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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百三十七話

御伽学園戦闘病

第二百三十七話「怪物。フロッタ・アルデンテ」


レジェストは行ってしまった。仕方無いので単身で突撃する事にする、手を引けと言われたがここで諦めレジェストに渡し、その間に襲撃でもされたらたまったもんじゃない。

夜も更けて来た、そして軽い会話だと思っていたが相当時間が経っていたのか、風の流れが速くなったのか月が雲で隠れ始めた。行くなら今だ。


「よし、行こう」


万全の状態で突撃する。森を駆け抜け、軍事基地が目に入った。一旦茂みに隠れて姿を消す。周囲には当然警備がいる、といっても各入口に二人ずつ、ざる警備も良い所だ。

とりあえず突破は簡単そうだがそこからが問題だ。どれだけ気付かれず警備を殺すかも考えなくてはいけないし、どこまで潰す事で成功とするか、軍の人間は生かすのか等も決めなくてはいけないのだ。


「…刀だと結構厳しいな。叫ばれたら絶対気付かれるし…かといって攻撃せずに潜入ってのは無理がある様に感じるんだよな……そうだ、良い事考えた」


やり方は決まった。後は方針だ、どれほど壊すのか、そして軍人は生かすのか。それは場合によるとしか言いようがない、アイトには硬く決めた生き方などは無い。強いて言うなら好きに行きたいぐらいだ、ここでは役に立つわけがない思考である。

ならばその時その時で決めるべきだ。何より怪物が怖い、未だに戦闘をした事が無いアイトにとっては特に。


「よし、行くか…」


息を殺して進む。草を掻き分けながら這いつくばって進む、やはり夜中なので見つかることは無い。ただ音がなるのが厄介である、多少は気にされないが稀に出てしまう大きな音で気付かれるかもしれない。

軍人はさほど馬鹿ではない、何とかして近付きたい。


「ん?なんかいる?」


「あぁ?知るかよ、こっちは眠いんだよ。行くならお前が行け」


音を察知した一人が反応を見せた。すぐさま動きを止め、気配を殺す。すると男は軽い口喧嘩のようになって近付いては来ない、屈強な男同士だが口喧嘩は妙にネチっこい、恐らく長く続くだろう。

とすれば、仕掛けるのはこの瞬間が最適。


「悪いな」


飛び出し、走り込む。それに気付いた軍人はすぐさまライフルを向け引き金に手をかけた。問答無用、口で制そうともしない。だがこの軍事基地にいる者は全員そうである。何らかの指示を出されているのであろうがそんな事を考えている暇は無い。

一発でも撃たせたらバレてしまう、強行突破だ。


「ガキ!?」


引き金を引いた、その時手が落ちた。二人の両手が同時に、斬り落とされた。驚き、声を上げようとする二人の頭を掴み、思い切りぶつけた。衝撃で脳震盪を起こし気絶する。


「ぶつけ合えば大した音はならないだろ。にしても良い切れ味だ、この鉱石は相当良いものだな」


血を拭き、納めた。そして少しでも早く進むため休む暇もなく突入した。どうやらバレなかったようで騒ぎにもなっていない。このまま行ければ最善だ。


「つってもどう破壊するかな…爆弾とかないし…最悪能力を使ってでも…」


駄目だ。能力を使うにはまだ早い、自身の体を削って行く能力であるためそう易々と使う事はとある人に禁じられている。しっかりと別の方法を考えるのだ。

そこで良い案が浮かぶ。少し賭け感が強くなるが、ある方法を使うことが出来ればほぼ確実に発生させられる。リスキーでもあり、安全策とも言える。それが一番良いはずだ。


「よし、そんじゃ探すか、怪物」


向かう場所は怪物の元である、飼殺しにされているのなら相当強い力を持っているのだろう。そして何らかの理由によって発揮できないそれなりの力があるに違いない。

その予測が当たっていた場合最高の盤面へと昇華する事だろう。だが最悪手になる可能性も無くはない、だが所詮可能性の話である。今その予想に足を取られてもたついている方が悪い方向へ向く筈だ。

どんどん進んで探すのだ。


「ん?誰かいるのか?」


夜間警備か何なのか見回りをしている者がいる。どうやら一人のようだが銃を所持していないとも限らない。それに出来るだけ数は減らしておいた方が良いだろう。かといって先程同様音を立てるのはあまりよろしくない。

だが逃げは不可能、何故ならば後ろからも別の見回りが近付いて来てからだ。恐らく二人共ルートが被り、遭遇してしまっただけど考えているはずで油断している。

ただ前後に敵だと少々厳しいものもある。


「…これだ」


足元にあった缶に手をかける、暗いせいで何かは分からないがまぁそこまで危険な物がそんな所に転がっているはずがないだろう。そう思い声を上げながら放り投げる。


「おらぁ!!」


丁度二人が対面する所だった。そしてそこに誰かがいる事に気付き、同時に投擲したのを理解する。当然その基地にいる者なのでそれが何かぐらい分かるはずだ。

危険物である、二人はライトを当ててそれが少年だと言う事を知る。考えなかった、体が衝動的に動く。どう考えても敵対している少年を前にして自身の身を省みず覆いかぶさったのだ。

直後鳴る爆音、伝わる衝撃、生ぬるい液体。


「……え?」


一瞬理解が追いつかなかった。衝撃は非常に強く一瞬気を失っていたらしい、どうやら瓦礫にもぶつかったようで血が手についている。そして覆いかぶさっている者を見る。

言葉を失うと共に足を掴み逃がさない、そんなしつこい吐き気を催した。


「なん…で……」


生気の無い顔、血、抉れた体。


「な…んで……?」


疑問、頭が壊れそうだ、吐いてしまいそうだ。

するとその時数人の足音が聞こえる。それが軍の者だと脳で分かっても体と心が動かない、目の前で起こった事象に現実味が無さ過ぎたのだ。致し方無い事とも言える。


「何が…あった」


駆け付けた軍人の一人がそう発した。そいつだけは日本語で、咄嗟にそう言った。そして二人の同僚が一人の少年に被さって死んでいる所を見て敵だと即時判断、使用した。


人術・練(じんじゅつ・れん)


するとアイトの体は動かなくなる。寸前までとは違う拘束されている感覚。目線をその男の方へ向ける。


「お前…何を…」


その男は何とも言えない顔をしていた。悲しみ半分怒り半分と言った所だろうか、憐れみもあるかもしれないし、屈辱もあるかもしれない。そんな表情だ。

そしてアイトを男二人の下から引きずり出し、一発殴る。


「何があったのか、今ここで、全て話せ!!」


普通に考えれば伝わるの無い日本語、男も一瞬冷静になり英語で言い換えようとしたがアイトにとっては問題ない。どちらも咄嗟に出た日本語で会話する。


「何かあって…投げたら…」


「喋れるのか?…まぁ良い、ところで投げたのは、そこに置いてあった物か?」


そう言いながら先程アイトがいた場所を指差した。目を向けるとそこは瓦礫で埋もれ、原型を留めていない通路があった。恐る恐る頷く。

男は再度殴った。鼻血が出て来る。そして衝動的に殴った相手が少年である事を再確認し、冷静になる。更には刀を所持している事を確認し、明確な憎悪を向ける。


「お前、能力者か!!!」


他の男達も反応する。今話していた男から聞いた事があるのだ、能力者、それが敵を示す言葉である事を。七人ほどの男達全員が近付いて来る。

恐怖は無かった。ただ自身がしてしまった事に対する罪悪感とこれから起こるであろう心の変化に畏怖を覚えていた。その中でも一番ガタイが良い筋肉質の男が拳を振り上げた。


「うるっせぇなぁ。殺すぞ」


振り下ろした拳は誰にも当たる事は無かった。当然だ、飛んだのだから。手が吹っ飛んだ、性格には右腕が離れた。その場にいた全員の顔が青白くなって行く。勿論アイトもだ。

そこにいるのは金髪で長髪、どす黒い黄色の瞳に顔に付着した返り血、最後に背中からうねりシャーシャーと音を立てながら舌を出している蛇。

直感で解る、それが飼殺しにされている怪物なのだと。


「フロッタ!!すまなかった!!」


日本人の男が即刻頭を下げての謝罪を行った。


「うるせぇって言ってんだろ?声量下げろよ、お前"も"殺すぞ」


「…も?」


急いで顔を上げ先程の筋肉質な男の方を向く。死んでいた、既に息が絶えているようだ。言い返したい気持ちは山々だがここでは大人しく下手に出るのが得策なのだ。


「すまない。どうか許してやってくれ」


「言ったよな、俺。今日眠いから絶対起こすなって。そんでこんな爆音?ふざけてんのか?馬鹿にしてんのか?なぁ、佐嘉(サガ)よ、馬鹿にしてんのか?」


頭を掴み威圧的な態度で問い詰める。だが佐嘉は全く怯まず、哀しそうな顔をしながらアイトの方を指差した。そして恐怖でしゃがれた声で指摘する。


「そいつが、やった」


怪物(フロッタ)はそちらへと視線を向ける。そして嬉しそうに笑みを浮かべながら佐嘉の頭を強く掴む。唸り声を出しながらも皆の為に耐える佐嘉の姿を見てアイトは正義感に駆られる。

元はと言えば自分が撒いた種ではある。だがそうであっても、この状況は許せない。佐嘉も同じ能力者だ。アイトの護るべき人種は敵ではなく、能力者全員だ。


「手を…放せよ」


すくむ足で立ち上がり、震えた声でそう言った。だが怪物の耳には届いていないようで、怪物は滅茶苦茶をしだした。嬉しそうに佐嘉の頭を地面に叩きつける。

全く悪意などない、だが善意も到底感じ取れない。意味が分からない暴力だ。それでも佐嘉は耐えて、耐えて、耐える。もう我慢できない、実力差はあるだろう。だが勝てない訳では無い、策がある。少し逸れた程度だ、問題はない。本人はそんな事を考えてはいなかったが。


「手を放せって、言ってんだよ!!!」


言い放つ。ようやく耳に入ったようで、手を止めてアイトの方へと振り向いた。その眼は殺意と高揚に包まれている。その後ゆっくりと上がる口角、気味が悪くて仕方無かった。

だがやるしかない。ここで立たずして、どう正義であろうか。


「来いよ、怪物!!」


大声を出し自身を少しでも鼓舞する。だがそれよりも強い怪物の恐怖に手も震えて来る。それでも柄を握りしめ、引き抜く。すると怪物は更に強い笑みを浮かべ訊ねる。


「良いの、持ってるじゃん」


直後突撃してくる蛇、根源的な恐怖を感じたが構ってられない。命がかかっている、そう理解できた。それと同時に理解した事があった、怪物は飼殺されていたのではない、飼殺しにされたがっていたのだ。

仲間なんかではない、理由なんて言わずもがなだ。殺しに来ている、戦闘を望んでいるのではない、力量を測ろうとしているわけでもない、ただ殺そうとして来ている。

その証拠にまず狙ったのはアイトの手元、刀だった。衝撃で手を放してしまい、右側へと飛んでいった。近くはあるがどう頑張っても取れる状況ではない。

その時、聞こえる救援の声。


厳・斬(ごん・ざん)


一瞬にして怪物の体は断ち斬られた。右肩から斜めに、完全に、断ち斬ったはずだ。だが瞬時に怪物は再生する。そして高笑いをしながら最高潮で叫ぶ。


「よっしゃああ!!ひっさびさの餌だ!!!早速、いただき…」


「おいらを舐め腐っているでがんす」


厳・返(ごん・へん)


怪物の攻撃は当たった。だがそれは小さな弾へと変換され、周囲に舞う。


『ボン』


そう唱えた瞬間、弾達は怪物目がけて発射された。当然かわそうとするが間に合わない、速すぎる。なので防御することにした、怪物は手を変形させサイの皮膚に変えた。

するとその弾は中途半端に食い込む程度で、結局は弾かれてしまった。


「なにぃ!?」


そう言いながら後ずさる、助けに来てくれたのは厳だ。


「厳!?なんで…」


「理由はないでがんす!!アイトがヤバそうだったから駆け付けた、それだけでがんす!」


「同じ術…お前も…」


佐嘉が憎しみを向けようとしたその時怪物が動く。自身の手をワニの頭部に変え突撃して来る。このままでは二人共殺される、子供二人は速すぎて気付けていないのだ。正に戦闘未経験者と言わんばかりの油断の仕方だ。

だがアイトが手を出さなければ佐嘉があのまま死んでいたのも事実、借りは返す、それが流儀である。


『人術・練』


今度は怪物に対してだ。


「何をする、佐嘉」


今にも気絶してしまうそうな程強い霊力、佐嘉は霊力をある程度は理解しておりそれが強者の証である事も知っていた。だがどれだけ威嚇されようがあと二秒で良いのだ、気合で堪える。

そして上を向き、懇願にも取れる悲痛な声で叫ぶ。


「やれよ!!」


声が聞こえた。


〈全域平面化掃射〉


《サンタマリア》


その夜、ある中規模軍事基地、そこを中心とした半径三キロメートルの地表にある"建物"が崩壊、更地と化した。そして唯一生物でその急襲攻撃を受けた者、[フロッタ・アルデンテ]は今事件の首謀者・犯人とされる[ラック・レジェスト]、[アイト・テレスタシア]、[是羅(ゼラ) (ゴン)]によって拉致、消息を断った。

事が大きく動き始めるのは半年後、ようやく被災者の救援に一区切りが着いた頃だった。そんな時にも関わらずアメリカ合衆国、日本国、イタリア共和国の三国は独断でとある作戦を秘密裏に発令した。

その名も『能力者撲滅作戦』、後に呼ばれる『能力者戦争』の大本であり、元凶である。



第二百三十七話「怪物。フロッタ・アルデンテ」

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