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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百四十三話

御伽学園戦闘病

第二百四十三話「暫しの休息」


意味の分からない少年、[ペルシャ・カルム]と別れ洞穴へと帰る。誰にも付けられておらず、誰にも監視されていない、しっかりと確認して戻った。

すると全員起きていていなくなったアイトを心配していた。ただ散歩をしていただけだと伝えると少し安心したようだ。それと同時に厳が部屋から出て来た。


「おはようでがんす」


快調そのもの、気軽に挨拶を交わす。そして次はアーリアだと伝え、部屋まで案内する。その間レジェストとアイトで二人っきりになる。何とも言えぬ空気に包まれた。

元々レジェストは会話を始めるタイプでは無いが、アイトの少し変わった雰囲気を感じ取って無意識下で不自然さを感じているのだろう。

すると我慢できなくなったのか珍しく先に口を開いた。


「何があったんだよ、明らかに雰囲気が違うぞ」


「えっ…とっ……」


言葉を詰まらせる。絡新婦にああ言われたばかりで何だか信用できないのだ。ペルシャの事を伝えるのは少々はばかられる。だからと言って適当にはぐらかしても悟られてしまうかもしれない。

だがそのまま伝えても少なくとも良い展開には繋がらないだろう。こんな時フロッタが居れば、そう思った。フロッタは適当で凶暴だがどんな事があろうともフラットな対応をしてくれる、レジェストの場合そうはいかないだろう。


「…珍しい動物がいたんだよ。俺お前と一緒に暮らすまでは地下街にいたからさ、日本の時は普通に暮らしてたけど動物とかは結構違うし…」


「そうか。それは良かったな。ならどうして、霊力が減っている?」


どういう意味か分からない。特に放出した覚えはないし、能力なんてもってのほかである。なのにも関わらずレジェストは何故感じ取れたのか、少し気味が悪い。

ただ結局の所思い当たる節などない。そう正直答えた。するとレジェストは淡々と語り出した。


「お前には良くない癖がある。強者と対峙した際に恐らくは無意識で霊力放出をしている。といってもそんな大した量じゃないがな。

だがそれ以上にお前の霊力は少ない。そんな事も分かっていなかったのか」


「いや…ごめん…」


「俺が欲しているのは謝罪ではなく何があったかを詳細に語る事だ。ただし俺も鬼じゃない、言いたくないのならハッキリとそう言え。中途半端は一番嫌いだ」


少し考えた末今は黙秘しておく事にした。ペルシャは仲間になると言っていた、となればバレるのは時間の問題、あまり猶予が無い状況で揉めるのは悪手だ。

言わない旨を伝えるとレジェストは再度訊ねる。


「もう一度聞く、何があった」


圧が凄い。その時アイトは分からなかったが霊力放出を強めていたのだ。だがそれでも屈せず反骨精神を見せつけた。これ以上やっても無駄だと判断したレジェストは少し溜息をついてから部屋に一つしかない椅子に腰かけた。

そしてやる事が無いのでアイトに話しかける。今度は尋問などではなく、今後の事だ。


「ここで回復をしたら俺らはある場所へ向かう、少し長い旅になるから少しその前に人員を整えたい。場所は"ハワイ諸島"だ。目的は二つだ。

まず墜とす、当然あそこにも軍事基地があるんだ。早めに動いて早めに潰す、そっちの方が後々楽になる。そして二つ目、あそこに一人の女が住んでいる。そいつに会う。どちらかというとこっちが本命だ」


「女?」


「そうだ。あいつを引き入れることが出来ればこっちの戦力は大幅に上がる。だがあいつはその強大な力故か自由奔放だ。唯一決めているのはハワイに永住する事、それぐらいだ。

能力は無い。無能力者だ。その代わりなのか何なのか…力勝負ならサンタマリアや雨竜なんて一瞬で消し飛ばされるだろうな。あいつは霊力も無尽蔵に高い」


「そんな奴がいるのか…でも自由奔放ならどうやって引き入れるんだ?それにハワイに永住するって固く決めてるんだろ?」


「倒す。あいつは屈指の戦闘好きだ。どんな手を使ってでも倒し、一時的にでもこっちに連れて来る。そうしないとこの戦争は負ける。

だが勘違いするな。あいつが欲しいんじゃない。あいつを渡してはいけないんだ」


息を飲む。レジェストがそこまで念を押すほどの無能力者、少々恐怖を覚えてしまった。すると厳が戻って来た。レジェストはついでに厳にもその事を伝える。


「そんな奴がいるでがんすね…名前とかは分かっているでがんすか?」


「あぁ、名は[ガーゴイル・ロッド]、フロッタの従妹だ」


「まじで!?」


「まじだ。あいつの家系は強い、とりあえず引き入れたいんだ。そのためにフロッタも欲しいんだが…どうやら無理っぽいから他の奴を集める。

回復が終わって、あいつとの交渉を終わらせ次第共に戦ってくれる奴を探す。出来れば素の身体能力が高かったりする奴が欲しい。俺の方は一人目星がついている。ただ一人なんかじゃ足りない。

まだ不確定だがこのままだと本土(ここ)を守らせるのはアーリア一人で充分そうだ。レイチェルもロッドもいるしな」


「アーリアを置いて行くでがんすか?」


「あぁ。単純に相性が悪いからな。身体能力が高いだけでは駄目、"素"の身体能力が高くないとむしろ逆効果だ。それなら置いて行った方が良い。防衛線維持に関しては得意だろうからな」


「そうでがんすか。それで目星ってのは、誰でがんす?」


「まず前提としてガーゴイルを引き入れるのにかかる時間は年単位だと覚えておいてくれ」


少し驚く。そんなに長期な作戦を立ててまで奪い取らなくてはいけない人物なのか、二人には疑問でもあった。だが今はレジェストに従うのが得策、変に反抗して共に行動できなくなったら様々な事が不便になってしまう。

桜花を助けに行きたいのは山々だが待つのだ。それが最善策、そう言い聞かせて。


「そんでその奴ってのは[兆波(チョウナミ) 正円(ショウエン)]、日本在住の、純日本人だ」


「日本!?」


「行くでがんすか!?」


「行く。だがすぐには行けない。正円に会うにはまず日本に渡らなくてはいけない。そして渡るには船が必要だ。サンタマリアや雨竜は航行できない、だから普通の船が必要なんだよ。

だが今時木製の船なんて即沈められて終わりだ。となると軍艦が必須になる、最悪貨物船でも良い。ひとまず紛れ込むことが出来れば良いんだ。そのためにまず行く場所は軍事基地だ」


「でもおいら達に協力する軍人なんているわけがないでがんす…」


「そうだな。俺もいるとは思えん。少なくとも能力者撲滅作戦が動き出している以上否が応でも殺さなくちゃいけないからな。なら仕方無いだろう」


「…?どういう事でがんすか?」


「ぶっ潰す。小さい海軍基地で良い。ただ船があれば良い、渡る事が出来れば全ていい。片道で良いんだ。既に能力者の評価など血に落ちおている。もう構わなくても問題は無いだろう。だが出港するにも時間がかかる、俺だって日本は心配だ。元いた国だし、何よりも一つの国でも負けてしまったらプライドが傷つくからな」


「はぁ!?基地を壊す!?それって前みたいに何も知らない一般人にも被害を出すって事か!?」


怒り心頭、そう強く聞く。するとレジェストは冷酷にもこう答えた。


「お前は何か勘違いをしている。あいつら無能力者は俺らに戦争をふっかけて来てんだ、何処に助ける義理がある。アーリアの時もそうだ。今となっては気にしていないが本来あれは自殺行為だぞ。迷いを捨てろ。何も皆殺しにしろとは言わない、邪魔する奴は全員殺せ。それだけだ」


流石の厳も気圧され息が詰まる。何も言い返せないのだ。実際無能力者は能力者を排除しようとしている。そんな中全ての人を助けたいなどただの戯言に過ぎない事も。

だがそれでも軍人二人はアイトを助けた。結局の所はエゴであり、自己満足である。ただ正当化という皮を被った自己満足こそが原動力となる。少なくともアイトはそういう人間(せいかく)だ。

ここで言い返せないなくてはどうにもならない。


「駄目だ。全員生かす、やっていいのは致命傷まで。良いな」


強い口調。レジェストは自分の策が貶されたように感じ取り、少し苛立つ。だが同じ年といえども経験はレジェストの方が圧倒的に上である。しっかりと説明して諭すまでだ。


「だからそれが無理だと言っている。お前は地下街在住だったからそんなに詳しく分からなかっただろうが、ここ数年で風当たりが一気に強くなってんだよ。

もうつべこべ言っている余裕は無い。俺も人を殺すのは不快だ。式神で攻撃しても手に感触が残る。殺して来た何百人の命をこの手に刷り込んできている。それでも戦わなくちゃいけない。

これはプライドでも無いし、自己満足でも無い、生物として当然の行動だ。だが人には知性がある、だから俺は和解を求めたい。根本は同じ何だよ、だから今は付き添ってくれ。自由になるのはもう少し戦線を前に押し出してからだ」


「……分かったよ……だが俺は出来れば殺さないからな。能力だって使わない。それだけは許してくれ」


「そんな事言われなくても分かってる。それを否定する気も無いし肯定する気も無い。だが忠告だけはしておく、いざとなったら宙とだけはするなよ」


「あぁ。俺も分かっているさ」


「なら良い」


話に折り合いが着いたところでアーリアが戻って来た。顔面蒼白でガタガタと震えている。何があったのか聞くと小さな、潰れてしまいそうな声で言った。


「クモ…むり…」


「あー…頑張ったな。アーリア」


とりあえず褒める。そして奥の部屋から出て来た絡新婦に一つ聞く。


「なぁ絡新婦」


「なんじゃ」


「俺達はあと何日ここにいればいい?」


「そうじゃな…ラックの体力次第としか言えぬが……推定二日程度じゃろう。何か急ぎの用でもあるのか?」


「いや、今後仲間に引き入れる人物の事だ。一人心当たりがあるんだよ、地下街の最強といわれる人物だ」


「お、良いな。どんな奴なんだよ、場合によっては俺も行くぞ?」


「悪いが俺一人で行く。性格的に一人で行った方が良い気がする。ただ……誰か金持ってないか?」


すると厳はハッとしてそれが誰なのか察した。そしてすぐさま止めに入る。


「あいつはやめておいた方が良いでがんすよ。流石にちょっと協調性が無さすぎるでがんす…」


「だから俺一人で行くんだよ」


「まさか…力でやるでがんすか…?」


「それ以外に何があるんだよ」


「流石に無理があるでがんすよ!」


少し声を荒げる。絡新婦が間に入り、その人物の詳細を訊ねた。これからは絡新婦も仲間ではあるので今の内に説明しておくことにした。


「名前は確か……[ソウル・シャンプラー]だったかな。能力は念能力って事以外分かってない、それでも強い強いとは噂されてたから行く価値はある。あいつだって死にたくないはずだから運が良ければ何もせずに……無理だな。まぁとりあえずあいつは金にがめついって情報もあるんだ。

だからとりあえず金を持って行きたい。出来ればそこそこ大金が欲しいんだが…」


皆に目線を向ける。すると全員即答だ。


「…無いや…」


「ないでがんす」


「俺も無い」


「私も人の世界で買う時は体で払うからのぅ」


「私も無いよおおお!!」


「霊には最初から聞いてねぇよ!」


ただ少し問題である。一つ手段が潰された事になるので時間が無駄になるかもしれない。だがソウル以外に思い当たる人物はいない。出来れば強者をかき集めたい、無駄な事を考えている暇は無いだろう。


「とりあえず今から行く。厳、アーリア、変なことするなよ」


「うん…」


「分かってるでがんすよ」


「じゃあ二日ぐらいで帰って来るから。何かあったら能力使うから安心しててくれ、問題は無い」


曇りなき眼でそう言い放ち、早速飛び出して行った。準備も何もしてなかったがよく考えるとアイトは刀以外ろくに物を持っていない。それに移住するわけでも無いのでさっさと行ってさっさと帰って来たいのだろう。

誰も止める事はしなかった。それどころか皆それぞれの動きを始めた。絡新婦をレジェストは奥の部屋に、厳はアーリアと自身のご飯を、アーリアはお散歩を。

そして始まる身近な一人旅、少しも楽しくは無いが久しぶりに戻る事となった自宅。少しだが胸は踊っていた。だがそれ以上に緊張と恐怖に支配されているとも知らずに。



第二百四十三「暫しの休息」

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