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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百二十九話

御伽学園戦闘病

第二百二十九話「似つかわしい船(サンタマリア)


降ろされた紫苑の空気感は変わった。霊力反応は全くと言っていい程変わっていないが霊力放出が多くなっている。その時点でもあまり良い反応では無いのだが、それ以上に紫苑の眼が最悪だ。

眼の奥で、一瞬パチッと赤いものが跳ねた気がした。


「こりゃ早く殺さなきゃいけない様だなぁ!!紫苑!!」


とても楽しそうに笑いながら拳を握る。痛み何て関係ない、強い奴を殴れればそれで大満足だ。二人が一気に動き出す。


「本気で殴ってやるよ!!」


今までよりも数段速い殴り。だが今の紫苑にはしっかり見える、完全に見切った訳では無い。だが先程と同じ程度に感じる、本来なら避けられるはずが無いのだが。

それを見た健吾は更に高揚する。本気でかかってもすぐに死ぬ奴では無いのだと理解し、少し本気を出す気になったのだ。


「ちょっとは本気で行ってやるよ!!」


「好きにしろ、俺は構わん」


瞬く間に至近距離まで距離を詰めて来た健吾に驚きながらも動く。だがそれは防御でも無く、回避でもなく、攻撃だ。降霊をしていると言っても攻撃力はどう考えても健吾の方が上だ。勝ち目はない。

ただ一撃貰ってでも一回は殴っておかなければならないのだ。そしてくわった一撃、重く苦しい一撃だった。壁に衝突したがすぐに立て直し、追撃を逃れた。

この部屋はどうやっても壊れない。なので大人しくこの範囲で叩くしかないのだ。


「さぁ、やるぞ」


紫苑のその一言が聞こえた時、健吾は能力を解いた。


「は!?」


「それぐらい分かる!!お前の逆流した霊力によって抑えられていた俺の霊力を一気に楽にすることで体の中で微弱な加速を起こす、そしてどっかにある能力発動帯に通す事で疑似的に能力が発生させられたと感知させ、謎の激痛で攻撃しようとしたんだろ!!

だから無茶してまで俺に触れた!!俺に流れているお前の霊力を全て回収するためにな!!お前は霊力操作がクソうめぇ、だがそれは短所にもなる!!!何故なら俺は、お前の能力や特性を網羅しているからだ!!!」


楽しそうにしながらもしっかりと基礎的な事はやってきているらしい。そこが健吾の強い所だ。戦闘にならなければただの一般人、命をかける場面なので用意ぐらいはする。大抵は無意味に終わるが。

だが今回はしっかりと役にたった。この小さな成功があるからこそ、毎回徹底的に調査し対処できる。勿論身体能力や能力の使い方の上手さも加味されるが、それ以上に厄介なのだ。この知恵とも呼べぬ、微妙な情報が。


「そんじゃ次は俺の番だ!!」


姿を消した。霊力感知で分かる、背後だ。すぐに浮遊し、回避を行った。ここまで距離を取れば部屋に放り込まれる事も無いだろう。今からはどう倒すかを考えるべきだ。

その時、遠くでとんでもなく強い霊力反応を感じ取った。


「ラック!!」


「あっちもやってんな!!んじゃあこっちもさっさとやろうぜ、紫苑よぉ!!!」


その反応は燦然(ブリリアント)の反応だった。恐らく既に始まっているのだろう、ラックの人生をかけた戦闘が。早く行かなければ手遅れになるかもしれない。それだけは駄目だ、一刻も早く戦いを終わらせる。

だが焦ることは無い。ゆっくりと息を吸い、戦況を見直す。するとあることに気付いた、健吾の癖だ。推測だが気付いていない、降霊の特徴に。


「しょうがねぇな!!!」


紫苑も突撃する。両者の拳が混じったその時、健吾だけ吹っ飛ばされた。何が起こったのか一瞬理解出来ていない様子だったが紫苑の方を向いて理解した。

体からリアトリスが出てきている。そう言う事だ。健吾は単純に降霊に対する知見が浅かった。降霊は別に降ろした物から霊が出てこれない訳では無い、遠呂智もやっていた。見落としだったが痛い一撃を貰ってしまった。


「すんげぇ威力だな…」


右脇腹にぽっかりと穴が空いてしまっている。最近になって始めて体に穴が空いたかもしれない、それほどにまで頑丈な健吾の体がいとも容易く破られる。それが何を意味するか、明白だ。


「あと一発、くらったらやべぇなぁ」


「まぁそれは俺も同じなんだがな」


互いに一撃でもくらったら危ない状況、持って二発だろう。一撃一撃を大切にしなくてはいけない。だが戦闘病患者に、そんな事を考える知性は、残されない。健吾も例外なく。


「だったら殴らせなければ良いよなぁ!!!」


突っ込んできた。あまりにも馬鹿だ。流石にこの状況で突っ込んで来るのは頭が悪すぎる。だがそれが畏怖に繋がる。何か策があるのではないか、という畏怖に。

紫苑は宙に浮いて逃げた。格好のチャンスを自ら断って、飛び立った。ただそこまで高所ではない、健吾でも到達できる高さだ。思い切り地面を踏みつけ、飛び立った。

あっというまに同じ高さにやって来る。そして放たれた一撃、だがそれは宙をかすった。


「舐めすぎだろ」


紫苑はしっかりとかわした。空中戦なら流石の健吾でも不利だ。そう判断したのか地表に降りて行った。一旦安置ではあるがモタモタしている余裕は無い、やりたい事は対策されてしまった。恐らくこの戦闘ではもう能力を使用してくれないだろう。

となると単純な殴り合いで決着を着けるしかなくなる。だがどう足掻いても勝ち目はない。どうにかして探し出すのだ、勝利の活路を。


「……やっぱお前最高だよ、ラック」


思い出したのは少し前の出来事、ラックの家の地下室で二人で話した時の事だ。話が終わり、少しだけ雑談を挟んだ時だった。薄暗い地下室で話したのはバックラーの事だ。

話を持ち掛けたのはラックだった。現状では紫苑が弱すぎるという所から始まった。


「俺も一応多少は研究をしてた。だが霧島姉弟が出て来たから手を引いた。その時思った事があるんだ、バックラーってのは弱すぎるってな」


「は?喧嘩売ってんのか?あんな大層な話しといて?」


「まぁ良いから話聞け。そんでな、俺はそのためにここで研究をしてんだ。正直進展は無い、お前や須野昌からコッソリ情報を抜き取ってたがあまりにも母数が少なすぎる、ぶっちゃけると話にならない。それに加えてお前らがエンマやらクソ神とかと接触しまくるせいでろくに時間が取れてねぇ」


「悪いな。そんでなんだよ、何かあるんだろ?俺に話したい事」


「あぁ。そうだ。この一年間、俺は一つだけ仮説を立てることが出来た。ただ実践するにはあまりにも無謀で、空想論にしか過ぎない事だがな」


「おう」


「『バックラーは降霊術が出来る』んじゃないかって」


「…はぁ?違うからバックラーって別の名称付けられてんだろうが」


鼻で笑い、半分貶す。するとラックは頭をコツンと叩いてから続ける。


「バックラーは分類的に霊だ、それが何故か、『式神術(しきがみじゅつ)』と呼ばれる能力があったからだ」


聞いた事も無い。問い詰めようとしたその時、ラックが先に言い出す。


「式神術、降霊術とは少し違うんだが…まぁ簡単に言うと降霊術、尚霊ではない。みたいな感じなんだよ。例えば《サンタマリア》とか呼び出せて、半強制空襲が出来たりする奴がいた。そんな感じで…まぁもっと分かりやすく言うと生物ではない降霊術だな」


「でも式神なら霊とかと同じ分類なんじゃ…」


「違うから説明してんだよ。詳しく説明すると冗談抜きに一週間近くかかるから置いといて……話を戻ろうか。バックラーは霊なんだ。だから降霊術も適応されるんじゃないかって、そう思った。だが今まで前例がないから出来ないんだろう」


「だからお前さっきから…」


「話を聞け、というのが分からないのか」


急に雰囲気が変わった。強い口調、見た事も無いような眼光。威圧され怖気づいてしまった。そして黙って聞く事にする。するとラックは虫眼鏡を上に投げては拾ってを繰り返しながらとある事を語った。


「降霊術には何種類かある。面、唱、神話霊、基本この三つ。そしてこの三つは本来用途で使われていた、神話霊はそのままだがな。そして面、唱、これは『覚醒』のために作られた代物だ。

これも説明すると数日かかるから簡潔に伝える。面は半疑似、疑似覚醒状態時に使われていた。まぁ言うとすれば雑魚用だ。そして唱は正式、強覚醒、女神覚醒(にょじんかくせい)用だ」


強覚醒、女神覚醒の全容は分からなかったが聞ける雰囲気でも無い。


「そしてお前は今半疑似、疑似ぐらいしか出来ない。これに関しては後々強くなってもらうから放置だ。そして先程言った事を参照するとお前は面が合っている、となる」


「…」


「そうだな。実感はないだろう。ただやってみないと分からない。だが一つ大きな問題がある、お前はバックラーだ。降霊術は出来ないだろう……そこを俺が調査した。バックラーには降霊術・面と通じるものがあった」


「…?」


「まぁ分からないだろう。少し脱線が多かったが結論だ。お前はピンチになったら唱えて見ろ『降霊術・面・リアトリス』とな。面は無くても問題ない、現代に適応しているお前からしたら違和感があるかもしれないが、別に出来なくはないはずだ」


「うーん…なんか良く分からなかったわ」


「まぁそうだろうな。分かるように教える気は無かったからな。まぁいい、こう覚えておけ。やばそうだったら『降霊術・面・リアトリス』と唱えろ」


「了解!」


そうして二人は地下から出た。その会話、ほぼラックの独り言だったが最後の言葉は今でも覚えている。使ってみよう、もし出来なくとも牽制ぐらいは出来るはずだ。


「行くぜリアトリス!!」


『降霊術・面・リアトリス』


その島にいる全員が反応した。それだけではない、仮想世界にいる薫、絵梨花、ライトニング、傀聖、他数人が感じ取った異常な気配。皆感じた事があるのだ。とある武具を使用した際に。その武具は現在TIS本拠地にて保管されている、百年前の記憶を見ることが出来る武具だ。

そこで見て、感じた、[ラック]と名乗る男が使っていた『式神術』に通ずる霊力だ。


「…そうだったなぁ!!!お前は、"アンスロ"だったなぁ!!!」


「は?何の事だよ、まぁ良いわ。出来ちゃったからな。叫べば良いんだろ!?ラック・レジェスト!!!」


《サンタマリア》


直後島全体を囲むようにして現れた巨大な船、そしてその船は叫び始めた。実際に叫んでいる訳では無い。何かが大砲から落ちてきている。その際一門一門が甲高い音を出しているのだ。それがまるで叫んでいる様に聞こえるだけである。

だがそれは異色で、気味の悪い声色だ。


〈全局集中、対象は西条 健吾〉


その瞬間、砲門から落ちている何かが追尾しだした。健吾目がけて。本当に一瞬だった、健吾でさえ捉えることが出来ない程の速度で突撃して来た。大量の霊力エネルギー弾、胡桃のものと全く同じだ。

そしてそのエネルギー弾はとんでもない威力を誇る。流石に無理だ。何百発にも及ぶ最強の空襲、防御する手段は、無い。


「クッソいてぇ!!!でも!!!クッソおもしれぇ!!!!」


体が抉れ、血だらけになりながらも耐える。始めてくらったその痛みに悶える事もせず、楽しんでいる。明らかな異常者だ。ただ今は、それがとても、勇敢な男に見えてしまった。


「すげぇ男だよ、お前は」


「またやろうぜぇ!!紫苑!!」


健吾は倒れ、姿を消した。流れる通知、とても良い報告だ。始めて鳴った、勝利の音。


《チーム〈TIS〉[西条 健吾] リタイア > 空十字 紫苑》



[礁蔽視点]


「よくやったで紫苑……でもちょっとわいにこれは……荷が重すぎんか!?流!?」


「良いじゃないか~リーダー同士の対決さ、まぁお遊びにもならないだろうけどね。そんじゃ行くよ」


『降霊術・神話霊・シヴァ』


再度呼び出される、最強の破壊神シヴァ。それに対し、『鍵を開け、テレポートする』能力の礁蔽。だが目的は勝利でも無く、体力を削る事でも無い。ある事を試すのだ、礁蔽が生涯考えに考え、練り上げたとある戦術を。


「まぁええわ。やったるで!」


取り出されたのは、鍵穴のついた小さな箱だった。



第二百二十九話「似つかわしい船(サンタマリア)

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