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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百三十三話

御伽学園戦闘病

第二百三十三話「応援の声」


「なにぃ!?」


凍漸の鎧が砕かれた。虎は一瞬にしてかみ砕いたのだ。霊力濃度が高すぎる故の強化である、だが霊力で強くなるのは蟲毒王も同じだ。なのにも関わらず虎の方が圧倒したのには何か理由があるはずだ。

まずはそこを突き止めるのが勝利への道に繋がる。


「凍漸!大丈夫!?」


芹が弓に変形させて矢を放った。その矢は的確に虎を射貫く軌道だったが、干支馬に弾かれてしまった。二匹いるのが非常に厄介だ。それに加えて來花本体の呪もある。

やり方はあるのだが通用しない確率の方が高い。ならば霊力二十六割と言うバトルフィールドを利用するまでだ。


「行くぞ、芹」


怜雄の一声で芹も動き出した、弓から手斧に変えて威力と機動性を取る。そして二人は來花へと突っ込む、未だ凍漸から離れない虎は無視して。

当然馬が邪魔をしようとする。だがそれは芹が止める。斧を振りかざす、貧相な身体ではあるが力の使い方を良く知っている。なので大した問題にはならない。


「頼むぞ、二人共」


干支霊は二人に任せて怜雄が斬りかかる。だが來花も当然抵抗し、距離を取ろうとする。


『呪・瀬餡』


足の動きが止まる。その時点で動きが止まるかと思われたが、そんなことは無かった。まず前提として蟲毒王は人間の域を超えている。それ故並大抵の妨害術など効きもしないのだ。それが洗礼された強い術だとしても。

だが來花もそれぐらいは知っている。呪使いならば知っていて当然の事だ。なのに妨害をしようとした事には理由がある、動きを止めたかったのではない、足を霊力まみれにしたかったのだ。


「やれ、虎」


「俺に命令はいらないと、契約した時に言ったはずだ」


そう言いながらも干支虎は怜雄の足に噛みついた。


「馬鹿が、俺は無能力者。いくら霊力濃度二十六割空間とはいえども大それた攻撃にはなるまい!死ね、男よ!!」


構わず攻撃を続けようとした、それが駄目だった。瀬餡は特殊な霊力を足に込める事によって動きを止める呪だ。ならば今怜雄の足は霊力だらけ、ほぼ霊と同じだ。

天仁 凱は本来こうならない為に怜雄を作ったはずだった。だが自身が作った術によってそれが破られる事となるのだ。


「馬鹿はそっちだ、蟲毒王」


虎は足を食いちぎった。


「がぁ!?何が!?」


「そんな事も分からないのか。話にもならないな。戻ってくれ、口黄大蛇」


蛇は何も発さずに來花の元へ還って行った。すると霊力濃度は八割まで落ち着いた。当然蟲毒王と干支神は弱体化する。だがそれをものともしない戦いぶりだ。

そして來花は足を取られ、浮遊が危うい怜雄に一気に畳みかける。


『呪・重力』

『呪・剣進』

『呪・魚針雷』


この三つは囮だ。剣を自動追従で追わせている内に再度重力を強くする。そしてふと動きを止めた所でカジキマグロを振らせる。三人はそれが本命だとばかり考え、気を取られていた。その間に放たれる、多大な霊力を籠めた一撃。


『呪術・羅針盤』


その詠唱を聞いた瞬間三人は向き直す。振って来るカジキマグロは霊力感知で対応し、来るであろう羅針盤の針を壊そうとする。だがそれは無茶な事だった。

何故なら羅針盤は出なかったからだ。その代わりと言っては何だが來花と干支神がそれぞれ距離を詰めた。


「終わりだ」


直後、全員の心臓を貫く一撃が放たれた。


『呪・剣進』


剣進は高難易度である霊力操作を行う事によって剣を出現させる位置を変えることが出来る。一本は馬の口の中、一本は虎の口の中、もう一本は來花の眼前だ。

そして更に霊力をかける事で僅かにだが初速を上げることが出来る。それが決定打となった。目に止まらぬ速度で三匹の心臓を貫いた、全員反応はして、防御をしようとしたがそれは既に貫かれた後に行ったものだった。


「私の勝利だな、蟲毒王よ」


「主…様…」


「時間があった、前に戦った時から千年近くな。だが気が緩み過ぎでは無いのか?…まぁ良いだろう。後はわしがやる、お前らは戻っておれ」


再度門を開く。ミルワーム四匹と人型三匹は急いで帰って行った。そして七匹全てが帰ると閉門、消滅した。すると周囲の霊力濃度はグッと下がり三割まで戻った。

だが一瞬にして十割まで戻る事となる。十割まで行くと呼吸なんて到底不可能だ。それでもやるしかない、天仁 凱はここで始末しておかなければならないからだ。

何らかの衝撃で(シン)の魂から分離してしまったのだろうが大問題だ。八岐大蛇も常にタイミングを見計らっている。幸い現在の天仁 凱自身は宙を浮けないらしい。

ならば天空を取って一気に叩く。


呪・澱滴(のろい・でんてき)


これは役にも絶たないクズな術だ。内容は泥の雨を周囲一体に振らせる、それだけだ。だが天仁 凱は目的に逸早く気付き、大蛇の口の中に入り身を守る。

すると泥の雨は一変する。全て鋭い牙に変わったのだ。それは呪ではない、呪と妖術のかけ合わせである。


「刃牙と組み合わせてみたが、駄目か。流石に八岐大蛇にも通らないな」


良い方法ではあるが通用するかと言われると否、天仁 凱も沢山の強者と戦ってきている。それぐらい大体分かるのだ。もう少し上手くカモフラージュしないと決まるはずがない。

反撃を仕様としたその時、來花は見下すような目線を向けながら呟く。


「まぁ気付けていないようなら、無理も無いがな」


すると天仁 凱の背中側から血が噴き出す。何が起こったか理解できない。オーバーキルではないはずだ、となると何か別の呪を撃ったのかと考えたがそれもあり得ない。何故なら霊力反応がブレていない、呪は霊力を霊力発動帯へと流さない。それ故か発動する際少し体の霊力が歪な流れを起こすのだ。それが無かった。ましてや創作者の天仁 凱が見落とすはずはない。

だとすると別の方法だ。長い眠りについている間に開拓された見知らぬ術だ。面白い、たまにはこれぐらい強い敵と一対一で戦うのも良いだろう。


「大蛇、手を出すなよ。わしがやる」


その時天仁 凱は笑っていた。大蛇は現代まで渡り歩いて来てその現象が戦闘病と呼ばれている事を知っていた。だがわざと伝えはしなかった、この楽しそうな笑みを見たいがためにここまで付いてきたのだ。教えてしまうとふとしたタイミングで見れ名来るかもしれない、ただ天仁 凱ならば自身で気付いてしまいそうではあるが。


「分かった」


「さぁやろう、千年前と現代、どちらが勝つのか楽しみだな!」


「いいや、気は乗らない。言っておくが私は争いが嫌いだ」


「降霊術、呪、妖術、それに加えて念能力、恐らくそこまで行くと『念』も使えるだろうな。そんな奴が何を言っている?」


半笑いでそう訊ねる。來花は返答した。


「念か、あれは蒿里や傀聖、所謂天才のために用意されたような能力だ。私達凡人や秀才に扱えるようなものではない」


「そうか。まぁ良いだろう。行くぞ、秀才」


呪術・魂哨(じゅじゅつ・こんしょう)


それを聞いた來花は一瞬焦るような素振りを見せてから力を抜いた、というよりも力が抜けた。そして魂が出て行くのが見える。ただ数秒後、干支虎が無理矢理來花の元へ魂を押し戻した。

結果復活、何とかなった。


「魂哨…魂を引きずり出す呪か…詠唱を止められたら自身がくらうと言うのに…やくやるな」


「わしが死のうが楽しければそれで良いからな!!」


「…分かった。私も少々、舐めすぎていたようだ。霊は使わない、呪だけでお前を殺す」


「面白い、来い」


『呪・剣進』


場所は指定しない。ただ一回唱えるだけでは終わらせない。三回の詠唱、計九本の剣が宙を舞う。天仁 凱は回避せず、とある呪で受け止めた。


呪・双璧(のろい・そうへき)


そこで起こされたのは前方と背後に強固な壁を作る呪だ。術式、妖術、人術などの術にも全て備わっている防御術、その呪版だ。だが九本の剣は何かにぶつからない限り追尾し続ける。

剣は全て正面からだが、そこまで馬鹿ではない。虫以下の知能ではあるが、稀に知的な個体もいる。それを狙って九本も出したのだ。そして今回は一本出た。

そいつは壁を察知し横に避け、その後再度勢いをつけて突っ込んだ。


「わしがそれぐらいの事を想定していないとでも思ったのか」


『呪・双璧』


「四方に作れば、問題は無いだろう」


知能が高いと言っても所詮その程度、そこまでされると対処法が分からず壁にぶつかり撃沈した。そして今度は天仁 凱が攻撃をする。


呪術・弁天(じゅじゅつ・べんてん)


すると周囲に音楽が鳴り始める。箏のような音だ。すると天高くから一人の男が降りてきているのが分かる。だが体は動かない。霊力感知で辛うじて距離が分かる程度だ。

そして動けないのは天仁 凱、八岐大蛇共に同じようで、まるで時止まったかのような感覚に見舞われる。


「…」


来る。すぐそこだ。來花の頭上に立っている、そして振りかざされる筝。痛みは無かった。だが脳が揺れる感覚がする。体が揺れる感覚がする。心が揺れる感覚がする。

段々と自分が何者か、何を目的にしているのか、そんな事さえも分からなくなっていくような気がする。そして更に深く落ちて行くような感覚包まれる。

心地よくはない、だが気持ち悪くもない。ただふよふよとした感覚。宙を浮いているわけでも無い、水面に浮いているわけでも無い。

だが一度感じた事がある、死だ。今來花は死んでいるのだ。魂が宙に浮いている。

すると更に頭上から、聞きなれた少女の声がする。


『まだでしょ、早く殺して來花』


一瞬にして魂は戻るべき場所へと戻った。


「すまない。どうやら私は今死んでいるらしい。元々死んでいるが更に死んでいるという訳の分からない状態だ。体が追いついていない。だが唱える事は出来る、死んでくれ。天仁 凱」


『呪詛 螺懿蘭縊』


総量1400、死んでいるのだから現状出せる最大を籠めたその呪は霊力濃度を変化させる事すらせず。ただ淡々と美しく寄って行く。天からゆっくりと、降下して来る。

その蘭はあまりの霊力量の多さに愕然としている天仁 凱の直上までやって来た。そしてゆっくりと閉じ始める。(つぼみ)へ退化していくのだ。

だが天仁 凱は正気を取り戻した。ただ逃げられるはずなのに逃げようとしない。まずは八岐大蛇に対して言葉を残しておく。


「良い働きぶりだった。だがわしはまだ終わらない、また会おう。大蛇よ」


「主!」


「案ずるな。二度も死んでいるわしにとっては大した事では無い」


その後來花の方を向き直し、称賛の言葉を与える。


「甘んじて受け入れよう。わしの撒いた(タネ)だ。だが必ずや回収する、覚えておけ。それではまた、会うとしようか」


閉じた蕾は青い炎に炙られ始めた。全くや抵抗しない天仁 凱を見た來花は何も言えなかった。そして最後に残して行った言葉が気がかりで仕方無いのだ。

すると考え事をしすぎていたのか、まだ実体があるのに螺懿蘭縊を解いてしまった。すぐに呪を放とうとしたが蕾の中から現れた者を見て手を止めた。


「…(シン)…」


そこには倒れて、意識を失っている空傘 神の姿があった。警戒しながらも急いで駆け寄り、状態を確認する。完全に天仁 凱の傷と一致している。

渋い表情を浮かべながらも自身の失態を悔やみ、その後佐須魔に連絡した。焦っていたのか、口に出しながら言ってしまった。


『阿吽』


『天仁 凱を螺懿蘭縊で討伐した。その後呪を解くとそこに神がいた。本格的に始まったようだ、胎動が』


返答。


『了解。後々考えるよ』


來花は目の前に現れたゲートの中に神を抱えて入って行った。そして一分後も戻らず、失格となった。


《チーム〈TIS〉[翔馬 來花] 失格 > 場外進出から一分経過》



第二百三十三話「応援の声」

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