第二百三十話
御伽学園戦闘病
第二百三十話「新技」
「さぁこいや!佐須魔」
「分かったよ。最初から力を出してやろう。お前には別に借りも無いし思い入れも無い、だから速攻で殺してやる」
『第三形態』
すると佐須魔の背中に浮いている謎のリングが破壊され、霊力が増したように感じた。恐らくだがマモリビトによって起こされる覚醒の際、何か身に着けている大切な物が一時的に破壊される。この現象と同じような物なのだろう。
ただ大きな問題がある、第三形態にしては強すぎる。目の前に立っているだけでも分かる程に強い霊力、正直足がすくみそうだ。だが今ここで試さなくてはある時に使えないだろう。
「行くよ」
『参式-壱条.騎弦星己』
その瞬間三匹の霊が飛び出してきた。猫神、人神、そして一匹の馬霊が飛び出してきた。そしてそいつらは礁蔽を囲むようにして鎮座した。そしてその場に座る。何が起こるのか良く分からなかったが、ひとまずここにいるのは駄目だと感じその包囲網を抜けようとした。
「無理よ」
人神がそう言った。初代ロッドは黄泉の国でも多少接したことがあるので完全に敵では無い事は分かる。なのでこの術の正体、そして佐須魔の倒し方を聞いたが溜息をつきながら答えられる。
「私は今人神、佐須魔の持ち霊。あんたに教えるのはあんまり良くないのよね~別に出来なくは無いけどあいつの機嫌が悪くなったら面倒だし」
そう言って地面のアリを眺め始めた。使い物にならないと即決した礁蔽は無視して通り抜けようとする。だが謎の壁に阻まれて先へ行けない。全方向そうだ。先に進めない。
そして状況を再度把握した瞬間、気付く。三匹の霊が頂点となるよう三角形でバリアが張られているのだ。それと同時に絶望の音が響く。
『参式-弐条.研仙鳥碧』
すると礁蔽に影が重なる。すぐさま上を見上げるとそこには青々とした山が振って来ていた。まずい。その山は三角形のバリアにぴったりハマる大きさだ。
壊す手段も無い、非常にまずい。
「なーんてな」
姿が消えた。直後山が地面に直撃し、大きな砂埃を起こした。それと同時に三匹の霊は消えた。それと同時に背後に霊力が移動して来た事が分かる。
振り返りながら蹴りを繰り出した。だがその蹴りは容易く受け止められた。
「サポート系はフィジカル強くしなきゃ戦えへんからなぁ」
「にしてもおかしいだろ。本気じゃないとはいえどもその新しい謎の箱、それに加えてその体術、時間が無いだろう?しかも素戔嗚はその箱の存在を知らなかったよ、どう言う事だい」
「そりゃこいつは大会が始まる二日前に一人で適当に思いついたのを"今日"作った奴やからな」
「やっぱお前、行動力だけは凄いな」
「まぁな。わいの能力は最早別物へと変化したんや、まぁ見るがええわ。こいや」
「言われなくともいくさ」
『弐式-参条.鏡辿』
それは完全攻撃型の術式、弐式-弐条は攻撃を完全に無効化する封包翠嵌だ。そして鏡辿はあまりにも惨いやり方だ。
まず内臓が破壊されていく。ただ発動者も共に。全ての臓器が同時進行で崩れ落ち、瓦解する。それが鏡辿だ。だが佐須魔は再生できる、なのでデメリットも無いような物なのだ。
だが礁蔽にはそんな能力は無い。どうなるか、明白だ。死ぬ。
「お疲れ、術式は強いからね。残念だよ、第一形態でも勝てたね。霊力が無駄になってしまったよ」
「そうかい。それは残念やなぁ。なんせ今からもっと、無駄になるからな」
周囲の霊力濃度が七割へと変化した。
「なに」
「わいがただ筋トレしてたとでも言うと思うんか?本命はこっちやで」
「自己覚醒か、やっぱこの世代多すぎないかなぁ、出来る奴」
「そんな事気にしてる余裕は無いで。もう言ってまうけどわいの覚醒で得られる効果は能力の底上げ、言うなれば強化や」
「あっそ。まぁ僕は…」
「何があっそやねん」
一瞬にして礁蔽の姿が消えた。正に瞬間移動のような速さだった。だが霊力感知で分かる、背後だ。すぐに振り向きながら唱える。
『漆什弐式-伍条.衝刃』
放たれた斬撃は、見事に宙を斬り裂いた。少し違和感がある。確実に霊力反応がしたのだ、そして今も残っている。それが意味するのは一度背後に回ってから霊力を残し、再度移動したことになる。
今までの礁蔽ならそこで攻撃をしてきたはずだ。戦闘スタイルも少し変わっているようだ。だが別に面白い程ではない。未だ佐須魔は一度も笑っていない、つまらないからだ。
「これでどうや」
だが笑った。あくまで微笑み程度だが。
「これがわいの、戦闘や」
木箱を投げ付けた、鍵はしっかりと抜いてある。それは戦闘を放棄したも同然、そう思われた時だった。白い光に包まれる。そして直後視界に飛び出したのは、真っ赤なマグマだった。
「そう言う事か!!!」
火山口に送られたのだ。だが問題はない、そもそもマグマに即効性は無い。何より佐須魔には全ての攻撃や事象を無効化する事だって難しくは無い。
ただ一番の目的は違うのだろう。大会特化の戦い方、場外追放だ。大会には島から出て一分が経つとその者は失格なる規則がある、それを狙っているのだ。
今やるべきなのは佐須魔の排除では無く重要幹部、そして來花の排除だ。なので一番邪魔な佐須魔を追放して、早めに退場させておくべきだと考えその戦い方を取ったのだろう。
「だが無駄だったな、僕にはゲートがある」
ゲートを生成し、戻ろうとする。だが次の瞬間、一つの物体が現れた。先程の木箱だ。だが使っていた木箱は既にマグマの中に放り込まれているはずだ。
だがもう一つ飛んで来た。
「何個もある、クソみたいな作戦だな。笑えもしない」
真顔でそう言いながら放つ。
『弐式-弐条.封包翠嵌』
小さなカワセミが木箱を吸い込んだ。そしてゲートに飛び込もうとしたがその時、新しい木箱が出て来る。カワセミは一つ吸い込んでいなくなってしまった。
そしてその木箱は光だし、佐須魔を別の場所へと転送した。そこは見覚えのある場所だった。そしてそこには一人の少女がいる。
「佐須魔?なんで?」
「刀迦…黄泉の国か。別世界まで飛ばせるとは…単純に精度も上がっているな。多少は楽しめそうだ」
「今大会なんでしょ?帰らなくて…」
次の言葉を吐こうとした時には既に姿が無かった。だが向かった先は島では無く、仮想世界だった。ただ仮想世界とはいっても本拠地では無く、エスケープチームと中等部で戦ったあの島だ。
何度も送られてくる木箱がいい加減鬱陶しい。何よりあと十五秒で退場だ。本気で戻る事にした。まずゲートを繋げる。そしてその後はゲートの中にとある術を放つ。
「先手必勝」
『参什壱式-壱条.剣千』
それはとてもシンプルな術である、呪・剣進の強化版のような物だ。千本の剣を突撃させるだけの術だ、だが現状では最も力を持つ。ゲート内に放たれた千本の剣は全て礁蔽に突き刺さった。
ひとまず木箱で転送される前に突撃だ。
「やぁ、もう通用しないよ。そのやり方」
島に戻り、戦闘が再開された。礁蔽は剣がこれでもかと刺さり、半端じゃない事になっている、全身ハリネズミだ。血が溢れ、行きなんて荒れに荒れている。
全くと言っていい程余裕は無いのだろう。もう戦う必要すらない様だ。呆れながら棄権を促す。
「お前は革命に使える、今棄権すれば命は助けてやる。ただ能力は貰うけどね」
手を伸ばし、触れたその時、弾かれた。初めての事だった。今回は初めての事が多い、その中でもこれは似通っている事も無かった。ただ弾かれたのだ。
電流が弾けたわけでも無い、霊力を感じたわけでも無い、ただ弾かれた。磁石のS極とS極が相反するように、近付くことが出来なかった。いや、違う。
「弾かれたんじゃない…引かれたのか」
「せや…わい、言ったよな。能力の底上げってな。これ強いんや、効力の強弱」
「まぁテレポートを弱め、あくまで引き寄せる程度にしたって事だろ?」
そう言いながら後ろを向く。やはりと言うべきか木箱が落ちていた。そしてそこには鍵がささっている。そこに引き寄せたのだろう。ただそれだけだ。
近付くことが出来ないのなら仕方無い。遠距離攻撃で仕留める。殺してからでも、能力は吸い取る事が出来る。一撃で、終わらせるまでだ。
『肆式-弐条.両盡耿』
最強の連撃技にして、最速の連撃技だ。一秒で何千発にも及ぶ連撃が起こる、足元からその光が満ち溢れて来た。凄まじい霊力、元々ボロボロの状態でそんなものをくらったのはどうなるか、自明の理、分かり切っている事だ。
だがそれでも逃げる方法はある、大量に持っている木箱を取り出し鍵を挿す。そして回して光が放った。瞬間移動で逃げようと思ったのだ。
「間に合わせないよ、普通に」
術は放たない、手で抑えて最後まで開錠させないのだ。半開きなのでテレポートできない。そして満ちる、霊力の光。足が飛びそうなほど痛い、声も出ない痛みだ。
これが術式、第三形態での術式だ。もう終わり、そう思った時だった。ようやく駆け付けた。
「おっそいで!!流!!」
「ごめんごめん。ちょっと遠くてね、さぁあとは僕が相手さ。佐須魔」
「…そゆことか~良いよ~やろう」
先程までのつまらなさそうな顔とは違ってとても楽しそうにニタニタと笑っている。気色が悪いが構っていられない、流石の流でも勝ち目は薄い。
それでも勝ち自体は見えている、わざわざ今まで喧嘩を売って来なかったのだ。ここで始めて、戦うために。一気に叩く、所要時間は五分程度だ。
一気に決めて終わらせ達成する、指標を。
『インストキラー』
佐須魔が放ったのは対抗するような念能力、特別なキラータイプだ。黄泉の国で一度だけ見せた、術。
『リバーサルキラー』
使用霊力は500以上だ。
第二百三十話「新技」




