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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百三十九話

御伽学園戦闘病

第二百三十九話「三体目、雨竜」


「一秒で終わらせてやるよ。俺らにはどうやら時間が無いらしいからな。厳、アイト、そのガキ連れて行って良いから離れろ。お前らがあ一キロメートル以上離れた時点でぶっ放す。早く行け、適当でいい。とりあえず離れてろ」


「分かったでがんす!行くぞ、アイト!」


「あぁ…お前も行くぞ……アーリア、だっけか」


少女は頷くだけで動こうとしない。というよりも体が限界で動けないのだろう。アイトも当然動いてはいけない、なので厳が連れて行くと思ったのだが渡す気は無いようで無茶をしながらも抱きかかえて走り出した。


「つまづかないよう気を付けるでがんす!」


厳・速風(ごん・そっぷう)


すると二人に追い風になるように強い風が発生した。一瞬転びそうになったが厳が支え再度走り出す。強い追い風があれば一キロ程度そこまで難しくない。

それに二人は多少鍛えている、かかった時間は約五十秒だった。そしてそれを感知したレジェストは息を整える。その間サラサーテは大人しく待ってくれている。


「ここで攻撃すれば良かったものを」


「それは面白くないだろぉ?だって俺の力を見せつける事が出来ねぇじゃねぇかぁ」


「そうか。ご生憎様、お前の実力は誰にも見られることは無いぞ」


「は?」


「終わりだからだ。まぁ色々あったけどな、アイトの為にも、多比良(タイラ)の奴の為にも、お前を即刻殺害する。そう決めた」


そう言ったレジェストは唱えだす。


〈旧体を抑え、俺に力を貸せ〉


雨竜(うりゅう)


直後鳴り響く怪物の鳴き声、だがそこに現れたのは龍でも何でもない、一隻の艦艇であった。大きいなんてレベルではない、人なんかと比べ物にならないデカさだ。

そしてその艦艇はサンタマリアのように宙を浮いている。更にはしっかりとタービンを回し動いている。それはサンタマリアには無かった挙動である。

だがそんな事サラサーテには関係ない。呪・封を使ってしまえば何てことは無い、先程と同じ様に。


『呪・封』


能力を封じる呪、それを発動した。このまま一気に畳みかける用意をしようとする。


『呪・自身…』


そこまでだった、それもそのはずである。サラサーテは既に死んでいた。


「おせぇんだよ、雑魚が」


超弩級戦艦、たった一門の砲撃だった。だがそれは大砲などではなかった、速すぎる。音もしなかった、霊力感知も無かった。そして霊力を纏っているわけでも無かった。

ただの"鉄球"が音も立てずに直撃したのだ。理解できなくとも仕方無い。だがサラサーテの胸から上は既に吹き飛ばされ、目にもとられることが出来なくなっていた。


「俺が殺さなかった理由、教えてやろう。争いを始めない為だ」


姿を消した雨竜と共に背を向け歩き出す。死体ともとれないあまりに惨い身体を放置して。


「まぁ始まったなら仕方無い。その内始まる頃だった、前の件で半年引き延ばせただけマシだったんだ」


大きな溜息とともに吐き出された愚痴、ゆっくりと歩いて行く。その場にもう一人、能力者が来ている事も気付かずに。だがサラサーテがいる所まで寄られると流石に分かる。

振り向き、誰か確認する。襲ってこない辺り戦闘の意思は無いようだが、確認はしておかなければならない。


「…は?」


腑抜けた声しか出ない。そこに立っているのは一人の少年、といっても見かけは少女に近しいのだが。水色の髪で長髪、そしてそんな物を覆い隠してしまうように目立つ日本の角。

小さな物であはるが明らかに人間ではない。能力者であろうとも人型は保たれるはずだ、何らかの新しい術か、はたまた別次元のモノか。


「ご主人様に言い伝えろと…」


凄まじい霊力、その隠しきれない風貌からは見合わない可愛らしい声と仕草。だがレジェストは恐怖していた。その時点で別次元のモノだと断定した。

理由があった。当時レジェストは密かにとある計画を進めていた。それがあったからフロッタやアイト、厳を受け入れたのだ。それは神殺しである。

といってもこの世界の神は創作で蔓延るような者では決してなく、この世界の全てを握っているのだとも知っていた。だがそれでも戦ってみたいと考えていたのだ。(しぜん)の摂理。


「やれるものなら、やってみろ。との事です…それでは失礼しますね」


終わり際に見せた優しい笑みからは殺意以外を感じ取ることは出来なかった。そしてその少女は消滅した。すぐに息を吸う、どうやら息も出来ていなかったらしい。

落ち着くと大笑いがこみ上げて来る。特に意識している訳では無い。だが特に何かを考えるわけでも無くただ笑っていた。あれを従者として置いている神の実力を早く見たい、そう思ったのだ。


「まぁ良いや!行くか…」


急に笑いが止まる。急いで三人と合流しなくてはいけないと思い走り出した。だがそこで雨竜を使った弊害が出て来る。雨竜はレジェストが持っている式神全三体の内一番霊力消費量が多い、謂わば切り札だ。

先にキキーモラを使っていたのにも関わらず、その切り札をしようしたとなると限界が近くなるのも致し方無い事である。だが休憩している暇は無い、能力者殲滅作戦、そんな物を聞いてしまったら休憩なんてしてられないのだ。

どうせそこまで長くない命、走り抜ける。


「クッソいてぇ!!!」


自身の鼓舞を含めて辛さをひたすらに吐き出しながら走る。そして丁度一キロのラインで立っているのを見つけた。


「大丈夫だったでがんすか!」


「一撃だった。それよりも……いや、何でもない。ひとまず歩きながら話そう、サラサーテが言っていた能力者殲滅だか撲滅だかの件を」


まるで何か知っている様な口ぶりだ。アイトが息を切らして歩きながら訊ねる。するとレジェストはアーリアを厳に渡させてから話始めた。


「大体一年前、だからお前らと会う半年前だ。俺は普通に暮らしていた、もう日本は追放されてたからこっちでな。能力者だと言う事は隠していたんだ。だがどうやらそれがバレたようでな、軍人に取り押さえられた。

急な事だったからサンタマリアとかを呼び出す前にやられちまって何も抵抗できなかったんだよ。起きた時には既に縛られていた。そして何らかの術によって能力の使用を封じられていたんだ。

そんでな、一人の男が目を覚ましたと知るや否や銃で一発撃って来たんんだよ。しかも腕、死なない位置だ。そして苦しんでいる俺に言い放った「能力者撲滅作戦の始まりだなぁ」ってな」


「は?ってことは相当前から計画されていたって事か?」


「らしいな。実際お前らの地下街を襲う計画は出来てたっぽいんだ。本当に危機一髪だったらしい、良かったな。まぁでもそのおかげで白紙に戻りかけていた"大規模"な作戦は動き出したんだがな」


「…」


「まぁ話を戻そう。そんでその男は唐突におかしくなった。まるで誰かに操られているようにな。そして俺の拘束を解き部屋から解放した。

その時再度口を開いた。「日本とも、協定を結んだ」とな」


「なっ!!」


「本当でがんすか!?」


両者日本には思い入れがある。衝撃的な事だ。するとレジェストは今一番の重い声色で言った。


「そしてこうも言った。「頑張ってね、ラック」と」


一瞬アイトの表情が曇る。そしてその様子を見たレジェストは躊躇わず伝えた。


「そうだ。[多比良(タイラ) 桜花(オウカ)]だ」


「…どう言う関係だ」


先程まで友好的だったアイトが刀を抜き、突き立てる。レジェストは制止してから関係性をサラッと説明する。


「ただの知り合いだよ。お前ほどではない、にしてもやっぱそうだよな。あいつが言ってたのと同じだもんな、一応気にかけて言わなかったけど…お前だったのか。買い取った奴隷」


「文句あるのか」


「別に無い。だけどちょっと言われた事があっただけだ」


「言われた事?ここで言え」


「…見つけたら経過報告してくれって言ってた」


「本当にそれだけか」


「あぁ。本当だ。というか早くしないと追手が来る。行くぞ」


雨竜の放出霊力は名にある通りまるで雨のようだ。霊力感知がろくに発達していないこの時代すらほぼ全ての能力者が異常を感じ取ってしまう程だ。

その分即効性と攻撃力だけで見るとそこら辺の神話霊なんかよりもよっぽど強力なので使役したままにしているのだ。式神術はそれぞれのキャパによるが基本二体程度しか式神として保有する事は出来ない。

だがレジェストはある特殊な方法を使う事により三体の保有を可能にしているのだ。その分霊力消費はとんでもないしデメリットも多い、そういった戦術を取っているだけである。


「というかこの子はどするでがんすか?」


アーリアの方を見ながら二人に聞く。すると何か言おうとしたレジェストを遮ってアイトが言い放つ。


「仲間にする。フロッタが持ってかれた以上戦力が足りない。その能力者撲滅作戦が始まったのなら戦力は必須だ。恐らく…」


「戦争になるだろうな」


「やっぱりお前も思ってたか」


「まぁな。あくまで一番嫌な場合だが。ただ…一番不安なのは日本だ。桜花がいる以上多少は耐えられるだろうが血筋も血筋、あまり猶予はない。俺らが今からやるべきことは一つ、戦力の拡大だ」


「日本はどうするでがんすか!?一応おいらの生まれた地でがんす…」


「大丈夫だ。確かエンマが連れて行かれただろ?その連れて来いと命令した[ハールズソンラー・ロッド]の血が混じってる奴がいたはずだ。それに加えて日本にはとんでもない回復術士がいるとも聞いた。何がっても一年は耐えてくれるはずだ。

だがこっちには特殊な力はない。それ以上に今までの迫害のせいでろくに戦闘できる奴がいない。お前らは特例なんだよ。だから育てる、そのガキも一緒に行くぞ」


コクリと頷く。


「名乗れ。それと家族はどうしたんだ」


「あ…アーリア……」


「そうか。家族は」


「…顔も、知らない…」


悲しいわけでは無いだろう。ただ痛がっている。だが止まることは出来ないのでひたすらに走る。回復をするのはその後だ。


「そうか。よくある事だ、俺も親なんて知らん。何ならここに親を知ってる奴はいないだろ」


「おいらは知らないでがんす」


「よく考えたら俺も知らないな」


「やっぱりな。だから安心しとけ。同じような奴らだ」


「…うん」


「さぁ行くぞ、全速力で…」


そう言いかけた時だった。レジェストが一気に失速する。それに気付いた二人は急ブレーキをかけ振り返る。するとレジェストは勢いが付いていたせいで酷く乱雑に転がっている。

右足から血が出ていた。何処からの攻撃か分からなかったが今度は微かな音が聞こえた。遠方、超遠方、勘であるがおおよそ一キロメートルはある、正面からだ

そんな距離から狙撃されたのだ。今度の攻撃はアイトが刀で切り落とした。厳はアーリアを後ろへ引かせ、レジェストの肉を埋めた。


「助かる…にしても相手も本気だな……」


「どう言う事でがんすか」


「相手は…[ベベロン・ロゼリア]、名射撃手……というか射撃手に見せかけた能力者だよ…地下街にテレビ何て無いだろうから知らないだろうがあいつは色々な賞を取っている有名な奴だ。

恐らく政府は能力者だと言う事を知って起用している…となるとクッソ厄介だ……俺の攻撃は役に立たない…」


「能力が分かるのか!?」


「あぁ…あいつの能力は…『一キロ以上離れた相手に必ず当たる銃弾を造り出す』能力だ……」


説明した直後、レジェストの頭が貫かれた。


「ラック!!!」


まだ息はある。その内にレジェストは糸口の方へ視線を向けさせた。


「アーリア、アイト。二人で…やれ……厳は……駄目……だ……」


動きが止まった。それを聞いたアーリアは木陰から顔を出した。厳は先にレジェストを回復させたかったがその決意を評し、先に託されたアーリアの肉を埋めた。


『厳・梵雨』


どうやら身体強化使いか他の自己強化系能力だったようで既に止血されていた。なので全くと言っていい程問題は無い。血液の問題が無ければ、厳の回復は最強だ。


「共闘思ってたより早かったな。まぁ良い、やるぞアーリア」


刀を抜いたアイトの眼は、怒りの炎を、宿していた。


「むら…さき…」


アーリアは始めて見た。赤眼、碧眼は見て来たがその上がいるとも知らなかった。そう、紫の火、菫眼。

[アイト・テレスタシア]、初めての菫眼発現者でもある男だ。



第二百三十九話「三体目、雨竜」

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