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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百三十一話

御伽学園戦闘病

第二百三十一話「胎動、そして混乱の波」


[兵助視点]


「よーし…行こう!」


元気一杯で動き始める。場所は針葉樹、別に兵助は何処でもあまり変わらないので選ぶのは相手だ。出来れば体術だけで戦える敵が良い。

ただ重要幹部も強くなっている。そう一筋縄では行かないだろう。だがそれでも有利になる可能性がある相手を選ぶのが得策だ。兵助が死んでしまったら本当にエスケープチームが崩壊する。絶対に死ぬべきではない、だから選ぶ、相手は。


「うーん…やっぱ原とかが一番良いのかなぁ?でも一応情報収集はしてた経験を活かして叉儺あたりでも良いかもな…」


そう呟きながら霊力感知を行う。だが周囲に誰もいないことに気付いた。


「そんなことある?九人いるはずなんだけどな。まぁでも戦わなくちゃ皆への負担がデカすぎるね。今回は優勝しとかないと、色々とまずい。ここで殺す必要は無い、優勝を取ろう!」


自身に活を入れ、進み始める。歩いていても良い事は無いので軽く体を動かすのと並行する為、ランニング程度の速さに切り替えた。兵助も礁蔽と同じく体術の訓練を行っていた、三年以上の凍結から未だ数ヶ月しか経っていないのもあってかあまり成長は無かったが、それでも充分過ぎる程には強くなった。

ただ他の者に比べればちっぽけな力ではあるが。


「もっと強くなりたいんだけどな…なんでかな…なんで強くなれないんだろう…」


まだ体が完全に回復していないと言えばそうなのだが、それでもあまりに成長が遅い。薫や兆波も困惑するほどに成長が遅いのだ。ただ目に見えて成長する事が無いだけであり、成長自体はしているので原因が良く分からないのだ。

それに対して礁蔽は凄まじかった。正に日進月歩、誰もが驚く程の成長ぶりなのだ。


「こんな時婆ちゃんがいればなぁ…もっと良いアドバイスとかくれるんだけどな…」


本当に惜しい人だった。常に何処からか姿を現し、的確なアドバイスだけしてキセルを吸いにいなくなってしまう。そう言った人物だった。

元々兵助は"無能力者"だった。だが祖母、小夜子のアドバイスによって回復術を会得したのだ。そしてその時の成長ぶりは凄かった、今の礁蔽並みだった。

なのにも関わらず体術はめっきり駄目だ。何か罠にハめられているのではと感じてしまう程に駄目駄目なのだ。


「…来た!」


誰かが近付いて来ている。寄って来るにつれ兵助の顔面が蒼くなっていく。最悪だ。あまりにも分が悪い、今すぐにでも逃げ出す為背を向けて走り出す。


「逃げるな!」


もうすぐそこだ、今背を向けるのは悪手だと判断しすぐに振り返った。するとそこには一つ前の戦いとは違う雰囲気の原が来ていた。霊力放出は多くなっているし、放たれている霊力も少し変わっている。フェアツと混ざり合ったような感じだ。

そして何より、眼がヤバイ。何かヤバイ薬をやっているのではないかと思ってしまう程に血眼になって追いかけてきている。一旦振り返っては良いがあまりの眼光に恐れ戦き、逃げる事にした。


「逃げるなと言っているだろ!」


「いや無理!!絶対勝てないから!!!無理!!!」


どう考えても逃げ切る事など不可能なのに、走り出す。だが当然追いつかれてしまった。そして原は足元を蹴り、掬った。唐突にやられた事で転んだ兵助は何回転かして転がって行った。

受け身を取って立ち上がり、逃げ出そうとしたが既に間に合わない。現前に原の足が来ている。反射神経だけは良いので回避に成功した。完全にまぐれだが避けれたのは事実、このまま戦闘に持ち込むしかないだろう。


「しょうがないね…やってあげよう、原。後悔だけは、しないようにね」


とても強気だ。だが気配に変化があるわけでもないし、特段目立った行動も無い。恐らくただの強がりだ、気にすることは無い。さっさと殺すだけだ。

原も構え、動き出す。


「案外見えるものだね」


そう言いながら原の腕を掴んだ。それに驚いた原は一瞬躊躇った。当然見逃すわけはない、兵助は思い切り拳を放った。そして何が起こったか、吹っ飛んだ。

まるで身体強化使いが殴ったかのように吹っ飛んだ。原だって常に訓練はしている、それなのに前まで貧弱な雑魚だった兵助に殴られた事によってここまで吹っ飛ばされるのはおかしいと言わざるを得ないのだ。


「何!?」


「あ…あれ?なんか思っている以上に力が乗るな…」


兵助自身も困惑している。何故なら今までで一番強い力が出たからだ。だが何か今までと変えたことは無かった、前日も訓練は怪我しない程度に行ったし、何が違うのか自覚出来ない。

それでも前とは違う事は事実、その違いを見つける事で勝利に繋がるはずだ。


「悪いけど、強化素材になってもらうよ、原」


その言葉を聞いた原は一瞬ピクリと反応してからフリーズし、直後強く拳を握りしめて怒りを露わにしながら言い放つ。


「俺を強化素材だと?ふざけるのも体外にしろよ、祖母の真似すらも出来ない、無能のくせして」


「それはご法度だろう?原」


「どうでも良いね、今俺は、怒っている」


先に動いたのは原だった。小手調べは住んでいるので最初から本気のパンチだ。だが兵助は軌道を確実に捉え、回避した。その回避は最小の行動だ、すぐに反撃できるように。

真横をかすった腕を掴み、曲げようとする。だが片手だけでは力が足りぬようだ。ならばてこの原理を使う、もう片方の腕を原の関節にセットし、後は力強く曲げてはいけない方向へ力をかけるだけだ。

鈍い音がしたと思った直後、原は思い切り自身の舌を噛もうとした。


「残念、駄目だよ」


腕から手を放した兵助がすぐに顎を抑えて噛ませない、死んで治されるとらちが明かない、無理矢理にでも殺すのを阻止しながら削って行くのだ。その最中に差異を見つけ出す事が目標だ。

どれだけ相手が再生しようがどうでも良い、問題なのは殺されてしまう事だ。自身が負けようが、仲間を回復させなくなろうが関係ない、何故なら今兵助は高揚しているのだから。


「さぁ行こうか!!原!!」


「…戦闘病…か。お前の本性、そんなもんだったな」


原は戦闘病を嫌っている。こんなものがなければ能力者と無能力者の溝が深くなることは無かったはずだ、この病があったせいで全ての歯車が狂いだしたのだ。

全ては戦闘病が悪い、そういう思想を持っているのだ。ただ一つ、その思想には決定的な欠点があった。それはTIS重要幹部の場合、超絶強化を否定する事となる。

半端な念能力と発症済みのサポート系が戦ったらどちらが勝つか、後者だ。サポート系が活だろう、それほどには強化が入るのだ。なのに原はそれを否定する、原がいつまで経っても重要幹部で最弱から抜け出せない理由は、それだ。


「それは残念だ、みんなの気持ちがようやく分かって良い気分だよ?これは」


「俺はそれを使わない、約束したんだ。霧とな」


「そうか、それは仕方無いね。じゃあ、僕の糧となってくれ」


今度は兵助が動いた。一瞬だった、本当に一瞬だった。先程までの数倍の速さで原の懐まで入り込んで来た。そして愉快な目線を向けながら拳を放った。それだけならまだ対応できる。

だが兵助は同時に蹴りを繰り出した。流石の原でも急な事だったので対応できず、顎に一発くらった。脳が揺れる、予想以上に威力が高い。


「想像異常だな…健吾さんより強いかもしれない……おかしいな、強すぎる」


「そんな無駄口叩いている暇あるのかい」


次の攻撃を行う。だが原は後ろに下がって様子を見る事にした。直後、兵助は姿を消し原の後ろに回り込んだ。当然反応は出来ず、再度蹴られた。

今度は更に吹っ飛んだ、明らかにおかしい、何かおかしい。戦闘病なのかもしれないしそれ以外かも知れない、ただ今までの情報とは整合性が取れない謎の力だ。


「霊力が…下がってる?」


原が異変に気付く、霊力が減って行っているのだ。ただ兵助の能力は回復術、そして回復術は構造上発動者自身には適応できない。かと言って他に何かを回復している様にも思えないし反応が無い、何故霊力が減って行っているのか分からない。

一方兵助はそれを聞いてニヤリと微笑んだ。自分で気づく事の無かった霊力低下を知り、その正体を把握したのだろう。だがそれと同時にタイムリミットが近付いて来ている事も現している。

その"力"はあまり使って良いものではない、正体も分かったので後は原との戦闘を片付けるだけだ。


「ありがとう婆ちゃん、更に深い確信と共に、最愛の念を送るよ。あと言っちゃ悪いけど婆ちゃん、あんたは死ぬべきだった人間だよ。大好きだけどね」


そう言って動き出した。更に動きは速くなっている、最早面影など無い完全な殺意の攻撃、原は防御しか出来ない。反撃に転じようとしてもその手を跳ね除けられ、死のうとしても止められる。

完封そのものだ。


「これで終わりだね、原」


軽い一撃、寸前までの連撃に比べたら小突くようなレベルの痛みだった。だが兵助は確実に計算して攻撃していた、オーバーしないように。そして、この一撃で、終わらせるように。


「君の弱点は殺さなければ、無能力と同じと言う所だ。だが僕は殺す方法を見つけるよ、絶対にね」


兵助は笑ってなどいなかった、良く考えると力の胎動の正体を突き止めた時にほんの少し笑った程度でそれ以外は全く笑ってなどいなかった。ただ心の奥底で楽しんでいるのは伝わって来ていた。

それが気持ち悪いのだ。全てが中途半端で、何とも言えぬ悪辣な気持ちを抱かせる。だがもう遅い、原はそのまま、目を閉じた。


《チーム〈TIS〉[原 信次] リタイア > 沙汰方 兵助》


皆が驚く事だろう、立て続けだったのだ。紫苑のサンタマリアが展開されてすぐの事だった。そして佐須魔は流と戦闘しながらその通知を見て珍しく冷や汗を垂らした。

それは流との戦闘でのものでもあるし、通知の内容の事でもある。あまり良くない事が起こり過ぎているのだ。


「これも全部…策略か、マモリビト」


「いいや?無いさ、でもそれ以上に、余裕が無い事が起こった。兵助の胎動、研究は未完成だったはずだ…でも起こっているのは事実、受け止め、前に進むだけだ。そのための第一歩だ、殺す。もう容赦はしないよ」


『第八形態』


「本気の僕は、別格さ」


佐須魔を中心とした半径七百メートル全域の霊力濃度が十割へと変化した、そしてそれと同時に重ねるようにして宙に現れた黒い蛇。そして治まらない壕然たる者達の霊力、黒蛇の元へ跳び上がった來花の元へ突っ込む一人の老人。

乗っているのは蛇の頭、そう、八岐大蛇の頭。大蛇が乗せる者は二人、山田 遠呂智と天仁 凱だけだ。そして一人は死んでいる、そう現れたのは。

天仁 凱。


「小童が!!ぶち壊してくれる!!!」


「一つ、教えよう。貴様は私のお気に入りだ……勿論、最下位だがな」


來花の口調は少し違った。言葉の節々から嫌々とした気持ちが現れているのだ。ただそれは來花のものではなく、後ろの黒蛇から発されているようにも思える。


「最初から本気で殺してやろう、クソ蛇!!!」


呪詛(じゅそ) 俄然豪京(がぜんごうきょう) 導鞭の也(どうべんのなり)


それはこの蛇の為に生み出された呪と言っても過言では無い、そしてその呪は、周囲にいる霊力を持つ者全てを強制的に対象とする。人、霊、植物、関係なく。

天仁 凱の手からは一つの門が生成され、どんどん大きくなり、最終的には地獄の門と全く同じ形となった。その瞬間、開門した。そこから飛び出したのは七人の蟲毒王(こどくおう)だ。


「殺せ!!その蛇を!!!」


始まった混乱の波、飲まれるのはどちらか、誰か、はたまた全員か、それは誰にも分からない。当然、神も。



「ようやく、始まった」



第二百三十一話「胎動、そして混乱の波」

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