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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百四十六話

御伽学園戦闘病

第二百四十六話「霞麗(かれい)


瞬時に周囲を確認する。港町からほんの少し離れた場所である。だがドンパチやったらバレてしまうだろう、今一般人に顔を見られるのは後々悪い事に使われるかもしれない。だからといって逃げる訳にはいかない、音を立てずに倒す事が条件だ。

ひとまず刀を預けてしまっているのである程度は己の力のみで戦わなくてはいけない。


「さて、終わりですね」


カカオはそう言ってパペットを動し、口をパクパクさせた。次の瞬間アイトの右脇腹に激痛が走り、血が噴き出した。すぐにパペットが能力に関連しているだと分かり潰しにかかる。

まずは小手調べも兼ねてだ。するとカカオは予想外の行動を取って来た。


「残念ですね。思っている以上にタフですが、頭が弱い」


再度パペットを動かし、殴るような動作をさせた。直後アイトの体が何か強大な者に殴られたかのようにして吹っ飛んだ、木にぶつかり頭から血を流す。

少々視界が悪くなり、拭こうとしたその瞬間同じような痛みに襲われる。


「少しは試してみようとも思い手加減してみましたが…時間を捨てただけだったようだ」


パペットはまるで生きているように動き、何度も殴る。連続で確実に殺意を込めて。一方アイトは何十発もくらいボロボロになってしまっている。

やはり刀と言うアドバンテージが無いと中々厳しいものがあるのだ。だがそれよりも大きな問題がある、他の所でも戦闘が始まっている。皆そこまで距離は無いがソウルが心配だ、霊力を使い切っていたはずである。


「悪いが早く終わらせなくちゃいけなくなった。来いよ、あと五秒で終わりだ」


「あまり大人を舐めない方が良い」


そう言いながらパペットを動かす。今度は殴打では無く、蹴りだ。三発連続でくらせようとしたのだ。だがそうは行かなかった、アイトの速度が瞬時に上昇し全て避けられてしまった。

それと同時に一つ、情報を得られてしまった。


「やっぱりな。お前のそれはバックラーに近しいものだろう、パペットの動きに応じて透明な何か、または最早そういう存在の者、に攻撃させるんだな」


「ふむ、少しはやるですね。そしてその推測も当たっている、子供とはいえども思考出来る頭ぐらいはお持ちのようで」


「まぁな。にしてもその能力、インチキだな。霊力が無い、俺は霊力とかそういうの苦手だがそれにしても何も無い所から急に殴られた感じだ。あの佐嘉って奴はそんなに強いのか?」


「当たり前です。私が上に置くのは常に強い方だ。人の上に立つに必要な要素、軍や暴力を主な活動としている者達の場合は力だと考えているのです」


「それは良かった。あいつより弱いって事だろ?なら楽勝だ」


今度はアイトが仕掛けた。真正面から距離を詰めようとする。だがカカオが許すわけもなく、正面一帯にそれぞれ強いパンチを繰り出した。

ただそのパンチは全て当たる事は無い。一瞬驚きはしたもののすぐに何が起こったか理解する、アイトは木に飛び乗って回避したのだ。だが木は全て薙ぎ倒された、既に逃げ場は無くなっている。


「これでどうでしょう」


今度はパペットに倒れ込む動作をさせた。すぐに何が起こるのか察したアイトは避けようとしたが間に合わない、倒れて来るエネルギーの塊に押しつぶされた。

声も出さず土に押し付けられている。何とか抵抗の意思は見せるがどうにもならない、重いというレベルではないのだ。これ以上その場に留まっていたら殺される、そう感じた。


「さぁ、どうする」


試している様な口調、だが本来の狙いは全く通用しなかった。何故ならアイトは抜け出したのだから。明らかに異常だ、そのエネルギーの塊は重力などの効果は受けないのだ。その場に固定され、動くはずがない。

抜け出す方法と言えばそのエネルギーを跳ね飛ばすか本体を攻撃する、この二つだけである。なのにも関わらずアイトは抜け出した、被弾はしているようで傷は深くなっているし右腕は潰れている、恐らく右眼も破裂してしまっているように伺える。

だがそれでも立っている、自身よりも何百倍も重いのしかかりを受けて立っている男。理解すると共に不本意だが恐怖で身震いしてしまう。


「だがそれが面白い。ただそれぐらいで終わられては不完全燃焼も良い所、さぁ来なさい。その眼で」


アイトは覚醒を発動していた。紫に燃えるその炎を手に取り、喰う。異常な行動に驚き、一度何が起こるのか見守る事にした、言い換えるとビビッて防御を固め始めた。

だがアイトは喰い続ける、無限に沸いて来る紫の炎を喰って喰って、喰いつくした。遂には炎が消えてしまった。その代わりにアイトの霊力が上がった、カカオが弱くなったと錯覚させられてしまう程に。


「なんだ…これは…」


そんな言葉しか出ない。あまりに強大な力を博している怪物を前にして。


「…だがどうやら君は判断を間違えたようだ」


だがアイトの大きすぎる霊力はカカオの能力を磨き上げた。


「今度こそ私の勝ちだ、アイトよ」


パペットを動かす。すると先程とは全く違う結果へと繋がった、霊力のエネルギーでしかなかった攻撃体に体力が結び付られる。何が起こるか、実体を得る。

降霊術やバックラーと全く同じ原理である。だがその能力達と明確に違う点が一つある、意思を持たない事だ。そして力が凄まじく強い。


「そりゃでけぇ訳だ。熊だもんな」


そこに現れたのは物凄いデカい熊だった。カカオはうさぎさんのパペットを外し、スペアのパペットを取り出した。


「丁度良かったよ」


偶然ではあったもの運が良くその日はくまさんのパペットも持ち歩いていたのだ。折角ならつけてあげたいと考えたのだ。そして放つ、一撃。


「やりなさい!」


命令を下された熊はすぐさま走り出し、飛び掛かった。その時カカオはパペットを動かしていなかったので能力が進化したのだろう。だがアイトは焦らず、冷静にかわした。

次に攻撃するのはアイトだ。距離を詰め、熊の腹部をぶん殴った。だが熊には何のダメージも入っていないように感じるし実際手応えが無い。


「無駄です。私の能力は進化した。ですが本質は変わっていない、その熊は無敵なんですよ無駄なんです」


「そうかよ。ならお前をやるだけだ」


今度は本体だ。だが熊が腕を掴み、放り投げた。空中に投げられたアイトは身動きが取れない。そこを熊が襲い掛かる、熊は実体はあっても重力などの制限は受けない。行きたいと思った所へ瞬時に移動できるのだ。

そんな移動をして来るとは思ってもみなかったので防御や回避行動を取る事は不可能だった。空中で再度ぶん殴られ、吹っ飛ばされる。


「残念」


するとカカオの背後から声が聞こえた。すぐに振り返るが誰もいない。だが背中に激痛が走った。何が起こったのか分からない、アイトは空中で殴られているままだ。

訳が分からない、どうすればそんな移動が出来て、わざわざ攻撃されに戻るはずがない。


「…どう言う事だ」


戦闘が始まってから約四分、短い覚醒以外は特殊な事は無かった。佐嘉には出来るだけ情報を集める様言われてはいた。ただそれ以上新しい情報が出る気はしなかったので本当に終わらせることにした。

覚醒の炎を喰う事によって霊力を増やす事が出来るのは分かった。ならばそれで充分である、逃がす必要は無い。


「終わらせなさい!」


熊は従い、一気にしめにかかる。何十連撃にもなる重い打撃、これで終わるだろうと信じていた。だがそんな事は無かった。アイトは何処かから唐突現れた刀を握り、熊の腕を落とした。

すぐに引くよう命令を出すが逃がさない。今度は両足を落とし、熊の動きを完全に止めた。だが熊は生命ではない、再生など容易である。


「回復が早いな」


斬った部位は既に回復していた。


「まぁ、問題は無いけどな」


今度は刀で行うにはあまりに早い連撃を叩き込んだ。もう目で追える速度ではない。そこまで刀を上手く使えるという事前情報は無かった、強くなっているのかもしれない。

警戒を強めながら熊を信じる。カカオは複数持ちでは無いし、勝手に動いてくれるようになったので何か出来ることは無いのだ。知刀の無い事ではあるが少し寂しくもある。


「佐嘉さんのためにも、必ずや勝たなくては…!」


心に強く誓ったその時だった、異変が起こる。一瞬にしてアイトと熊の姿が消えた。そして自身を確認するとパペットがくまさんからうさぎさんへと戻っていた。

混乱し、動きが止まる。直後眼前にアイトが出現した。


「なっ!!」


「どうだった、長い"三秒"は」


思い切りアッパーをかました。カカオは吹っ飛び仰向けに倒れた。強い衝撃だったので脳震盪を引き起こし、意識が遠のいて行くのが分かる。

それでも聞いておきたかった、どうやってあんな事象を起こしたのか。


「どうやっ…て…」


「お前は終わりだ、だから情けとして教えてやる。俺の能力は『コピー』だ。触れた事のある人物の能力を永久的にコピーすることが出来る、だが人生に三度しかコピーできない、実質三個能力がある事になる。

そして俺は日本にいた際この能力をとある人物からコピーした。能力名は『霞麗(かれい)』、相手に二百五十秒間だけ幻覚を見せる事が出来る能力だ……と言っても実際に経っている時間は三秒、ほぼ拘束みたいなもんだ。まぁその分大きなデメリットもあるんだが……もう聞いてないか」


幻覚を見せる能力、そこまで言った所で既に意識を失っていた。この能力のデメリットは霊力の大量消費、一回使用し時間制限、その後にもう一度使ったのでとんでもない量を使用している。割合だけでいってしまえば雨竜並みだ。

だがここで止まることは出来ない。結局戦いが始まってから数分しか経っていないので他の者は戦闘中だ、急いで救援に入り早く騒ぎを治めたった。


「人の根底にあるもの、それは恐怖と暴力だ。いや正確には恐怖による暴力だ。俺も例外ではなく、貴様も例外ではない。堕ちたな、アイト」


少し横に一人の青年が立っていた。アイトは心の底で喜んだ。だがそれと同時に目を疑った。刀を向けて来ている、その青年は見知っている顔なのだ。

黒い髪に凛々しくも何処か子供らしい顔立ち、洋服とも和服とも言えぬ絶妙な服装、そして返しになっている特殊な刀。その刀が首元に到達しているのだ。


「あ?どっちがだよ、クソボケ野郎が」


名を[杉田(スギタ) 甲作(コウサク)]。桜花を守る執事の一人[杉田(スギタ) 馬柄(バガラ)]を父に持つ剣士である。そしてアイトが日本にいた頃、犬猿の仲であった人物でもある。


「桜花が呼んでいる。仲間を連れて来いとも言われた。今にもお前を斬ってやりたいが……俺は霊力がすっからかんの男の方へ行く、お前は怪物の所にでも行け」


「言われなくても行く、あいつに刀預けてるからな」


「……あとでじっくり話すか。それじゃあな」


両者静かに怒りを燃やしながらそれぞれ助けに入る為走り出した。



第二百四十六話「霞麗(かれい)

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