だがそれと同時に剣で防御の姿勢を取る事になった。


厳・連山(ごん・れんざん)


その術は聞いた事も無く、放たれた霊力も感じた事の無いものだった。そして形成されたのは一匹の鳥、コンドルだった。女はそいつが放つ霊力が禍々し過ぎる事に気付き、防御の姿勢を取ったまま逃げようとする。

だがそれは許されずコンドルの攻撃が始まる。


「そのコンドルに勝てないでがんす。何故ならそいつは、霊ではなくおいらが創り出した本物のコンドルだかでがんす!」


驚く。どうやら見立てが甘かったようだ。厳は弱くなどなく、しっかりと正負のエネルギーを体感で理解していた。なのでこんな芸当が出来るのだろう。

このコンドルに妙に強い霊力を感じたのは勘違いだった、逆に霊力が0だったからここまで異様な雰囲気を感じ取ったのだ。だがそれは面白い、女は剣を振りかざす。


『厳・手添』


霊力量なんて加味しない、ひたすらにコンドルのサポートをするまでだ。手添で引っ張り、回避をさせた。コンドルは運命共同体のようなもの、それぐらい分かっているので困りもせずむしろ上手く利用した。

羽を飛ばし攻撃しようとする。だが特別な力などは授かっていないので剣にこつんと当たる程度で何も起こらなかった。女はコンドル自体に大した攻撃手段が無いのだと悟ると共に一気に仕掛けた。


「終わらせよう」


斬りかかった女の姿は鬼神のようだった。鋭い眼光に細くも屈強な体、そして磨き上げられている剣。厳は一瞬恐れたが対抗する。コンドルは背後に逃がして、やはり一番便利な術を唱えた。


『厳・斬』


七本の剣、その全てが女に向かって放たれた。だが女はかわす気も無い、体で受けたがやはり血は出ない。そこに能力が関係してきている、出来るだけ早く能力を突き止めなかければ勝利は掴めないだろう。

一度コンドルを遠くに飛ばせてから大技を放つことにした。今までは基本霊力重視で霊力多めに形成していたがそれを変え、体力と霊力が五割ずつになるようある物を形成した。


厳・因犬ノ剣(ごん・いんけんのつるぎ)


それは大技と言うにはあまりにも小さすぎる代物だった。片手で軽々と動かせてしまう短剣だ。だが女は冷や汗を浮かべながら剣を持ち替えた。

そして今までで一番早口で喋りかける。


「一分もしない内に決着はつくだろう。なので名乗る。私の名は[ルーナ・ガンドレッド]だ」


「おいらの名前は[是羅 厳]でがんす。今からお前を殺すでがんす、覚悟の暇は与えないでがんす!!」


一気に飛び掛かる。女は右手で持った剣を掲げ、振り下ろした。懐まで移動して来た厳に降りかかる剣進、だがそれは短剣によって容易に受け止められてしまった。

驚愕するルーナを後目に唱える。


『厳・斬』


だがやはり当たらない。その時間近で見た厳は確信し、剣に流していた霊力を全て吸収した。その動作を見たルーナは本気で振り下ろす。だが短剣の強度は凄まじくビクともしない。

その時ルーナは気付く、その短剣が物質では無い事に。これは厳の人術によって編み出された霊力の塊であり、それから霊力を抜いたので短剣自体が動かないのは当たり前なのだ。

だがその場合厳に攻撃が通るはずである。


「クソ!!」


通らない理由、壁になっているからだ。コンドルが身を挺して厳を護っているのだ。その間に霊力を抜き、両手で握る。ルーナは回避行動を取ろうとしたがコンドルが剣を掴み放さない。このまま剣を捨てても勝ち目はない。


「良いだろう、真っ向から立ち向かってやる!!」


「おいらが勝つでがんす!!!」


両者一歩も譲らない、ルーナは左手で厳の腕を掴み妨害をしているが限界が来るだろう。一方厳は両手が使えるのだ、負けるはずはない。

そしてその取っ組み合いの際に強い霊力が生じていた。霊力が完全に無いコンドルとギアルで作られ、霊力をこれでもかと流された剣が衝突しているのだ。何らおかしい現象ではない。

だが次第にコンドルの霊力が増して来た。前提として霊力が無い生物は突然変異体を除いて存在しない。そしてこのコンドルはただのコンドル、一時的に霊力が無くなっていただけなのだ。


「勝った!!!」


「いいや、おいらが!!!」


まるで獣の咆哮とも取れてしまう雄叫びを上げながら力を振り絞る。そしてコンドルの限界が来たと共に両者の剣は敵へと刺さる。厳は肩にぱっくりと、ルーナは心臓に一突きだ。

だがそれでは終わらない、確実に殺す為両者動く。ルーナは厳の手を放して両手持ち、最低でも腕の一本ぐらい持って行こうと気合を見せる。とその時、体が動かなくなった。


「これがただの剣なわけないでがんす!!これは刺した相手の動きを止める、特殊な武器でがんす!!」


言葉も出せない。瞬時に確信した敗北、あまりに呆気ない。これまで磨いてきた腕を全てこんな短剣一つで破られるのだ。あってはならない、信じたくも無い。

その憎悪を原動にして動き出す。既に剣は握れない、だが攻撃が出来ないわけでは無い。能力を使うのだ。


「これで、勝ちだぁ!!!」


「諦めるが良いでがんす。お前の能力は既に見切っている、『霊力を体力に、体力を霊力に変換する』能力でがんすね。だから斬が通らなかったでがんす。でもこの剣は違うでがんす、これはアイトやお前の剣と同じ物質で出来ているでがんす。おいらの勝ちでがんす、ルーナ・ガンドレッド」


完封。


「大人しく死ぬがいいでがんす」


そう言いながら厳は心臓を抉り取った。もう間に合わない、本能でそれを理解し動きを止めた。吐血、視界の揺れ、既に棺桶に足どころか半身を突っ込んでいる。

だが何とか、最後の言葉だけは残す事に成功した。


「また会おう……佐嘉……」


その時のルーナは笑っていた。とても楽しそうに、狂っているように、笑いを見せた。


「またなんて無いでがんす」


吐き捨てた厳は誰かと合流しようとするが体が動かない。その時、背後から誰かに触れられた。まさか追手がいるとは思わず力を使い切ってしまっている。

ここで終わりか、そうも悟ったが何故か体が軽くなっていく。目線を肩に向けると全回復していた。一瞬だけ脳が理解を拒んだがすぐにその触れた人物がやった事だと思い振り返った。

するとそこには一人の少女がいた。そして少女は可愛らしい笑みを浮かべながら自己紹介をした。


「私の名前は[沙汰方 小夜子]です。行きましょう、桜花さんが待っていますよ」


既に驚異の回復術の片鱗を見せていた少女、後に怪物を複数体育て上げる能力者[沙汰方 小夜子]であった。



第二百四十九話「回復術」

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