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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百三十六話

御伽学園戦闘病

第二百三十六話「英雄譚の始まり、ラック・レジェスト」


1907年 4月1日


地下街にて。

未だ能力者差別が激しい時期だった、人権なんてものはないし奴隷が基本、能力者を追いやる為に作られた地下街で暮らす者が大半であった。

ただその能力者の中で少しずつ異変が起こりつつあった。進化している、本当に稀にだが詠唱をしなくとも念能力を放てる者が出てくるようになったり、人間の域を越えた新しい種類の能力を使う者もいた。

一方無能力者はそんな事に気付く気配も無く愚弄し、使い捨てのようにして横暴な振る舞いをしている。そんな時代、混戦が始まった時代。


「アイトー!」


当時十三歳のアイトと(ゴン)、そこはアメリカなのだが厳は奴隷として売られ、最終的に捨てられてここにやって来た。それでもまるで家族のように仲良く暮らしている。

そんな厳が妙に焦りながら走って来るのだ。


「どうした?」


[アイト・テレスタシア]、一般的な念能力者である、だがこれの一度も能力を見せたことは無かった。平凡な少年と言うべきだ、顔以外は。

十三歳にしてとても整った顔立ちをしていた。背も決して低くなく、金髪に合う金の目、誰がどう見ても好青年である。ただ性格は相当ひねくれている、そのせいか女絡みはない。


「ここで話すのは色々とマズいでがんす。一旦場所を移すでがんす」


「了解。俺の家来い」


「オッケーでがんす」


二人は異様だった。普段別の人と話す際は英語で喋っているのだが、二人で会話をする場合は日本語になる。アイトも日本語が喋れる、今の厳と同じような境遇だった事があるのだ。

ただし違う点は奴隷で無かったところだ。そんな事は置いて起き二人はアイトの生活部屋へと移動する。


「悪いな、汚い」


「気にしないでがんす。何なら周辺の家より幾分か綺麗でがんす」


「それはどうも。まぁ良い、それで話ってのは?」


そこら辺に腰かけ、話を聞く体勢を取った。すると早速話始める、神妙な面持ちで、淡々と。


「おいら今日外に出たでがんす…」


「は!?」


「お、起こらないでほしいがんす……それで……何となく探索してみたでがんす。そしたら無能力者の軍事基地があったでがんす。おいらの能力の詳細は分からないでがんす。

ただそんな中でも色々使えるから認識阻害、的な術をかけてやったでがんす。そしたら物凄い簡単に侵入できたでがんすよ…だからコソコソ歩いて武器とか眺めてたら…」


「眺めてたら?」


「…話してるのが聞こえて来たでがんす。この地下街にいる能力者を一掃するって……」


「なん…だと…」


「嘘はついていないでがんす!!信じてほし…」


「なんで嘘って捉える事が出来るんだよ…ここ最近風当たりが強くなって来ていた…でもそんな事……あっていい訳ねぇだろうが……」


数十秒の沈黙の後、アイトは一つだけ訊ねる。


「俺が何とかする、お前は来るか?厳」


「…おいらは……」


「いや、良いんだ。恐らくは命との交換条件にされる。無理に連れて行こうなんて最初から思ってないからな。そんじゃ俺は行く、今すぐにでも出たいんだ」


「あっ…待つで…」


既に扉を閉めていた。厳は何も言えなかった、まず死ぬ恐怖があるはずなのにも関わらず突っ込んでいく事を決めたアイトの強すぎる心、そして自身の死の恐怖、最後にこれから起こるであろう事への恐怖。

普通ならもう少し作戦を練るはずだ。そもそもアイトには練度が足りなさすぎる、あんな状態で勝てるとは到底思えないのだ。だがもう行ってしまった。

まだ霊力感知は開拓されていなかったので何処に行ってしまったかなんて分かるはずがない。この広く狭い地下街で。


「アイト……」



[アイト]


走る。もう猶予はない、今持って行ける物はない。タイミングが悪く、昨晩金が無くなり椅子ととある刀以外を全て売り払ってしまった。護衛用に持っていた剣も、食糧も。

そして刀は現在ある人物に預けている。それを回収する。その人物とは無能力者でありながらも能力者を指示する変わり者、[裏切り者(トゥレイター)]である。

ただ逆に言うとそれ以外武器は無い、万全な状態で向かう事は不可能に近い。仕方のない事だがそれによって戦略が狭まりに狭まるであろうと推測出来る。


「確かこっちだ…」


その人物の元へ行くには地下街を抜ける為、裏道を通って行かなくてはならない。だが地下故か頻繁に通路が崩壊して出来たであろう岩の壁に塞がれている。

幸い今日は何ともなかったが稀に頭上からミシミシと音がして恐怖心が駆り立てられる。だが怖気づいている暇もないので全速力で走った。そして三分ほどしてようやく到着した。


「やっぱ、良い眺めだな」


そこは外だ。といっても村や街などではなく、崖上にある小さな小屋である。そしてそこには地下がある。


「…出ないな」


ノックをしても出ない。恐らくその地下室に籠っているのだろう、ならば仕方ないと感じ扉を開けた。当然の如く鍵はかかっていないのでズカズカと侵入していく。

部屋の中はとても質素なものだった。小さなキッチンに一つの机、そこに対面するよう設置されている椅子が二つ、それ以外は暖炉と鍛冶などの事が書かれた古ぼけている本が収納されている棚以外は何も無いと言っても同然の生活スペースだ。

ただ明らかに異様な階段、その方向から鉄を叩くような高い音が聞こえて来る。勿論そちらへ向かい、階段を下りる。


「入るぞ、おっさん」


地下室の扉を開くとそこはまるで鍛冶屋のようだった。結構高い温度なので暑苦しい、そしてその部屋の中心で白髪でしわが増え端えた中年のイカしたおやじが刀を打っていた。

そして入室して来たアイトに気付くと一瞬目線を向けてからすぐに刀の方へと戻し、力強くも繊細な手さばきで刀を打っている。アイトも終わるまでは待つしかないので気長に待つことにした。

新しい刀でも打っているのかと思いどんなものか拝見する、それと同時に発狂する。


「俺のやつじゃねぇか!!!」


「黙ってろ、厳の坊主が焦っていたのは見た。改造してるだけだ、強くなるようにな」


「何してんだよ!!!返せ!!!」


柄とはいえど灼熱、耐熱性の無い素肌で触ったらどうなるかんなて自明の理、火傷する。それに加えこの鍛接作業は少しおかしかった。温度が高すぎる、皮膚がただれてしまった。

熱がっていると部屋の隅から一匹の猫が出て来る。そしてアイトのただれた皮膚に噛みついた、何度か世話になっているのでどうなるかは分かっている、抵抗はせず待つ。

数秒後、完治した。この猫は今起こっている能力者の異変(きょうか)によって生まれた能力持ちの猫なのだ、回復術を扱っている。治って問題が無くなったので訊ねる。


「何だよこれ!この温度じゃ普通…」


「鉄じゃない。変えた」


「はぁ!?お前ホント何して…」


「特殊な島がある、無人島だがとても貴重で異様な鉱石が採れる島がな。俺は一度そこへ行った、そして今鍛接している量の鉱石を持ち帰った。軽く研究は出来た、といっても性質程度だがな」


「何か特殊なのか」


「あぁ。まず大前提として霊力を良く通す、これは霊やバックラーと戦う際にはとても有効な手段となる。そのために柄の部分も変えた、だから熱かっただろう。元々通ってた霊力が熱を帯びてお前に伝わったんだ」


「なんだよそれ…」


「お前が行くのは知っている。俺は止めもしないし勧めもしない。好きにしろ、だが一つ行っておく。命を惜しむなよ、あそこには化物が飼殺しにされている」


「怪物?んなもん俺が殺して…」


「能力者だ。お前の同胞、仲間だ」


「でもあいつらは能力者を…」


「兵器として見ている、人だと思っていないからな。どうも感じないのだろうな、本当に吐き気がする」


「ならお前も一緒に来ないか?武器は沢山あった方が…」


「こんなおっさんに命かけろだと?あまり舐めてくれるな、俺は軍に入るのが怖くてここで暮らしているような男だぞ。お前のようなギラついた風にはなれない」


「そうか。まぁ最初から俺一人で行くつもりだった。終わったら教えてくれ、今の内に仮眠しておく」


「寝てろ、ガキが」


ひとまず区切りがついたので隅っこで仮眠を取る事にした。丸まった様な形で座り、目を閉じた。どれだけアイトと言っても恐怖はある。誰かが近くにいる状態で寝たい、緊張や恐怖を少しでも治めるのだ。

ゆっくりと、意識が遠のいて行った。



可愛らしい鳴き声が聞こえる。目を覚まし顔を上げると丁度おっさんが階段を上がろうとしている所だった。完成したのだろうと理解しすぐに立ち上がる。

するとおっさんも気付いたようだ。だが息を切らし、一言だけ残して出て行ってしまった。


「後は、自分でやれ」


すぐに言われた通り刀の方へと向かう。するととんでもない事になっていた、鉄だった刀身が全て謎の鉱石に置き換わっている。訳の分からないやり方だ。

だが意味も無くそんな事はしないはずだ。といっても霊力が流しやすくなるだけではあまりにもメリットが少ない、何らかの特性が他にもあるのだろう。

現状では分からないのでひとまず近くに置いてあった鞘を拾い、そこに納める。元々の名前は[唯刀(ゆいとう)]と言う。だがそこにはガタガタな文字で、赤子が書いたような二文字が付け加えられていた。


「[唯刀 真打(ゆいとうしんうち]か…良い名前だな。まぁでも勝手に付けられたのはちょっと不服だけどな」


そんな愚痴を独りでに呟きながら背中に付けた。普通は腰につけるがアイトは違う、背中に付けていた方が扱いやすいのだ。それが気に入られて日本でも何とか生きることが出来たのだ。


「さぁ、行くか」


地上へと上る階段を踏み始めた。そして一度来た部屋に到着する。部屋の中央にある机に突っ伏すようにして寝ているおっさんを見たアイトは何だか胸が苦しくなった、恐らくアイトの為にやってくれた事だ。金も取らず、貴重だったであろう鉱石を使ってまで強化してくれたのだ。

それなのにあんな心無い言葉をかけてしまった。もしかしたらこれで終わりかもしれないのにだ。だが起こすのも忍びない、だからといって何もお礼をしないのも不躾である。

少し考えた結果一度地下に戻った。


「……これで良いか」


そうして書き終わった置手紙を猫の足に括りつけ、頼んだ。言葉は伝わらないだろうがそれでも見せてくれるはずだ、そう信じて。

その後小屋を出た。日は既に沈んでおり潜入には最適な時間だ。

ただこのまま突っ込んでも勝ち目は無いだろう。おっさんが行っていた怪物が放出される可能性もある、アイトは戦闘経験がほぼ無い。多少刀で戦った事はあるが能力を交えた事は無いのだ。

それに加えて人生での使用回数が決まっている、合計三回である。既に一度使っており後二回しか使えない状況にある。なのでほぼ無能力者状態なのだ。


「とりあえずどうするべきかな」


裏道は使わず山を下りる。道中様々な動物がいたが全て無視だ、長期戦にするつもりはさらさら無い。今日、この夜近くの軍事基地を破壊するつもりなのだ。

そうする場合問題がある、人手が足りない。そこまで大型の基地ではないものの一人で潰すには大きすぎるのだ。戦車も機銃も、何なら航空機もある。それを刀一本の十三歳が相手にするのは流石に無理、不可能。

とりあえずまだ時間はある。出来れば月光すら無い時が良いだろう、雲はあるが少し遠い。ざっと十五分は待機だ。焚火などしているとバレる可能性があるので暗い森に一人で待機する事にした。


「とりあえず丸太で良いか」


地面に直接座るのは少々抵抗があるので劣化で倒れ、転がっていた丸太を椅子にする。ここにいれば安全だと感じほっと一息、胸を撫でおろしたその時だ。

正面に気配を感じた。しかも速い、すぐさま刀を抜き首元に突き立てる。だが正面にいる男はビクつきもしない。


「なんだお前」


「そっちこそ何だよ。寂しそうだったから話しかけてやろうと思っただけだぞ、俺は優しいからな」


一応容姿や服装を確認する。高身長で水色ベースに白い襟袖の髪、アジア人とも西洋人とも取れる様な顔立ち、眼鏡、そして一番特徴的な和服だ。みすぼらしいとは全く感じさせない材質で出来ている立派な和服である。

その立派な服がアイトの猜疑心を加熱させる。逃げる気配も怯える気配も無い所から能力者、または戦闘が出来る者だと判断し牽制する。


「今すぐこの場を離れろ、そして軍にこの事を伝えるな」


そう言いながら喉仏に刀を少し突き刺した、軽く血が流れて来ている。だが男は怯まず、むしろ少しだけ嬉しそうな反応を見せながら訊ねた。


「お前も潰すのか?」


「お前もって……まさか」


「おう、俺もだ」


「…マジか」


「マジだ」


まだ幼いアイトはその言葉を警戒する事も無く刀を降ろした。そして血を拭き取り鞘に納める。すぐに対面になるよう丸太の椅子を設置し座らせる。


「サンキュー。にしてもお前結構小さいように見えるが、いくつだよ」


「十三だ」


「マジか!?俺もだよ」


「すげぇな!でもなんでこんな所に?能力者なのか?」


「…まぁな。色々あって日本追い出されちった!というかお前日本語話せてるじゃん、ハーフかなんか?」


「いや、奴隷として売り飛ばされた事があっただけだ。でも恩人によって助けられたんだよ、そんで今は地下街で暮ら…」


「折角普通の生活手に入れたのに結局地下街じゃ意味ねぇじゃねぇか!」


男は大爆笑しながらそう煽って来た。恩人と自身を馬鹿にされたように感じ、少し苛立ったが気持ちを抑える。ここで喧嘩をしても百害あって一利もない。

それよりも仲間になってくれそうな男がいるのだ。勧誘しない手はない。


「なぁお前、一緒に潰しに行かないか?」


「いやだね」


「何でだよ!一緒の目標なら…」


「俺の能力的に駄目なんだよ。分かったらお前も手を引け、俺が潰す」


「はぁ!?ふっざけ…」


「死ぬぞ」


重厚感と、殺意が感じ取れる言葉と眼。始めてではないが今まで感じて来たそれよりも一段と強い圧に押し負け、狼狽えてしまった。すると男は半笑いで溜息をつき、立ち上がった。


「まぁ後々一緒に戦う事になるかもしれれないな。そん時は頼むぜ」


男は背を向け歩き始めてしまった。だがここで言わなくてはどうにもならないだろう、チャンスだ。チャンスは掴み取るためにあるのだ。


「[アイト・テレスタシア]!!これからも一緒に頼む!!」


無理矢理にでも引き入れよう、そう考えたのだ。だが男は止まらなかった、振り向きもしない。だが手を上げフラフラと別れの挨拶代わりに名乗っておく。


「[ラック・レジェスト]だ。一緒にやるのはまた今度な~」


ラックの声色は、とても楽し気で、嬉しそうだった。



第二百三十六話「英雄譚の始まり、ラック・レジェスト」

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