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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百三十四話

御伽学園戦闘病

第二百三十四話「剣」


[ラック視点]


向かうは決まっている、叉儺の元だ。ラックがこの大会に出たのはTIS戦力を削ぐのは勿論だがそれ以上に叉儺と戦いたかったからだ。

と言っても殺したいのは叉儺本体ではなく、その霊だ。とある因縁のようなものがあり、死ぬ時はせめてそいつだけでも殺すと決めているのだ。


「狐神、あいつを殺して俺の役目は終わる。ようやくだ…ようやく…あいつらの所へ……」


トボトボと、まるで激しい戦闘が終わった後の様な動きで進む。霊力感知で位置は分かっている。そして叉儺も、TISメンバーもその二人が戦うのは拒否せず、むしろ勧めた。

それはラックの因縁の元にあった。そしてここでその役目を終わらせることも無く殺し、力を奪う。それがこの大会の目的なのだ。


「相当貯め込んである…最初から一気にぶっ放しても問題は無いよな……」


誰もいないのにも関わらず誰かに訊ねる。当然返答はない。肯定してほしいわけでも無く、否定してほしいわけでも無い。だが話を効いてほしいわけでも無い。一人でいたいのだ。

ここで全てを出し尽くす。その心意気故か少し感情的になってしまっているようだ。だが本人は自覚していないので自身を見つめ直す事もせずただひたすらに進み続ける。


「紫苑には伝えた…あとは俺の問題だ」


もうそう遠くはない。エリアによっては視界に捉えてもおかしくない距離だ。すると待ち構えている叉儺の方も同じようで大きな声が森に響く。


「ラック!!早く来い!!妾は戦いたいのじゃ!!」


「…うるせぇな」


木陰からひょいっと姿を現す。一瞬だった、霊力感知が出来なかった。時を止めたわけでも無い、テレポートをしたわけでも無い、ただ高速で動いただけだ。

本気だ、その行動だけでそれが伝わって来る。そしてその眼光からも伝わって来る、血流透視はいらないので眼鏡をかけているがその先からは覚醒に似た何かを感じた。

ただし覚醒では無く、あくまでも別の何かだが。


「さぁやろう。クソ狐」


すると叉儺の体から狐神が出て来る。妖艶かつ悪意に満ち満ちた表情を浮かべながらニンマリと笑っている。それが非常に気持ち悪く、今すぐにでも殴りたくなって来る。

だがそれはやってはいけない。正々堂々、それがかつての仲間と死に際に決めた約束だった。ここ最近は心を入れ替え、忘れていた。だがこいつを殺す時は遂行する、自身の役目と約束を。


「叉儺、やっていいか?」


「まだじゃ。これを返しておかなければな」


そう言いながら叉儺は懐から通信機を取り出した。本拠地急襲時に交わした契約、それを今ここで打ち切るのだ。それはラックも同じ気持ちだったようで投げられた通信機を受け取りながら言った。


「あんがとよ。お前のおかげで色々知れた。松雷 傀聖、譽、アリス、ロッド、他にも様々な事がな」


「妾だって分かっておった。これが情報収集だとな。だが有益な情報を与えたのはそちらも同じじゃ」


「まぁな……でも別に薫の能力なんて聞いて何が面白いんだよ。佐須魔と、何なら黄泉にいる妹と全く同じだろ」


「佐須魔はその黄泉では納得できなかったようでな。妾達には何も伝えられておらん、貴様が知っていようが今日始末するがな」


時刻は二十時丁度、日はとっくに沈んでいるがライトのおかげで明るい。冷たい風の元放たれる最初の一撃。


「不意打ちだ」


凄まじい身体能力で殴りかかった。不意打ちが来るのは理解できた。だが回避できるほど速くは無い、そもそも避けられるはずがないのだ。この攻撃はエンマでも避ける事が困難な程速いのだから。


「やっぱ駄目だな、何年か温存しておいたけど。あいつはもっと速かった、一日貯めるだけで、俺なんかよりもっと速かった」


そう言いながら両手で殴り掛かる。だが今度こそは対策できる。叉儺が(カワセミ)を呼び出そうとした瞬間、狐神が宿主である叉儺を蹴飛ばした。

当然手加減はしているが、行動そのものが駄目なのだ。


「貴様っ…」


「悪いがやらせてくれ。こいつを殺せば…私は時代の王者へと昇格する」


「…仕方無い。ただし死に危ういと判断した場合は妾が止める」


「分かっているさ」


そんな会話をしている所に攻撃しようとしたその時、霊力濃度が高くなる。狐神はあまりの高さに動きを封じられた。当然目の前にいるラックも動きが止まるかと思われていた。

数秒後、殺意に溢れた水色の瞳が一瞬だけすぐ傍を横切った気がした。刹那体が持って行かれた。前足が二本吹っ飛んだ。いや違う、ラックの手の元へと。


「な…に…」


「俺の仲間の天才人術使いは言っていた『喰えば大体何とかなる』ってな」


何を言いたいかは分かる。そして思っていた通り、ラックは前足を二本喰った。それは霊なので腹にはたまらず全て霊力へと変換された。だがそれは微量なものだった、ラックにとっては。

増えた指数は実に400、だがラックの霊力量はそれを大きく、大きく上回っている。それは近くで見ていた蒿里や素戔嗚も感じていた。だがあまりにも差がありすぎる。

そこにいる誰もが感じ取れなかったのだ。400を一気に取り込んだことによって普通ならば霊力が乱れるはず、ただラックは全くブレなかった。それで分かったのだ。


「ふぅむ。私の足を喰っても全くと言っていい程動じず。何なら霊力量は増えた様にも感じられない、特殊な術か何かをかけているな」


「俺に答える義理は無い。俺がお前に抱いているのは殺さなくてはいけない、という使命のみだ」


「ふむ、ならば私は…」


「うるせぇよ」


全く動きが見えない。残像さえも見えないのだ。尻尾が抜けた事さえも分からなかった。既にボロボロだが戦える、何なら再生は出来る。神格ならその程度出来て当然なのだ。

だが問題はそこではない。軌跡が見えないとなると反撃が出来ない。普通に攻撃してもかわされてしまうだろう。となるとやり方はたった一つだ。


「三度も同じやり方は通用しないさ」


今度は頭をもぎ取ろうとしたラックを軽々と受け止めた。それは手でも無いし、口でもない、ましてや狐神ですらない。その近辺の霊力、そう防御の術だ。妖術、上反射である。

そして攻撃をしていたのでラックには攻撃が返って来る。吹っ飛ぶかと思われたが全くそんなことは無く、むしろ速度を落とさずに突っ込んできている。


「何!?」


予想外の行動だったのか狐神は避ける事が出来ず頭に手を添えられた。その時、ラックの腕から火花や電気の様な音がして弾かれた。両者何が起こったか分からない。だが弾かれたのは確か、命拾いだ。

運が味方していると感じている狐神、一方ラックは何が原因か分かっていた。躑躅に殴られた際に発生した謎のエネルギーだ。恐らくラックと同じ特性を持つ者に特化した力なのだろう。


「これ、もっと早く知ってたら色々楽になったのにな…」


そんな愚痴にも近しい言葉を吐きながら再度攻撃を試みる。もう殺す事しか考えていないその眼は鬼神のようにも見える、あながち間違ってもいないが。

するとそのタイミングで霊力濃度が元に戻った。一瞬にして戦闘が高速化する。ラックの速さは変わっていないが狐神も負けず劣らず、全速力で回避を始めた。

必然的に攻撃数は少なる。だが未だに狐神は空振りしか出来ておらず。ラックは触れることが出来ても弾かれる。あまりにもどかしい。


「…まぁ良いだろう。あれぐらいの攻撃、僕にはとっては無問題だ」


そのまま一気に距離を詰める。だが狐神は避けて、背後に周り込もうとする。


「無駄さ、あまり舐めないでくれ」


放たれる一撃、一直線に全ての木を伐り倒した。そこに隠れていた蒿里は目を丸くして硬直している。すぐに素戔嗚が首根っこを掴み、安全な位置まで移動させた。

そして異様な力の件で密談する。


「あれ…何」


「俺にも分からん。だが佐須魔様の言っていた通りらしい。俺達は叉儺が殺した後に乱入すれば良いだけだ。あまりボーっとせずしっかり攻撃の軌道を見極めろ、お前なら出来るだろ」


「…」


素戔嗚がそう言った直後、飛んで来た衝撃波で素戔嗚の髪が少し切れてしまった。蒿里は蔑んだ目で見つめながらも霊力感知は欠かさない。常に警戒して、攻撃が飛んでこないか警戒する。

するともろに二人の方へと攻撃が飛んで来た。流石に避けるのは不可能だと判断した蒿里はすぐに唱える。


人術・護衛(じんじゅつ・ごえい)


それは人術の防御術、ラックの拳の衝撃を半分減らしてくれた。といっても所詮は半分、痛いものは痛いようで前に出て庇った蒿里は苦しそうな顔をする。

素戔嗚が応急手当をしようとしたその時、二人の真正面にラックがやって来た。


「なっ!!」


すぐに刀に手をかけたがラックは素戔嗚の手を掴み、抜刀を封じた。そして前まで見ていたラックとは思えない強い眼光を向けながら訊ねる。


「見るなら離れていた方が良い。死ぬよ」


一瞬力が緩む。すぐさま蒿里を抱えて数百メートル先へと退避した。それでも何をしているかが分かる程度には強力で、鮮明な霊力の動きと衝撃。

もう次元が違う。ここまで強い力を隠していたとは思いもしなかった。まるで神の領域へ足を踏み込んでいる様にすら感じ取れる。神と神の戦いだと脳が錯覚してしまう。


「凄い…」


蒿里は見惚れていた。恐らくラックは本気の十分の一も力を出していないだろうが、それでもこの場にいる誰よりも強いと確信付ける霊力。

感知する喉元がピリピリするのだ。強者同士の戦いを観戦していると稀に感じるが、ここまではっきりと感じ取れたのは初めてだ。佐須魔が第八形態を使っている時も、先程の天仁 凱と來花戦でも、全くピリピリとはしなかった。

だがここに来て痺れているかのようにピリピリするのだ。


「あそこまで強くなれれば……皆にあんな顔をさせずに済んだのかな…」


鬱になってしまいそうな独り言をずっと呟いている蒿里が鬱陶しくなったのか素戔嗚は場を離れた。ただ絶対に視界からは外さず、何かあった時すぐに救援に入れる位置をマークしている。

そこは戦いに巻き込まれる可能性が高い場所でもある、いつラックが距離を詰めてくるか分からない。そのために刀には常に手を置いておく。先程の様な失態を犯さないように。

もう何が何だか分からない。佐須魔は同じ実力を持つ者同士の争いは早い段階で決着がつくと言っていた。だがこの戦いは三分以上も拮抗している。その時点で何か差別化されている点があり、どちらかが手加減しているのだろう。


「何故そんな事をするんだ?どちらも早く殺したいはずでは…」


素戔嗚になんて分からない事だ。実際に次元が違う戦いと思考、因縁だ。そんなちゃちなおままごとなんてレベルでは無いのだ。下手をすると世界の命運を分けかねない勝負をしている。重みが違うのだ、背負っているものの重みが。

ラックの背中には今かつての仲間、数十万人の魂を背負っている。実際に喰ったのはたった数人だが、心に錠前がかかったとある日、一気に背負う事となったのだ。その時既に心は壊れたが、一度壊れたものは再生し、再度壊れる。

その行程を何度も繰り返した結果生まれたのが、今目の前で戦っている男、[ラック・ツルユ]なのだ。


「……俺にも何か出来たのだろうか」


そんな現にふけようとしたその時、音がなる。新しい音が。

小さな霊力の粒達が擦り合い、音を奏でているのだ。甲高いが不快感は無く、むしろずっと聞いていたいと感じる程の音。だがそれは佐須魔から聞いていた情報と一致している。

神殺しの不意打ち武具、[燦然(ブリリアント)]だ。これまでラックが使っていたのは未完成だった。ある人物から受け継いだ物だったので上手く扱えていなかったのだ。

だがこの終わり際でようやく、掴んだのだ。


「行くぞフロッタ。光で起こす、火葬祭だ」


辺り一変を包み込んだのは何千億にも及ぶ霊力の粒にそれぞれ50の霊力を注いだ光、果てしない力。その場にいた全ての者が死を悟る程の力、だがただ一人ラック・ツルユだけは、ゲートからある武具を取り出していた。


(レジュメント)


全てを破壊する剣、ある一部の者に口伝のみで伝えられて来た幻とも呼ばれた太古の武具。天仁 凱も、初代ロッドも探し求めたが一向に辿り着く事が無かった武具。

それもそのはず、これがある場所は仮想(かみの)世界(へや)だったからだ。



第二百三十四話「(レジュメント)

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