第二百三十二話
御伽学園戦闘病
第二百三十二話「蟲毒王」
「七匹の蟲毒を生き抜いた奴らだ、お前如き軽くひねりつぶすだろうな」
現れたのは七匹、まず四匹はただの虫、ミルワームの様な幼虫に見える。そして残りの三匹は全て人型だ。だが霊力は半端ないし、まるで霊の様な霊力反応をしている。
恐らく既に人の域を超えているのだろう。だが來花にとってそんな事はどうでも良い、内喰い状態の來花は意識が無い。後ろにたたずむ大蛇に体を乗っ取られているのだ。
「ふむ、やはり自身の意識は無いか。ならば好都合、ここで死んでもらう。私念もあるしな」
そう言って指示を出す。
「怜雄、やれ」
指示を出したのは人型の蟲毒王だ。そいつは白髪で和服を着ていて、刀をたずさえ、一番霊力が少ない。だが溢れんばかりの殺気と刀から滲み出る悪徳感、気味が悪い。
そしてその蟲毒王は刀を抜く。その瞬間、十割だった霊力濃度が十二割、限界突破した。するとどうなるか、霊力同士が押し合い、元の空気に充満する窒素や酸素などは消滅する。
その後、霊や能力者の中に流れる霊力が活発化し、強化される。そしてそれは強大な霊力が流れる蟲毒王も変わりなく。
「武具か」
來花がそう呟くと蟲毒王怜雄が答える。
「違うな。武具とは貴様らの時代に生まれたものだ。これはただの刀であり、俺の愛刀だ。名は無い、無銘だ」
だが恐らくギアルが使われている。その時代にどうやって手に入れたかまでは不明だが、使われている事だけは明白だ。でなければ普通の刀にそこまで霊力が流れるはずがない。
ただ一番の問題はそこではない、怜雄の力が増している。刀を抜いたその時から霊力量も、殺意も、全てが増している。
「問題では無いな、やれ來花」
來花がそう言った。ただそれは來花本人ではなく、乗っ取っている蛇だが。すると体が動き出す。ゆっくりと懐にある一つの木箱を取り出した。その瞬間天仁 凱の顔色が変わった。
それと同時に他の蟲毒王も構える。何故ならそれは知っているからだ。天仁 凱が作り出した失敗作であり、最高傑作であり、あってはならないもの。
他の全ては潰したはずだった。だが残っていたようだ、最後の八懐だけ。
『呪・コトリバコ-八懐』
「貴様はとことんわしを馬鹿にしたいようだな。やれ!凍漸、芹!!」
今度指示を出したのは人型の二人だ。凍漸と呼ばれた方は武器を何も持っていない、だが霊力量で言えば一番強いだろう。そして何よりガタイが良い、恐らく生身で殴ってくるタイプだ。
そして芹は一見ただの洋刀を持っている。だが霊力はほぼ無いし、殺意等の戦闘意思も感じられない。強いて言うと剣を構えているぐらいだ。一番弱いように見える。
「行くよ!凍漸!」
「一々つっかかるなボケ女!!」
二人も突撃する。怜雄と共に攻撃を仕掛ける、その時來花がコトリバコを手放した。するとコトリバコは独りでに宙に浮き、中から黒い煙を発生させた。
そして三人を包み込もうとしたがそれは叶わない、芹が防御したからだ。ただの剣が形を変え、盾になった。そしてその盾で煙を振り払ったのだ。やはりギアルは入っているのであろう。
「ふむ、コトリバコは通用しないか。ならば、これだな」
『呪術・羅針盤』
羅針盤の針が現れ、周り出す。三人を切り裂くかと思われたが凍漸がそれを阻止した。前に出て、能力を使用する。凍漸の能力は硬氷化、自身の体を硬い氷に変化させることが出来る。
硬度は凄まじく、刀は弾いて何なら折ることが出来るし、銃なんて容易に弾き返すことが出来る、そして何よりその氷は霊力をまとう、それが何を意味するか、考える必要もない。
「ぶっ壊れろ!!!」
針を思い切りぶん殴った。すると羅針盤の針は真夏の日差しに当てられた薄氷のように崩れて行ってしまった。そして凍漸を振り払って前に出たのは怜雄だ。
刀を構え、突撃する。
『呪・封』
能力を封じた。だが全くと言っていい程に問題は無い、理由は一つだ。
「怜雄は能力者じゃないぞ」
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら天仁 凱がそう言った。そう、天仁 凱が蟲毒王を作った理由は護衛と強者の討伐だ。それならバリエーションは大いに越したことは無いだろう。
凍漸は能力者、芹は特殊武器使い、そして怜雄はただの剣士だ。だがあまりの霊力量にそれを察知する事が出来なかったのだ。來花は成すすべもなく斬られた。
あまりにも痛い、おかしい。すると怜雄が説明する。
「無能力者だ。だが俺は霊力操作が出来る、王になる前に会得したのだ。これを利用する事で王へと昇華した。貴様の小賢しい術に嵌まる程俺は馬鹿じゃない」
再度斬りかかる。すると蛇本体が身を挺して來花を守った。
「ふむ、命がけで守るか。そこまで大事か?この体が」
「当たり前だ。今の私を受け止める事が出来るのはこいつぐらいだ。それともお前の中に入って良いのか?」
「ふざけるのは背格好だけにしておけ、大蛇」
「ならこっちも余裕がない。私はただの蛇だ、霊力が苦手でね。この十二割空間なんて苦しくて仕方が無い。さっさと終わらせるよ」
『呪詛 螺懿蘭縊』
対象は当然、天仁 凱である。この蟲毒王をどれだけ殺してもキリは無い。それは大蛇が一番知っているのだ。約千年前、貴族も困り果てる程の妖怪、[口黄大蛇]。黒い体を持ち、口の中が黄色いという大蛇だ。
大量の若者が挑んでは、喰われていた。そんな中天仁 凱は蟲毒王を作ってから挑んだのだ。結果勝ったのは天仁 凱だった。だが魂までは仕留めきれず、生きながらえ力を蓄えていたのだ。そして幼少期の來花に乗り移った。
そして天仁 凱が一度呼び戻された時に來花がこの口黄大蛇の力を借りたが天仁 凱が強すぎてどうにもならなかった。それ故不意打ちで倒すしかないと分かっているのだ。
「主様!!」
「怜雄、貴様ら以外にもいるだろう。こういった場合の為に作った四匹がな」
そう言って幼虫達に指示を出す。
「壊せ」
四匹は降りて来る蘭の花を喰い破った。そして術は破られる事となる。呆気ない、だがそれは実力の差を現す事でもある。來花の最強技は天仁 凱が呪を使う間もなく破られた。絶対に通用しないだろう。
「ふむ、少しまずいな」
「主様は無事なら、俺達はこの屑を殺すだけで良いんだな。やるぞ、芹、凍漸」
「了解!」
「早くしろ!!俺はずっと待ってたんだ!!!」
三人が一気に飛び掛かる。怜雄は刀、芹は返しのついた惨い剣、凍漸は最大限硬くした拳で。だが來花の実力はこの程度ではない。むしろここからだ。
來花は大技を極めようとしは無い。何故なら霊力消費が多いからだ。生前の霊力は200程度と非常に少なかった。それ故あまり使う事が無かったのだ。なので霊力消費が少ない普通の呪の鍛練に注力していたのだ。なのでここからが、本領発揮だ。
唱える際に一瞬、黒い布の隙間から見せた眼には殺意も何も籠っていなかった。ただ放つだけ、機械のように、ただ放つだけ。
『呪・剣進』
『呪・重力』
重力で動けなくしてから剣進で攻撃するのかと思われていたが全くそんな事は無い。目的は剣の停止だ。強い重力によって停止した剣を手に取り突っ込む。
「何!?」
天仁 凱がそんな動きはしない。そのため突っ込んでくるとは思ってもみなかった怜雄一瞬反応が遅れた。そして防御が間に合わず一撃くらった。
すると斬られた部位から果てしない量の血が出て来る。
「なんだ…これは」
困惑している怜雄なんて構わず斬りつけようとする。だが今度こそは芹と凍漸が防御した。すると防御した二人からも血が出て来た。だが全く触れられていない頭部からだ。
何か別の方法で攻撃しているはずだ。一旦距離を取ろうとしたその時、背後から声が聞こえる。
『呪・爆鎌』
それと同時に背後から十本の鎌が勢いを付けて飛んで来た。三人はしっかりと回避したが來花は避けなかった。その術の正体がわからなかったからだ。
そして鎌が肉に食い込んだその時、爆発した。鎌が全て爆発し、多大な害を被る事となった。だがまだ立てる、血だらけで、内喰い状態つけている黒い布も無くなっている。
このまま押せば勝てるはずだ。
「行くぞお前ら!!!」
凍漸を戦闘として再度突っ込む。ボロボロな來花なんて敵ではない、そう思ったのだ。だが來花は未だに剣を手放していなかった。だが重力は解除されており、掴んでいるだけでも一苦労だ。
まず凍漸が殴り掛かった。反撃が下される。
『呪・封』
凍漸の硬氷化は確実に能力だと思っていたのでここを待っていた。二人が助けに入れない距離、速度。そしてただの拳だけになっている凍漸。最後に剣進、決まりだ。
「霊力200」
指定した霊力量を全て一本の剣に流し込み、放った。重力が無いので溜まりに溜まっていたスピードを一気に解放し、放たれた。剣は凍漸の心臓を貫き、その背後にいた芹の桃色の髪を少し持って行った。
「凍漸!!」
「気にすんな。これぐらい、何てことねぇ」
凍漸は笑い出した。恐らく戦闘病だ、能力者なのだから当たり前といえば当たり前だ。そして凍漸は能力を使用しだした。あまりにも封の解除が速い。
「毎日のように呪くらってたんだからよ、多少の耐性ぐらいは出来てんだよ」
そして作られる氷の鎧、冷やす事で疑似的に冬眠に入った。だが一つ、普通の冬眠と違う点がある。動けるのだ、自身の意思で動けている。体は長い眠りについているのだが、殴り掛かって来ているのだ。
「毎日のように氷の鎧作ってたらよ、出来るようになったんだよ!!!」
無茶苦茶すぎる理論だ。だがこいつも蟲毒王、それぐらいは出来て当然なのだろう。ならばやり方は一つだ、芹と怜雄も干渉してくるだろうが問題は無い。
來花が日々鍛えているのは呪だけではない。嫁から受け継いだ能力がある。
「私がまだ意識を渡しているとでも思っていたのか」
「なっ!?」
「離れろ!凍漸!!!」
怜雄の命令は虚しく、間に合わなかった。來花は既に意識を戻していた、大蛇は出しているだけの見せかけだ。この時のための、ブラフ。
『降霊術・神話霊・干支馬』
『降霊術・神話霊・干支虎』
呼び起される神達、霊力濃度は十三割、暴走寸前。
「殺して良いんだな!?來花!!」
「勿論だ、さぁやれ、援護しよう」
その一瞬にして、凍漸の鎧は砕かれ首元に噛みつかれていた。すると後方で待機していた天仁 凱が笑みを浮かべながら唱える。
『呪詛 厳善晩凱 童生の也』
魔境化、その呪の効果は周囲の霊力濃度を"二倍"にするというものだ。となるとどうなるか、二十六割だ。限界をとうにこえた霊力達はあるものに集まる。
そう、今で言う武具だ。そしてこの周辺で武具を持っているのは二人。
「さぁやれ、芹、怜雄」
芹と怜雄のみだ。
第二百三十二話「蟲毒王」




