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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百三十八話

御伽学園戦闘病

第二百三十八話「アーリア・エント・セラピック」


あの襲撃から半年、四人は同じ屋根の下の元暮らしていた。最初はフロッタが厄介だったが物で釣っていく内に扱い方が分かって来た。横暴さは変わらないが会話をし、普通に過ごす程度の事なら既に可能なラインにまで立っていた。

そんなある日、日が沈み出した時だ。今更起きて来たフロッタに挨拶をする。


「おはよう」


「ん~、飯は?」


「悪いがない、今厳が買い出しに行ってるがなんせ今日は週末、人が多いからな」


「は~?なんで作っとかないの?」


「仕方無いだろ、お前が全部食うんだから」


もう慣れているので何とも思わないが傍若無人も良い所、まるで主従関係を結んでいるかのようだ。ただ実際には結んでいるどころか仲は悪い。

あの日の事が忘れられないのだ。あんな事をして来た相手と今はこうして共に時間を過ごしていると思うと少し感慨深い、そんな事を思いながら刀の状態をチェックする。

あの日最終的にレジェストに連れ去られ小さなボロ小屋で生活することなった。潰した基地からは相当遠く、見当も付かない場所のはずだ。なので毎日欠かさず鍛練を重ねていた、いつかは日本に戻り救ってくれたある人と会いたいのだ。


「なぁ、何で何も無いんだよ~」


フロッタも大分丸くなった。話を聞くとどうやら飼殺しにされていたのはフロッタではないらしいのだ。だがそれ以上の事は喋ろうとしないので引き出せていない。

そしてその時四人はまだ知らなかった、作戦が発令されている事に。


「何揉めてんだよ」


レジェストが家に入って来る。この小屋は元々レジェストの物だった。だが成り行きでなだれ込む事に成功し、そのまま住み着いている。当人も何か思っているわけでも無い様で色々お世話になっている。

ただし誰も家事が出来ないので一番真面目な厳が全てを引き受け、毎日汗水を垂らしているのだ。現に厳は買い出しに行っているので不在である。


「とりあえず話さなきゃいけない事が出来た。出来れば急ぎたいところだが厳が帰って来てからだ、とりあえずいつでも出れるようにしておけ。もうここは捨てる」


唐突な発言だったので上手く聞き取れなかった、フロッタが聞き返す。するとレジェストは確かに言った、この住処を捨てると。意味が分からず追及しようとしたが少ない荷物を纏めるばかりで聞く耳を持っていない。

だがレジェストは冗談でこんな事言ったりしない。二人共あの日の夜に思い知っている、強い力があるのだから並大抵の事ならば解決できると。


「早くしろ、厳が帰ってきたら金、食材、武器、その三つだけ持って場所を移す」


「だからどう言う事だよ、ラック」


「良いから早くしろと言っている」


その時レジェストは珍しくも冷や汗をかいているように見えた。それ以外は特に変化が無いが相当の事なのだろうと察知した二人は全速力で荷物を纏める。厳の分も纏め終わった所で家の扉が開いた。


「みんなー買って来たでがんすー」


厳だ。すぐさまレジェストが全員分の荷物を抱え、皆を集める。そして一旦様々な事を省いた説明を始めた。


「とりあえず詳しい事は省くからな、ただ後で説明するから今は黙って聞け。ひとまずこの拠点は捨てる、名残惜しくもあるが仕方無い。理由はその内分かる。

そんで時間が無い。全員、日本語分かるな?」


「おいらは分かるでがんすよ」


「俺も分かるけど…フロッタは…」


「舐めるなよ。俺だってもう多少は分かるさ、厳に教えてもらっていたからな」


「そうか。それは良かった。ならここからは全部日本語で話せ。佐嘉がいたらヤバいがそれよりもこっちの言語で喋ってる方がヤバイ。少しでも情報を落とさないようにする。それじゃあ行くぞ、さっさと来い」


荷物は持ったまま、扉を開け飛び出した。厳も買い物袋を担いで外に出たその時、凄まじい霊力の圧に見舞われる。レジェストはすぐさま荷物を降ろし戦闘体勢に入る。

皆も前に出て状況を伺った。するとそこには一匹の狐がいる。とても凛々しい顔立ちで黒い体毛だ。稀にこういった霊は生まれる、すぐにでも消し去ろうと思った矢先の事だ、狐が口を開く。


「我の名は[黑焦狐]、[ハールズソンラー・ロッド]姫が所持する霊の一匹である」


強い霊はいる、だが喋った例は始めて見た。それもそのはず、当時日本以外で降霊術は使われていなかったのだ。ただ一人を除いて。そしてその特例の化身が目の前にいるのだ、皆当惑し動きが止まる。


「命を受けた。[フロッタ・アルデンテ・ロッド]を連れてこい、とな」


その苗字は宿主と同じだ。何か関係があるのかと訊ねるが本人が一番何も分かっていなさそうな素振りである。フロッタは嘘が苦手だ、恐らく本当に分かっていないのだろう。

だがそれが分かっただけ上出来、半年とはいえども思い入れもある仲間だ。薄い関係値ではあるがここで手放していい人材でも無いし、手放す気も無い。

アイトが刀を抜こうとしたその時、レジェストが止める。


「だめだ。渡す」


「ほう、随分とあっさり渡すでは無いか。本当にあのラックか?」


「お前馬鹿にしてんだろ」


半分キレている、だがそれでも冷静に言い返ししっかりと策を練る。この短時間で練った策はとても狡猾で、不明瞭なものであった。


「貴様は姫様に手を出そうとした。その罰は受けたはずだが…何故生きているのだ?」


「俺、式神術とは言ったけどまだ不完全なんだわ。どうやらそれが功を奏したようでね、あんたの所の奥さんのミスだよ、完全に」


「どうやら貴様も、偉くなったようだな」


一気に雰囲気が変わる。どうやら攻撃を仕掛けようとしているのだ。だがさせない、それはアイトの仲間では無く、もう一匹の霊だった。


「やめろ。喧嘩をしに来いと命じられたのか、お前は」


二人の間に入ったのは一匹の(サメ)であった。地面から半分体を出し、諭すように怒っている。黑焦狐は説教をされて萎えてしまったのか背を向けて歩き始めた。

だが一瞬足を止め、振り向きながら言う。


「差し出せ、フロッタを」


「なんで俺なんだよ」


「貴様は姫様の血筋の者だからだ」


「どう言う事だよ、俺の両親は殺したはずだぞ。そもそもハールズソンラーなんて女俺は知らないぞ。いつの時代の事を言ってんだ」


「…言わねば分からぬか。貴様の先祖だ、姫様は禁忌の術を使用して二百年弱生きているのだ」


「…?……?」


脳が理解を拒むが何とか理解しようとし、理解できなかった。訳が分からない、どうやれば術なんかで寿命が伸ばせるのだろうか。少し気になって来る。

だがそこでサメが動く。一気に地面を泳ぎ、フロッタの足を掬い取った。あまりに速い動きだった、フロッタは別に反撃できたが少々興味があったのでそのまま連れて行かれることにした。

フロッタを手に入れたと知った黑焦狐とサメは物凄い勢いで走っていなくなってしまった。嵐のようだった、そしてアイトはレジェストに追及する。


「なんでやられっぱなしで…」


「フロッタは一旦別れるだけだ、後で合流する。今はいない方が諸々楽なんだよ……見ろよ、あれ」


満面の苦笑いを浮かべながらとある方向を指差した。右手側、そこには一人の少女が立ってた。相当小さく、小学生ほどに見える。その少女はあまりに貧相な背格好で見つめている。

だがその眼には明確な殺意と、物欲しさが感じ取れた。可哀そうだと思う一方殺意を向けられているのなら無視は出来ない。


「どうしたんだ?」


アイトが話しかけた。厳とレジェストは焦って止めようとするがそんな事で止まるような男ではない。そして少女の前まで駆け寄り、目線を合わせて訊ねる。

黒髪で綺麗な目をしている。だが明らかな殺意、そして霊力感知、といってもその時にはろくに開拓されていなかったが。その霊力感知がクソみたいな出来であるアイトでさえも感じ取れた霊力、能力者だ。


「怪我してるのか?」


よく見ると右眼を怪我している様に見える。少し遠くからだと分からない程に小さな傷だが、まぶたなどでは決してない、瞳に直接刻まれた血の痕。細い傷なので恐らく刃物だろう、そう感じた。

やはり能力者差別によって追いやられた子だと思ったアイトは保護して、共に次の住居へと行こう、そう考えた次の瞬間、何か違和感を覚えた。

体の腹部辺りに感じている、目線を落とすと正体に気付くことが出来た。


「は?」


風穴が空いている。そしてその風穴には不健康な細さをしている少女の腕が通っていた。


厳・手添(ごん・しゅてん)


この半年間厳は家事は勿論だが新しい術の開発もやめなかった。そしてその内の一つ、手添だ。その術は発動者の手に特殊な引力を発生させ対象を引き寄せるというものだ。

対象は当然アイトだ。回復は不可能だが傷を塞ぐことは出来る。


厳・梵雨(ごん・そよぎあめ)


これも新開発した術である。周囲にある"死んでいる"物体を別の物に構成できるという術である。ただし霊力消費は凄まじく、一日に二回でも使用したら体が動かなくなるだろう。

そしてそこら辺に落ちている葉っぱをアイトの体に変形させた。ただしあくまでも肉にしかならない、それは術の練度にある。この術は扱いが上手くなればなるほど別の物体へと変えることが出来るようになるのだ。

まだ開発してから日が浅いためか葉っぱから血液を作る事は無理だ。風穴自体はどうにかなったもののその際に生じた出血で排出された血液が足りない。

すぐに得る事など到底不可能。急激な血液の現象により貧血状態に、視界が眩くなり頭がくらくらとし始める。立つのも厳しい状況だ。


「お前は休んでろ、厳もう良い。先にこっちだ」


レジェストは厳に指示を出す。実際もうやれることは無いので少女の方を向く。すると少女は姿を消した、そして厳の懐へと潜り込んで来た。

術は鍛えたが体術は教授出来る人物がおらず貧弱そのもの、そのままやられてしまうかと思ったがレジェストがすぐさま唱える。


〈怠け者を罰し、働き者を救え〉


《キキーモラ》


するとそこに現れたのは狼の顔だが鋭いくちばしを持ち、胴体は熊のような猛獣にように見えるがそれに反する鳥の様な手、犬の様な尾を持ち、背中が老婆のように曲がった異形の式神だった。

その瞬間その場にいる者の動きが強制的に止められた。同時にキキーモラは厳と少女の元までゆっくり、亀の如し速さでノロノロと近付いて行く。


「…」


厳が恐怖のあまり声を上げようとしたが声すらも出ない。完全にキキーモラ以外動きが止まっているのだ、それはレジェストも同じようで緊迫した空気が流れ始めた。

するとキキーモラはゆっくりと二人の事を観察し始める。軽く見回してから手を伸ばす。そして両者の手を見比べ始めた。その後は顔、から下を舐める様に見渡す。

そして全てを見終わると再度鈍足な歩行で召喚された位置に戻る。その後ゆっくりと手を上げ、指を差した。


〈アーリア・エント・セラピック、お前じゃ〉


直後時が動き出したかのように全てが戻る。ただ少女だけは違った、全身に引き裂かれたような傷を纏いうずくまっている。そして押し殺したような嗚咽を漏らし、涙を流す。

それを見たアイトは無茶をしてはいけないと言うのにも関わらず立ち上がりヘロヘロと近寄る。そして顔を上げさせ、状態を見る。少ない血が一気に流れたせいか顔面蒼白、涙を流し苦痛に悶える表情を浮かべている。


「退け!アイト!!」


レジェストはそう言い次の次の攻撃を仕掛けようとするがアイトは断固として退かない、むしろ少女を抱き寄せ庇うような動きを取った。

その意図が分からず厳とレジェストは怒りを現すにする。


「アイト、そいつを放すでがんす!!おいらがやるでがんす!!」


「どっちがやるかはどうでもいい、早く放せ!!死ぬぞ!!」


するとアイトは力を振り絞りながら精一杯大きな声で諭し始めた。


「俺は助けられた!!お前らだって状況を見て分かっただろう!?あの日、あの時、俺が落ちていた手榴弾を投げたのにあの男二人は命を無下にして俺を助けた!!敵だと分かっていたはずの俺を!!!」


「だからなんだ!!今すぐ退け!!!お前ごとやってしまうぞ!!!」


「ならやってみろよ!!お前にそんな度胸は無いだろ、ラック・レジェスト!!!あの日お前はそこにいる全員を殺せたはずだ。憎むべき無能力者をな!!だが殺さなかった、あまつさえ建物だけの破壊、どう考えても度胸が無かっただけだろう!?そんなお前が…」


「痛いだろうが我慢しろよ!!お前が取った、手段なんだからな!!」


〈全門集中、放射〉


《サンタマリア》


ほんの一瞬、影が皆を覆った。そう思ったのも束の間、一瞬にして消えた。そして一人の男が姿を現す。そいつは皆見た事があった、指名手配犯であり、最強の暗殺者と言われた男だ。


「ようやく見っけたぜぇ。お前らの懸賞金今膨れ上がってんだよなぁ。なんせ『能力者殲滅作戦』なんてもんが発令されたからなぁ。俺はどうやら特別待遇らしいぜぇ?なぁ、ラック」


「何故お前がいる」


そいつはレジェストが日本にいた際何度も命を狙って来た能力者である、暗殺を得意とするその術は当時珍しいものであり、ラックも二度と会いたくないと思っていた。だが何故かここまで来ている。


「そりゃぁ帰国しただけだぜぇ?文句あんのかよぉ」


「あるに決まってんだろ。またお前に命狙われる日々とか面倒だからな……いや、ここで終わらせれば良い話だな。いっちょやるか、[テラティック・サラサーテ]」


テラティック・サラサーテ、日本人ではない初めての呪使いであり、世界一の大馬鹿ものである。



第二百三十八話「アーリア・エント・セラピック」

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