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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百四十八話

御伽学園戦闘病

第二百四十八話「飲み込み」


ソウルはララとは少し離れてはいるが同じ方向へと歩いていた。すると皆と同じタイミングで声をかけられる。普段なら時を止めて顔などを確認するが今は霊力が全くないのでやめておく。どうせ大した奴じゃないだろうと思い振り返る。

するとそこにいたのは小さな体とそれに見合わない霊力を持っている少年だった。ソウルよりも何段か背が低く、ただ話しかけて来たのだと思った。


「どうしたんだい?」


「その眼、いいね」


全く悪意や殺意をこめていない単純な欲、すぐに敵だと判断したソウルは時を止めようとした。だが先程躊躇ったように霊力が無い、止められても三秒もない。

その程度の時間止めた所で何も出来ないだろう。そもそもソウルの戦いはララがそばにいて、体力から霊力を生成できる状況下である事が条件である。


「僕は雑魚狩りが大好きだからね」


少年をよく見ると分かったはずだ。少年は全身を布で隠し、その隙間から小さなきらめく刃物が見えている。しっかりと観察していれば先手を打てたかもしれなかった。反省しながら攻撃を仕掛ける。

すると少年は完全に見切っている様に避け、名乗る。


「僕の名前は[レーン・キル]。まぁ覚えなくても良いよ、能力は言わない。だってお前はもう死んでる」


指を差し、笑う。その先にあるのはソウルの胸元だった。直後体内から鉄柱のような物が飛び出してきた。急いで背後を確認するが誰もいないし何も無い。

そして何処から飛び出したのか理解する。自身の体だ、ソウルの体から柱が突き出ている。すぐさま引き抜こうとするががっちりと固まっていて動けない。

次第に息が詰まって行く、心臓や血管にもダメージがいっているのだろう。


「小賢しいんだよ、日本に来ようなんてさ。それにその弱さ……面白い冗談だよ、ホント」


そう言い切ってからクスクスと嘲笑う。その態度はソウルの癪に障った。あまりやりたくはないが仕方無い、こんな所で死んでは笑えないし、何よりイライラする。

目の前に立っている顔も見えないクソガキをぶっ殺してやりたい。衝動に駆られたソウルは自身の右眼に手を伸ばした。そして義眼を掴むと勢いよく引き抜いた。


「は!?」


義眼とはいえど強引に引き抜いたら痛みはあるだろう。だがそんな痛みさえも気にせずソウルはほくそ笑む。


「これ、一応取り外し出来るんだよ。あんま舐めんなよ」


能力を二回発動した。するとソウルの霊力が全回復、その後刺さっていた棘が綺麗さっぱり消え失せた。キルは巻き戻す能力なのだろうと仮説立て、ある戦法を取る事にした。

まずは突っ込み、ローブの中に隠し持っている短剣で斬りかかる。あっさりと刺さる、手応えもあった。だがソウルには当たっていない。その時異常だと言う事に気付く。

ソウルには刺さっているのだ、目ではそう捉えているし触れている様にも感じる。だが実際には触れていない、意味が分からず一瞬の隙を見せた。


「最初はみんなそう言う反応するんだよな、まぁ予測何て出来る能力じゃないからな」


余裕そうに笑みを見せて腹パンをかましてやった。するとキルは殴られたのにも関わらず楽しそうに笑い、殴り返して来る。だがやはり攻撃が当たらない。

透けている訳では無い、見た感じではしっかりと当たっている。まるで空想(イメージ)の敵と戦っているようだ。何とも言い難いむず痒さ、ただ必ず弱点はあるはずだ。


「倒せないけど…強い訳じゃない。僕を倒す術は無いだろう?その防御によく似た能力じゃ」


「やっぱ全員そう言うよな……教えてやろう。この能力は防御なんかじゃない、俺が防御に使いがちなだけだ。効果は『過去への巻き戻し』だ。だが色々と制限が強いんだよ、だから時を止める方が便利ってだけだ。まぁあっちもあっちで制限が強いからな、どっちもどっちだ」


ご丁寧にも説明しながらぶん殴る。キルも避けようとはせず、互いにほぼ動いていない。あまりにも異様な盤面だがその中では大量の考察が浮かび、破棄されている。

キルは頭が良くない。能力の都合上常に人を殺して剥ぎ取って生活を送っていた。そんな所を佐嘉に拾われ現在に至る、そしてそのホームレス生活をしていたのは約一週間前である。

何度も体験した死の間際、そこで何度も何度も自身の能力について考え、捨て、ようやく辿り着いた。


「僕の能力は『思った事が実現する』能力だ。念能力の一旦だが…他の雑魚とは一線を画す能力さ」


唐突な開示とその内容に驚く。あまりにもでたらめだ。当時『言霊』は完成していたものの使用者は極端に少なく、そのどれもが制御できずに命を絶っていた。

そんな中で変異した個体がキルである。こいつの能力は本来ただの言霊だった、口に出すとその事象が引き起こされるだけ、その一方反動はデカい、そんな能力だった。

だがキルは使わなかった。次第に霊力の流れを覚える、操作とまでは行かずともそれに近しいことは出来た。その結果とんでもない能力への進化が幾度となく促された。

何度も失敗を得て、最終的には現在の形へ着地した。そして脳内に思い浮かべた事が毎回叶っていると代償で即死してしまう。その結果キルは"代償が消える"方向へと適応(しんか)したのだ。


「だから僕が今お前が死ぬと思い浮かべればお前は死ぬんだ!!観念するんだな、今降伏すれば助けてやるよ。僕の召使になって諸々をやる事が条件だけどね」


余裕綽々、この時のキルは形成が逆転したとでも思っていたのだろう。だが実際にはそんな事は無く、ソウルが優勢だった。


「俺が言えた事じゃないが、やっぱガキだな」


「…は?」


「もう少し観察をした方が良いな。お前は敵に対して目線を向けなさ過ぎた、常に自分を見ている。そんな奴に負ける程俺は弱くは無いんだぜ」


既に後ろに回り込んでいるソウルが説教をかます。だがキルも負けじと振り返ろうとしたが間に合わない。蹴り上げ、時を止めて近付く。そして時を動かし、再度蹴る。

それの連続だ。キルからしたら瞬間移動をしてきている様にか感じ取ることが出来ず、ろくな抵抗も出来ない状態である。正に絶体絶命、だがそれを覆すのが能力だ。


「死ねよ!!」


その時キルは脳内にソウルが死ぬ場面を想像した。直後、何も起こらなかった。勝ちを確信していたので防御の構えも取っておらず、もろに蹴りをくらう。

気に勢いよくぶつかり、頭から血を流す。少し意識が遠くなった感覚がしたが己の舌を噛み、無理矢理目を覚ます。その行動にソウルは狂気を感じたが構わない、とどめの一撃を放ったその時だ。

呟く。


「覚醒」


ただならぬ霊力の変化と量、一旦距離を取って様子を伺う。するとキルの左眼からは赤い炎が燃え上がっていた。


「どうだ!?怖いだろ!?僕の真の力だぁ!!!」


ハイになってしまっているのか楽し気に笑う、体をくねらせている。既にローブは取れており捉えた容姿、黒髪のボブ、細身で少しだけ可愛らしい顔、女の子と言われてもギリギリ信じてしまいそうなただの少年だ。

一瞬躊躇ったが致し方ない、相手が殺しに来るのならこちらも殺す気で対応しなくては一方的にやられるだけだ。出来ればアイトの意向に従い、殺しはしたくないが。


「怖くは無い、一番恐れるべきなのは自身の非力さだ。恐らく今の俺では覚醒状態?とやらのお前には及ばない。そして多分皆と顔を合わせることなく俺はここで散るだろう。だが今俺が恐れているのは死や痛みではなく、弱さだ。

この弱さが今後ララやアイト、他の仲間にもどうやって影響するのかが怖い。だから俺はちょっとばかし、無茶をする」


ソウルははめていた義眼を取り出して手に取り、口に含んだ。そして近付いて来ているキルを無視してゆっくりと、止まらせないように飲み込んだ。

キルが自身に極限の身体強化をかけ、殴り掛かって来る。その最中ソウルは言い放った。くらった言葉を返す様に、冷静に、噛まないように。


「覚醒」


燃え上がる。接触した赤い炎を全て飲み込んでしまう碧い炎、キルは理解が追いついていなかった。何故なら佐嘉に碧眼の事を伝えられていなかったからだ。

だが炎が飲み込まれたからと言って攻撃の手を止めて良い理由にはならない。そのまま殴り掛かる、ソウルの胸部にぶち当たった拳にはしっかりと感触があった。


「僕の、勝ちだ!!!」


だがソウルは被せる様にして言った。


「俺が義眼を手に入れたのはこれが目的だ。この力が欲しかったんだ。みんなを、ララを守るためにな。そして何かを守る時に必要なのは、絶対的な"弱化"だ」


キルの拳は破壊された。ヒビが入り、ソウルが触れる事によって氷像のように崩れ落ちた。絶望するキルに対して手向けの言葉を送った。


「佐嘉に伝えといてやるよ、強い奴だったってな」


心臓に触れた。すると先程と同じ様にして崩れ落ちる、次第に体が保てなくなり瓦解した。崩れ落ちて行く際にキルが見せた表情は物凄く辛そうだった。

それを見てソウルは思う事があった。何故佐嘉は碧眼の事を伝えなかったのかだ。覚醒の事ぐらい知っているだろう、ならば碧眼ぐらい分かっていたはずだ。

否が応でも理解してしまう。


「もう一つ、言っておく。お前は人を駒としか見ていないクズだ、とな」


一度他の者と合流しようとしたその時、血を吐く。義眼を飲み込むのは最終手段であり最後の足掻きでもある。それ即ち道連れの手段だと言える。

そんなものを使ったらどうなるかなんて予想しなくたって分かる。大量の血を吐き、貧血で視界が歪んで来る。もう終わりかと悟ったその時、鈴の音が鳴る。

それと同時に現れる。


霞麗(かれい)は幻を魅せる能力だが、それと同時に心を遅らせる事も出来る。実際には三秒しか経っていないがお前の世界では二百五十秒だろう」


既に幻の世界へと誘われ、動きを止めたソウルを見下ろしながら[杉田(スギタ) 甲作(コウサク)]は呟いた。そしてキルが確実に死んでいる事を確認してからソウルを担ぎ、歩き始めた。

三秒経つと再度能力を発動させて少しでも延命する。甲作は片目を隠しているがそこには義眼も眼球も無い、そして義眼を飲み込む戦法が心の中での時間経過に比例している事を知っている理由も同じである。


「元だが、同じだったからな」


甲作は数年前まで神の義眼を所有していた人物だからである。



第二百四十八話「飲み込み」

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