第二百四十二話
御伽学園戦闘病
第二百四十二話「未来」
「きて……起きてえええええ!!!!!」
「うおおおお!!??」
とんでもない大音量の叩き起こす声、鼓膜が破けるかと思いながらも飛び起きた。するとそこは先程まで普通に立っていた部屋だった。
だが違う点がある、蜘蛛の巣に捕らえられている。起こして来たレイチェルは既にいなくなっていて、その部屋にいるのは元の姿に戻った絡新婦だった。
「起きたか。様子はどうだ、痛みや異常は無いか」
「特に…無いけど…どう言う事だ?何が起こったんだ…」
「多少は動かない方が良い、悪いが話が終わる時までその状態で頼む」
逆さに吊られているわけでも無いので承諾し、方法を聞き出す。すると隠す様子すら見せずに話し出した。
「まずレイチェルの能力で殺す、そして"魂"が昇天する前に押し込む。これだけじゃ」
「…は?魂?」
「知らんか。教えてやろう」
「頼む」
「まず魂とは能力を発動する際に使用する部位に宿るとされている。お主も聞いたことぐらいはあるだろう?天国や地獄、他にも魂の存在などを」
「まぁ…多少は」
「恐らく人では解明できない故か文献は散り散りな情報、という段階で留まっておる。だが私はその魂の正体を突き止めている、というよりも神話霊なんかは大抵が感覚で理解しているものじゃ。
そもそも私達は霊力の塊のようなもの、特例でない限り魂そのものといってもおかしくはないのじゃ」
「うんうん……というか能力を発動する時に使う部位って何処だ?」
「すまないがある事を念頭に置いてほしい、私の構造は蜘蛛だ。推測ではあるが人間とは別の部位にあるのだろうな。そして私の場合は、ここじゃ」
そう言いながら自身の足で腹を差した。
「腹じゃ。そこに霊力を流す事によって能力が発動する。だが詳しい事など分からぬ、知りたくばお主自身で調べるんじゃ」
「新しい情報得ただけでも相当ありがたい、サンキューな」
「良いのじゃ。それにまだ話さなくてはいけない事がある」
「何だ?」
「お主は戦争が始まる、そう思っているか?ラックの考えでは無く、お主の考えが聞きたい。出来れば理由も添えてほしいものだ」
そう訊ねられた。アイトは熟考する。その間も絡新婦は文句の一つも言わず、暇そうな反応も見せず、ただ待ってくれている。そして思いついた考え、吐き出す。
「俺が始める。いや俺が始めた。聞いてるか?半年前のレジェストがやった件」
「勿論じゃ」
「それの原因は俺だ。俺が無茶をして、佐嘉 正義の力を使わせて、フロッタという男を起こしてしまったのが原因だった。それが起因となって始まった。
ただ…既に始まっていたのかもしれない。俺は基地に突撃した、その理由は俺が住んでいた地下街の能力者がその軍人たちに一掃されるという情報が流れて来たからだ。
文句は言えない、覚悟も無い、だがそれに見合った力は持ってる」
その瞬間まばたきをすると消える程短い命の火が右眼に灯った。それを見た絡新婦は少し感心した後近寄り、宙にぶら下がっている繭を切り裂いた。
そして地面に着地したアイトの顔を掴み、耳元で再度訊ねる。
「あいつと敵対するというのなら、私はお主を殺さなくてはいけなくなるぞ?」
だがいたって冷静に言い返す。
「それでも俺はやる。自分で撒いた種だ、回収するのが人道だ」
「…ふむ、分かった。まぁ良いだろう。ここで争ってもお主が勝つだけじゃ。それよりももう一つ、聞かなくては行けぬことが増えたようだ」
「なんだよ」
「幾千万の能力者と[多比良 桜花]、どちらを護りたい?」
「なっ…どういう…」
「どちらだ、今、決めろ」
意図は分からなかったが渋々、返答する。
「…桜花」
「では教えておこう。ラックには従うな、少なくとも桜花の身を安全な場所に置けるまではな。だが悟られぬようにしろ」
「どう言う事だよ…」
「あやつは人を数と認識している。意味が分かるか」
「…まさか!!」
「私が精を吸い出しているのは子を作るためじゃ。だが霊としての力は持たない、私の意思を率直に反映する分身というのが近い。そして日本に置いてきた大量の子供達から連絡が来た。日本で始まった、とな」
もう分かる。アイトの大切な人物、桜花を助けるため日本へ出向くのか。有象無象の他人を助ける為に桜花を切り捨てるのか。どっちかを選択しろと言う意味だったのだ。
すぐさま駆け出そうとしたが足の一つで止められる。
「行くな。私は言ったはずだぞ、悟られるなと」
「だけど!」
「少し厄介な者はいるが半年は持つ。私の方からも支援を促すようラックに言っておく、今は待て。今行ってお主に何の得がある。先程も言ったがラックは数としか見ていない、あやつは知り合い一人よりも烏合の衆を優先するぞ」
「でも日本に行けば…!」
「何度言わす、あやつは人を数としか見ていないのじゃ。悪い奴では無いがそういう性格、大人しく待てと言っている。精々支援の話は半年かかるかかからないかじゃろう。特異な事が起こらん限り怪我はしようとも死にはせん。落ち着け」
糸で巻き、無理矢理動きを止めた。抜け出す事は不可能だと理解したアイトは心を落ち着かせる。そして長い付き合いであろう絡新婦がそう言っているならそうなのであろう、そう思う事にした。
その思考が透けたのか糸を切り裂かれた。楽になったが逃げる事はせず、少しだけ作戦を話す。
「分かった。ラックの説得はそっちで頼む。だが俺は半年も待ってられないぞ。こっちの住人だって助けたいんだ」
「それなら半年程度大丈夫じゃろう?政府は能力の脅威を知っておる、言っては悪いが半年で死んでも数万人程度じゃろう。ラックと同じ思考のようになっていて気分が悪いがそこまで焦る数でも無い。能力者は一億はいるのじゃ」
「何言ってんだ、俺が助けたいのは無能力者もだ」
一瞬、時が止まったかのような静寂が訪れた。その後絡新婦が溜息をつきながら言い放った。
「お主は何になりたいのじゃ?」
「強いて言えば、英雄だな。基地の時無能力者の軍人が庇って二人、死んだ…いや俺が殺した。今より子供っぽかったからってのもあるかもしれないが……全員が全員能力者をすぐに殺そうって殺伐とした考えじゃないんだ、そう知った。
誰にも言わなかったが俺は襲い掛かって来た奴だって助けたい。俺には力がある、だから…」
そう言いかけた瞬間、アイトの腹が貫かれた。すぐに刀の柄に手をかけたが引き抜かれ距離を取られた。すぐに抑え止血を試みる、すると絡新婦が飛び掛かって来た。
ただ目をつむりながら防御をするしか無い。
「お前は力があると言った。ならば何故今能力を使わなかった?レイチェルのようにすぐ殺してしまう能力なのか」
「違う……俺の能力には使用制限がある…」
「ほぅ」
「生きている中で三回…既に日本で一度使っている……」
「ならば教えてみろ、お主の能力を」
「俺の能力は…『未来を決める』能力だ……過去に使ったのは桜花が強襲により殺されそうになった時だ…生きて欲しい、そう願った……その瞬間俺の頭には"変えなかった時の現実"が過ぎった……それと同時に残り二回しか使えないとも感じたんだ……」
「ならば戦争が始まらない、そう変えればよいでは無いか」
「悪いが発動条件が無いんだよ……まぁ簡単に言えば俺の意思で発動できないんだよ」
その時絡新婦はここ最近で一番の呆れを感じた。そんな能力なのにも関わらず戦争を始めたのは俺だ、などとほざき浮かれていたのだ、仕方も無い。
だが実際その能力は強い。だからと言って過信も出来ない、正直評価がし辛い能力だ。
「そうか。分かった。一度死ね」
怪我を負わせたので治さなくてはいけない。再度レイチェルの能力で殺す、ふよふよと浮き上がって来る魂を無理矢理押し込み意識を戻した。
この際錯乱し暴れる者がいるがアイトはそうではなかった。なのでレイチェルに起こしてもらう。
「おきてえええ!!!!」
「うるっせぇ!!」
先程と同じようなやり取りを交わした後立ち上がった。そして完全に回復しているのを見て感謝する。
「礼はいらない。それよりも最後に伝えておこう。力は重い、抱える事で体勢を崩すだろう。そこにつけ込まれるでないぞ、私はそう言った男を何人も殺めて来た。償いでは無いが、最低限の道理だ」
「そうか。ありがとう」
「さぁ、行け。厳を連れてこい」
そう言われたアイトは部屋を出た。すると眩い光が差して来る、どうやら一晩が開けていたらしい。ただ丁度日が昇ってきた所のようでアーリアが音を聞いて飛び起き、戦闘体勢に入る。
恐らくいつ殺されてもおかしくない環境で暮らしていたのだろう。少し可哀そうだと感じてしまったアイトは落ち着かせながら近付き、聞く。
「お前は付いて来てくれるのか?俺に」
「…行くよ……助けてくれたから」
「そうか。まだ寝てろ、次は厳だ」
「うん…」
先に眠らせてから厳をゆすり起こし、奥の部屋に向かわせた。レジェストは寝息をかいているので放っておき、少しだけ外に出る事にした。
昨晩は冷えたようで朝露が木から滴っている。当たるのは嫌なので木が無い所を少し歩く事にした。だが何かあった時に問題が無い様そこまで離れる事はせず。
「半年か…長いな……でも桜花を助けられるなら…」
「へぇ~この娘が桜花ちゃんか~」
頭上でそう聞こえた。焦り見上げるとそこには器用にも木の枝に乗っている一人の少年がいた。まるで何かを見ているかのような言い草だ、もしや能力者かと思ったアイトは少しだけ言葉を選び会話を試みる。
「君は、誰だ」
すると少年は木から飛び降りながら答えた。だが素性だけではなく、能力までも。
「今の内に仲間になっておきたいのと……[アーリア・エント・セラピック]の話をしようと思ってここに来たのさ……あーごめん、言っておくことにしよう」
小柄のクリーム色の髪をした少年は言った。
「『未来を視る』能力。名前は[ペルシャ・カルム]だよ。よろしく!」
「やっぱ能力者か…それで未来を視る能力…強いね」
「うん。それで一つ言っておかなくちゃと思ってね。未来を視るのは霊力を使うし精神もすり減らす行為だ、だけど僕は好んでやっている。そこで忠告をね!能力は一回取っておくと良いよ、後悔するからね」
「取っておく?いつまでだ?」
「分かるから。とりあえず取っておけばいいの!」
「そ、そうか…まぁ頭の片隅ぐらいには置いておくよ」
「それでよろしい!」
偉そうに少年は言った。その後本題に入る。
「それでアーリアの事なんだけどね、やめておいた方が良いよ。彼女はこの時代に出演していいニンゲンじゃないんだよ」
「急に現れて何を言い出すんだよ」
「僕は言ったよ?忠告だとね。まぁ聞くも聞かないもそっちの自由さ、だけどね後悔するよ。能力を残しておかないのと同じぐらい後悔する…」
すると少年は嘘臭い笑いを浮かべながら呟いた。
「アハ!変わった変わった!もっと最悪な方に!!」
とても楽しそうだ。凶器に触れたかと思わせる気色の悪い笑み、どうも仲間になれそうとは思えない雰囲気だ。構っていても時間の無駄なのでその場を立ち去ろうとしたその時、少年が凄まじい力で腕を掴む。
先程までそんな予兆のようなものはなかった。敵だと思い刀を抜こうとしたがその腕も掴まれる。それでようやく確信した、能力は本物だ。
「大丈夫、落ち着いて。僕は敵じゃない、むしろこの後仲間になる。だから本当に最後の忠告をしておくね。これは君が最後の能力を使う時だ、僕の子孫を殺すんだ。流産でも良い、殺害でもいい、何でも良いから殺せ。
それが運命の分かれ道だよ」
完全なる狂気、笑みは無かったが眼から感じ取れる嘲笑と悪意、アイトは掴む手の力が一瞬緩んだのですぐさま振りほどき全力疾走を始めた。
すると背後で呼びかける声が聞こえた。
「マモリビト、頑張ってねー!」
まだ確定はしていなかった未来、それをペルシャが決定づけた。悪魔、そのものである。だがその行為が良い悪い、どちらに向くかは未だ誰にも分からなかった。
当然、神にも。いや神は意図して分かろうとしなかった、この世界は遊びだからだ。あくまで番組を見ているかのような感覚、娯楽でしかないのだ。
これから起こる悲劇や苦痛も、全て全て、娯楽である。
第二百四十二話「未来」




